高騰する家賃に悩む子育て世帯の救世主となるか–中古戸建て住宅×アフォーダブル住宅

株式会社ヤモリ 三武彩奈氏株式会社ヤモリ 三武彩奈氏

東京都内の住宅の価格が高騰する今、子育て世帯などが手頃な家賃で安心して暮らせるよう、東京都と民間企業が共同で設立した国内初の官民連携による「東京都アフォーダブル住宅供給ファンド」に注目が集まっている。ファンドが設立されてから約半年が経った2026年5月29日、待望の入居募集が開始された。

【連載:アフォーダブル住宅①】東京都と民間の4つのコンソーシアムが「官民連携ファンド」でつくる、新時代の「アフォーダブル住宅」

東京都アフォーダブル住宅供給ファンドに関する連載第2回は、4つのコンソーシアムのうちの1つ、「Tokyo空き家再生賃貸アフォーダブル住宅ファンド投資事業有限責任組合(以下、Tokyo空き家再生ファンド)」にフォーカスする。
この有限責任組合は、“空き家”を改修して戸建て物件として提供することを掲げている、異色の取組みのファウンダーだ。今回は、事業運用を担う株式会社ヤモリ 三武彩奈氏に、Tokyo空き家再生ファンドの事業内容や事業の展望を尋ねた。

なぜヤモリが選ばれたのか?官民連携アフォーダブル住宅ファンド誕生の裏側にある「信頼と実績」

ヤモリホームページよりヤモリホームページより

全国規模で問題となっている、増加する空き家。都内でも有効活用されていない「中古戸建ての空き家」は総務省の令和5年住宅・土地統計調査から推計された数値では、約21万7,000件あるという試算が出ている。特に都内戸建て空き家の場合、「放置空き家」が多く、およそ8割が使い道のないまま放置されている状態ともいわれている。

2019年の創業以来、「不動産の民主化」という強い想いのもと、全国で「空き家再生賃貸ファンド」の運用や、2年間250件に及ぶ再生実績を持つ、ヤモリ。
自社で物件管理クラウドの運営やIoT見守りサービスなども展開し、テクノロジーとリアルな不動産運用を掛け合わせる強みを持つ企業だ。

東京都アフォーダブル住宅供給ファンドに参画した背景には、ヤモリのこれまでの先駆的な空き家再生の取組みに対し、東京都が数年前から関心を寄せ、情報交換を継続していたことが大きく関わっていたとのこと。
東京都が「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」の公募を実施した際にヤモリにも声がかかり、これまでの実績を背景に申請を提出し、運営事業者として選定された。

三菱UFJ信託銀行との共同応募で実現した「Tokyo空き家再生ファンド」の全体像

ヤモリプレスリリースよりヤモリプレスリリースより

Tokyo空き家再生ファンドは、ヤモリと三菱UFJ信託銀行が共同でファンドを担う。ヤモリの理念に共感した三菱UFJ信託銀行や民間企業が、東京都と同額以上の出資を行い、40億円以上の規模で組成されている。

事業の運用は「東京空き家アフォーダブル合同会社」(以下、合同会社)を設立し、ファンドが合同会社に出資する形で行われる。合同会社が中古住宅を購入し、リフォーム工事を行ったうえで、入居者と合同会社が賃貸借契約を結ぶ形だ。

ファンドにおいてヤモリは、営利関係のあるGP(General Partner/業務執行とファンド運営の中心を担う代表者)、AM(Asset Management/金融資産の運用代行)、PM(Property Management/不動産の所有者に代わって建物の運営や管理を行い、不動産の収益や資産価値を最大化する業務)の3つの業務を一気通貫で担っている。
具体的には、ファンドの全体運営、合同会社の資産管理、入居後の賃貸管理・営業を手掛ける。

Tokyo空き家再生ファンドでは、ファンド運用期間である10年間で約160戸の物件供給を見込んでいる。他ファンドが約60~70戸を構想しているのに対して膨大な戸数であることにも、空き家問題の課題の大きさと戸建てニーズがうかがえる。

