賃貸の集合住宅に住む人にこそ住宅性能の知識を

マニュアルでは、熱が逃げやすい窓の構造のチェックを勧め、先進的な省エネ設備のある集合住宅の実例も紹介しているマニュアルでは、熱が逃げやすい窓の構造のチェックを勧め、先進的な省エネ設備のある集合住宅の実例も紹介している

住宅の性能進化が著しい。一戸建ての購入物件では省エネや環境負荷、断熱性を売りにするものも多く目にする。翻って賃貸の集合住宅はどうか。特に一人暮らしの大学生や転勤が伴う社会人にとっては、性能や住み心地をじっくり吟味するのは至難の業。筆者も「北海道の家なら暖かいはず」と思い込んで慌ただしく賃貸アパートを契約したが、冬の光熱費や冷気の侵入に頭を抱えている。だが実は、そんな人たちに重宝されそうな指南書が発行されていた。省エネで快適に暮らすための「賃貸住宅の選び方・住まい方マニュアル」。取りまとめたのは、冬の暖房エネルギー消費量が本州の主要都市の約5倍という札幌市だ。

2030年のCO2の排出を1990年比で25%減らす中期目標を掲げる札幌市では、市全体の排出の約4割を占める家庭部門で2012年より41%の削減が必要とされている。これを踏まえ、家庭部門でテコ入れを図ろうと、有識者や事業者団体などでつくる「札幌市環境保全協議会」が発足。市が事務局となり2015年11月から議論してきた。2017年1月には市内の47%の世帯が賃貸の集合住宅に住んでいる情報が共有され、そこに訴求していくことになった。

賃貸の集合住宅は投資物件としての側面もあり、第三者が直接働きかけることには難しさもある。ただ「そこまで踏み込まないと、なかなか温暖化対策が進まない」(札幌市環境計画課・山西高弘さん)ため、幅広い関係者が意見をまとめる協議会形式の利点を生かし、入居者の意識を変えることを主眼に置いた。

大学生らへのアンケートで、入居後の不満を分析

札幌は道外から大学進学で転入する学生が多く、冬の光熱費が大きな負担になる特徴があった。そこで2017年3月に市内の6大学と3専門学校でアンケートを実施し、218件の回答を得た。そこで浮かび上がったのは、入居前に断熱や省エネの性能を重視している人は少ない半面、入居後に部屋の寒さや光熱水費の高さを知り、それらに不満を持つ人が多いことだった。入居前に特に重視した項目は、「学校や駅からの近さ」が最多の約72%で、「暖房・給湯等の光熱費」「断熱性能(部屋の寒さ・暖かさ)」はともに約5%にとどまった。また居住者の4割が光熱費を節約するため意識して省エネ行動をしておらず、冬場の光熱費は夏場の約2倍だった。

2017年5月にはマニュアルの編集が始まり、委員の意見も反映させていった。高性能な断熱や省エネ設備がある賃貸集合住宅はごく一部だったため、「選び方」だけでなく「住まい方」まで考えてもらい、光熱費や環境負荷を抑えることを意識してもらおうという方向性が定まった。

学生へのアンケート結果を紹介するページ。「賃貸住宅の選び方・住まい方マニュアル」より学生へのアンケート結果を紹介するページ。「賃貸住宅の選び方・住まい方マニュアル」より

断熱のイロハから内覧・検索のコツまで分かりやすく紹介

2018年3月に発行されたマニュアルの「選び方」では、熱が逃げるのをいかに小さくするかを詳しく説明した。建物の壁や天井、床の断熱材が冷気の侵入を抑え、室内の熱を逃がさないようにするという役割をイラストで分かりやすく解説。「見た目では分からないので、可能な範囲で仲介業者やオーナーに確認をすると良いでしょう」と記した。鉄筋コンクリート・鉄骨・木造と構造ごとの断熱方法やその性能の高め方についても触れた。

部屋の温度を保つ上で重要な窓については、「建物の断熱性能と同じくらい重要」と説明。従来型の住宅では窓やドアの「開口部」から逃げる熱は全体の3割ほどに達するとして、窓のガラスの枚数や内窓の有無、サッシはアルミか断熱性能の高い樹脂製かどうかといった点をチェックすることを推奨している。

