部署の領域横断施策提案コンペ「政策プレゼン」がきっかけ

改装された県営住宅。1階には地域に開放されたコモンスペースが作られ、新設されたバルコニー側から入れるようになった改装された県営住宅。1階には地域に開放されたコモンスペースが作られ、新設されたバルコニー側から入れるようになった

2019年6月、群馬県前橋市に県営住宅を利用したシングルマザー向けのシェアハウスが誕生した。きっかけとなったのは県庁内でここ5年ほど行われている部局を横断しての施策提案コンペ「政策プレゼン」。

「こども未来部が子どもの貧困に関して平成28年度中に行った生活実態調査では県内母子家庭の8割が年収300万円以下であることや子育ての負担が重いこと、親子で孤立しがちであることなどが判明し、何か支援ができないかと考えていました。同時期に県土整備部では管理をしている県営住宅の建物が経年劣化し、住まいに求められる環境が変化する中でどう改修していくかを検討していました。そのタイミングで東京などでは民間でシングルマザー向けのシェアハウスが運営されていることを知り、県でも部局が連携して取り組めないかと検討を始めました」(群馬県こども未来部子育て・青少年課子育て支援係・木村茂生氏)
こども未来部がソフト面、県土整備部がハード面と役割を分担し、首都圏のシングルマザー向けシェアハウスを見学、手がけている人たちに話を聞くなどのリサーチを重ねたうえで平成29年度にプレゼンを行った。それが実現、事業化は平成30年度になってから。基本的には県営住宅の一部として、入居者などに条件を付けて運用することとした。県内にはシェアハウスはあるものの、これまでのところシングルマザー向けに整備されているものはなく、先進事例といえそうだ。

共有リビングのある3階がシングルマザー向けフロア

舞台となった広瀬第二県営住宅はこのところ、徐々に改修が行われている団地で、もともとは階段室型。階段の両側に住戸が並ぶ形式で各戸の独立性が高いのだが、その分、共用の廊下がない。古いので5階建てだがエレベーターもなく、今の暮らしにはちょっと不便。そこでエレベーターを建物の端に設置、既存の建物の外壁はそのまま生かして、その内側に共用廊下を作ったのだが、3階のシングルマザー向けのフロアのみ、その廊下が内廊下になっている。

オートロックの入り口を入るとそこに玄関があり、靴を脱いでから内廊下を通って各住戸に行く仕組みである。他のフロアは外廊下なので、3階だけはセキュリティレベルが高いのだが、居住者が母子のみと周囲にも分かる住戸であることを考えると必要だろう。

「3階フロアの住戸は7室。43.0m2の2LDKが1戸、35.4m2の1LDKが6戸で、各戸にキッチン、トイレや浴室などの水回りを整備しています。3階フロアのシングルマザー専用シェアハウスの特徴は、共有リビングがあることです。それを利用することで入居者同士が知り合い、相互に助け合うことで子育て負担や孤立を低減し、自立を目指していくことを目標にしています」(群馬県県土整備部住宅政策課住宅管理係・小林誠一氏)

そのための共有リビングは玄関を入った右側に用意されており、広さは43m2。広めのキッチンを備えてあり、みんなで料理をしたり、寛いだりができるような空間と想定されている。家具などはまだ設置されていないが、今後、要望なども踏まえ、徐々に揃えていくことになる。共有リビングの水道光熱費などは入居者で分担する。管理人などは特に置かれておらず、そのあたりは一般の県営住宅と変わるところはない。

エレベーターを設置、外壁の内側に内廊下を作ったシングルマザー向けのフロア。住戸入り口は引き戸になっているエレベーターを設置、外壁の内側に内廊下を作ったシングルマザー向けのフロア。住戸入り口は引き戸になっている

小学生までの子どものいる家庭が入居条件

複数人で一度に利用できそうな大型キッチンのある共有リビング。今のところまだ家具等は入っていないが、これから揃えていく予定複数人で一度に利用できそうな大型キッチンのある共有リビング。今のところまだ家具等は入っていないが、これから揃えていく予定

