隅田川は入間川だった!?

飯能は歴史のある、よい街である。
江戸時代以来、入間川上流から江戸までの材木の流通の拠点でもあった。特に日清、日露戦争や関東大震災で木材の需要が急増すると、大きく栄えた。材木は筏(いかだ)に組み、上流から飯能まで下って来る。すると、川幅が広がるので、それまで2本の木で汲んでいた筏を4本あるいは8本に組み直す。
筏はその後川越などを経て5日間かけて北千住、そして木場に着く。江戸まで行った職人は歩いて帰ったそうだが、門前仲町の辰巳芸者と遊んでから帰ったに違いない。

このように秩父の山奥と江戸の中心は川で結ばれていたのだ。江戸時代の地図を見ると隅田川が入間川と書かれているものがあるほどだ。入間川による物流は、鉄道が発展するまで続いたのである。
そもそも江戸の語源である武蔵国の江戸氏は秩父平氏の子孫である。詳しい歴史を私は知らないが、江戸時代以前の関東は秩父方面がひとつの大きな中心だったのだ。

また飯能は、明治以降は織物取引で栄えた。全盛期、商人たちは夜ごと酒宴を楽しんだ。そのため遊郭があり、芸者が数十人いて、関東随一の規模と言われた。今も料亭やうなぎ屋があり、スナックも数軒あって、往時を偲ばせている。

老舗の料亭とうなぎ屋老舗の料亭とうなぎ屋

伝統の木材で街を活性化

右が森田さん右が森田さん

だが飯能の市街地はご多分に漏れず衰退している。空き店舗も多い。
そこで、地元の駿河台大学と飯能信用金庫が主催で、地域資源を活用した実現性のあるプランやユニークなアイデアを市民、学生、団体などから募集する第11回「輝け!飯能プランニングコンテスト」が行われ、今年1月20日、審査結果が発表された。一般部門最優秀賞には、同市岩沢在住の森田啓介さん(33)が提案した「はんのう手作り市―ものづくりで地域活性―」が選ばれた。

森田さんのプラン「はんのう手作り市─ものづくりで地域活性─」は、「ものづくりと地域をつなぐ機会を作り、地域活性化を図る」ものであり、飯能銀座商店街の空店舗・空き地を活用して、ものづくりをテーマとした手作り市を開催、これをきっかけに空き店舗を活用して、また飯能に集まる作り手と先述の伝統的木材である「西川材」とのマッチングを進めていき、西川材の作品などを消費者へ届ける仕組みをつくるという提案だった。
そのために商品を展示販売するために一時的に空き店舗を借りる「空き店舗レンタルシステム」をつくる。最終的には誰もが空き店舗を利用できる「空き店舗活用窓口」の設立を目指すというものだ。

たまたま森田さんと私は面識があったので、森田さんに飯能の新しい動きを紹介してもらうべく、飯能に向かった。私が飯能に行くのは3度目である。

クリエイターが飯能に集まっている

まず向かったのは西武池袋線飯能駅から数分のところにある「AKAI FACTORY」だ。2013年春、約70年間この場所で製造業を営んできた赤井製作所が移転したため、昭和の薫りを色濃く残す風情ある木造の工場を、クリエイターの集まるシェアアトリエとして16年に生まれ変わらせたものだ。

名前に「Factory」とつけた理由は、戦前から続く日本のものづくりの心を忘れないため。もう一つは芸術家アンディ・ウォーホルが作ったアートの実験場「The Factory」のような創造性あふれる場所にしていきたい、という思いを込めたという(AKAI FACTORYホームページより、代表・赤井恒平さんの言葉)。

アトリエ内は数名のクリエイターが彫金、アクセサリー、和紙作品、布作品などをつくっており、カフェ「モクモクコーヒー」もある。自家焙煎コーヒーを使ったハンドドリップコーヒーであり、食材にこだわった軽食やスイーツを提供する。また、アトリエ内のクリエイターの作品や雑貨などを販売している。

もと町工場というと、工場地帯だと誤解されるかもしれないが、周辺は静かな住宅地であり、かわいいお店もあるし、リノベをしてカフェや雑貨屋にしたら良さそうな物件も少なくない。

