12年の歴史を閉じる「にしすがも創造舎」。その誕生のいきさつは?

アーティストに創作の場を提供、また彼らと共に廃校の空間を活かしたアートプロジェクトを展開するなど、2004年8月にオープンし、都内の廃校活用の先進事例となったアートファクトリー「にしすがも創造舎」。豊島区文化芸術創造支援事業の一環として「アートネットワーク・ジャパン(以下:ANJ)」と「芸術家と子どもたち」の2つのNPO法人が共同で管理運営を行ってきたが、近隣の区立中学校の校舎建て替え期間中の仮校舎としての使用が決まり、2016年12月をもって事業を終了することとなった。

「ANJは、もともとは舞台芸術のフェスティバルを行うための事務局がNPO法人化したもので、国内外の舞台芸術を東京で紹介するという事業を行っていました。その時に、多くの劇団などが東京での稽古場所が足りないという共通の問題を抱えていることを知り、稽古場不足を解消しないことにはより良い作品を生み出すことは困難だと感じました。また、良い作品を創ったり発表したりするために、その都度劇場を借りるというのは経済的にも日程的にも難しいと。そこで、私たちが劇場を持ち、そこで作品を創り発表をしたらよいのではないかと考え、どのような方法があるか思案していました」と、ANJの米原晶子さん。

ちょうど同じ頃、廃校の利用方法が社会問題化されていたことから、廃校の活用を思い付いたという。23区すべてに問い合わせを行ったところ豊島区が前向きに検討してくれ、ほかのNPO団体と一緒に、旧千川小学校の一部分使い実験的に廃校利用を開始。その頃、豊島区が民間との協働事業企画案の募集を開始したため、応募したという。

「学校というのは地域や卒業生にとってとても重要な場所で、たくさんの想い出が詰まった場所。その大切な場所で演劇だけに力を注いでいるのでは不充分だという思いがありました。そこで、芸術家と子どもたちを結び付けるという名前の通りの活動を行っているNPO法人の『芸術家とこどもたち』さんに、特に親子向けプログラムの開発等を含めて一緒に運用してくれませんかと相談。共同で企画案を出したところ、採択されたのです」(米原さん)というのが、「にしすがも創造舎」誕生のいきさつだ。

廃校になった中学校を有効活用して、多くの公演や様々なイベント、ワークショップなどを行ってきた「にしすがも創造舎」。</br>校庭に子どもたちの明るく元気な声が響くことも地域の方々に喜ばれていた廃校になった中学校を有効活用して、多くの公演や様々なイベント、ワークショップなどを行ってきた「にしすがも創造舎」。
校庭に子どもたちの明るく元気な声が響くことも地域の方々に喜ばれていた

学校を意識すること、創造の場にしたいとの思いから「にしすがも創造舎」という名称に

芸術の創造、発信の場所として親しまれてきた「にしすがも創造舎」。教室や体育館を稽古場や発表の場として貸し出し、多くの公演で人々を魅了してきた。11月にも2公演行われるので、ぜひ足を運んでいただきたい。【写真は「夏の夜の夢」(2015年)/撮影・松本和幸】芸術の創造、発信の場所として親しまれてきた「にしすがも創造舎」。教室や体育館を稽古場や発表の場として貸し出し、多くの公演で人々を魅了してきた。11月にも2公演行われるので、ぜひ足を運んでいただきたい。【写真は「夏の夜の夢」(2015年)/撮影・松本和幸】

廃校利用の「はしり」ともいえる「にしすがも創造舎」。企画案をつくった頃は廃校が問題化した初期の時期で、しかも廃校を民間が活用するという事例が東京ではほぼゼロの状態だった。
「豊島区も私達も手探りしながらの活動で、最初は半年間の暫定活用の予定でした。まず半年。今後の展望が見えてきたらまた半年、さらにまた半年みたいな感じで。軌道に乗るまで一緒に制度をつくり、相談しながら続けてきました。最初から『ずっと活用してください』という感じで始まったわけではありません」

「にしすがも創造舎」という名称は、2つのNPO法人と豊島区の担当者で話し合って決めたという。
「ここが学校だったということを意識し、そのことを想起させる名称にしたいと考えたのがひとつ。もうひとつが、この場所を芸術の創造発信・交流の拠点と位置付け、その中でも創造に力を入れたいと考えていたことがあります。すぐ近くの池袋には立派な劇場も映画館もある。ただそこで発表する人達の創造の場が圧倒的に足りないということが私達の問題意識としてありました。創造、クリエイションそのものを支える場所として、また可能な範囲で発表や公演も行う、創造を中心とした施設にしたいと考えてこのような名称を付けました。英語表記では『アートファクトリー』としていますが、ものを創り出すための場所という思いを込めています」

交流を通じて、地域住民の校舎への愛着と、学校の歴史の大きさを痛感

アーティストに創作の場、発表の場を提供するだけでなく、当初考えていた通り、地域に根差した“学校”を意識した活動も行ってきた「にしすがも創造舎」。劇場、演劇やダンスの稽古場、親子・家族で参加できるワークショップの場、菜園、カフェ、近隣保育園のお散歩コース、お花見。地域の人々に様々なものを還元する場として、多くの人を結び付け、新たな関係を紡いできた。

