半世紀ぶりの復原工事で魅力向上へ

北海道の観光ガイドブックやパンフレットでよく見かける、「赤れんが庁舎」こと札幌市の北海道庁旧本庁舎。年間70万人近くが訪れ、平日、週末問わず、観光客が重厚なれんが造りの外観にレンズを向け、歴史を刻んだ部屋を見学している。北海道を代表する歴史的建造物で、道内観光の象徴とも言える人気スポットだが、大規模改修のため2019年9月30日をもって休館する。老朽化やバリアフリーへの対応のほか、情報発信の機能や魅力を大きく向上させる予定だ。道庁によると、現在は現役の「行政庁舎」だが、道民や観光客がより使いやすい「公の施設」に生まれ変わる。

赤れんが庁舎はれんが造りで、建築面積が約1,600m2。地上2階、地下1階建て。北海道庁が設置された1886(明治19)年の7月にアメリカ風ネオ・バロックスタイルとして着工し、1888年に完成。1909(明治42)年に火災で内部と屋根を焼失したが、1911年に復旧工事で再生された。1964(昭和39)年に復原改修と永久保存の方針が決定され、現在の姿になった復原工事は1968年に行われた。

直近の工事から半世紀ほど経過しているため、耐震性の不足に加えて、雨漏りや施設・設備の老朽化が著しくなってきた。床から天井までは約5mあり、階段が長く、お年寄りや障がいのある人にとっては上り下りが大きなハードルで、バリアフリー対応も待ったなし。一方で来館者は2018年度で約69万6,000人を数え、10年前の約1.7倍となっていることから、魅力や満足度の向上も求められていた。

かねて本格的な改修の必要性が指摘されてきたが、「北海道」と名付けられて150年のタイミングに合わせて、2018年度、プロジェクトとして本格的にスタートしたのだ。

多くの観光客が訪れる赤れんが庁舎多くの観光客が訪れる赤れんが庁舎

幅広い意見聴取で生まれた基本方針

どのように改修を進めるか。道庁は2016年2月に来館者アンケートを実施。歴史・文化・自然についての展示拡充を求める意見が寄せられ、観光資源としてのポテンシャルが高いことをつかんだ。2017年1~2月にはインターネット上でモニター調査を行い、道産食材を使った飲食スペースの設置などを望む声が多いことが分かった。また道内4ヶ所でのワークショップや、観光やまちづくりといった専門家へのヒアリングを実施した。

検討を重ね、2019年3月に基本方針がまとまった。国籍や障がいの有無を問わない「あらゆる人が楽しめる場」、各地方に興味をもって足を運んでもらうための「道内各地と連携する場」、歴史・文化・自然・生活習慣・芸術を伝えるための「北海道ブランドを世界に向けて発信する場」の3つの方向性が定まった。総工費は概算で78億円。

外観は1968年に復原された現状を維持し、内部は1911年の火災復旧後の姿を維持する。老朽設備を更新しながら、文化財としての価値に与える影響が小さい工法や範囲でバリアフリー化も進める構え。エレベーターは外付けでなく、建物内部に設置する方向で検討を進めていく。運営は民間企業を募り指定管理者制度などを活用する見通しで、持続的な運営を目指す。

重要文化財としての重厚さが随所に感じられる館内重要文化財としての重厚さが随所に感じられる館内

フロアごとに異なる特徴を演出

地下1階は「創造と交流のフロア」として、開拓を題材とした絵画や北海道に関する各種資料を展示しつつ、さまざまな道民の活動に活用できるスペースを設ける。1階は「地域情報とにぎわいのフロア」で、施設の導入部分として、道産品のセレクトショップ、映像を交えた観光情報コーナーや北海道の食文化が楽しめる飲食スペースを設ける。重要文化財のため直火は使えないが、IHなどで対応する見通し。2階は「歴史と文化のフロア」で、北海道の歴史・文化や赤れんが庁舎の文化財的価値を伝える展示コーナーや催事スペースとする。アイヌ民族の歴史や文化、「北海道」の名付け親とされる松浦武四郎の紹介も予定する。

前庭は、マルシェ開催やアウトドア体験といったイベントに活用し賑わいを生み出せるよう、道民にとって使いやすい運用をする。赤れんが庁舎のシンボルと言われ、高さ33mに達する建物中央の「八角塔」の内部や、その一部に設けられているバルコニーの眺望を生かした体験プログラムの展開も想定している。

国指定の重要文化財のため、各ゾーンの改修の具体化は、文化庁と協議しながら検討し、2019年10月の入札時に施工会社からの提案を受けて進める。耐震補強では、れんが造りのため一般の住宅のような手法で補強ができない。葺き替える屋根のスレート版や床板をはじめ、資材は建設初期のものと同じものを調達できない可能性も見据える必要がある。

1階(左上)、2階(右上)、地下1階(左下)、八角塔(右下)の完成イメージパース1階(左上)、2階(右上)、地下1階(左下)、八角塔(右下)の完成イメージパース

情報発信拠点としての機能を拡充

現在の観光情報コーナー。改修で発信力が強化される予定現在の観光情報コーナー。改修で発信力が強化される予定

改修により、機能面でも大きく変わる。

訪日外国人(インバウンド)を含めて来館者が増えていることを受けて、道内観光全体の呼び水になることを目指す。改修事業を担当する北海道総務部の新開孝一さんは「赤れんが庁舎は、観光客が多く訪れるルートになっています。ここだけでなく、道内全域を周遊してほしいという思いがあります」と話す。1階で各市町村の逸品を紹介するなど、各地域の情報を発信し、文化と観光の情報発信拠点として充実を図る。


また現状では赤れんが庁舎は現役の行政庁舎で、一部を一般に開放している形だが、より開かれた施設に生まれ変わらせる。現在は公文書を保存する部署や、道庁が主催する企画や会合に使われる会議室があるが、公文書の保存部門は移転となり、会議室は一般の道民らが広く活用できるように転用する。

新開さんは「一人でも多くの方に関心を持ってもらい、みんなで守っていこうという意識を高めていきたいですね」と話す。赤れんが庁舎への愛着を深め、改修事業を広く知ってもらおうと、個人や企業に「ふるさと納税」型をはじめとした寄付を募っている。

現在の庁舎は9月30日を最後に入館できなくなり、工事が始まると覆いがかけられ、外観は見えなくなる。工事は2022年度内の完成を見込んでいる。

2019年 07月08日 11時05分