何と読むの? 名前に込めた5つのR

住宅街の中でひときわ目を引く看板が、「R(アーーーーール)」の目印だ住宅街の中でひときわ目を引く看板が、「R(アーーーーール)」の目印だ

西武池袋線の石神井公園駅からバスで数分。静かな住宅地のマンションに「R(アーーーーール)」がある。築30年を超えるマンションは全戸のおよそ3分の1が空室になっていて、そのうちのいくつかを、シェアキッチンやコミュニティスペースとして使う「R-Space」、シェアオフィスの「R-Office」、家具つきマンスリー住宅の「R-Home」として活用している。運営・管理にあたっているのは合同会社シェアリアル。シェアハウスの企画やコンサルティングなどを行っている会社だ。

代表社員の谷口裕紀氏によると、何と読むのか迷ってしまう「R(アーーーーール)」にある5つの長音符号は、リサイクル、リデュース、リユース、リフューズ、リペアのRを表わし、「サステナブルな暮らしを考える場であり、マンションや地域の住民に開いた場にする」とのコンセプトを反映している。ちなみに、名前の読み方について谷口氏は、「僕たちはごくふつうにアールと呼んでいます」とのことだ。

このコンセプトは、マンションの空室活用について、不動産管理会社から相談を受けたシェアリアルと、ノウ株式会社代表取締役の深津康幸氏が活用方法を検討する中で生まれたもの。深津氏は、IoTを使って海ごみを削減するビジネスに参加したり、プラスチック包装を行わない脱プラスチックの野菜直販を実験したりと、社会的な課題をクリエイティブに解決することを理念に掲げて活動している。

空室解消の先にあるマンションの付加価値を考えた

上)シェアキッチンを備えたR-Spaceでは、地域住民がふらりと立ち寄る光景が見られた<br />下)シェアオフィスであるR-Officeは、近隣に住むリモートワーカーからの需要も見込む。住宅地内のシェアオフィスは貴重な存在だ上)シェアキッチンを備えたR-Spaceでは、地域住民がふらりと立ち寄る光景が見られた
下)シェアオフィスであるR-Officeは、近隣に住むリモートワーカーからの需要も見込む。住宅地内のシェアオフィスは貴重な存在だ

谷口氏はもともとシェアハウス事業を展開していたこともあり、当初受けた相談は、空室をシェアハウスとして活用できないかというものだった。しかし、短時間とはいえ最寄り駅からバスに乗らなければならないのは、シェアハウスのロケーションとしてはマイナス。ニーズにはやはり疑問符がついてしまう。また、シェアハウスにするだけでは、マンションの付加価値を高めることにはつながらず、空室の発生という課題の根本的な解決にはならないと判断。代わって考えたのが、「もともと環境に関心の高いエリアなので、サステナブルや環境、リサイクルなどについて考えたり、実践できたりする場にしたら、地域にとって意味があるし、関連するイベントやワークショップなどでの利用も見込めます」(谷口氏)ということだった。

さらに、マンションおよび周辺にはカフェや飲食店などが少ないこともあり、「気軽に集まることができる場所は、地域住民の潜在的なニーズが大きいと考えたわけです」と、谷口氏はコンセプトの背景を説明している。相談があった翌月の2020年4月に、不動産管理会社にコンセプトを提案。了解を得て8月末から改修工事に取りかかり、11月に「R(アーーーーール)」は誕生を迎えた。

床材などの廃材を徹底的に再利用

R-Spaceに設置されたテーブルの天板は、リノベーションで不要になったドアだ。脚ももちろん廃材であるR-Spaceに設置されたテーブルの天板は、リノベーションで不要になったドアだ。脚ももちろん廃材である

マンション1階の3DKの空室を利用した「R-Space」は、表の通りからもともとバルコニーや専用庭だったスペースに設けられたウッドデッキを経由して入る構造になっている。マンションの住人は、反対側にある元の玄関から入ることもでき、気軽に訪れられる。
天井や床を取り払った空間は土間のようで、そこにシェアキッチンや、和室の一部を使った畳敷きの「小上がり」があり、大きなテーブルなどが置かれている。テーブルの天板は、リビングルームにあった引き戸を再利用したもので、窓枠やテーブルの脚なども、取り払った床材などを加工したものだ。一見廃材と分からないが、言われてみると確かに木組みの名残などがあり「本当だ!」となる。
同じく空室になっていた2階の3DKを使っている「R-Office」や「R-Home」でも、廃材となった床材が作業テーブルや食卓などに転用されている。設計を依頼した建築家の山根俊輔氏は「引き算のデザイン」と言い、新たに何かを加えるのではなく、天井や床を撤去して、コンセプトを具体化していった。

「どうしてもリサイクルできずに、産業廃棄物として処分したのは、壁に使っていた石膏ボードだけ。新たに購入したのはシェアオフィスで使う椅子ぐらいです」と話すのは、シェアリアルCOOの篠崎宏介氏。廃棄物の処分にかかった費用もおよそ5万円で、通常の10分の1程度だった。もっとも廃材の再利用は手間がかかり、工事にあたった大工には、「新しく買った方が安いし、工事の時間も短くてすむのに」とボヤかれたそうだ。しかし、谷口氏たちはあくまで廃材の再利用にこだわり、自ら家具づくりなども行った。

地域住民にも好評。感じた手応えとは

現在、「R-Space」では、篠崎氏が週に2日のペースで、シェアキッチンを使ってカフェを開き、週に2日は会員がカレー店や喫茶店を営業している。オープンから2カ月あまりだが、「リピーターもできました」と話す谷口氏だ。深津氏は「これが呼び水になって、飲食店をやりたい人や、イベントなどの場所を探している人が現われることを期待しています」と話している。「R-Office」には4件の契約が入り、「R-Home」にも入居予定者がいる。シェアオフィスやコワーキングスペースの需要は、アフターコロナでも堅調ではないかと谷口氏たちは判断している。

地域住民からの反応も上々だ。
「面白いものができましたね」と好意的なものが多く、谷口氏たちは利用をもっと伸ばせるポテンシャルがあると手応えを感じている。今後は、暮らしの中で環境を考えるトークイベントなどを定期的に開催し、地域住民の関心に応えていく予定だ。そして、目指すのはリサイクルを超えるアップサイクル。谷口氏は「再生するだけではなく、付加価値のあるよりよいものにつくりかえるアップサイクルに取り組みたいですね」と、マンションの空室活用の先を見ている。

前列左より時計回りに、合同会社シェアリアル谷口裕紀氏、ノウ株式会社深津康幸氏、合同会社シェアリアル篠﨑宏介氏前列左より時計回りに、合同会社シェアリアル谷口裕紀氏、ノウ株式会社深津康幸氏、合同会社シェアリアル篠﨑宏介氏

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