日本初「サ高住」で介護ロボットを導入した狙いとは?

「ロボットスーツHAL(ハル)福祉用」。人の脳から発信される微弱な信号を感知して行動をサポートする。つまり、動きではなく人の意思を読み取るロボットだ。©Prof.Sankai University of Tsukuba/CUBEROYNE Inc.「ロボットスーツHAL(ハル)福祉用」。人の脳から発信される微弱な信号を感知して行動をサポートする。つまり、動きではなく人の意思を読み取るロボットだ。©Prof.Sankai University of Tsukuba/CUBEROYNE Inc.

高齢者向けの住まいとして、需要が増加しているサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)。そうした「サ高住」にも新しいタイプが登場し、なんと介護ロボットを導入する施設があるという。

最近は、人工知能を用いたロボットが発表されたり、身近なところではお掃除ロボットが普及しているが、とうとう介護の分野にもロボットが登場するようになってきたのだ。

果たして、介護ロボットとはどのようなものなのか? また介護の分野でロボットを使うメリットとはどのようなものなのか? 日本で初めてサ高住として介護ロボットを導入した「リハビリふくや高津館」に伺い、導入の狙いとその活用状況を取材してきた。

リハビリに主眼を置いた新タイプ「サ高住」

居室は、基本エアコンが設置されているのみで、家具は自分でそろえる必要がある。希望があればレンタルサービスも紹介してもらえる。写真は1LDKタイプのお部屋。モデルルームのため家具が置かれている。この広さであれば2人入居も可能だ居室は、基本エアコンが設置されているのみで、家具は自分でそろえる必要がある。希望があればレンタルサービスも紹介してもらえる。写真は1LDKタイプのお部屋。モデルルームのため家具が置かれている。この広さであれば2人入居も可能だ

川崎にある「リハビリふくや高津館」は、その名の通り、リハビリに主眼を置いた珍しいタイプの「サ高住」だ。そもそも「サ高住」とは、高齢者の“終の棲家”として近年注目を浴びているが、ここはあくまでも自宅に戻るための中継地として位置付けられている。
通常中長期的な住まいとして位置づけられる「サ高住」を、なぜ自宅復帰を目指す中継地としたのか、日本アメニティライフ協会の添田哲三郎氏は次のように説明する。

「制度上の問題から医療機関での入院日数は近年ますます短くなっています。そのため、自宅での生活に不安を残しながらも退院をせざるを得ないという高齢者の方が多くいらっしゃいます。リハビリを行いながら自宅復帰を目指す施設としては、介護老人保健施設もありますが、首都圏では空が少なくなかなか希望通りの入居は難しくなっています。そこで、我々はリハビリに専念しながら自宅復帰を目指せる“サ高住”として、2014年の3月にこの“リハビリふくや高津館”をオープンさせたのです」

居室は全27戸。1人暮らしを想定した1ルームとして、Aタイプ(25.07m2)15室、Bタイプ(30.61m2)9室。そして2人入居も可能な1LDK Cタイプ(40.69m2)3室からなる。
かかる費用としては、入居時の敷金として210,000円。家賃は月々Aタイプで70,000円、Bタイプ82,000円、Cタイプで100,000円。そのほか共益費34,200円と生活サービス費(安否確認、生活相談サービス)25,800円、月々の支払いは130,000円からと押さえられた価格を実現している。自宅復帰を目指しているため、食事などの提供サービスはなく自炊も推奨されているが、同じ敷地内の配食サービスからお弁当を届けてもらうことも可能だ。

そして、中心となるのはリハビリに向けた支援だ。自宅復帰プログラムが個人に合わせて作られ、リハビリに専念できる環境が整えられている。目玉となるリハビリ室では「やらされているリハビリ」ではなく、「自分からやりたくなるリハビリ」を目指し、ロボットやゲーム性の高いリハビリ支援機器が導入されているのだ。

人の「意志」を感知して動作をアシスト

「HAL」の利用は、基本作業療法士の指導のもと行われる。高齢者のやる気をそがないリハビリが実現する。©Prof.Sankai University of Tsukuba/CUBEROYNE Inc.「HAL」の利用は、基本作業療法士の指導のもと行われる。高齢者のやる気をそがないリハビリが実現する。©Prof.Sankai University of Tsukuba/CUBEROYNE Inc.

