法律には何も規定されていない賃貸借契約の諸費用

賃貸借契約では家賃だけでなく、その他の費用をしっかりと確認することが重要賃貸借契約では家賃だけでなく、その他の費用をしっかりと確認することが重要

アパートやマンションなどの住宅、あるいは店舗や事務所などを借りるときに、礼金や敷金、保証金などの支払いを求められる。さらに賃貸借契約期間が満了し、契約を更新する際には更新料が必要となる場合もあるだろう。

礼金は初めの契約時に貸主(大家)に支払うものだが、敷金や保証金は貸主に預けるものであり、契約終了時には借主へ返還されるべき性質の金銭だ。厳密にいえばやや意味合いは異なるが、住宅用途の場合に「敷金」、事業用途の場合に「保証金」と呼ぶ場合が多い。

しかし、これらは古くからの慣習によって授受されているものであり、法律には何も規定されていない。民法の中では「敷金の意味合い」について触れられているが、その金額割合などについて提示されているわけではなく、ましてや「敷金を預けなければならない」などといった定めはないのだ。

当然ながら、退去時における敷金の返還についても法律の定めはなく、しばしば紛争の種となってきた。原状回復費用に充てるためという理由で、敷金がまったく返還されないばかりか、不足費用を請求されるケースも少なからずあったようだ。国による指導や裁判による判例の積み重ねなどによって、現在ではだいぶ改善されてきているが、それでも賃貸借契約書に書かれた内容をしっかりと確認することは欠かせない。

礼金や敷金などの慣習は地方によっても大きく異なる

礼金や敷金の割合は物件によって違い、さらに近年は競争の激化などを背景として年々低下傾向にあるようだが、その慣習自体も地方によって大きく異なる。

東京では礼金が家賃の1〜2ケ月分、敷金も同じく1〜2ケ月分のケースが多い。これに対して札幌では礼金がない物件が多く、福岡も同じく礼金がない代わりに敷金が4〜5ケ月分というケースもあるようだ。

独特なのが大阪、兵庫、奈良、和歌山の一部など関西地方にみられる「敷引き」だ。契約時に「保証金」として家賃の5〜10ケ月分に相当する金銭を預かり、解約時には「敷引き」(解約引き)として、その50〜80%程度を償却する。解約までの居住年数によって償却率が変わる場合も多いようだが、初めに「返還しない金額」を定めることになるのだ。ただし、その場合は礼金の授受がないため、他の都市における礼金を含んだものとして考えることもできるだろう。また、大阪や京都などでは「家賃の○ケ月分」ではなく、30万円、40万円といった、きりのよい金額で表示されることも多い。

更新料については関東や関西の一部の地域などで一般的にみられるものの、全国にはその慣習がない地方も多い。国土交通省が2007年に実施した調査によれば、更新料を徴収する割合は神奈川県で90.1%、千葉県で82.9%、東京都で65.0%、埼玉県で61.6%、京都府で55.1%、愛知県で40.6%、沖縄県で40.4%などとなっている。その金額は2年ごとの更新時に新家賃の1ケ月分または半月分というケースが大半を占めるが、京都府では1年ごとに1ケ月分、あるいは2年ごとに2ケ月分という契約が多いほか、1年ごとに2ケ月分という契約もみられる。

敷金の返還をめぐる裁判の判例はどうなっている?

敷金の返還について争われた裁判は多く、その大半は「原状回復義務がどこまで及ぶのか」が争点となっている。原状回復義務とは、「解約の際に部屋を元どおりにして明け渡すこと」を契約によって定めたものだ。

個別の事情が絡むため判例は一律ではなく、借主に対する敷金全額の返還を命じたものから、一部の返還(原状回復費用の一部負担)を命じたものまでさまざまだが、基本的な流れとしては「通常の使用に基づく汚損・損耗や経年劣化について、借主の負担義務はない」としている。借主の使い方や日常の手入れに問題があったり、故意や過失で毀損したり、あるいは室内での喫煙やペット飼育などによって破損や過度な劣化があったときには、その修繕費用を借主が負担する(敷金から差引く)ことが認められる傾向にある。

その一方で、「契約自由の原則」によって「特約で定めた負担は有効」とする考え方も強い。契約時に明記された修繕負担項目などがあれば有効とされるケースが多いほか、通常損耗を含めた原状回復義務の特約が有効とされた判例もあるようだ。ただし、2001年4月に消費者契約法が施行され、入居者に過度な負担を課す特約は無効とする判断もされている。

2011年3月の最高裁判決では、「敷引きの特約は、不当に高額でないかぎり有効」とする判断が示された。損耗の有無や程度に関わらず、敷金(保証金)から一定金額を差引くという特約について、「紛争防止の観点から不合理とはいえず、借主の利益を一方的に害するものではない」というものだが、この事例では礼金の支払いがなかったことも影響しているだろう。

また、更新料の支払いをめぐる裁判では高裁による判断が分かれて注目されていたが、2011年7月の最高裁判決で「更新料が高額すぎなければ有効」とされた。更新料に「賃料の補充や前払い、契約継続の対価」などの合理性があると認めている。ただし、最高裁では違法とされなかったものの賃貸市場の飽和状態が続くなかで、更新料の値下げや廃止を検討する貸主が次第に増えつつある状況だ。

ガイドラインの有効な活用が望まれるものの、契約前の確認が最重要

賃貸借契約において、原状回復およびそれに伴う敷金の返還に関する紛争が絶えないことから、国土交通省は1998年に「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をとりまとめた(2004年および2011年に改訂)。さらに東京都では、2004年の賃貸住宅紛争防止条例施行にあわせて「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を定めている。

これらのガイドラインでは「原状回復とは、借りた当時の状態に戻すことではないこと」を明確にし、借主の費用負担が生じるのは「故意、過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧する場合」としている。経年劣化や通常の使用による損耗などの修繕費用は「賃料に含まれる」とされているのだ。

ただし、鍵の交換やハウスクリーニングなどの費用を借主負担とする特約は一般的に有効とされるほか、「特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること」「通常の原状回復義務を超えた修繕義務を負うことについて借主が認識していること」「借主が特約による義務負担の意思表示をしていること」を要件に、特別の負担を課す特約の有効性も認めている。

要するに当初の契約時に合意があったか否かが問われることになるのだが、多くの賃貸借契約では、貸主または仲介会社があらかじめ用意した書類にサインをするか、あるいは契約を断るかといった選択肢しかないだろう。双方が合資した内容を契約書にまとめるというよりは、提示された条件を認めるかどうかだ。なかなか借主が見つかりそうにない不人気物件なら、あれこれ交渉に応じてくれるケースもあるだろうが……。

しかし、最近ではガイドラインの周知も進み、その内容に沿った契約書が作成されるケースもかなり多くなっている。いずれにせよ、契約をする前の段階でしっかりと確認をして、不明な点を残したままでは契約をしないことが重要だ。

2014年 02月13日 11時00分