建具の工夫により、夏の通風と冬の日射を確保

築43年の木造戸建て住宅をパッシブリフォーム。木の温もりを活かしつつ、建具も含め様々な工夫がなされている。上部の天井は一部スノコ状になっていて、暖気や冷気が1階、2階ともに全室にとどく工夫がされている築43年の木造戸建て住宅をパッシブリフォーム。木の温もりを活かしつつ、建具も含め様々な工夫がなされている。上部の天井は一部スノコ状になっていて、暖気や冷気が1階、2階ともに全室にとどく工夫がされている

一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構では、省エネルギー・環境負荷低減に優れた住宅を表彰する「サステナブル住宅賞」を2年に1度発表している。2015年2月、第6回の受賞作品が発表されたが、改修部門・国土交通大臣賞に輝いたのが、飯能にある築43年の木造戸建て住宅を改修したパッシブ住宅だった。

この住宅の基本設計を担ったのは、先日HOME’S PRESSにも登場いただいた断熱・気密化技術に精通し住宅技術ジャーナリストとして活躍する南雄三氏。オーナーが建具メーカーの役員だったこともあり、改修工事は、徹底的なパッシブリフォームを追求するとともに、パッシブ建具の開発にまで踏み込むプロジェクトへ進展したという。

「サステナブル住宅賞」の受賞理由も、しっかりとした断熱を施しながら、建具の工夫により夏の通風と冬の日射を確保した点が評価された。

先日受賞を記念し、受賞住宅の見学会が行われた。当日の模様をご紹介しよう。

暖房機器があるとは思えないほどの低温での生活

右から南雄三氏、次男の雅英さん、繁子さん、長男の禎宏さん右から南雄三氏、次男の雅英さん、繁子さん、長男の禎宏さん

築43年の木造戸建て住宅をパッシブ住宅として大規模改修したこのプロジェクトは「KIP(Kato Inovation Project)」と名付けられている。飯能で建具メーカーの役員を務める加藤禎宏さんが「自宅をリフォームしたい」と南氏に相談したことから始まったプロジェクトだからだ。

「2010年に加藤さんから相談を受けたのですが、断熱を考えたリフォームをするなら、 加藤木材工業の事業にも活かせる“パッシブ建具”を開発してはどうかと提案しました。改修は建設資材を再利用することでエコになります。そこでKIPもできるだけ“触らない”改修を心がけ、間取り、構造はそのままに、弱い部分・断熱不足の部分を補強しています。元々日本の和風住宅は軸組造を活かした大きな開口と、建具による開けたり閉めたり等パッシブデザインとして優れており、そこに断熱化するだけで世界に誇れるパッシブな家となるのです」(南氏)

南氏のその提案を聞いて、加藤さんはパッシブ建具の開発も見据えたリフォームを決断したという。
「リフォームを検討していた2011年3月には、東日本大震災が起こりました。南さんからご提案いただいたパッシブ建具の開発は、まさに社会的使命でもある。そう考えてこのプロジェクトを始めたのです」(加藤禎宏さん)

基本設計と建具開発の総監督を南氏が担当、実施設計・施工を杉坂建築設計事務所が担い、加藤木材工業の技術力も駆使しながら、大規模なパッシブリフォーム、そしてパッシブ建具の開発が進められたという。

まずは、改修前に室温調査を行ったそうだが、そこで発覚したのは到底暖房をしているとは思えないほどの、冬場の低温での生活だったという。加藤さんの家は、お母さんの繁子さん(78歳)、長男の禎宏さん(54歳)、次男の雅英さん(50歳)の3人暮らし。お母さんは寒さに強く、長男・次男のお二人は仕事から戻るのが遅く、こたつのある茶の間で食事をした後は自室で寝てしまう生活のため、十分に暖房を入れることのない生活だったという。

「小屋裏から覗いた壁の中には、部分的にグラスウールがある程度で断熱をしていないに等しい家でした。ですから室温調査をすると外気が9℃~マイナス2℃の際には、2階中央の部屋で13℃~6℃、1階和室は12℃~6℃といった具合。外気温に室内温度が追随してしまう。築70年の家をパッシブリフォームした私の自宅は外気温が下がっても、室内温度は一緒に下がることはありません」(南氏)

また、住まいの環境性能の格付けを行う「CASBEE健康チェックリスト」の評価結果をみると、健康ランキングの順位は全国100件中54位。「居間・リビングで暖冷房が効かず、夏は暑く、冬は寒い」。また「寝室でも暑くて眠れないことがあり、冬場は寒くて眠れないことはないものの、起きた際に鼻やのどが乾燥していることがよくある」そんな加藤家の状況がみてとれた。

この健康的とは言えない住環境が大規模リフォームによってどのように変化していったのだろうか。

徹底的に「陽と風」をよむつくり

「太陽が暖房器」が基本だが、暖房器具として1階多目的室に置かれたペレットストーブと、煙突の先にみえるエアコンがある。冷房は基本的に2階のエアコンを運転し、1階のエアコンは補助「太陽が暖房器」が基本だが、暖房器具として1階多目的室に置かれたペレットストーブと、煙突の先にみえるエアコンがある。冷房は基本的に2階のエアコンを運転し、1階のエアコンは補助

