『ここdeやるZone』は、かつて栄えた岡崎市の中心市街地でスタート

徳川家康公が生まれた岡崎城で知られる愛知県岡崎市。愛知県で人口第3位を誇る中核市だが、中心地にはシャッターを閉めた店舗も多く、にぎわいづくりがひとつの課題となっている。

こうしたまちの背景から「市役所の職員が空き店舗撲滅運動をスタート」というのは珍しくないが、「仕事を離れたプライベートの活動」と聞くとちょっと驚くのではないだろうか。しかも“意地”から始まったというのが面白い。

「岡崎市役所に勤める同僚と、長野県塩尻市の空き家プロジェクト『nanoda』を観光気分で見学に行ったところ、運営する山田崇さんから『空き家を借りてイベントを行う取り組みはだれでもできるのに、どうせやらないんでしょ?』と言われたのが悔しくて、絶対やる!と思いました。岡崎市を元気にしたい想いは根底にありますが、一番のモチベーションは打倒!山田崇、でしたね」(ここdeやるZone代表 晝田(ひるた) 浩一郎さん) 

晝田さんは山田さんの言葉に奮起し、同行した同僚の中川 光さんとともに、岡崎市役所の有志を募って報告会を開催。市のリノベーションまちづくり事業で空き店舗活用も進めている野澤 成裕さん、小川 貴之さんが仲間に加わり、2016年1月に岡崎市空き店舗撲滅運動『ここdeやるZone』(ここやる)を立ち上げた。

まずは活気を失いつつある岡崎市の繁華街・康生エリアで空き店舗を借り、「だれでも何でもできる場所」をつくることからスタート。あくまでプライベートの活動のため、賃料は岡崎市役所内の有志約40人から集めてまかなっている。

負けん気から始まった『ここやる』の活動はこの3年間で、店舗という一つの箱には収まらなくなってきた。どのような活動を行い、岡崎市がどう変わってきているのか、自由で遊び心あふれる展開を紹介したい。

『ここdeやるZone』を立ち上げた岡崎市役所に勤める4名。左から小川 貴之(おがわ たかゆき)さん、代表の晝田 浩一郎(ひるた こういちろう)さん、副代表の中川 光(なかがわ ひかる)さん、野澤 成裕(のざわ なりひろ)さん。名称は4文字で略せて、三河弁で、意志表明できるものを考えた。『ここdeやるZone』を立ち上げた岡崎市役所に勤める4名。左から小川 貴之(おがわ たかゆき)さん、代表の晝田 浩一郎(ひるた こういちろう)さん、副代表の中川 光(なかがわ ひかる)さん、野澤 成裕(のざわ なりひろ)さん。名称は4文字で略せて、三河弁で、意志表明できるものを考えた。

空き店舗を開いて3年でイベント580回。5,500人以上を動員

上/岡崎市の目抜き通り、康生(こうせい)にある『ここやる』の拠点。 下/月に一度の晩ごはん会「たべおか!」は、たこ焼きパーティー、東北支援活動を行う大学生の東北グルメ紹介など多彩。上/岡崎市の目抜き通り、康生(こうせい)にある『ここやる』の拠点。 下/月に一度の晩ごはん会「たべおか!」は、たこ焼きパーティー、東北支援活動を行う大学生の東北グルメ紹介など多彩。

『ここやる』のメインの活動とは? 
「活動名が空き店舗撲滅運動なので、空き店舗を活用し、まちの人と交流しながら、だれもがやりたいことを実現できる安全・安心な場所をつくりました」と中川さん。

第4水曜の夜に地域の人と晩ごはんを食べる「たべおか!」を定番イベントとし、そのほかは手を挙げた方のイベントをどんどんサポート。まちの重鎮を招いて最盛期の様子を語ってもらう「まちの人の話を聴く」会から、他市コラボとして名古屋コーチンと岡崎地鶏の食べ比べ、靴磨き、認知症カフェ、起業体験など多岐にわたる。この3年間でイベント回数は580回、延べ5,500人以上が参加したそうだ。

年間200回ものイベント主催者を探すのは大変だと思うのだが、「僕らが岡崎市内外へ飛び出してさまざまな活動に参加し、そこで繋がった方に一緒にやろうよ、と声をかけています。火器禁止、宗教・政治関連不可といった『ここやる』の最低限のルールを守ってもらえれば、やりたい!という気持ちに応えて一緒に盛り上げます」と晝田さん。Facebookの発信で集客は十分できるといい、メンバー各々の顔の広さがよく分かる。

もう一つ、商店街の店主たちに「今度こんなことを行います」と密に声をかけて、応援を得ているのもポイントだ。康生の商店街には2階にオーナーが居住する空き店舗が多く、「1階は信用できる人にしか貸したくない」というのが本音。『ここやる』の活動で信頼を得ることで、新たに借りたい人とのマッチングが少しずつ進み、3店舗のシャッターが開いたそうだ。

