高齢者の住宅は「施設」から「住まい」へ

高齢者の住宅事情はどうなっていくのだろうか高齢者の住宅事情はどうなっていくのだろうか

当然のことであるが、高齢者は昔から存在する。しかし、以前は年老いた父母が息子夫婦や娘夫婦、孫たちと同居するのが一般的であり、高齢者対策といえば病気になったり経済的に生活が困難になったりしたときにどうするか、といったことに主眼が置かれていた。高齢者の「住まい」が論じられるようになったのは最近のことだ。

1963年に施行された「老人福祉法」によって、特別養護老人ホームや養護老人ホーム、軽費老人ホームの整備が進められた。だが、これらは自立した生活が困難になった高齢者を受け入れるための医療的な性格をもった「施設」であり「住まい」ではない。入所者の自由は制限され、極論すれば、家族が面倒をみることが難しくなった高齢者の「隔離制度」といえるだろう。

1986年に老人保健施設が制度化、さらに2000年には介護保険制度が導入されて、「介護付き有料老人ホーム」や「グループホーム」も造られるようになったが、基本的に「施設」としての性格からは脱していない。

2005年12月に「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」の制度が始まり、ようやく「住まい」としての整備を前提として考えられるようになった。自治体などが賃貸住宅の新築や改装費用などの支援をすることで、オーナーが高齢者の入居を拒まないようにするための仕組みが整えられたのだ。それとは別に、2007年7月には「住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」が施行されている。これは高齢者だけでなく、障がい者、外国人、災害被災者、母子世帯や父子世帯、DV被害者、犯罪被害者、ホームレス、被生活保護者など、住宅困窮者全般を対象にしたものだ。

そして、2011年10月に有料老人ホームと高専賃の性格を併せ持った「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」が始まった。サ高住の特徴などについては後ほど触れることにしよう。

高齢者向け「施設」や「住まい」の整備は追いつかない

国立社会保障・人口問題研究所による将来推計人口(2013年3月推計)では、2025年における75歳以上人口が約2,179万人で、全国のおよそ5人に1人が75歳以上の高齢者となる。さらに、2040年にはすべての都道府県で65歳以上人口が30%を超えるとされているのだ。

また、2010年から2040年の30年間で65歳以上の人口が1.4倍以上に増加するのは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、滋賀県、沖縄県であり、首都圏での高齢者対策は喫緊の課題だろう。75歳以上の人口は、埼玉県と神奈川県で倍増すると予測されている。

しかし、高齢者人口の増加よりもさらに深刻なのは、高齢者世帯のうち約7割が単独世帯または高齢夫婦だけの世帯ということだ。同居する家族が生活の支援や介護をしたり、看取ったりするといったことが望めない生活スタイルであり、何らかの受け皿が欠かせない。

ところが、急増する高齢者に対して「施設」や「住まい」の整備は追いつかないのが現状だろう。厚生労働省のまとめによれば、現在の施設整備率(65歳以上人口に対する「特別養護老人ホーム(特養:介護老人福祉施設)」「介護老人保健施設」「介護療養型医療施設」のいわゆる介護保険3施設の定員総数の割合)は、最も多い徳島県、福井県でようやく4%を超える水準にとどまっている。埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県などは軒並み3%を下回る水準だ。大都市圏では、これに「養護老人ホーム」「軽費老人ホーム」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」「認知症高齢者グループホーム」を加えても4%には届かない。

そのため、高齢者の9割以上(97%)は持ち家や一般の賃貸住宅などに居住し、要支援・要介護認定者でも施設などに入所できるのは17%にとどまる。要支援・要介護認定者のうち83%は、在宅でのケアを余儀なくされている状況だ。

定員数は需要に追いつかない(厚生労働省社会保障審議会資料より)定員数は需要に追いつかない(厚生労働省社会保障審議会資料より)

サービス付き高齢者向け住宅の特徴は?

特別養護老人ホームは比較的費用負担が少ないものの、入居待ちが約52万2,000人(2013年度)に上るとされている。また、民間の有料老人ホームは入居に多額の費用がかかるうえに毎月の費用も高い。そこで、今後の整備を期待されているのが「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」だ。

国土交通省と厚生労働省が所管する「高齢者住まい法」の改正により、2011年10月にサ高住の登録がスタートし、2013年2月には全国で登録数が10万戸を超えた。国は2020年までに全国で60万戸を整備する計画であり、1戸につき最大100万円の補助金や優遇税制により、介護大手だけでなく異業種からの参入も増えている。

サ高住は、室内をバリアフリー仕様とした高齢者向けの「賃貸住宅」であり、「安否確認」と「生活相談」が事業者に義務づけられている。そのため、おおむね9時から17時まで介護スタッフが常駐するものの、訪問介護やデイサービスなどは外部から提供され、高齢者は受けるサービスを自分で選ぶことができる。

しかし、老人ホームよりは安いとはいえ、食事付きの家賃が毎月20万円を超えるケースもある。立地によっても大きく異なるだろうが、老後の年金収入だけでは支払いが難しいことも考えなければならない。また、認知症や持病のある高齢者が入居できないケースや、いったん入居した後でも病状が重くなると退去を迫られる事例もあるようだ。

さらに、賃貸住宅としながらも「施設」との境界はあいまいで、建物やサービスの水準もバラツキが大きく、補助金を狙った貧困ビジネスの温床となる可能性も指摘されている。サ高住の整備と並行して、明確な基準づくりを進めていくことも欠かせないだろう。

高齢者の「住まい」に対する今後の課題

介護施設や老人ホームなど「施設」の整備や、サ高住による「住まい」の建設が進んでも、急増する高齢者に対応することは困難だ。多くの割合を占める「持ち家」層に対しては自宅の改修などへの支援も必要だろう。「賃貸」層には、老後の住まいを確保することと同時に、その後の継続性も問題になる。

そして、現在の制度で取り残されているのが低所得の高齢者だ。一定水準以下の低所得者に対しては生活保護なども考えられるが、そこまでいかない層に対しては支援が行き届かず、自治体やNPO団体などによる個別の活動や住宅セーフティネットの仕組みだけでは十分に対応することができない。そのため、居住支援給付金などによる「住宅手当制度」も検討されているようだ。

また、空き家となっている既存住宅ストックを有効活用することも欠かせない。1978年度に7.6%だった空き家率は2008年度に13.1%へ達し、空き家総数7,567,900戸のうち半数を超える4,126,800戸が賃貸用住宅とされている。しかし、それだけの住宅が余りながら、孤独死や室内事故、あるいは家賃滞納などのリスクを恐れて「高齢者には貸したくない」といったオーナーが依然として多いのが実情だろう。家賃債務保証などの公的な支援や、見守り、配食、声掛け、日常生活の支援など、地域に密着した活動と連携することで、高齢者が住宅を借りやすい環境づくりも考えなければならない。

さらに、建築基準、消防基準、バリアフリー基準など一定のスペックを有した住宅を整備することと同時に、自治体や不動産会社、住宅管理会社、支援団体などが連携した組織づくりも、高齢者の住まいにとっては大切な要素となる。単に住まいを提供するだけでなく、高齢者の積極的な社会参加や地域社会との繋がりを支援していくこともこれからの課題になるだろう。

高齢者同士の互助を前提とした集合住宅(マンション、アパート)や高齢者向けシェアハウスなども検討されているようだが、さまざまな施策が混在して分かりにくい状況も、しっかりと整理してほしいものだ。

2014年 04月02日 10時02分