ただ、互いに助け合う暮らしを想定していることから、当面、県が依頼した母親支援などを行っている地元NPOがコーディネーターとして入居者の関係づくりに一役買ってもらうことになっている。スペースがあっても初対面同士はなかなか仲良くなりにくいものだが、入居者間をつなぐ人がいれば関係が生まれてくるのではというわけだ。具体的には、関係づくりのための食事会や季節ごとのイベントの開催、各種相談などを想定しているそうだ。

入居の条件は小学生以下の子どもと同居するシングルマザー世帯であること。現在の入居は1世帯のみとなっており、ここがひとつ、ハードルになっているのかもしれないと木村氏。「小学生の子どもがいる家庭からすると、下の子が未就学児であっても、上の子が中学生になった年度末には退居しなくてはいけないため、比較的短期で引越しが必要になると思われているのかもしれません。同じ県営住宅内に空きがあればそこに引越すことも可能ですが、それを面倒と思う人もいるのでしょう、また、周知方法の問題もあり、申し込みはやや低調です」

家族構成以外では公営住宅法施行令で定める収入基準も要件のひとつ。収入月額が15万8,000円まで、小学校未就学世帯は21万4,000円までとなっており、賃料は入居者の年収によって異なるが、1LDKで1万6,600円~、2LDKで2万100円~。収入によってはもっと高くなる可能性はあるものの、首都圏からするとかなり住宅費を抑えた暮らしができそうだ。ちなみに県外からの応募も可能である。

1階には地域に開放されたコモンスペースも

また、3階のシェアハウスフロアの共有リビングに加えて、1階にも地域に開かれたスペースが作られている。建物の角にある2戸を改修したもので、外から入れるようにデッキを設置、玄関を整備してあり、1戸には子ども食堂などに使うことを想定した広いキッチンも作られている。2戸あるので同時に2種類のイベントで使うこともできそうである。ここでは月曜日から土曜日までの間、平日の午前中は高齢者の居場所として、夕方からは無料学習塾、土曜日はフリースクールや子どもや高齢者の地域交流の場として昼食会などが予定されており、開始は9月以降になる予定。

すでに地元で無料学習支援の実績のあるNPOや、不登校の子どもたちを対象に活動をしているNPO、そして高齢者の居場所づくり、福祉関係の相談などを手がける事業者など3団体の参画が決まっている。子どもに関連した活動も多いので、これから3階に入居するお母さんたちには上手に利用してほしいものだ。

最後に住戸の感想を。もっとも魅力的なのは南向きの、明るい室内という点だろうか。人間も動物なので、陽光を浴びると気持ちが明るくなるし、目覚めもよくなる。健康な生活ができそうな部屋というわけだ。キッチンや水回りも新しくなっていて気持ちよい。全体の専有面積の割に広く感じたのはトイレ、脱衣所など。玄関に靴、衣類用と2カ所の収納があるのも目についた。室内の収納も天井までの高さの1間。だいぶ、入りそうである。

周辺にはスーパーもコンビニもあり、日常の買い物に不便はない。一戸建てが中心の住宅地で環境も静か、近くにある広瀬川の水音も時折聞こえる。小中学校も近い。ただ、公共交通機関の利用には便利とは言い難いので、使えるなら車利用が賢明かもしれない。駐車場代は税抜きで3,000円だ。

入居が始まってみないとどのような暮らしが営まれるようになるかは分からないが、少なくとも場は用意されている。その場が母にも、子にもハッピーな暮らしを生むことを期待したい。

※入居等に関する詳細は群馬県住宅供給公社ホームページ(http://www.gunma-jkk.or.jp/find/kenei/bosyu-3/)をご覧いただくか、群馬県子ども未来部子育て・青少年課(電話027-226-2622)へお問合せください。

収納豊富な住戸内。水回りも広めで南向きの明るさがうれしい収納豊富な住戸内。水回りも広めで南向きの明るさがうれしい

2019年 10月23日 11時00分