エスカルゴと呼ばれるパリの行政区

パリの行政区。横断しているのはセーヌ川。 Paris arr jms-num.gif – Wikipedia, the free encyclopediaよりパリの行政区。横断しているのはセーヌ川。 Paris arr jms-num.gif – Wikipedia, the free encyclopediaより

前回の<パリの街で暮らすには?現地で暮らす日本人に聞いてみた〜「花の都パリ」の賃貸事情①>では、パリの住宅事情や住まいの確保の仕方、パリ市民の景観保護の意識などをお伝えした。
今回は、商業物件の賃貸やパリの街の暮らしに関することについてもう少し掘り下げたい。①と同様に高木さん(仮名)・深田さんにも引き続き協力していただいた。

パリは20の行政区と東西の森からできている。行政区は中心から時計回りにぐるりと番号が振られており、別名「エスカルゴ」とも呼ばれる。有名なルーブル美術館は1区に、エッフェル塔は7区にある。8区にはシャンゼリゼ通りと凱旋門が、9区にはオペラ座があり、この辺りは特に観光客が多く訪れる。
1.2.4区は行政機関がある場所、3.4区にはマレ地区と呼ばれる先端のアートギャラリーや流行発信の店が並ぶ地区、11区はトレンドの街があり、13区にはチャイナタウンがある。セーヌ川の南側は比較的治安が良い住宅地だ。
ヨーロッパは偏西風の影響で西から東に風が吹く。19世紀の産業革命の際、お金持ちが工場の煙を吸わずに暮らすため、パリも他の都市同様、有産階級は西側・無産階級は東側という人口分布が進んだ。現在も西側の15.16.17区は高級住宅街であり、特に16区はその色が強い。
逆に10.18.19.20区は庶民の地区だ。現在は移民が多く、あまり治安が良くないとされる。基本的には北や北東に行くほど物騒なため、日本人が旅行する場合、この辺りの民泊物件の利用や一人歩きは控えた方が懸命だろう。
正確な割合は差別に当たるとして公表されていないが、パリは移民が多い。いわゆる人種の坩堝で、地区によって街は様々な顔を持つようだ。

パリに店を出す場合。店舗の賃貸借と商慣習

日本での人気店が海外進出することはそう珍しいことではなくなった。日本食ブームが冷めないパリでは、日本のレストラン開業は成功する確率も高く、ビジネスチャンスとしては魅力的なよう。またパリ出店によって日本でのステータスも上がる。昨年、筆者の暮らす街でもいくつかの店の「パリ出店」のニュースが飛び交った。ただし先に述べたように、地区によってターゲット層が大きく異なるため出店に関しての立地戦略は重要な要素となるだろう。

さて、パリに店を出す場合、物件の取得で日本とは異なる商慣習があるそうなので紹介したい。
まず、パリ市内の店舗は、小売店も飲食店も全て建物の地上階(日本での1階)部分にしか出店できない。1階(日本での2階)から上は、住居か事務所のみなのだそう。これだけ人が集まる都市で、空中階に店舗がないというのは意外だった。さらに各建物の店舗部分には営業可能な業種が決められており、例えば建物の管理組合の規定書に「地上階の店舗でレストランの営業は不可」と記載されていれば、その店舗でレストランの営業をすることはできない。

そしてこの国独特の商慣習とも言えるのが、fonds de commerce(フォンドコメルス:営業権)だ。家主との賃貸契約を結ぶことに加え、前の店のオーナーから「任意の業種を営業するための権利」を購入する必要がある。フランスでは商用物件は、家主が所有する店舗空間という「箱」と、店子が所有する有形・無形の営業財産という「中身」によって構成され、後者にも財産価値があると理解されているそう。厳密には、前の店子から営業権を購入すると、その中に家主との「箱」の賃貸借契約も含まれ、原則として家主の合意不要で新しい店子に承継される。しかし契約上対象となる物件の商業用途が規定されていて(飲食店、衣類販売、美容院など)、それ以外の事業は行えない。契約に違反すると家主から立ち退きや損害賠償請求をされる可能性があるからだ。
営業権の価格は、前の店子が提示し、新しい店子と合意して決まる。「飲食店の場合は年間売上の80〜120%」というのが相場だそう。店を手放す際は次の店子に転売する。

