中心市街地活性化の一環として始まった「アキテンポ不動産」

アキテンポ不動産を運営する「まちつくり青梅」のスタッフ田中さんアキテンポ不動産を運営する「まちつくり青梅」のスタッフ田中さん

大型商業施設の郊外進出が進み、顧客を奪われた駅前の商店が次々とシャッターを下ろしていく。いわゆる中心市街地の空洞化問題が叫ばれるようになって久しいが、あなたのまちはどうだろうか。もともと地方都市で発生していたこの問題は、近年では東京近郊の比較的人口の多いエリアにも拡大しつつあり、各地の自治体が解決に向けた取組みを進めている。

東京都の多摩地域西部にある青梅市では、中心市街地活性化のために市や商工会議所が株主となり「株式会社まちつくり青梅」が設立され、取組みのひとつとして「アキテンポ不動産」という事業が行われている。定期的な調査で市街地の空き店舗を把握し、賃貸活用に向けて物件所有者との交渉を進めて借り手に紹介するという、ひとことで言えば物件オーナーと新規開業希望者のマッチングサービスだ。

いたってシンプルな取組みに聞こえるかもしれないが、建物のストーリーを大切にする物件紹介、まちごと好きになってもらうための物件見学ツアー、開業者のリスクを下げるためのサポートなどさまざまな工夫が凝らされており、事業開始からの4年間で28軒の店舗やオフィスを開業させるという成果を挙げている。そんなアキテンポ不動産の取組みについて、運営を行う株式会社まちつくり青梅にお話を伺った。

不動産マッチングでは相性や想いを重視する

名称こそ「アキテンポ不動産」だが、契約業務に関しては提携した不動産会社に委託している。主な事業内容は空き店舗の調査、オーナーとの交渉、物件の情報提供などだ。物件情報の展示は青梅市街地の空き店舗に開設した不動産ギャラリーで行い、そこから物件見学ツアーの開催、開業希望者との個別相談、オーナーへの引き合わせ、契約成立、という流れになる。

借り手がつけば誰でもいいわけではなく、物件オーナーと開業希望者の相性を重視したマッチングを心がけているという。そのためには建物が長い時間をかけて培った歴史や雰囲気を伝えることが大切だとして、不動産ギャラリーには文庫本のページのようにデザインした物件紹介リーフレットを置き、ちょっとした物語を読むようなかたちで物件情報を提供している。

まちつくり青梅の野嵜社長は、「ただ単に『古くてレトロな建物ですよ』とだけ伝えるのではなく、かつては何のお店で、どういう経緯でオープンして、どんな思い出が詰まっているのかをしっかりオーナーから聞いて、そのストーリーを解説するようにしています」と話す。そのアイデアの元になったのは、アキテンポ不動産の立ち上げ前から空き物件の開業相談にあたっていた中心市街地活性化協議会のメンバーの経験だったそうだ。なんでも、市内である人がペレットストーブのショールームとして元ボイラー室だった建物を借りたのだが、借りた決め手がボイラーもストーブも同じ熱源というつながりに縁を感じたことだったのだという。

折りたたむと文庫本サイズになるリーフレット。地元の製本印刷会社から提供してもらった文庫本用紙を使っている(左上)、ギャラリーではリーフレットを開いた状態でも展示している(右上/左下)、物件によっては改装例を模型でつくり、視覚的にわかりやすいかたちで活用方法を提案している(右下)。不動産ギャラリーは市街地の空き店舗で開設され、その店舗に借り手が見つかると別の場所に移転するそうだ折りたたむと文庫本サイズになるリーフレット。地元の製本印刷会社から提供してもらった文庫本用紙を使っている(左上)、ギャラリーではリーフレットを開いた状態でも展示している(右上/左下)、物件によっては改装例を模型でつくり、視覚的にわかりやすいかたちで活用方法を提案している(右下)。不動産ギャラリーは市街地の空き店舗で開設され、その店舗に借り手が見つかると別の場所に移転するそうだ

開業希望者に寄り添い、事業を行いやすい環境をつくる

不動産ギャラリーを開設してある程度の期間が経ったら、実際に物件を見て回る見学会を開催する。参加者には物件を見てもらうだけでなく、回り道をして路地裏を散策したり、近所のカフェに寄ってオーナーの話を聞いたりと、ちょっとしたまち歩きも楽しんでもらっている。それにより青梅がどんなまちなのか、どんな人たちがいるのかを知ってもらい、「このまちで起業したいな」と思ってほしいのだという。

それは、まちそのものと開業希望者との相性を見るためとも言える。良い物件が見つかってもまちが好きになれなければお店は長続きしないし、たとえ今回の見学会で良い物件に出合えなかったとしても、まちを気に入ってもらえれば、新しい物件が出てくるのを待っていてくれるだろう。

