福岡大学で「DIYリノベーションで起こす賃貸革命!」シンポジウムが開催

右:福岡大学工学部建築学科助教の西野雄一郎先生。DIY型賃貸についての研究者であり実践者。左:福岡のDIY型賃貸を牽引する吉浦隆紀さん。今回は、自身の管理する大学近くのマンション(ジュネスハイム)の1室を、西野ゼミの研究題材として提供した右:福岡大学工学部建築学科助教の西野雄一郎先生。DIY型賃貸についての研究者であり実践者。左:福岡のDIY型賃貸を牽引する吉浦隆紀さん。今回は、自身の管理する大学近くのマンション(ジュネスハイム)の1室を、西野ゼミの研究題材として提供した

2018年2月、福岡大学で「DIYリノベーションで起こす賃貸革命!」と銘打ったシンポジウムが開催された。学生向け賃貸マンションの空き部屋を、建築学科の学生らがDIYでリノベーションし、地域の空室対策に乗り出そうというプロジェクトの意見交換会である。大学周辺に限らず県内外から不動産会社や大家さんが参加し、学生も含めて総勢50名ほどの集まりとなった。

対象となった物件は、大学から徒歩10分・全18戸・RC造・オートロック付き女子学生専用マンションの1室(30m2)。築年数は27年。まだ大きく刷新するほどではないが、設備など、室内には古さも見受けられる。この物件を管理しているのは、福岡の”DIY型賃貸”を牽引する吉浦隆紀オーナー(参照:<吉浦ビル><上長尾テラス>)だ。また、今回のDIY改装プランの設計・施工を実際に行ったのは福岡大学工学部建築学科の西野ゼミの学生たちである。

シンポジウムとして、取り組み報告だけでなく改装プランもオープンにしたのは、周辺の同じような悩みを抱える不動産会社や大家さんにもぜひ真似してほしいからだそう。参加者からのアドバイスを受け、プランに肉付けしていった。その後実際に学生たちの手で内装工事が行われた。

今回は、プロジェクトを主催する吉浦さんと西野雄一郎助教に話を伺い、実際にその部屋を見せてもらった。大学周辺の学生向け物件が抱える問題と、学生や地域の連携によってできること、その留意点について以下で紹介したい。

学生向け賃貸マンション経営の厳しさ

大学生向けの賃貸物件を借りる人の多くは、入学時に入居して、そのまま卒業まで住むケースが多い。そのため同時期に部屋が空き、同時期に次の人が入居する。入退去の間の準備期間は約1週間と短く、清掃や簡単なリフォームで手一杯。設備の大きな刷新やリノベーション等を施して物件の価値を上げるのは難しいそう。また、その時期を逃すと1年間空いてしまうのだという。

さらに、18~19歳の新入生が引越し先を決める場合、未成年のため保護者が物件を選ぶことがほとんど。この時、内見できずに決めなければならないこともある。大事な子どもの住まいを選ぶ親心としては、少しでもキレイで快適な家を選んであげたいのだろう。また、相場がわからないためか、多少割高でも新築・築浅物件・設備の良い物件から先に決まり、築年数が古くなればなるほど決まらない。

交通利便性の変化にも大きな影響を受ける。福岡大学は、学生数2万人を誇る西日本有数のマンモス大学で、かつてはそのうちの6割(約12,000人)が大学周辺で一人暮らしをしていた。しかし2005年に地下鉄七隈線が開通し、以降一人暮らしをする学生は半数弱(9,500人ほど)になったそう。単純に見れば、大学周辺の物件に約2,500戸の空室が出たことになる。

「それでも、新築が建たなければ維持できるかもしれませんが、福岡市内はこのところの人口増加を受けてどんどん新しいマンションが建っています。中心部でもマンションは供給過剰になっていて、福大周辺も短期間で景色が変わっている。古い物件は家賃を下げるほかなく、弱体化するばかりです。解体して宅地として分譲できれば他への転用もできるでしょうが、それが難しい場合も。また、学生専用から社会人まで入居条件を広げたとしても、大学のある場所は概ね辺鄙な場所なので、社会人からは選ばれないことも多いです。いずれにしても、今ある物件を極力弱体化させずに、使い倒す方法を模索する必要があります。」(吉浦さん)

期間集中型の入退去やその後の長期空室リスクなど、学生向け賃貸物件の経営は通常の賃貸経営ともまた違う難しさがあるようだ。

写真左:解体時の様子。既存のキッチンと窓側の収納を取り払った。右上がBefore・右下がAfterの様子写真左:解体時の様子。既存のキッチンと窓側の収納を取り払った。右上がBefore・右下がAfterの様子