「パン屋さんのところはずっとパン屋さんだったり、店の歴史を引き継いでいく感じがパリっぽい。それに、人気のない場所でも店を繁盛させたらそこの価値が上がるって、店の頑張りが評価されてるみたいで何だかいいですよね。実際営業権の転売益で儲けている人もいます。」(高木さん)

パリでは店舗は地上階(日本の1階)部分にしか開業できない。上層階は、事務所か住居のみ(撮影:chikara)パリでは店舗は地上階(日本の1階)部分にしか開業できない。上層階は、事務所か住居のみ(撮影:chikara)

DIY大好き!古いものを大事に使い継なぐフランス人

パリの中心地にある市庁舎(写真上)と、BHVの建物(写真下)上の写真の左奥、市庁舎と目と鼻の先の位置にBHVがある(撮影:chikara)パリの中心地にある市庁舎(写真上)と、BHVの建物(写真下)上の写真の左奥、市庁舎と目と鼻の先の位置にBHVがある(撮影:chikara)

パリ市民にとって、Bricolage(ブリコラージュ:古いものを修理して使うこと)は生活の一部だそう。19世紀の建物が並ぶパリの街並みでは、アパルトマンの外観は100年前と同じように保たれている。一方内部は使いやすく実用的に、自分好みにリフォームして暮らす。
「日曜日になると、朝からどこそこでトンテンカンテンやってます。留学時代は、ルームメイトが道端に放置してあった椅子を拾ってきて、修理して普通に部屋で使ってたし、大家さんに言って壁に棚をつけたりもしてました。」(高木さん)
「備え付けのオーブンが古かったので撤去して、ゴミ箱用のスペースを作りました。手洗い場の横にタオルをかけるものがなかったので、タイルに穴を開けてホルダーも設置しました。オーブンの件は大家さんに一応報告しましたが、ホルダーなどの小さなことは特に言ってません。」(深田さん)
賃貸物件でも日本よりは自由に手を加えることができるようだ。持ち家の場合は、大掛かりな改装も自分たちでやる人がいる。

パリ市庁舎の目の前という中心地に、BHV(ベーアッシュベー)という店がある。DIY用品と生活雑貨に特化したデザイン性の高い品物が揃うデパートで、フランス版の東急ハンズと言ったところか。家具・家電から洋服・文具まで何でも揃い、中でもDIY関連は豊富で、国内や海外のマニア向け商品まであるそう。DIY用品のコーナーに、週末にはbricolageのための商品を探しに多くの人が集まるという。都心の一等地にホームセンターがあり、毎週末多くの人が木材や壁紙や家具の部品を求めて訪れる様子は、日本ではちょっと想像がつかない。

犬天国?ペットに寛容なパリの街

カフェのテラス席。当たり前のように誰かの犬がやってきておとなしく座り、懐いた。日本の飲食店はペット同伴NGがほとんど(撮影:chikara)カフェのテラス席。当たり前のように誰かの犬がやってきておとなしく座り、懐いた。日本の飲食店はペット同伴NGがほとんど(撮影:chikara)