米原さんは、「地域の人と交流すればするほど、学校の持つ力の大きさ」を目の当たりにしたという。
「どんな方も部屋に入ると『ああ、懐かしい』という反応なんです。これには驚きましたね。リラックスしてくれますし、同時にワクワクしているようにも見えました。もともと学校だったことが、地域の方を含めたくさんの方がポジティブな思いで私達の活動を支えてくださった大きな要因のひとつだったと考えています。校舎への愛着、学校の歴史の大きさを身に染みて感じました」

地域に愛される場所として、ベビーカーを押したママたちの憩いの場になっていたのが、グランドに面した場所に設けていたコミュニティカフェ(現在は閉鎖)。
「ベビーカーでは入りにくい店が多々あり、寛ぐための場所探しに苦労していたママたちがたくさんいらっしゃいました。校庭に隣接しているので校庭で遊ぶお子さんに目が届きますし、近くの部屋で声を出して演劇の稽古をしているので、赤ちゃんの鳴き声を心配する必要がなかったことも良かったようですね」

校庭の片隅につくった菜園も多くの人が利用していた。閉鎖によりこの場所がなくなるため、利用者自身が近隣で畑を探し、多くの人がそちらに移動するという。地域に新たなつながりを生み出した一例だろう。

カフェや菜園が地域住民のつながりを生むと同時に、憩いの場に。慌ただしい都会の中にあるオアシス的な場所として</br>多くの人が利用した。親子で参加できるイベントやワークショップの開催など、「学校」を意識した活動も数多く行われたカフェや菜園が地域住民のつながりを生むと同時に、憩いの場に。慌ただしい都会の中にあるオアシス的な場所として
多くの人が利用した。親子で参加できるイベントやワークショップの開催など、「学校」を意識した活動も数多く行われた

多様な取り組みが評価され、地域に愛された「元学び舎」

お話を伺ったアートネットワーク・ジャパン にしすがも創造舎 チーフマネージャーの米原晶子さん。「長く行われ、今後も続けて欲しいと好評のアートプログラムもありますので、夏休みなど期間限定で豊島区内の別の場所での開催を考えています。その際はぜひお越しください」お話を伺ったアートネットワーク・ジャパン にしすがも創造舎 チーフマネージャーの米原晶子さん。「長く行われ、今後も続けて欲しいと好評のアートプログラムもありますので、夏休みなど期間限定で豊島区内の別の場所での開催を考えています。その際はぜひお越しください」

「にしすがも創造舎」が発足した頃と異なり、現在は廃校の利用も進んでいる。様々な自治体などから、施設見学の依頼が後を絶たないという。
「小さな学校といえどもそれなりの大きさがありますので、メンテナンス費用も見過ごせません。どこの自治体の方々も、いかに廃校を活用するかに頭を悩ませているご様子でした。お話を聞いていて、私達のような文化・芸術系の活用、スポーツ関連の宿泊施設、また福祉施設などとして活用を検討する例が多いように見受けられました」

もうすぐ幕を閉じる「にしすがも創造舎」。演劇関係者からの高評価は当然のこととして、地域住民からはどのように見られていたのだろう?

「人が集まることに感謝、ということをよく言われました。廃校になると治安も悪くなるため、若い人が来る、校庭で子どもが遊んでいるという、活気があることに対してとても喜ばれました。『学校がなくなっても入れるのが嬉しい』と遊びに来てくれた卒業生や、同級生の結婚式で流す映像を撮りたいとカフェを訪ねてきた方もいたんですよ。演劇やコンサート、未就学児でも参加できるアートプロジェクトなど、ほとんどのイベントに年齢制限がなかったため、『子どもと一緒に参加できて嬉しい』というお声もたくさんいただきました」

「にしすがも創造舎」では、廃校利用の先駆者として12年の記録をまとめ、今後の廃校利用の指針となる冊子をクラウドファンディングで制作中(11月1日23時まで支援者募集中)。活動期間はあとわずかだが、10・11月も以下の公演を行う(フェスティバル/トーキョー16)。
振付・演出を井手茂太が担当、4人それぞれの生活=ダンスが同時進行で展開する実験作、イデビアン・クルー『シカク』(10/21~24、26~29)、結婚を機にイスラム教に改宗した母と、ムスリムの学生団体の副代表をつとめる娘。宗教問題、恋愛、結婚といった身近な題材を描いた『NADIRAH』(11/11~13)、未曽有の体験をした福島の今を描く『福島を上演する』(11/17~20)の3公演を予定している。都営三田線「西巣鴨」駅からすぐの場所なので、興味のある方はぜひ訪れていただきたい。

創造拠点として、また地域コミュニティの場として大きな足跡を残した「にしすがも創造舎」。惜しまれつつ間もなく12年に及ぶ活動のフィナーレを迎えるが、多くの人に愛され利用された廃校の活用事例として、今後の大きな指針となることだろう。

■にしすがも創造舎
http://sozosha.anj.or.jp/

■クラウドファンディング/にしすがも創造舎12年の記憶をドキュメント冊子にして残したい!
https://readyfor.jp/projects/nishisugamo-arts-foctory

■公演問い合わせ
フェスティバル/トーキョー実行委員会事務局 
http://www.festival-tokyo.jp/
E-mail:toiawase@festival-tokyo.jp  TEL:03-5961-5202

2016年 10月20日 11時05分