東京で働いて、子育てするということ

東京都の待機児童の多さは、報道などでご存知の方も多いだろう。そもそも待機児童とは、子育て中の親が保育園などに入所申請をしているにも関わらず、空きが無く入所できない状態にある子どものことを言う。その数は、東京都福祉保健局の調べによると平成26年4月時点で東京都内で8,672人で、前年比555人の増加となる。

この8,672人の子どもと同じ数だけ、「仕事と子育ての両立」に悩みを抱えている親がいると言って良いだろう。働く人が子どもをつくろうと思った時、「働きたくてもあずけられない」「近くに子育てで頼れる人がいない」などの課題に直面することが多く、都市部では特にそれが少子化の原因になっているとも言われている。
また、仕事はしたいし、しなければならないけれど、できれば子どもとずっと一緒にいたい…といったジレンマを抱えながら働く親も多い。

そうした中で、育児を頑張る親を応援をするシェアオフィス「RYOZAN PARK大塚」が、2014年12月に東京都豊島区にオープンした。

きっかけは、シェアハウスが生んだ家族のようなコミュニティ

お話を聞いた、株式会社TAKE-Z 代表の竹沢徳剛氏。内装のデザイン・インテリアのチョイスは全て、竹沢氏とスコットランド出身の奥様が手がけたものお話を聞いた、株式会社TAKE-Z 代表の竹沢徳剛氏。内装のデザイン・インテリアのチョイスは全て、竹沢氏とスコットランド出身の奥様が手がけたもの

なぜファミリーシェアオフィスをオープンしたのか?その背景を知るのに、前身といえるコミュニティの説明をしたい。

RYOZAN PARK大塚(以下RZP大塚)のオーナーである株式会社TAKE-Zの代表 竹沢徳剛氏は、2011年の東日本大震災をアメリカ在住中に経験した。その際に、コミュニティや人とのつながりの重要性を強く感じ「地元に、人が集まり関わるコミュニティをつくりたい」という思いで帰国、地元の豊島区巣鴨に、 RYOZAN PARK巣鴨(以下RZP巣鴨)というシェアハウスをオープンした。

多くの人に門戸を開きたいと、「ダイバーシティ」つまり「多様性」をテーマとし、様々な国籍や職業をもつ個性豊かな住人が集うRZP巣鴨は、住人同士で盛んにイベントを企画したり、困っている人がいれば助け合うなど何でもシェアするコミュニティになった。
その中からは、なんと3組もの夫婦が生まれる。

「シェアハウスのRZP巣鴨では、同じ建物に住む僕の両親も含めて住民みんなが家族のように暮らしています。そこに子どもが生まれて、この地域で大家族のように子育てできる場所を作りたいと思いました」と話す竹沢氏。
こうしたコミュニティを活かして子育てもシェアし、同時に、フリーランスやそこから規模を拡大して法人化した人、様々な働き方の人が集う東京で、それぞれのニーズに合った場所を作りたいという思いもあり、「ファミリーシェアオフィス」というコンセプトのRZP大塚をつくるきっかけとなったという。

ファミリー以外の利用者も嬉しい、充実のオフィススペース

気になるRZP大塚の施設を見学させていただいた。RZP大塚はJR「大塚」駅から徒歩3分にあるビルの5~7階と屋上からなり、異なるコンセプトの各フロアを紹介したい。

5階の「FOCUS」は全12室の独立型オフィススペースと会議室、マイクロジムも設けられている。各室ガラス張りの開放感と回遊型の設計で、一室4.9m2~11.4m2のオフィスにこもっても圧迫感を感じないよう配慮されている。ここでは専用住所も用意され、法人登記も可能だ。

6階は「CORE」とネーミングされた、フリーアドレス型の全60席のオープンオフィス。高級感のあるインテリアの中、低めのデスクや、作業台のような木製の高いテーブル、落ち着いた環境を求める人には仕切りを設けた席など、それぞれが心地よい体勢・環境で仕事をしやすいよう、様々な形の席が用意される。また、日当たりの良い窓際には読書用のデッキスペースも設けられている。

いずれの階も、ミニキッチンとOA機器、Wi-Fiを完備。5階は80,000円~125,000円/月 の賃料、6階は12,000円/月のメンバー制となっており、フリーランスで働く人の他にも、オフィスや自宅以外で落ち着いて作業できる場所が欲しい会社員や、いわゆる「2枚目の名刺」を持つ人などが利用する場所としても良さそうだ。

ウッドデッキの屋上では、仕事をすることもできる他、家庭菜園も行われる予定。バーベキューパーティーを開いたりと、利用者がリフレッシュできる場所にもしたいと竹沢氏は話す。