三武氏「5月29日の第一報では9物件の募集を開始させました。子育て世帯へ長く心地よく住める手頃な住まいを届けることをゴールに、日々事業を進めています」

プロの目利きが光る「30〜50の厳しい選定基準」と平均500万円を投じる“子育て世帯特化型”のリフォーム

板橋区小茂根の物件。壁紙と照明を一新し、2面窓の採光豊かな室内がさらに明るく変貌している(画像提供:ヤモリ)板橋区小茂根の物件。壁紙と照明を一新し、2面窓の採光豊かな室内がさらに明るく変貌している(画像提供:ヤモリ)

合同会社が中古戸建物件を購入するにあたり、30~50項目に及ぶ厳しい選定指針を設けているという。
また、東京都からの指定で、子育て世帯を考慮して広さは45平米以上、間取り3DK以上であることも物件の条件となっている。

加えて、建物の傾きがないか床下まで現場調査し、物件のあるエリアがハザードマップの黄・赤エリアに属していないか、過去10年間に沈下履歴がないか、といった点にも目を光らせる。
そこにはヤモリが培ってきた経験則や知見から導き出された、“運用できる賃貸物件”にするためのノウハウが生きている。
たとえ築年数が古く、再建築不可などの居住用住宅として購入するために住宅ローンが通りにくい物件であっても、賃貸であれば改修によって活用できる余地があるからだ。

家族が集まるキッチン周りは、床板を張り直し、間取りはそのままながらもスッキリとした印象に(画像提供:ヤモリ)家族が集まるキッチン周りは、床板を張り直し、間取りはそのままながらもスッキリとした印象に(画像提供:ヤモリ)

「”賃貸なら十分に活かせる”ものを見極めて物件を購入したあとに、リフォーム工事が入ります。
リフォームには平均500万円前後のリフォーム費をかけ、“子育て世帯”にフィットする内装にも心がけています。その実、物件の取得よりもリフォームの工程が重要です」と三武氏は語った。

三武氏「従来の自社ファンドでは金額のロットが小さいのに比べ、東京都のファンドは規模が大きいことから、ファミリー層へ特化した手厚いリフォームが可能になっています。子どもの安全を想定し、室内の角を丸くする工夫やクッションの設置、大きなキッチンの導入やLDK化など、心地よく住める綺麗さを追求しています」

築年数が古いと気になる水回り。新しい広々とした洗面台や温水洗浄便座を採用して快適さにも配慮されている(画像提供:ヤモリ)築年数が古いと気になる水回り。新しい広々とした洗面台や温水洗浄便座を採用して快適さにも配慮されている(画像提供:ヤモリ)

ヤモリでは、アフォーダブル住宅の供給に向けて月に15〜20件というハイペースでリフォームを実施している。それを可能にしているのが、近隣の工務店10数社との連携だ。あらかじめ取り決めた金額でコンスタントに仕事を発注、余計なものを削ぎ落とす「引き算のリフォーム」に注力しているという。
提携する工務店とは、コミュニケーションコストを抑えつつ、「見通しのある安定した受注が欲しい」という工務店側のニーズともマッチさせている。まさにWin-Winな関係を構築している様子がうかがえる。

ただ、リフォームを手掛け始めた直後には不測の事態に見舞われることもあったそうだ。

三武氏「実際に事業を進めている中で、都内ならではの物件の狭さや、隣家と近接するがゆえに足場をかけられない工事環境、路肩に停められずコインパーキングを利用した際の駐車場代などの“見えないコスト”が出てきたのは予想外でした」