パリでは「ペット可物件」という条件で家を探す必要がない。
1970年に制定された法律により、フランスでは賃貸借契約であっても、家主が借主にペットの飼育を禁止したり、ペットを飼っていることを理由に賃貸借契約を拒否することが禁止されている。つまり基本的に「ペット可物件」なのだ。それに日本のように、「犬はいいけど猫はダメ」ということもない。パリは一軒家が皆無に等しくほとんどが集合住宅だが、「共用部ではペットを抱っこしないといけない」ということもない。
ペットとの暮らしを望む人にとっては、なんと住みやすい環境だろう。
もちろん、近隣への最低限のマナーは必要だ。鳴き声による騒音や異臭などの被害があったり、住宅そのものに損害を与えるなど、明らかに迷惑をかけている場合は退去を求められることもある。
フランス人は全世帯の50%以上が何らかのペットを飼育しているというデータ(2008年調べ)があり、飼育数のランキングでは
1位 魚 370万匹(多数飼いするため)
2位 猫 107万匹
3位 犬 78万匹
と、近年は猫の人気も急上昇。特に多忙なビジネスパーソンが多いパリでは、散歩の必要がない猫派が増えているようだ。
ペットに寛容なパリの街。ただし、美しい街並みも目線を下げると道のいたるところに犬のフンが落ちているそうで、そこは個人的にはいただけない…。

お金とサービスと私たちの暮らしへのヒント

最後に、暮らしていくうえで絶対に必要なお金についてを少し紹介しよう。
パリでは、日常的にカードか小切手を使う。特にCarte Bleue(カルト・ブルー:キャッシュカードとデビットカードとクレジットカードが一緒になったようなもの。4桁の暗唱番号入力が必須。)は、パリ市民にとってなくてはならない存在で、カフェや地下鉄の券売機などでも利用する。
「基本的に現金をあまり持ち歩きません。日本の1万円札ほどの額のユーロ紙幣は、おつりがないからってスーパーで支払いを拒否されることもありますよ。」(高木さん)
スリもく多額の現金を持ち歩くのが危険なのだ。だいたい、財布に入れる現金は10〜20ユーロほどのよう。
給与も小切手で支払われるところが多い。小切手を換金するためには、フランスの銀行口座を作る必要があるが、銀行口座を作る時は、まるで融資窓口のように、個々に担当者がついて面談の上開設する。口座を維持するために毎月サービスに応じた手数料がかかる代わりに、ATMの手数料は曜日時間に関係なく無料だ。
ちなみに、ATMはなぜか建物の外にある。24時間いつでも利用できるが、お金を下ろしているうちに人に囲まれて怖い思いをすることもあるとか…。

フランス人の平均所得は日本人とそう変わらないが、パリの家賃は東京と比較しても1.5倍ほど高く、物価も高い。「でも、パンやチーズやワインは安くて美味しいし、美術館の無料公開や音大生のコンサートとか、お金をかけずに楽しめるものもたくさんありますよ。」(深田さん)
「春になって暖かくなったので、カフェではみんなこぞってテラス席を選んでます。平日でも夕方になると公園でピクニックをしてたり。気候や季節や日々の暮らしを楽しんでる感じが好きです。あと彼ら、バカンスに全力を注ぎます。」(高木さん)
フランス人の気性は激しく、喜怒哀楽の表現は大きく、そしてやや雑でいいかげんだと高木さんは愛着を持ってそう語る。しかしながら意外なほどにシビアな契約社会であり、労務や所得、税に関して国の監視の目が光っている。
思うに、人の善意に頼らない「雑でいいかげん」であることを前提とした社会の仕組みは、考えようによっては寛容な社会ではなかろうか。

サービスの質は日本の方が格段に高い。治安にも不安がある。
ではなぜ、世界中からこの街の魅力に惹かれて多くの人が訪れ、暮らすのか。人や街の魅力について、もっと知りたくなった。そこに垣間見る姿はもしかすると、私たちの暮らしのヒントになるのかもしれない。

パリ・プラージュの様子。毎年夏限定で、パリ市はセーヌ川沿いの一部の車道を封鎖して人工のビーチを作る。様々な催しや体験が無料でできるため、市民の支持を得て、この企画に年々訪問客も増えているそう(撮影:chikara)パリ・プラージュの様子。毎年夏限定で、パリ市はセーヌ川沿いの一部の車道を封鎖して人工のビーチを作る。様々な催しや体験が無料でできるため、市民の支持を得て、この企画に年々訪問客も増えているそう(撮影:chikara)

2017年 05月07日 11時00分