賃貸住宅の入居者とオーナーの間のトラブル

PIO-NETに寄せられた賃貸住宅の敷金・原状回復に関する相談件数。毎年1万4,000件前後で推移している(独立行政法人 国民生活センターの資料を基に作成)PIO-NETに寄せられた賃貸住宅の敷金・原状回復に関する相談件数。毎年1万4,000件前後で推移している(独立行政法人 国民生活センターの資料を基に作成)

「できる限りお金をかけずに住みたい」、「少しでも出費を抑えて物件を維持したい」。相反する意向の賃貸住宅の入居者とオーナーとの間では、トラブルが起こることもあり得る。特に敷金や退去時の原状回復に関するトラブルは多い。国民生活センターと全国の消費生活センターの相談情報収集システム「PIO-NET」には、この件に関する相談が長年相次いでおり、毎年1万4,000件前後で推移している。

最近の相談内容としては以下のような例がある。

「敷金礼金0円との説明を受けて賃貸アパートを契約し入居したが、後日敷金の請求を受けた。仲介業者のミスと分かり、払いたくない」

「賃貸マンションの退去に伴う原状回復費用のうち、ハウスクリーニング代の支払いに納得がいかない。支払わなくてはならないか」

「賃貸アパートを退去したが、原状回復費用が相場より高いと思う。減額を求められるか」

一方で物件のオーナーとしては、退去時のトラブルだけでなく家賃を滞納されたり、本来入居者が払うべきと考える修繕費用を支払ってもらえないといった悩みもあるだろう。

トラブルは未然に防ぐことが得策

このようなトラブルは、起こってしまってから対処するより未然に防ぐことが入居者にとってもオーナーにとっても得策だ。たとえば原状回復であれば、お互いに退去時(出口)の問題とは考えずに、入居時(入口)の問題として捉え、事前に物件の状況や契約条件を双方が確認し合ったうえで契約を締結することが重要だろう。

そのためのツールの一つとして、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」がある。これは退去時の原状回復をめぐるトラブルを防止するため、賃貸住宅標準契約書の考え方や原状回復の費用負担のあり方などをまとめたものだ。くわしくはこちらの記事で解説しているので確認してほしい。

同ガイドラインの内容は法律ではないので、法的強制力はない。しかし、2020年4月から改正された民法が施行され、敷金や原状回復に関するルールが明文化される予定だ。

専門家が中立な立場で合意点を探るADR

このように未然に防ぐ方法はあるものの、どうしても起こってしまうのがトラブルというものだろう。できれば当事者間の話し合いなどで穏便に済ませたいところだが、それが困難な事態もあるはずだ。だからといって泣き寝入りはしたくない。「ならば裁判」という手もあるが、そうなれば時間や費用の負担が大きくなる……。

そのようなときに有用な制度が「裁判外紛争解決手続」=「ADR(Alternative Dispute Resolution)」だ。同制度は、司法書士、行政書士、弁護士といった専門家(調停人・仲裁人等)が中立な立場で当事者の間に入り、お互いの合意点を探るもの。合意の種類には「調停・あっせん」と「仲裁」がある。

●調停・あっせん
調停人が中立な立場で仲介し、話し合いや交渉を進める。調停とあっせんは、ほぼ同じ意味。

●仲裁
紛争についての判断を仲裁人に委ねる手続き。仲裁による判断は、裁判と同じ効力があり、当事者は拒否することができない。

ADRを利用するメリットには次のようなことがある。

・スピーディーに解決できる
裁判を行う場合は、第一審で半年から2年程度を要し、控訴審へと進んだ場合はさらに時間がかかる。一方でADRならば目安として3ヶ月程度で解決できる。

・費用が比較的安価
訴訟を起こす場合は、弁護士費用や鑑定費用などで多額の費用を要するが、ADRではそのような費用がかからず比較的安価に解決に至ることが可能。ただし、無料ではないので、具体的な金額は後述するADR機関へ確認するのがいいだろう。

・プライバシーが守られる
裁判と異なり手続きは非公開。そのため、他人に紛争内容を知られることなく解決を図れる。

一般的なADRの流れ。裁判と比べてスピーディーに紛争解決へ至る可能性が高い(国土交通省住宅局住宅総合整備課作成のパンフレットより)一般的なADRの流れ。裁判と比べてスピーディーに紛争解決へ至る可能性が高い(国土交通省住宅局住宅総合整備課作成のパンフレットより)

安心して相談できるADR機関を法務大臣が認証

このように「時間がない」「費用がない」「そこまで大ごとにしたくない」といった紛争に対してADRは非常に有用だ。しかし、はじめて同制度を知った人は、どこに相談すればいいか分からないだろう。そこで国は同制度を安心して利用できるよう、「裁判外紛争解決の利用の促進に関する法律(ADR法)」で定めた基準をクリアしたADR機関を、法務大臣が認証する制度を設けている。

認証のおもな基準は以下のとおりだ。

・トラブルの内容に応じた紛争解決の手続を進める人(調停人)として専門的人材を確保していること

・当事者と利害関係のある人が調停人とならないような仕組みが備わっていること

・調停人が弁護士でない場合は、法的な問題に対応するために弁護士の助言を受けることができるようにしておくこと

・紛争解決の手続について、標準的な手続の進行、資料の保管や返還の方法、費用の算定方法、苦情の取扱い等を定めていること

・当事者のプライバシーや秘密などを守るための体制が整っていること

このような基準をクリアし、賃貸物件に関する紛争解決を得意とするADR機関は、以下のパンフレットなどで確認できる。

http://www.mlit.go.jp/common/001258037.pdf

法務大臣の認証を受けたADR機関は、利用者に対して事前に手続きの内容や進め方、費用などをくわしく説明することが義務付けられている。同制度を利用するか否かの判断は、その説明を聞いた後でよい。もし、当事者間でどうしても解決できない揉め事があるのなら、入居者でもオーナーでも構わないので、一度相談に行ってみてはいかがだろう。

ADRは「裁判まではしたくないが、泣き寝入りもしたくない」といった入居者・物件オーナーにとって有用な制度だ。知っておいて損はないだろうADRは「裁判まではしたくないが、泣き寝入りもしたくない」といった入居者・物件オーナーにとって有用な制度だ。知っておいて損はないだろう

2019年 03月08日 11時00分