老舗書店三代目がまちづくり会社を設立

「フジヤ書店」三代目の田中雄一さん「フジヤ書店」三代目の田中雄一さん

北海道網走市は流氷が接岸するまちとして屈指の有名度。冬にはオホーツク海が一面の氷野へと姿を変え、息を飲むような光景を一目見ようと数多くの観光客が訪れる。人口はおよそ3万6千人。オホーツクエリアでは大きな都市に数えられ、スーパーや家電量販店、ファストファッション店なども豊富なことから買い物は市内で十分に済ませることができるまちだ。

ただ、そんな網走の中心とも言える網走中央商店街は大きな課題に直面しているという。
そう教えてくれたのは、この商店街で100年近くの歴史を持つ「フジヤ書店」という本屋の三代目であり、商店街振興組合の理事長でもある田中雄一さん。2017年には「株式会社まちなか網走」なるまちづくり会社も立ち上げた。
抱える課題と田中さんが描く商店街の未来について話を聞いた。

マチナカの空洞と空き店舗の活用が課題

田中さんに連れられ、商店街を案内してもらったところ、失礼ながら「意外とシャッターが下りていない」という印象。魚屋さんや肉屋さん、靴屋さんに洋服屋さんと、ふだん使いの買い物には困らないような気がするのだが、田中さんはこう話してくれた。

「そう見えますか?だけど、ほら、あそこに大きな空き地がありますよね。実は、もともと4階建ての大型スーパーがあったんですが、2009年に撤退しちゃいまして。この商店街の賑わいを担う中心的な存在だったので、それから客足が徐々に離れ、ポツリポツリと空き店舗が出始めてきたんです」。

まちのど真ん中に生まれてしまった空白の土地。そして徐々に目立ち始めた空き店舗…。その活用方法を考え、かつての賑わいを取り戻すのが商店街振興組合の急務だったという。

「スーパーの跡地は、全国の味覚が楽しめる『あばしり七福神まつり』や新鮮な野菜が集まる『朝市』を開くなど、イベントの強化に活かしてきました。市民や観光客の方もそれなりに集まってもらえるようになったんですが、空き店舗が目に入るとどうしても寂しく映ってしまいます」。

そこで田中さんが思い描いたのは、空き店舗で起業してくれる人を募るプラン。
とはいえ、商店街のお店を一軒一軒訪ねて代表者の意見をうかがい、さらに総会を開いて意思決定を図るのではどうしてもスピード感に欠けてしまう。

そんな中、最近は各地でまちづくり会社が活躍しているという情報を耳にしていた田中さんは、中心市街地の活性化を進める主体的な役割を果たすこのスタイルならモノゴトをスピーディに進められそうだと考え、2017年11月に「株式会社まちなか網走」を立ち上げた。

冬の網走中央商店街冬の網走中央商店街

ふるさと納税は網走中央商店街のファンづくりに

Webサイト「アバマチ」 Webサイト「アバマチ」

網走のまちはオホーツク振興局もあり、大手企業の支店も多いことから、転勤というカタチであれ、人が移住してくる要素が古くからあったという。
とはいえ、ここ最近はじわりじわりと人口減の波が押し寄せ、消費や納税額も下降気味だ。田中さんも、移住者が増えてほしいという思いを胸中に抱いてはいるものの、その道のりは平坦ではないことも重々承知しており、こう教えてくれた。

「僕は網走に住まずとも、このまちを応援してくれる人を増やすのが先決だと考えています。いわゆる関係人口の裾野を広げることで観光やショッピングに足を運んでくれる人が現れ、市が進める『おためし暮らし』にトライ。そうしてようやく移住につながるのかな...と。なので、今はファンづくりを進めるための情報発信に力を入れています」。

そうして田中さんがファン獲得のツールとして目を付けたのがふるさと納税。
地元のまちづくり会社がオススメする網走中央商店街の一品として、各店の水産加工品やお菓子、あばしりポークといった返礼品が手に入るWebサイト「アバマチ」をリリースした。

「商店街も高齢化が進んでいるので、メールのやりとりや事業所登録といったPCを使った作業が難しいといわれました。だったら、僕が代行して各店舗の売上や市の納税に貢献しようと思ったんです。ふるさと納税のしくみだけでなく、商店街のPRになるよう直接購入も可能なサイト構成に仕上げました」。

とはいえ、田中さん自身もITスキルに長けている…という訳ではないそう。
「フェイスブックやインスタグラムを活用するくらいしかPR手法が思いつかないので、若い世代のアイデアを商店街の賑わいづくりに生かしてほしいなぁ」とつぶやいていたのが印象的だった。

助け合っているから、生き残っていける

もうひとつ、田中さんは空き店舗の活用方法も模索中。
今のところは商店街の空き店舗を見て回るツアーを手がけたり、札幌の人気カフェ店オーナーを招いた「まちなかカフェ講座」を開いたり、起業家を募るための取り組みに奔走しているという。

「網走市でも、『網走市商店街空き店舗活用事業補助制度』として新規開業する人へのサポートを行っています。店舗改修費補助金(上限100万円)や1年間の家賃補助金(店舗賃借料2分の1以内)など、起業には手厚いまちではないでしょうか」。

中には空き店舗でコミュニティカフェを開きたいと、経営相談に訪れる若者もいたのだとか。田中さんは1日にどれくらいの集客が見込め、いくら稼げば食べていけるといったリアルな数字を交えてアドバイスをする。それは、商店街で起業したものの、思い描いていたビジネスプランにならない...そんなミスマッチを防ぎ、できる限り長く商売を続けて欲しいとの思いから、助言にも自ずと力が入るのだ。

「ココの商店街って助け合いの気持ちが強い...というよりも、助け合ってきたからこそ生き残ってこられたんです。僕も大学進学で上京し、父の『店を継いでくれ』という言葉から、どこか気楽にUターンしました。それでも食べていけたのは、商店街の絆や昔ながらのお客さん、人と人とのつながりがお店を支えてくれたからです」。

だからこそ、外からの移住者や若い人が商店街で起業する時は、店舗オーナーとの家賃交渉を筆頭に全力でサポートしたい、と力強く語る田中さん。
株式会社まちなか網走が立ち上がってからまだ1年ほど。空き店舗でビジネスを始めたケースはまだないが、田中さんのこの温かく誠実な表情を見ていると、きっと成功事例となる若き起業家が現れる日も近いだろう。

関連サイトと情報
田中さんが立ち上げたWebサイト「アバマチ」

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◎筆者:くらしごと編集部 土谷涼平

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2018年 10月05日 11時05分