(左上)ラグジュアリーなソファスペースが刺激的な空間を演出する</br>(左下)5階はシンプルなミーティングスペースを囲むように12室のガラス張りのオフィスが</br>(右)6階の読書デッキ。リフレッシュとインプットの場として使いつつ、つい眠ってしまいそうなほど心地良さそう(左上)ラグジュアリーなソファスペースが刺激的な空間を演出する
(左下)5階はシンプルなミーティングスペースを囲むように12室のガラス張りのオフィスが
(右)6階の読書デッキ。リフレッシュとインプットの場として使いつつ、つい眠ってしまいそうなほど心地良さそう

目指すのは、親同士の「お互い様」の関係

そして7階「FAMILY」は「こそだてビレッジ」をコンセプトとした、親子向けシェアオフィスだ。
フロアの半分がオフィススペース、半分が保育スペースと仕切られている。授乳スペースや広いキッチン、畳張りに掘りごたつのダイニングスペースもあり、親子が集って料理をしたり、一緒にランチすることもできる。

子どもが走り回れるほどの広さもある保育スペースは、子育てに関する企画運営を行う、合同会社こどもみらい探求社が監修。感性豊かでたくましい子どもが育つにふさわしいプログラムや玩具なども吟味されており、床には竹沢氏のこだわりで木のぬくもりを感じられる多摩産材のスギが用いられている。
ここでは保育士が一人居て子どもを見てくれるが、あくまでも託児所ではなくコワーキングスペースに保育スペースがあるというスタンス。子どもが保育スペースを利用する際は親も同じ7階にいなければならないというルールだ。
ワークスペースでは仕事をしながら他の親との関わりをもち、部屋の反対側では子ども同士が遊ぶ。親と子、そして他の親子同士がゆるやかにつながる場所となるのが想像できた。

「子育てというとお母さんが主役とされがちですが、お母さんだけでなくお父さんも含めた「親」のための場所にしたいと考えています。ここで親同士が関わりをもつことで、困った時に助け合える“お互い様”の関係を築いてもらいたいんです」(竹沢氏)

近くに頼れる人が少ないという都会での子育てにおいて、親同士が「お互い様」の関係を築けることにはいくつものメリットがある。共助することで親の様々な負担を軽減できる他、「みんなでみんなの子どもを育てる」といった昔ながらの大家族的な関係ができ、親以外の大人と関わることで、子どもの社会性や感性も養われるだろう。

「両親が自営業だった僕は、従業員である大人たちに囲まれて“会社で育った”みたいな感じでした。親戚でもないのに親戚のように身近な大人がたくさんいる。そんな“複合家族”のような新しくて古いコミュニティをつくりたいんです」と話す竹沢氏。複合家族のコミュニティができることで、これまでの「仕事か育児か」の二択だったものが、「仕事も育児も」両方選択できるようにしたいという。

(左上)「子どもが一直線に走れる場所にしたい」との竹沢氏のこだわりで設計された保育スペース。</br>使われる素材や玩具などにも拘りがある</br>(右上)「育児はお母さんだけがするものではない」と、敢えてガーリーなインテリアは</br>避けたというワークスペース</br>(左下)広いキッチンと畳敷きのダイニング。ランチを取る他、簡単な料理教室にも対応できそうで、</br>”食育”の場としても活躍しそう</br>(右下)授乳やお昼寝のためのスペースも完備(左上)「子どもが一直線に走れる場所にしたい」との竹沢氏のこだわりで設計された保育スペース。
使われる素材や玩具などにも拘りがある
(右上)「育児はお母さんだけがするものではない」と、敢えてガーリーなインテリアは
避けたというワークスペース
(左下)広いキッチンと畳敷きのダイニング。ランチを取る他、簡単な料理教室にも対応できそうで、
”食育”の場としても活躍しそう
(右下)授乳やお昼寝のためのスペースも完備

「子育て×多様性×地域貢献」で、自分らしい働き方、生き方を

RZP大塚の所在地である東京都豊島区は、2014年5月の日本創世会議の発表で「消滅可能性都市」とされ、地域活性や若年女性人口の減少に課題を抱えている地域でもある。そうした中でのこのファミリーシェアオフィスのオープンは注目を集め、豊島区の担当者も視察に訪問する予定だそうだ。

「生まれ育った地元でコミュニティをつくりたい」というオーナーの思いから生まれ、「子育て×多様性×地域貢献」を意図して運営されるこの場所は、設備や「シェア」という形態をみるととても現代的なようだが、目指しているのは地域みんなが関わって子どもを育てる下町のような、「昔ながら」の原点回帰に近い。
シェアハウスのRYOZAN PARK巣鴨では、そこで夫婦が誕生した他にも、シェアメイトの会社に転職を決めた人もおり、コミュニティは人の人生を変えてしまう力もある。
このRYOZAN PARK大塚を発信地として、それぞれに合った働き方・育て方を実現できる親たちと、そんな大人の中で育った感性豊かな子どもたちが増えるのが楽しみだ。


【取材協力】
RYOZAN PARK:http://ryozanpark.jp/office/

2015年 01月19日 11時09分