PCからスマホへ、写真から動画へ。探し方が変わる

右から庄司氏、池本氏、伊東氏の3人の登壇者右から庄司氏、池本氏、伊東氏の3人の登壇者

賃貸業界の将来を考えるにあたり、ITの活用が今後どうなるかは欠かせないテーマ。そのため、この日行われた座談会には多くの人が詰めかけた。座談会の出席者はアットホーム「アットホーム」取締役業務推進部部長・庄司利浩氏、ネクスト「HOME'S」ネクスト執行役員HOME'S事業本部賃貸・流通営業部部長・伊東祐司氏、リクルート住まいカンパニー「SUUMO」編集長・池本洋一氏の3人(社名あいうえお順)。座談会は全国賃貸住宅新聞編集長・永井ゆかり氏の司会で進められた。冒頭で説明されたのはポータルサイトを利用するユーザーの動向である。

現時点で起こりつつある大きな変化は部屋探し時に利用するデバイスの、PCからスマホへという流れ。20代ではすでにわずかながらもスマホ利用で部屋探しをする人がPC利用を上回っている。30代以上では年代が上になるほどPC利用が多いのだが、今後はスマホ利用が増えてくるはず。当然、それに合わせた見やすさが必要とされるようになるはずだ。

実際に物件を見に行く前にできるだけ多くの情報を得ておきたいというニーズに応え、2011年以降、各社とも写真の点数を増やしてきているが、近年はそれに加えて動画を見たいという声も増加しているという。「単に室内を写したものだけでなく、眺望や収納の内部など、下見時に気になる点を見たいという声が上がっています」(池本氏)。部屋の雰囲気を伝えるだけでなく、部屋探しで気になる細部を目に見える形で伝えるような動画が望まれているというわけだ。現時点では動画を取り入れた物件情報はごく一部だが、今後、増えてくれば部屋探しの事前情報は圧倒的に増える。期待したいところである。

不動産会社に望むものは正確で信頼できる情報

会場は大入り満員。関心の高さが分かる会場は大入り満員。関心の高さが分かる

部屋探しの入り口はポータルサイトではあるものの、実際に物件を見に行く段階以降は不動産会社とのやりとりになる。どのような不動産会社が望まれているのだろうか。「不動産会社はプロですから、当然、プロとしてのアドバイス、接客が求められています。消費者は情報そのものは十分得てはいても、最終的に判断するためには信頼できる相手に相談したいと思っています」(伊東氏)。

不動産情報は事業者、消費者でその質、量が異なると言われ、非対称性があるという言葉で表されるが、賃貸に関してはさほど違いはないと池本氏。「購入となると情報量に大きな差が出てきますが、賃貸の場合、事業者も消費者も知っていることはほぼ同じ。ただ、事業者にはより正確で細かい、インターネット上では分からないような情報を求めたいところです」。

また、物件見学時に周辺を案内してほしいなどの要望もある。「見学時にメジャーやスリッパなどを用意してほしい、何度か、違う時間に見学したいなど、より突っ込んで物件を知ることができるような配慮が求められています」(庄司氏)。インターネット上で見ただけ、一度短時間見ただけでは満足できない人もいる。丁寧で納得行く見学をさせてくれる不動産会社で探したいものだ。

社会実験が始まったIT利用の重説。これからどうなる?

上に写っているのは重説を行う不動産会社、左下が重要事項説明書、右下が契約をする人という想定の画面上に写っているのは重説を行う不動産会社、左下が重要事項説明書、右下が契約をする人という想定の画面

不動産業界内で最新、最大の話題といえば8月31日から2年間に渡る社会実験が始まるIT利用の重要事項説明(以降重説)。ご存じのように重説は契約前に行われる、取引に関する重要な事項を説明する場であり、これまでは対面で、宅地建物取引士という有資格者が説明にあたる必要があった。ところが、現在行われている社会実験では一定のルールのもとにビデオ通話など非対面での重説も可としたもの。遠隔地で部屋探しをしている場合などには費用も時間も節約できるメリットがあるとされ、全国で246事業者が参加している。