シェアアトリエの外観と内部。周辺の街シェアアトリエの外観と内部。周辺の街

商店街の空き店舗にコワーキングスペースと「縁側」的な建築事務所

次に向かったのは「糸のこアカデミー」。糸のこの技術を「楽しく」「効率的に」身につけ、生涯収入を得られる職人・作家を育成し、また愛好家を増やし未来の職人・作家の卵を発掘する場だ。TOYクリエイターである野出正和さんが主宰する。

また、飯能銀座には空き店舗をリノベーションしたコミュニティスペース「ブックマーク」がある。2017年4月に開業した。 
AKAI FACTORYの赤井恒平さんがプロジェクトメンバーの代表。店舗のオーナーから「若い人たちが集まってくるような場所にしてほしい」と頼まれた。そこで、飯能出身・在住のメンバー5人が集まってこのスペースをつくったのだという。先ほどの野出さんによる、小さい子どもが木の玩具で遊べるの玩具「木育スペース」、飯能を拠点に活躍する作家の作品や天然酵母パンなどのショップ、コワーキングスペースを併設している。ヨガや陶芸などの教室、各種ワークショップ、ミニシアターなどとしても使う。

赤井さんは「出産・育児で職を離れなくてはならないお母さんの中には、生活が落ち着いたら“また働きたい”と思っている人がいる。そこで、働きたいお母さんとコワーキングを掛け合わせることで、仕事を生み出すことを目指したい。また、若い人たちがチャレンジする場というのも含めて、今後この場所に集まる人と人とのつながりから、その人の生活スタイルに合った働き方につなげていき、地域の活性化になれば」と話しているという(文化新聞 BUNKA SHINBUN ONLINE NEWS参照)。

これからのまちづくり、特に郊外のまちづくりには、女性、とりわけ子育て期の女性が、働く場所、働くことで社会とつながれ、自分を表現できる場所をつくることが非常に重要である。そういう場所が飯能の商店街にできているとは正直言って驚いたし、たのもしく感じた。

またブックマークの設計は同じ飯能銀座商店街に面したオープンサイト建築事務所 の双木(なみき)洋介さんが行った。双木さんは飯能出身。東京の建築アトリエに勤めた後、飯能に戻った。
オープンサイト建築設計事務所は、空き店舗を設計事務所として開いた間口6mの空き店舗をセルフビルドで改修し、2014年に開業。道の延長として誰でも気軽に立ち寄れる風通しのよいオープンな場所を目指して「オープンサイト建築設計事務所」と名づけたという。

事務所が商店街の道に対して広い「縁側」として機能するよう床を一段浮かせて、「腰掛ける」という行為を通じて、室内と通りの境界を緩やかにつなぐのが狙いだ。年2回のお祭りの際には事務所の縁側を全面開放したり、朗読劇やライブなどイベントを定期的に開催したり、場所としての多様な使い方も模索しつつ、自由な発想で建築や街について考える実践の場になっていけたらと考えているという。

商店街のコワーキングスペースと建築家の縁側のような事務所商店街のコワーキングスペースと建築家の縁側のような事務所

ひとつぼ茶室でリラックス

飯能銀座通りから中央通りに入ると、蔵を活用したカフェ「銀河堂」がある。そこで一休みしてから森田さんのクルマですこし山のほうに向かった。
ここには西川材をつかった建具・家具製作会社である株式会社サカモトがあり、ショールーム「299デザイン」も併設されている。解体組み立て可能な移動型の小屋「ひとつぼキャビン」シリーズも展開しており、そのひとつとして「ひとつぼ茶室」も販売している。2017年にはクールジャパンアワードも受賞したものだ。
 
入ってみるとなかなか心地よい。六本木ミッドタウンに置けば外国人が喜びそうだし、オフィス内に置いてリフレッシュスペースとして使ったり、働くママ社員の授乳室にするなど、いろいろな使い方ができそうだ。

考えてみれば狭山、入間、飯能は狭山茶の産地だ。良質な木材とおいしいお茶。そういうナチュラルでリラックスした雰囲気が飯能にはただよっている。マイペースで街とかかわりながら、自分らしく働き、住むには適した土地なのではないか。

店蔵を活用した喫茶店とひとつぼ茶室店蔵を活用した喫茶店とひとつぼ茶室

2018年 06月09日 11時00分