では早速、リハビリルームのロボットや機器をみていこう。まず目にとまるのが「HAL(ハル)福祉用」だ。これは、スーツ型のロボットで、装着する人の「意志」を感知して、立ち座りや歩行動作をアシストする「動作支援ロボット」。

電動自転車のように人間の初動を感知してその動きをサポートするのかと思ったのだが、HALは本当に「意志」を感知する。人が動くときには脳から神経を通じて筋肉に微弱な“生体電位信号”が送られる。このとき皮膚表面にも信号が漏れてくるのだが、「HAL」はこの信号を感知して動きをサポートするというのだ。

装着時の姿は、まさに近未来を思わせる。例えば脳梗塞などで、麻痺などが残り歩行が困難な高齢者であっても、「HAL」を装着することで「立ち上がり」や「膝の曲げ伸ばし」などの意思を即座にスーツが感知し、サポ―トを行う。
こちらは、基本、作業療法士の指導のもとでリハビリが行われるが、入居者の反応は上々だという。

「リハビリというと、どうしてもノルマ的な意識が働いてしまい、なかなか自発的に行いにくいものです。もちろん身体的な苦痛や自由に動かないもどかしさもリハビリ離れを助長してします。しかし、こうしたロボットスーツなどを利用することで、自然に自立歩行の感覚を取り戻せるようになります」(添田氏)

楽しんでできるリハビリを目指して

リハビリナビゲーションシステム「デジタルミラー」。金魚すくいのゲームではかなり重心を移動させる必要がある。データはすべて蓄積されているため、過去のデータと比較しながらリハビリの進捗状況が“見える化”できるリハビリナビゲーションシステム「デジタルミラー」。金魚すくいのゲームではかなり重心を移動させる必要がある。データはすべて蓄積されているため、過去のデータと比較しながらリハビリの進捗状況が“見える化”できる

また、リハビリを行う上で大切なのが「楽しみながら」という点だ。ここでは、その“楽しさ”を創出するために、ゲーム感覚でリハビリを行える「デジタルミラー」「リハビリウム起立くん」といった機器も揃っている。


「デジタルミラー」は人の背丈ほどあるミラー画面の前に立ち、そこに映る自分の姿を見ながら「筋力アップ」や「バランス訓練」などが行える。
それも、機能的に行うのではなくゲーム性を重視している。例えばバランス訓練を目的にした「金魚すくい」ゲームでは、ミラーの前に立ち、左右の足の重心を動かすとミラーに映る「すくい網」が移動し、金魚をすくっていく。ゆっくり重心を動かさないと網が破れてしまうため、けっこう集中力が必要だ。
デジタルミラーでは「ウォーキング」なども行えるが、歩くごとにミラーの景色が変わり、途中にクイズなども出題され、楽しみながら歩き続けることができる。

「こうしたトレーニングで重視しているのが“見える化”です。機器を使ったトレーニングの内容は個人別にデータ保存がされ、数値での見える化によりリハビリ意欲を向上させています」(添田氏)

一方、「リハビリウム起立くん」では、リハビリ支援はもちろんのこと、コミュニケーションツールとしての役割も担っているという。こちらは「起立運動」「フラダンス」「太極拳」などを画面に登場するキャラクターに合わせて体を動かすものだが、自分たちの姿も画面に映るため、入居者が集まってそれぞれの人の動きを見ながら楽しく体を動かしているそうだ。

人の手による介護を行うための、ロボットによる介護

「リハビリウム起立くん」でのフラダンスのリハビリ。ダンスに合わせて流れる「瀬戸の花嫁」の曲が高齢者に大人気だとか。リハビリのプログラムとしてだけではなく、入居者同士のコミュニケーションツールとして役割も担うという「リハビリウム起立くん」でのフラダンスのリハビリ。ダンスに合わせて流れる「瀬戸の花嫁」の曲が高齢者に大人気だとか。リハビリのプログラムとしてだけではなく、入居者同士のコミュニケーションツールとして役割も担うという

「介護に人の手ではなくロボットや機器を導入するということには、様々な見解もあります。しかし、今後高齢化社会を迎える日本では、圧倒的に介護分野での人手不足が予想されています。私たちが考えるのは、介護全てをロボットや機器が行うことではありません。むしろ介護の大切な場面で人によるサポートが十分にできるように、それ以外の部分でのロボットや機器活用のノウハウを蓄積したいと考えています」(添田氏)

介護ロボットと聞くと、一瞬、人の手を介さない介護を連想してしまうが、ここでのロボットや機器の活用は、あくまでも自発的なリハビリを促すための施策。おもしろい取り組みだと思う。リハビリを目的とした「サ高住」という位置づけも、自宅での生活を願う高齢者にとって、選択肢がまた1つ広がる嬉しい試みではないだろうか。

※本文中で使用される『ロボットスーツHAL福祉用』、『HAL』、『HAL福祉用』は、CYBERDYNE株式会社の登録商標です。

2014年 08月05日 11時12分