スタッフの田中さんは「新規に開業した人のほとんどには商店会に入ってもらい、当社の運営するマルシェへの参加をはじめ、会合などにも積極的に出てもらっています。新しい人が新しいアイデアを出すことが、商店街の活性化にもつながります」と話す。こういった地域コミュニティに溶け込んでもらうためにも、まちそのものとの相性は重要だ。

また、物件の紹介と並行して経営面でのサポートも行っており、開業にあたってのリスクを下げるため、商工会議所の創業支援センターとの連携により、事業計画の策定や資金調達のアドバイスもしている。

そのほかにも、飲食店開業は費用が膨らみがちなことを考慮して、建物をまず「まちつくり青梅」の資金で補修してから貸し出すケースもあるなど、物件の状態や開業する店の業態などを加味したうえでより開業しやすい状態、事業がより長続きできる環境をつくることにも力を入れているのだという。

物件確保のために必要なのは地道な調査と交渉

事業開始からの4年間で手がけた空き物件は28件ほどで、そのうちの18件がクラフトビールバー、スポーツバイクのサービスショップ、家具工房兼ギャラリーなどに生まれ変わった。青梅市内のある不動産会社からは「驚異の開業率だ」と言われたこともあるそうだが、紹介した物件のおおよそ3分の2が成約するのであれば確かに驚くべき数字だ。

とはいえ、その成果が得られるまでには相応の手間と努力が伴う。何より大変だったのは紹介する物件の確保だったという。始めに街を歩き回って見つけた100件近くの空き店舗を地図にまとめ、町内ごとの商店会長などに物件についての聞き込み調査をし、物件オーナーと連絡が取れたのが20件ほど。そこから交渉を経て最終的に貸し出してもらえたのは、わずか5件ほどであった。その交渉においても、オーナーの理解を得るためには時間をかけた丁寧な対話が必要なのだという。

物件を少しでも貸し出してもらいやすくするため、オーナーの負担は極力抑えている。通常であればオーナーが管理費を払うかたちで不動産会社に物件を預けるが、アキテンポ不動産では管理費は発生せず、「むしろ預からせてもらっているという感覚です」と田中さんは話す。費用が発生するのは成約したときの契約書の作成手数料だけで、それも家賃半月分を借主と貸主からもらうだけだ。

当初はこういった地道な調査や交渉によって物件をストックしてきたが、最近ではこの取組みも浸透し、まちの人から「ここ空いたよ」と情報が入ってくるようになり、以前ほどの労力をかけずに物件情報が集まるようになってきたそうだ。

自転車預かり、レンタルサイクル、コインシャワー、カフェなどのサービスがある「サイクルハーバー青梅」(左上)、無垢の木の家具を制作する工房兼ギャラリーの「BUTLER」(右上)、青梅や奥多摩で醸造されたクラフトビールを提供する「青梅麦酒」の外観(左下)、ブックカフェ(右下)。いずれもアキテンポ不動産の仲介で開業した店舗だ自転車預かり、レンタルサイクル、コインシャワー、カフェなどのサービスがある「サイクルハーバー青梅」(左上)、無垢の木の家具を制作する工房兼ギャラリーの「BUTLER」(右上)、青梅や奥多摩で醸造されたクラフトビールを提供する「青梅麦酒」の外観(左下)、ブックカフェ(右下)。いずれもアキテンポ不動産の仲介で開業した店舗だ

まちのあるべき姿はまちの人が決める

「昔ながらの町並みが残っているのがひとつの個性なので、古い建物は活用していきたい。ですが、古い建物すべてが残すべきものとは限らないし、景観がきれいだから、伝統建築が残っているからといって、それだけで経済が活性化したり人の心がついてきたりするわけでもありません」

この言葉は、これから青梅をどんなまちにしていきたいのかという問いに対して返ってきたものだ。さらにそれを前置きとして、「私たちの仕事は、コンセプトを示してまちをプロデュースしていくようなものではありません。重要なのは、地元の人たちが自らの手でまちを良くしていこうとする機運を高めることなんです」と野嵜社長は続けた。

青梅がどうあるべきかはまちの人が決めることであって、そのための意見が積極的に交わされる土壌が育つようにまちを刺激するのが「株式会社まちつくり青梅」の目的なのだという。まちの人から物件情報が入ってくるようになったのも、人々がアキテンポ不動産という事業の意義に刺激され、意識に変化が起こった結果なのかもしれない。

最後にこの4年間の手応えについて聞いてみると、「かなりありますね。アキテンポ不動産が携わったお店は20軒弱ですが、エリア全体では80軒が開業しているので、良い流れができています。若い人だけでなくおじちゃんおばちゃんも新規開業しているんですよ」と、アキテンポ不動産が関わっていない開業事例もたくさん紹介してくれた。

まだまだあちこちでシャッターが目につくものの、確実に新陳代謝が始まっている青梅の市街地。今後この景色はどのように変わっていくのだろうか。

2019年 09月10日 11時00分