月の電気代が10万円、住宅ローンの支払いを超えることも…

お話を伺った棟晶株式会社常務取締役の齊藤克也さん(左)と広報担当の佐藤靖子さん(右)お話を伺った棟晶株式会社常務取締役の齊藤克也さん(左)と広報担当の佐藤靖子さん(右)

冬の平均気温が氷点下まで下がる北海道。それは人口約190万人の都市、札幌も例外ではない。当然冬になれば、灯油ストーブや電気パネルヒーターなどの暖房を使用することになるが、ここ数年、給湯や暖房を電気でまかなうオール電化住宅で、月の電気代が10万円を超えるケースが現れ始めたという。
電気代が高額になってしまう理由の一つが、電気料金の高騰である。北海道電力が発表している電気料金改定情報の推移を見ると、平成25年9月に7.73%、平成26年11月には15.33%電気料金が値上がっており、オール電化の住居にとってこうした電気料金の値上がりは家計に大きく響いてくるだろう。
また、北海道のオール電化住宅採用戸数を見ると、2011年の東日本大震災以降供給数は鈍化しているものの、2014年の新築着工数のうち25.3%をオール電化住宅が占めている。
しかし、電気代を主とする暖房費が高額になる背景には、電気料金の値上がりに加えて、住宅構造による熱の損失、つまり住宅の断熱性、気密性の低さが原因の一つになっている例も少なくないという。

厳寒地において、暖房費を抑えつつ快適に過ごすためには、どのような住宅が求められるのか。
2015年に開催されたリノベーション住宅推進協議会が主催するリノベーション・オブ・ザ・イヤー2015において、「暖房なしでも暖かいマンション」で省エネリノベーション賞を受賞した、札幌の設計施工会社 棟晶株式会社 常務取締役の齊藤克也さん、広報担当の佐藤靖子さんにお話を伺った。

いまだ少ない札幌の高断熱住宅と、行政が認定する札幌独自の住宅基準

「断熱性や気密性が低い、つまり住宅性能の低い住宅の場合、暖めた空気が外部へ逃げてしまい部屋が暖まらず、結果的に高額な暖房費につながってしまいます」
と語るのは、広報担当の佐藤さんである。

北海道の住宅性能について札幌市は、2012年、国が平成11年に示した「省エネルギー基準」を参考に、新築住宅は5段階、リフォーム住宅は3段階の等級に分ける「札幌版次世代住宅基準」を創設している。
このうち、新築住宅の5つの基準のうち、最高位となる「トップランナー」基準は、断熱性が世界でもトップクラスと言われているドイツのパッシブハウスと同等の水準を想定したもので、年間暖房エネルギー使用量 15kWh/m2以下という、無暖房住宅に近いレベルの断熱性能を有する。
反対に最低位の「ミニマムレベル」基準は、Q値1.6、C値2.0と、国が示した省エネルギー基準のⅠ地域 北海道における基準と同等となっており、国が示す住宅性能基準が、札幌版次世代住宅基準の最低レベルであることがわかる。

これらの基準は、住宅の断熱性能を熱損失係数(Q値)で、気密性を相当隙間面積(C値)により評価し、建築主の申請に基づき札幌市が「札幌版次世代住宅」として認定するものだ。
※「札幌版次世代住宅」は、改正省エネ基準が完全施行に伴い、平成28年度より外皮平均熱貫流率(UA値)と一次エネルギー消費量(全体、暖房+換気)、相当隙間面積(C値)という4つの指標基づく評価方法に移行している。

札幌独自の基準が設けられた背景には、積雪寒冷地である札幌が、全国と比べて暖房エネルギーによるCO2排出の割合が高い事が挙げられる。住宅性能の向上させ、家庭で使用される暖房エネルギー消費量を減らすことで、CO2削減につなげたい考えだ。
なお、札幌市が平成27年に札幌圏の住宅事業者向けに行ったアンケート(回収社数64社※回収率41.29%)によると、平成26年度の札幌市内の新築戸建着工数4510件のうち、「札幌版次世代住宅基準」のベーシックレベル以上の割合は19.8%(895件)にとどまっており、ハイレベルが0.4%、トップランナーが0.1%と、高断熱住宅は未だ少数である。

札幌市が策定した「札幌版次世代住宅基準」と、平成11年に改正された次世代エネルギー基準</BR>
Ⅰ地域 北海道におけるQ値1.6、C値2.0が、</BR>札幌版次世代住宅基準の最低レベルであるミニマムレベルの水準となっている札幌市が策定した「札幌版次世代住宅基準」と、平成11年に改正された次世代エネルギー基準
Ⅰ地域 北海道におけるQ値1.6、C値2.0が、
札幌版次世代住宅基準の最低レベルであるミニマムレベルの水準となっている

手の届く範囲のコストで作り上げる高断熱高気密住宅、リノベーションという選択も

(上)リノベーション前(下)リノベーション後</BR>年間約47万円かかっていた光熱費が、およそ半分の約23万円程度にまで抑えることができたという(上)リノベーション前(下)リノベーション後
年間約47万円かかっていた光熱費が、およそ半分の約23万円程度にまで抑えることができたという