実際にどんなやりとりになるのか。伊東氏が見せてくれたのは説明をする不動産会社担当者、説明を受ける消費者と説明している書面の3種類の画像が同時に表示された画面。遠隔地にいても同じ書面を挟んで会話ができ、かつ、書面上の大事な部分がクローズアップされるなどリアルではできないことも可能になるようである。これまで「難しい言葉の羅列、小さな文字の書面が面倒でろくに説明を聞かない人がいる」と指摘されることもあった重説が分かりやすくなり、理解が深められるなら面白いだろう。

また、重説に限らず、IT利用で消費者と不動産会社のやりとりを容易にする方途も各社準備を進めているとのこと。たとえばアットホームでは新築分譲に限ってだが、購入希望者と物件担当者がフェイスブックのメッセージ機能のような方法でやりとりをする仕組みを開発。SUUMOでは今年下半期から利用料不要で賃貸の仲介会社が消費者からの質問に答えられるシステムを提供するという。一方的に情報を見るだけでなく、やりとりしながら選べるようになっていくというわけだ。

IT関連で言えば伊東氏がプレゼンした近未来の物件見学が面白かった。これはスマホで開錠・施錠を行い、グーグルグラスで家具の配置をシミュレーションしながら、部屋を見るというもの。我が家にある家具を登録しておけば、空き部屋に家具を置いた状況を3Dで体感でき、住替えたら家具が入らなかったという事態が防げるし、そもそも、部屋探しが楽しくなる。ぜひ、実現してほしいものである。

ITは進んでも、決め手はやはり人間の力

さんざん、ITの話が出たものの、興味深く思ったのはこれからの賃貸業界の未来についての言葉は異なるものの、機械ではできないことがあり、そこは人間がやるしかないという意見が出たことである。たとえば、池本氏は「徒歩10分で探している人がいたとして、なぜ、その人が徒歩10分で探しているかは機械には判断できません。実際には徒歩10分にこだわっているのではなく、夜道への不安が徒歩10分というキーワードに表れているとしたら、徒歩10分を探すのではなく、夜道が安全な物件を探さなくてはいけない。そうした深いヒアリング、その人の身にたったリアルなリコメンドは人間がやるしかありません」と語った。入口はITでも、それ以降には必ず人が関与する。機械にできないことができる人かどうか、不動産会社を選ぶ時にはそうした観点が大事ということでもある。

また、庄司氏が今後の部屋探しの中で、もっと活用されてもいいメディアとして地図を挙げていた点にも共感した。地図自体はアナログな存在だが、それをIT利用で重ねる、複数の地図を一度に見るなどと拡張していけば、部屋探しに必要な情報を一度に、しかも直感的に得ることができる。現在も地図上に近隣にある物件、施設など表示するやり方は行われてはいるが、もっと様々な活用が模索されても良いと思う。

消費者の多様化する好みにITは応えられるか

子育てに良い環境などのように人によって何を良しとするかが分かれるような条件を機械的に検索することは難しい子育てに良い環境などのように人によって何を良しとするかが分かれるような条件を機械的に検索することは難しい

最後に司会の永井氏から質問が出た。消費者が求める物件は多様化しているが、ITはそれを満足させられるのか?というものである。具体的にはある限られたテイストの内装の部屋を探したい、子育てしやすい物件を探したいと思った時に、それが検索できるようになるかということである。

3社の答えは一部はできないこともないが、難しいというもの。インテリアに関しては「イメージ検索ができるようになるのではないかと思う」(伊東氏)、「インテリアでの検索は難しいが、これからリフォームをする部屋なら、壁紙の色、柄が提案できる物件がありますよという紹介の仕方はあり得る」(池本氏)という答えがあったが、子育てに関しては3社、「う~ん……」。

ひとつ、池本氏は「たとえば地域ごとの子育て事情に詳しいママたちと契約しておいて、必要な時にWEB上でその人たちに質問できる仕組みを作るなどはあり得る」としたが、これはWEBは利用するが、ITそのものによる解決ではない。残念ながら、人の好みや要望には機械では表出しにくいものもあるわけで、しかも、その部分は拡張しつつあるように思う。もっと自分の生活に、趣味にあった部屋を探したいという人は増えているのである。だとしたら、その部分をどのように満足させてくれるか。今の段階では難しいと言う答えになるにせよ、将来、それがどうなっていくか。不動産ポータルサイトの一層の進化が望まれる。

2015年 08月26日 11時12分