これからどうなる?不動産業のIT化

物件情報や関連する情報をいかに伝え、利用しやすくするか、様々な工夫が行われていることを実感した物件情報や関連する情報をいかに伝え、利用しやすくするか、様々な工夫が行われていることを実感した

HOME'S EXPO2015 TOKYOは不動産・住宅情報サイト『HOME'S』を運営する株式会社ネクストが主催する不動産会社向けの情報提供、学びの一日。朝から複数の勉強会が開かれたのだが、そのうち、消費者にも関係のある2つのシンポジウムをご紹介しよう。最初に聞いたシンポジウムは不動産業のIT化の今後についてネクスト社内の開発担当者3人が語るというもの。具体的なアイテムはスマホアプリ、不動産会社向けツール、そして10月にリリースされたばかりの不動産価格を一覧できるHOME'Sプライスマップについてである。

まず、スマホアプリについてはリリースから6年目というが、ここのところ毎年10%以上の伸びを続けており、2014年4月にスマホ専門の開発セクションを設けて以降はそれが加速されているという。不動産に限らず、世のあらゆるジャンルでスマホ利用が伸びている現状を考えると当然の成り行きだろう。

その中で模索されているのはサイトとアプリの融合だという。というのはアプリの反響が伸びているとはいえ、全体の割合としてはまだ少ない。どちらを使っても同じような情報が迅速に得られるようになれば消費者にも便利。ぜひ、連携を強化、使い勝手を良くしていただきたい。

もうひとつの模索は検索から住み替えまでのサポート。内見時のチェックリスト、引越し前にやることリストなどを揃え、場面ごとに役立つ情報を提供する方向だという。部屋探し、引越し前後をサポートする情報がタイミングよく見られる仕組みがスタンダードになれば、住み替えはずいぶん楽になるだろう。

不動産会社向けのツールは機械に任せられる作業は機械に任せ、ユーザーと相対する接客時間を増やすためのプラットフォームを目指しているという。そのため、アプリ版を開発、スマホでも物件が探せるようにするなど物件探しのスピードアップが図られているとか。また、鍵の受け渡し時間を省くため、スマートロックの導入にも取り組んでいるそうで、これが実現すれば鍵の受け渡しの手間を省くことで無駄がなくなるはずだ。

中古住宅の価格が分かるサイトで流通を促進

今後のIT化でひとつ、大きなステップになりそうなスマートキー。複数商品が展示されていた今後のIT化でひとつ、大きなステップになりそうなスマートキー。複数商品が展示されていた

最後のHOME'Sプライスマップはまだ新しいサービスだけにご存知でない方もいらっしゃるかもしれない。これは現在売り出されている物件だけでなく、過去に販売履歴のあった物件の、今売り出すとしたらこのくらいになるという参考価格がマップ上に表示されるというもの。さらに過去の売買で出てきていなかった階数や部屋の向きその他の細かい条件を入力すると、その条件に合わせて補正された価格が表示される。

これを使えば、不動産会社に価格査定を依頼せずともおおよその額が分かるわけで、開発サイドとしてはこれを利用することで、なんとなく売りたいと思っている人たちの背中を押すような効果を期待しているという。既存住宅の流通活性化に寄与したいというわけだ。

面白いのはネクストが同サービス開始の予告を発表、実際のサービスがリリースされるまでの3か月ほどの間に同種のサービスが複数リリースされたという点。これは中古住宅流通を妨げているのは価格が分かりにくいという点にあると多くの関係者が認識していたという意味であろう。今回、同種多様のサービスが出揃ってきたことで中古売買が分かりやすく、利用しやすくなることを期待したい。

ところで、複数のサービスが登場したとなると、気になるのはサービスの使い勝手。開発担当者は使い比べてみての、自社の優位性について自信を持っているそうだが、これは使って比較してみるのが現実的だろう。ぜひ一度、試してみたいところだ。また、今後は現時点の価格だけでなく、過去の価格推移、リフォーム履歴などの情報も積み重ね、より実態に即した価格査定ができるようにしていく予定だという。

これからの賃貸仲介は全手動?全自動?