また外気に接する壁が多いほど外気の影響を受けやすいため、「部屋の位置によって熱の逃げ方が変わる」とポイントを示した。建物の中心部にある部屋は熱が逃げにくい半面、間取りや窓の位置によって夏の風通しが悪くなる可能性もあると指摘している。

無駄なエネルギーを使わず、光熱費を抑えるために大切な暖房や給湯設備については、従来は捨てられていた熱(燃焼後の排気)を利用して効率的に灯油やガスを使うものや、空気熱で温熱をつくりだし湯を沸かすものを例示した。「熱源ごとに高効率な機器が出ていますので、住宅を選ぶ時に確認することをお勧めします」とした。

現地で内覧する時の注意点としては、実際に部屋に入って室温を体感することが重要としている。チェック方法は「冬場であれば室温が下がり過ぎたり窓際が寒くなっていないか、夏場であれば日射や風通しを確認し、部屋が快適にすごせるかどうか」と紹介した。

賃貸住宅検索サイトで省エネ性能の高い物件を探す際のコツも添えた。現状では省エネ住宅を選ぶためのチェック項目は多くないものの、省エネ設備を導入している場合はそれが明記されることもあるため、燃焼後の排気を使って水を予備加熱する「エコジョーズ」といった言葉で検索することを提案している。

断熱の基礎知識から分かりやすく解説したページ。「賃貸住宅の選び方・住まい方マニュアル」より断熱の基礎知識から分かりやすく解説したページ。「賃貸住宅の選び方・住まい方マニュアル」より

すぐに実践できるエコな暮らし方も紹介

「暮らし方」に関しては、暖房器具や家電、生活用品の使い方のコツをまとめた。暖房は室温20度を目安に設定し、照明は一般電球より消費電力が約85%少ないLED照明を使うようアドバイス。室内温度を保つため、カーテンは厚手で床までの長さがあるものを選び、トイレの便座ヒーターと温水洗浄水はできるだけ低めの温度に設定し、熱が逃げないように使用後は便座の蓋を閉めることを勧めた。冷蔵庫は最新のものだと10年前の製品より約47%の節電につながり、シャワーは16分流すと浴槽1杯分の湯量に相当する、といった豆知識も盛り込んだ。

先進的な実例として、札幌市内にある高性能賃貸住宅を紹介した。2LDK(64.8m2)と3LDK(81.59m2)がある物件で、暖房費込みで賃料は77,800~97,000円。ガスから取り出した水素と空気中の酸素を反応させて発電し、その際できる熱を給湯に活用する家庭用燃料電池や、高効率な地中熱ヒートポンプ、室内の熱を回収する熱交換器、太陽光パネル、蓄電池などを備えている。これらのシステムの導入で、試算上は年間で平均約37,000円の光熱費削減を実現したという。

暖房器具や家電の使い方のコツをアドバイスするページ。「賃貸住宅の選び方・住まい方マニュアル」より暖房器具や家電の使い方のコツをアドバイスするページ。「賃貸住宅の選び方・住まい方マニュアル」より

メリット・デメリットを理解して賃貸の物件選びを

マニュアルでは、先進的な省エネ設備がある札幌市内の賃貸集合住宅が掲載されている(上)。冊子を紹介する山西さん(下)。マニュアルでは、先進的な省エネ設備がある札幌市内の賃貸集合住宅が掲載されている(上)。冊子を紹介する山西さん(下)。

賃貸の集合住宅の場合、オーナーが初期投資を抑え、快適な住環境や光熱費の抑制まで目が届きにくい恐れがある。

山西さんは「一戸建てを購入する場合は住まいを自分で考えやすいですが、賃貸は選び方が広く知られているわけでもなく、住むまでなかなか分かりません。築年数が新しいから暖かいとも限らないし、窓からの景色がいい部屋とか、角部屋がいいとなりがちです。入居してから後悔しないために、今後の生活をイメージして、メリット・デメリットをきちんと知った上で選んでもらうようにしていただければ」と話す。

マニュアルは4,000部を作成し、市内の不動産会社やハウスメーカー、北海道大学の生活協同組合などへ既に2,000部が配布された。札幌市の公式ホームページから閲覧・ダウンロードできる。

省エネで快適な賃貸住宅に住む「賃貸住宅の選び方・住まい方マニュアル」
https://www.city.sapporo.jp/kankyo/kyogikai/the10th/

2019年 05月27日 11時00分