これまで手掛けてきた自社単独の物件とは一味違う難しさもあるとのことだが、大きな課題はなく都度解決して順調に提供に向けて進めていると前向きに語っていた。

「先着順」に込めた入居者への想いと、スピード供給を支える工務店との緊密な連携

ヤモリのサイトでは、エアドアへのリンクのほか、現在の募集状況も見られるヤモリのサイトでは、エアドアへのリンクのほか、現在の募集状況も見られる

募集第1弾では、品川区、目黒区、板橋区などの9戸を公開。うち即入居可は1件で、残りはリフォームが完成している状態で募集を開始した。
46.24〜99.55平米の物件となっており、賃料は9万5,000円〜19万8,000円/月。一般的なエリアの戸建て賃貸の家賃相場に比較して、65%〜80%程度の賃料となっている。
物件の公開直後から多くの反響が寄せられ、インタビューを行った募集開始からおよそ半月後時点で、早くも2件が契約に至っていた。

募集する物件の情報は、協業している不動産ポータルサイト「エアドア」や自社サイトで順次公開しているほか、不動産業者向け不動産BBサービスでも公開していることから、不動産会社各社に問い合わせることが可能だ。
入居資格は子育て世帯等と指定されており、募集開始から一定期間は都内在住者が優先される。入居申し込みは、他ファンドが抽選となっているのに対して、Tokyo空き家再生ファンドでは先着順で受け付けている点も特徴的な印象を受ける。

三武氏「戸建て賃貸の場合、一度入居すると平均7〜10年と長く住むデータがあります。そのため、抽選ではなく、立地や戸建て自体の良さをしっかりご自分の目で見ていただいて、納得した方に選んでもらいたいと思っています」

入居者は合同会社と定期借家契約を結ぶこととなり、契約期間は全物件一律ファンド終了2036年までとなっている。
子育て世代などのファミリー層を中心に、戸建て需要は根強い。しかし都内、特に都心部では、供給される数は圧倒的に集合住宅が多い。集合住宅で子育てをするうえで上がる、「生活音が響くのでは」という心配や、「子ども部屋を用意してあげたい」という希望にも、戸建てはひとつのソリューションとなる。都内に住む利便性を享受しつつ、賃料を抑えることができるのは、働く子育て世帯には大きな選択肢となりうるだろう。

160件の住み心地の良い家を。「空き家問題解決」と「子育て支援」を両立する新ビジネスモデルの確立へ

「空き家をなくしたい」と語る三武氏。築年数もさまざまな空き家を快適な仕様に変える過程も楽しんでいるようだ「空き家をなくしたい」と語る三武氏。築年数もさまざまな空き家を快適な仕様に変える過程も楽しんでいるようだ

Tokyo空き家再生ファンドが掲げる目標供給戸数の達成に向け、160戸の取得は1年間で完了を予定している。そのうち、現在40戸前後の物件を確保。順次リフォーム作業に着手しており、順調に提供に向けて進めているそうだ。

今後の展開に関して、毎月10〜15件のペースでリフォーム済みの良質な物件を市場に出す予定で、提携する「エアドア」などを通じ、住居費に悩むエンドユーザーへ直接魅力を届けていくとのことだ。

三武氏「ファンド期間終了後の展開は未定ですが、まずはファンド運用期間内に160戸の住み心地の良い物件を提供しきることを第一に考えています。このファンドを通じて、都市部における子育て世帯の住環境向上と、空き家問題解決の新しいビジネスモデルを確立させていきたいですね」

増える都市型空き家をどう生かすか。アフォーダブル住宅ファンドを通じて、これまでにない解決方法が見つかるかもしれない。実証実験ともいえるこの取組みの展開にさらに注目したい。

今回お話を伺った方

今回お話を伺った方

三武 彩奈(みたけ・あやな)
建築学科卒業後、株式会社乃村工藝社に入社し多様なプロジェクトに従事。大型案件の現場経験が多い。ヤモリの生徒としてアパートを取得。一級施工管理技士の資格を持つ。株式会社ヤモリ入社後、購入部長を務める。

■株式会社ヤモリ
https://www.yamori.co.jp/

■官民連携アフォーダブル住宅供給ファンドヤモリ供給物件一覧
https://yamori.notion.site/36b153141b318065876ddd4ee25d6828