「暖房費を抑えつつ快適に過ごしたい場合、住宅性能と設備機器の性能、選定が重要です。北海道のオール電化住宅では、蓄熱暖房機、または電気パネルヒーターと電気温水器という、電気を直接熱に変換するいわゆる"電気の生焚き"をする機器の組み合わせが主流です。断熱性に優れた躯体にも関わらず部屋が暖まりにくく、光熱費が高くなる場合、使用している設備機器が適切ではないことが多いんです」と常務取締役 齊藤さんは語る。

棟晶株式会社は、設計段階において、住宅のQ値やC値などを追い求める以上に、初段の建築コスト低く抑えつつも、最終的な暖房費を抑える点を重要視しているという。
広報担当の佐藤さんは、「断熱性や気密性を考える場合、熱がもっとも逃げやすい窓のサッシや壁の断熱材ばかりが注目されますが、意外と見落とされたがちなのが換気設備です。熱交換形式換気扇を使用し、熱を室内に留めつつ空気の入れ替えをする、いわば"冷めにくい家"にすることが重要です」と語る。

それでは、実際にどのような住宅を提供しているのか、新築とリフォームそれぞれの施工事例を紹介する。

まずは同社が「札幌版次世代住宅基準」のトップランナー第1号認定となった新築住宅を紹介したい。
木造2階建ての4LDK、延床面積40坪のこの住宅は、Q値が0.48W/m2、C値が0.2cm2/m2と、「札幌版次世代住宅基準」の最高品質である「トップランナー」基準をクリアしている。
壁の断熱にはロックウールを吹き込み、窓のサッシには、海外製のサッシと比較して価格を3分の1程度に抑えられる国内製のサッシを使用している。暖房の設備仕様には、寒冷地対応エアコン、換気には熱交換型換気システムが採用されている。
同社が選定した断熱材、設備機器によって、「トップランナー」水準の住宅性能でありながら、坪単価は50万円後半に抑えることができたという。

また、今の住まいをそのまま改築し、コストを抑えつつ断熱性、気密性を高めるリノベーションという選択もある。
それまで、給湯を従来型瞬間式の石油給湯器、暖房機器として灯油ストーブを使用していた環境から、給湯を電気ヒートポンプ給湯器(エコキュート)、暖房をルームエアコンに切り替え、窓ガラスを中空層にアルゴンガスが含まれた複層ガラスに変更した。
窓ガラスに海外製の高価なサッシを採用するよりも、壁の断熱材を厚くした方が、同じ断熱性能でもコストを抑えられる場合もあるという。
このリノベーションにより、この住まいでは年間の光熱費がこれまで年間約47万円かかっていたものが、約23万円のおよそ半分程度にまで抑えることができたという。

住まいの断熱性から健康を考える

断熱性、気密性に優れた住宅に対し、齊藤さんは「住まいの温熱環境を整えることで、暖房費を抑えると同時に、疾病を引き起こしにくくなり、健康にかかるコストも抑えられるのでは、と考えています」と語る。

日本の住宅は、断熱性や気密性といった住宅性能が、欧米と比較してまだまだ差があると言われている。
特に世界の省エネルギー基準の中で最も厳しいものの一つとして挙げられるドイツのパッシブハウスは、北欧などでもその考え方が広く認知されてきているという。
また、日本と欧米を比較した場合、暖房の仕方にも違いがある。欧米の住宅では、家全体を暖めようとするのに対し、日本では自分がいる部屋だけを暖めようとする傾向があるのだという。寒い家の中で、凍えながらこたつで暖を取ろうとする行動が、日本人の暖房に対する価値観を表したわかりやすい例ではないだろうか。

こうした住宅内の温度差が引き起こす健康被害の一つが、ヒートショックである。
東京都健康長寿医療センター研究所が2011年に行った調査によると、全国で約17,000人もの人々がヒートショックに関連した「入浴中急死」に至ったと推計されており、この死亡者数は、交通事故による死亡者数約4,000人の3倍以上である。

室内の温度差を少ない状態にするためには、家全体を暖める場合、その光熱費は住宅の躯体性能に左右されることになる。また、こうした躯体強化は、冬の暖房だけでなく、夏の冷房の使用についても必要最小限に抑えることで、年間の光熱費を大幅に削減できる可能性があるという。
齊藤さんは今後の展望として、「厳寒地北海道で蓄積した住宅の断熱性、気密性といった技術を、夏場に冷房を多用する西日本の住宅設計に応用していくことで、日本全域の住宅性能の向上に貢献していきたい」と語る。

エネルギー価格が情勢で変動しやすい時代、まずは住宅の基本的な断熱性能を見直し、必要最小限のエネルギー負荷で過ごせるようになることが、住まい選びをする上で必須の基準の一つになるのかもしれない。
年間光熱費の削減だけでなく、室内の温度変化に起因する健康被害を抑えるという観点からも、改めて住宅の断熱性、気密性を見なおしてみてはいかがだろうか。

2016年 05月03日 11時00分