左が鈴木誠氏、右が鈴木直樹氏。両極端な営業方法だが、実は2人、仲が良い左が鈴木誠氏、右が鈴木直樹氏。両極端な営業方法だが、実は2人、仲が良い

もうひとつ、参加したシンポジウムは賃貸仲介業の今後について考えさせてくれるものだった。登壇したのは不動産会社歴14年、完全予約制、完全紹介制の不動産会社誠不動産の鈴木誠氏と、会員制で仲介手数料完全無料、不動産歴16年のノマドの鈴木直樹氏。

この二人の仕事ぶりは対局にあり、シンポジウムで出た言葉を借りると全手動と全自動。鈴木誠氏は基本、知っている人、知っている人の紹介以外の仲介は受けておらず、最初はまず会って話をするところから始める。「初来店時には1時間半かけて話をし、探している物件のイメージを共有。その後、条件に合った物件情報を送信、気に行った物件があれば下見に行くという段取りです。これという物件がない、見に行っても決まらなければ決まるまで付き合い、最長1年以上部屋探しをした方もいらっしゃいます。また、ご紹介する物件については事前にグーグルアースなどで環境をチェックするなどある程度調べてから自信を持ってご紹介するようにしています」。

鈴木誠氏は日当たりが良く、自分が住みたいと思える、部屋に入った瞬間にピンとくる、住んだ後にいいイメージが湧く部屋以外は本人が良いと思っても勧めないことにしているそうで、それだけを聞くとなんて勝手な!と思うかもしれない。だが、鈴木誠氏が勧めてくれる部屋に住むと、たとえば自営業なら業務が拡大したり、芸能人なら売れるようになったりと良い部屋に住むことで成功するという絶対的な自信が付くようで、実際、成功している方が多いそうだ。そのほか、入居前には電気、ガス、水道などの手続きを代行してくれたり、最初の家賃支払いを忘れないように連絡を入れてくれたり、入居後も誕生日に手書きのハガキを送ったりと手厚いサービスが特徴。一度探してもらった人が次も依頼するという例がほとんどだ。

サービスを徹底的に省いて低料金を実現

どの会場も満員御礼。不動産会社の学ぶ意欲が伝わってきたどの会場も満員御礼。不動産会社の学ぶ意欲が伝わってきた

対する鈴木直樹氏はそうしたサービスを省くことで低価格の部屋探しを実現している。月額840円(税込。以下同)の会費を払えば、1日に5件までは物件を紹介してもらえ、それが気に入れば現地で待ち合わせ、鍵を開けてもらい、下見ができるという仕組み。下見は3時間600円で、時間内であれば何物件見ても良い。鍵を開けに来る人はアルバイト、現地スタッフなど不動産に関しての知識はなく、物件や周囲の環境などについては自分で調べる必要がある。だが、それができるのであれば非常に低額、短期間で部屋探しができる。入会後2週間以内なら会費は無料だから、その期間に下見1回で決めるとすると600円で住み替えができる計算だ。

不動産会社に頼らず、自分で情報を得るという仕組み、またSNS中心の集客、ガラケーでは利用できないサービスであることなどから、現在の利用者は25~35歳、港区や東京都の城南エリア居住の情報リテラシーの高い人たちが中心だという。

「手数料の割引戦争から抜け出したいと思い、この業態になりました。いずれテクノロジーの進化が不動産店舗、営業マンを減らし、将来的には賃貸仲介そのものも無くなっていくんじゃないかと考えています」。その日のために、まずは下見も含め、ほぼ全自動化していくのが近々の目標とか。今後、スマートキーの導入が進めば、セルフ下見はそう夢ではないことを考えれば、近いうちに契約以外は人が会うことなく、住み替えが可能になるかもしれない。

安さか、サービスか。不動産会社を選択する仕組みが必要では?

ところで、この2人の対局ぶりを一言で表すとお金か、サービス=人かということになろう。「サービスはなくても安ければ良い」なのか、「ある程度の金額を払っても満足するサービスを受けたい」いずれかということである。これは不動産仲介に限らず、どの業界でも進んでいること。ファッション業界での量販店、セレクトショップに置き換えてみれば分かりやすいだろう。他の業界で進む二極化が不動産業界でも進んでいるというわけである。

だが、ファッションその他の業界と不動産業界での二極化には大きな違いがある。ファッションであれば自分が訪ねた店がどちらのジャンルの店なのかはすぐに分かる。だから、安さで選びたい人がセレクトショップに入ってしまい、かつ高額商品を買ってしまう心配はほとんどない。だが、不動産会社の場合、それがどんなタイプの店かは判断がしにくいし、ひどいことにサービスはほとんど提供されないのにも関わらず、仲介手数料はきっちり家賃の1カ月分払わなければならないケースすらある。

二極化は良しとしても、「消費者が選択できない状況はどう思うか?」と質問をしてみた。それに対し、主催者側は今後、不動産会社選びに資するサービスを考えていきたいという答え。多くの人が期待していると思う。また、鈴木直樹氏は「サービスもなく手数料だけ要求する不動産会社が淘汰されていけば、良い会社にあたる確率が増えるのでは?」との答え。鈴木誠氏は「現状の宅建士の資格は現場のニーズに合っていない。賃貸仲介に携わる人向けの資格あるいはそれに代わるもので会社選びができるようにしていく必要がある」。どのような形にせよ、消費者が選択できるような仕組みになっていって欲しいものである。

2016年 01月04日 11時07分