明治時代に制定された民法が初めての抜本改正へ

民法制定から120年を経て初めての抜本改正だ。それによって賃貸借契約はどのように変わるのだろうか?民法制定から120年を経て初めての抜本改正だ。それによって賃貸借契約はどのように変わるのだろうか?

2015年3月31日に「民法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、同日中に通常国会へ提出された。民法は1896年(明治29年)に制定されているが、それから約120年を経て初めての抜本改正だ。今回の改正対象は「債権法」であり、2009年11月から5年3ケ月にわたって「法制審議会民法(債権関係)部会」による検討が重ねられてきた。

国民の基本的な契約ルールを示す民法(債権法)の「社会・経済の変化への対応」や「国民への分かりやすさ」が念頭におかれ、当初の改正対象は500項目以上にのぼっていたようだ。検討作業の途中段階では改正条文数が3,000を超えるとの観測もあったようだが、最終的には約200項目(条文の変更箇所約300)に絞られたようである。

これまでの現行民法では現代の取引にそぐわない点も多く、判例の積み重ねや法の「解釈」に拠らざるを得ない面も少なからずあった。そこで改正法では「確定した解釈」を条文に取り入れるなど、現実に沿って明文化、明確化した部分も多い。しかし、新しくなる民法がすべての取引において最適とは限らず、さまざまな面でこれから調整作業も必要になるだろう。

民法改正の影響は不動産だけでなく、さまざまな分野に及ぶ。それぞれの業界においてガイドラインの修正や新規作成、関連法の整備、国民への周知などが必要なため、改正法の施行日は公布の日から起算して3年を超えない範囲で定められることになっている。一般的な法律では公布から数ケ月後あるいは1年後の施行という例が多いことを考えれば、かなり長い準備期間になることが分かるだろう。改正民法の施行は、早くても2018年度中になるようだ。

不動産の取引に関連する改正点も多く、そのすべてを網羅することはできないが、主な改正点をピックアップし、賃貸借契約編と売買契約編の2回に分けてみていくことにしたい。今回はその賃貸借契約編をお届けする。

敷金のルールを明文化

これまで曖昧だった賃貸借契約の敷金が明文化されるこれまで曖昧だった賃貸借契約の敷金が明文化される

これまで民法やその他の法律の中に明確な規定がなく、あくまでも不動産の賃貸借契約における慣行とされてきた敷金だが、今回の民法改正でその定義が設けられることとなった。
「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」となっているが、要するに「家賃などの担保」という意味だ。

それと同時に、敷金の返還義務も明文化された。賃料の未払い分や、故意・過失による損傷の修繕費用などがない限り、賃貸借契約が終了して明渡す際に原則として敷金の全額が返還されることになる。通常の使用による損耗や経年劣化などに対する修繕費用の負担義務が賃借人にないことを示したものであり、これは国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(1998年)や、東京都による「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」(2004年)の内容に沿ったものでもある。

したがって、多くのケースでは実務上の取扱いが従来から変わることはないが、通常損耗分の修繕費用を賃借人負担とする特約は、消費者契約法に抵触する不当な内容でない限り有効とされるだろう。また、これまで敷金の慣習がなかった地域において民法の規定による影響がどう出てくるのか、近畿地方の一部などで見られる「敷引」方式をどうするのかなど、さらに検討が必要な面もあるようだ。

連帯保証人の規定で賃借人の負担が増える!?

民法の改正により個人の連帯保証人については「個人根保証契約」にかかる規定が適用されることとなり、保証をする対象の「極度額」をあらかじめ書面または電磁的記録で定めなければ無効とされる。要するに連帯保証する範囲を「◯百万円まで」などと定めるものだ。保証の上限を決めておくことにより、連帯保証人が際限なく負担を求められる事態を防ぐことができる。また、契約の途中で賃料が増額されたときでも、それだけでは増額分に対する保証責任が連帯保証人に及ばないことになる。

しかし、金額を示されることでかえって連帯保証人になることを躊躇する場面が増えかねないこと、あるいは家主側から個人の連帯保証人を敬遠して家賃保証会社の利用を必須とするケースが増えることも考えられる。結果的に賃貸借契約に伴う賃借人の費用負担が増加することも考えなければならないだろう。

賃借人による「修繕権」とは

民法には以前から賃貸人による「修繕義務」が規定されている。今回の改正ではこれに加えて、賃借人の故意過失による損傷については賃貸人に修繕義務がないこと、および賃借人が自ら修繕することのできる要件が明文化された。賃貸人が修繕の必要性を知ったにも関わらず相当の期間内に必要な修繕をしないとき、あるいは急迫の事情がある場合には、賃借人が自ら修繕できるとしたものである。

これは以前から判例などで認められていた行為であり、無過失の賃借人が負担した修繕費用は賃貸人に請求することができる。しかし、民法に明文化されることで今後は賃借人が「勝手に」修繕をするトラブルが増えることや、争いが複雑化することも懸念されている。修繕が本当に必要なケースなのかどうか、どの程度の修繕が必要なのかといった認識が共有されないまま、賃借人が修繕に踏み切るような事態である。それを防ぐために、賃貸借契約締結時に取決める事項が大幅に増え、かつ複雑になることもあるだろう。

一部滅失などで賃料は「当然減額」に

賃貸マンションやアパートなどでこれに該当するケースは少ないだろうが、借りた部屋の一部が滅失またはその他の事由で使うことができなくなったとき、その部分の割合に応じて賃料は「当然に減額される」という規定が民法に設けられる。ただし、その前提として「賃借人の責めに帰することができない事由」であること、つまり無過失であることが要件だ。

従来は一部滅失の場合に「賃料の減額を請求することができる」とされていたのであるが、改正により、その他の事由も含めて一部の使用収益ができなくなれば「請求をしなくても当然に賃料は減額される」ことになる。しかし、具体的にどの程度の減額が適正なのか、その判断をめぐって争いが増えることも考えられる。滅失の面積判定や、その他の事由の正当性で「見解の相違」が生じることもあるだろう。

また、残存する部分のみでは賃借した目的を達することができない場合には、賃借人が契約を解除することができる旨の規定も設けられている。

改正法では「確定した解釈」を条文に取り入れるなど、現実に沿って明文化、</br>明確化した部分も多い。しかし新しくなる民法がすべての取引において最適とは限らない。</br>様々な面でこれから調整作業も必要になるだろう。改正法では「確定した解釈」を条文に取り入れるなど、現実に沿って明文化、
明確化した部分も多い。しかし新しくなる民法がすべての取引において最適とは限らない。
様々な面でこれから調整作業も必要になるだろう。

2015年 05月16日 11時00分