市との架け橋になり、個人発信のイベントもサポート

さて『ここやる』の目標とは?
「4つの段階に分けて考えています。1つ目は岡崎市役所を飛び出した拠点『ここやる』をつくり、知ってもらう。2つ目は『ここやる』でまちの人にイベントを開いてもらう。3つ目はまち全体を使ったイベントを主催、またはサポートする。そして4つ目は、岡崎市を面白いまちにした結果、人が集まり、空き店舗も減っていく、というものです」(晝田さん)

今は「第3段階くらい」と話す晝田さん。その一例として『ここやる』を飛び出して「未来のオトガワ実行委員会」略して「みらおと!」というプロジェクトを立ち上げ、2017年と2018年夏に乙川河川敷で音楽フェスを開催。岡崎市が進める乙川を利用したまちづくりとも連携し、公共空間を使ってまちを盛り上げた。

「公共空間でイベントをやりたい、と個人で声をあげてもなかなか実現は難しいので、僕たち『ここやる』をうまく活用してほしいですね。役所で培った知見や人脈を生かすことができますし、イベントも一緒に盛り上げます」(晝田さん)

実際みらおと!のフェスに参加した市民のひとり、田中義人さんは、4月13日岡崎公園で「ほしおと!」を自ら初開催する。星好きな田中さんの趣味が高じたもので、天体望遠鏡で月を眺めながら音楽の生演奏を楽しむ風雅なイベントだ。

「岡崎市の美しい星空と、ジャズのまち岡崎のPRに繋がるイベントです。個人ではイベントを主催するノウハウがないので、『ここやる』に企画書を出したら全面的なサポートをしてくれました。まさか名所の岡崎公園を利用できるとは思いませんでしたね」(田中さん)

上/音楽フェス「OKAZAKI SUMMER TRIBE」を開催した、岡崎市の中心地を流れる乙川の河川敷。photo by Hideo Watanabe 下/「ほしおと!」を開催する岡崎公園。徳川家康公の生まれた岡崎城のある一番の観光名所。上/音楽フェス「OKAZAKI SUMMER TRIBE」を開催した、岡崎市の中心地を流れる乙川の河川敷。photo by Hideo Watanabe 下/「ほしおと!」を開催する岡崎公園。徳川家康公の生まれた岡崎城のある一番の観光名所。

「どこでもできる取り組みだから、日本も世界も元気にできる」

若手公務員のチームが、プライベートでまちおこし。組織を離れて独自の活動を進めるには「自分たちだけの力では限界があります」と中川さんは話す。

「まず立地のいい場所で空き店舗を借りられたのは、商店街の重鎮の方の協力があったからです。商店街にあるバーで偶然知り合って、やりたいことを伝えたら応援してくれました」

また市役所内でも、賃料のカンパだけでなく、イベントに参加してくれる人、反対意見の盾になってくれる人など、さまざまなカタチでの支援を実感しているという。

「最初は負けん気と意地で始めた『ここやる』ですが、今は楽しいと夢中の間にいます。僕たちは公務員の信頼・信用というカードを活かしていますが、例えば、評判の良かった起業体験イベントを市の事業として実施するなど、本業にも役立っています。うそみたいな話ですが『面白い活動があるので、岡崎市から引越すのをやめました』という声もいただいたんですよ」(晝田さん)

『ここやる』とは、各々がやりたいことをできる場づくりのこと。「イベントを主催した人が、成功体験を経て目を輝かせる瞬間が幸せです」と語る中川さん。「『ここやる』はどのまちでもできますし、38万人都市の岡崎より、数万人のまちのほうが巻き込みやすいと思っています。この活動を広げて全国各地のふるさとに変化を起こし、さらに世界中を元気にしたい!というのが僕個人の野望です(笑)」と晝田さんは情熱を見せる。枠と常識にとらわれないまちおこしの未来が、大いに楽しみだ。

取材協力/岡崎市空き店舗撲滅運動『ここdeやるZone』
https://okazaki-coco-yaru.jimdo.com/

2018年8月に『ここやる』も協力して開催した音楽フェス「OKAZAKI SUMMER TRIBE」の様子。音楽、マルシェ、水鉄砲や川遊びなど、SNS映えする盛りだくさんの内容。photo by Hideo Watanabe(右下除く)2018年8月に『ここやる』も協力して開催した音楽フェス「OKAZAKI SUMMER TRIBE」の様子。音楽、マルシェ、水鉄砲や川遊びなど、SNS映えする盛りだくさんの内容。photo by Hideo Watanabe(右下除く)

2019年 04月28日 11時00分