南氏は、間取りの構想を進めながら、常に「陽と風」を読むことを徹底して意識したという。
「冬の日差しを家の奥まで取り込み、夏は風の流れをつくる。これは生半可に意識していても意味はありません。それこそ太陽が暖房機であり、夏は風で寝るほどの意識を持たなければなりません。陽と風を取り込むための「開放的」な間取りと、冬には「閉鎖的」な仕切りと、矛盾する二つの要素を取り入れなければならないのです」(南氏)

そこで加藤家では次のように間取りが変更された。1階の玄関周りは土間縁側になっており、縁側の窓は既存のアルミサッシ・シングルガラスの窓の室内側に中空板の断熱内窓を、外には中空板の断熱雨戸で断熱性能を向上させた。留守にする場合でも断熱雨戸を閉めていけば、日射を十分に取り込むことができる。

縁側近くの窓から入る日差しは、冬場は居室の奥まで入り込むように設計され、まさに太陽の陽が暖房替わりとなる設計だ。

加藤家に備えられた暖冷房機器は、1階にペレットストーブが1台と廊下に設置された8畳用のエアコンが1台。そして2階には同じく10畳用のエアコンが1台と天井にファンがつく。

1階と2階の間は一部スノコ床になっており、ペレットストーブを使用した際の熱はこのスノコ床を通して2階を暖める仕組みだ。夏の暑いときには、1階の窓、2階のファンとファン横についた天窓を開けることで熱を逃す風の道ができる。かなり敷地面積の広い加藤家だが、驚く程暖冷房機器は使わなくても大丈夫だという。

「冬場は、昼間は1階でも日差しが縁側から随分奥まで入ってきます。2階はそれこそ陽当りがよいので暖房いらず。私一人の時はほとんど冬場も暖房など入れません。夏場も窓を開けておけば風が通るので、昼間の私一人で過ごす時間帯はほとんどエアコンをつけることもありません。湿気の多い日に息子たちが帰ってくる時間帯だけ、1階のエアコンをつけますが寝る前には消して充分寝られます」(加藤繁子さん)

続々考案されたパッシブ建具

加藤木材工業が開発した「ソラーウインドウ・お出かけ窓」の模型。窓の上下に開口部を設け、窓を閉めたままでも冬は暖かい空気を取り込み、夏は室内の冷やした空気を逃さない設計だ加藤木材工業が開発した「ソラーウインドウ・お出かけ窓」の模型。窓の上下に開口部を設け、窓を閉めたままでも冬は暖かい空気を取り込み、夏は室内の冷やした空気を逃さない設計だ

もちろんこうした冷暖房、通風の流れは、南氏が綿密に計算をした上で設計をしたものだ。起居時で窓を開け閉めしてコントロールできる時の通風経路と、就寝時や外出時の窓を開け閉めしてコントロールできない際の通風経路をそれぞれでシミュレーションを行っている。

また、今回のKIPでは、外出時の通風の工夫なども建具でカバーされている。2階の窓には加藤木材工業が開発した「ソラーウインドウ・お出かけ窓」が利用されているが、これが優れているのは、窓の上下に開口部を設け、雨水の浸入を避けながらも太陽光による外窓と内窓の間で起こる上昇気流を室内に取り込みことができる点だ。晴れていれば上部開口より室内温度から10℃ほど高い温風を取り込むことができる。

加藤家では、排気には生活上で発生する湿度を感知して排気量を自動調整する排気型デマンド換気システムが採用されている。2階の押入れにも強制排気のダクトを設けたため、この押し入れの引き戸にも工夫がある。扉を閉めたままでも排気が行えるよう、引手兼換気用のスリットが入れられている。

このほか1階の床には朝鮮貼りが採用され、必要な場合は物置としても使えるほか、加藤家では朝鮮貼りの床板をはずし、縁の下にもぐり込んでシロアリなどの問題がないか定期的に家主が調べているそうだ。

陽と風の恵みを受けて、地域に開いていく家

1階には建具で開けたり閉めたりしながら、水周りにも空気が回るようにドアにガラリをつけ空の欄間をつくり、2階は間仕切り壁上部を開放し、常に陽と風の恩恵を最大限に活用している加藤邸。現在では、以前とは比較にならないほど快適になったという。

「寒さには強いつもりでしたが、それでも冬場に朝台所に立つ寒さは厳しいものでした。建て替えの際に温度を意識するようになりましたが、昔の家の冬場の朝の台所は3~4℃。いまは最低でも12℃はあります。こんなに温度が変わることで家の中が快適になるとは思いませんでした」(加藤繁子さん)

加藤邸の1階には、南氏の提案により、リビングでも応接室でもない、多目的室がある。玄関から入ってすぐの土間の縁側に並んだ窓から陽が差し込む場所だ。ここでは、時に息子さんたち主催の勉強会の場所となったり、お母さんが習う太極拳の練習会場にもなるそうだ。

太陽や風の自然の恵みをパッシブ(受動的)に受け取りながら、地域には開いていく家。加藤邸の改修で生み出されたパッシブ建具は今後、全国規模での販売を目指しているという。家づくりのオーナーにとって選択肢がまた一つ広がる意味でも楽しみだ。

2015年 04月22日 11時07分