経年マンション×DIY×大学生

吉浦さんは、これまでの取り組みから、「築年数のある物件」×「入居者によるDIY」はうまくハマるという確信があった。管理する築27年の物件ジュネスハイムも、満室稼働はしていたものの、このままでは家賃値下げのループに入り込んでいくことは容易に想像できた。そろそろ何らかの形でバリューアップしたいと考えていた。
そこへ、2017年に福岡大学に赴任してきた西野先生から吉浦さんへアプローチがある。西野先生は以前からDIY賃貸についての研究を進めており、また、学生にものづくりの機会を提供したいとの想いもあった。

「大学では、設計や構造など座学では学びますが、ものづくりをする機会はほとんどありません。実際につくって、建築やものづくりの楽しさをもっと実感してもらえればと考えています。」(西野さん)

秋頃、たまたま1部屋早期退去があることがわかったため、吉浦さんはその部屋を西野ゼミの学生たちに提供することにした。
入居者の対象は在校生。スタイリッシュなデザインのものを考えてもらう。各々の提案をもとに議論を重ね、最終的に採用された案は、壁一面に沿わせた長いテーブルと、下部収納のあるベッドスペースがポイント。2つあった収納のうちの1つ、窓側のクローゼットを取り払い、デスクスペースに。そのまま壁に沿って天板を伸ばすことで、部屋を広く見せつつ、棚などの造作物をすっきり1列に纏める。その他、鮮やかな青に塗られた壁面とおしゃれなタイル壁のキッチンもこの部屋に暮らす人の心を踊らせるに違いない。元のつくりと同じ部屋も見せてもらったが、自分たちの手だけでこんなにもイメージを変えることができるのかと驚いた。同世代の学生が手がけたとあれば、同じように部屋をいじってみたい学生の参考にもなるだろう。
また、学生たちは各自DIYの様子やジュネスハイムについての情報発信も担ってくれているそう。彼らの企画で在校生向けの内覧会も行った。

「リーシングまでトータルで関われるのはいいですね。今の時代、建築を学ぶとは、構造などの工学的なものやデザインがどうこうだけでなく、経営的に建物をどう運営していくかということまで考えることだと思います。建てて終わり、つくって終わりにならないためにも、こういう学びの機会はありがたいです。」(西野さん)

DIYリノベが完成。壁の塗装やキッチン・ベッド・デスク周りの製作も全て学生たちが手がけたもの。各々授業やアルバイトの合間に協力し、3週間弱で作り上げた。また、吉浦さんは完成したこの部屋を一般の不動産情報には載せず、対象を在校生に絞って、PRも学生の自主性に任せているそうDIYリノベが完成。壁の塗装やキッチン・ベッド・デスク周りの製作も全て学生たちが手がけたもの。各々授業やアルバイトの合間に協力し、3週間弱で作り上げた。また、吉浦さんは完成したこの部屋を一般の不動産情報には載せず、対象を在校生に絞って、PRも学生の自主性に任せているそう

リスクを取って、それ以上の価値を

ジュネスハイムの1室の改装工事にかかった期間は3週間弱。プロに頼めば1週間ほどで終わる工事内容だそう。学生や入居者とともに行うDIYのリスクをあえて挙げるならば、時間がかかることと、キッチリとしたプロの手仕事にはならないことだ(誂えが数ミリずれていたり、少し隙間が空いてしまう部分があったりすることはある)。今後の入居検討者がそれらの微妙なズレを味と取るか、嫌うかはわからない。しかし「その程度のリスクは取っても、それ以上の価値がある。」と吉浦さんは言い切る。

まず、今回工事にかかった材料費等約30万円は吉浦さんが負担した。けれども通常の美装に20万円・キッチン交換に10万円ほどかかることを考えると、入退去時の簡単なリフォーム程度の金額で居室内のバリューアップに成功したとも言える。学生たちの発信により、同じ福大の学生にDIYしてもいい賃貸物件があるということ、実際にDIYリノベを施した前後のイメージも伝えることができ、ブランディングにも寄与している。5月6月で入居者が決まれば、1年間の空室を回避できることになる。物件オーナーとしては「他人に部屋を好き勝手いじられること」を好ましく思わない人がまだまだ多数だろう。けれどもこの事例では「入居者や地域の若い人に部屋をいじってもらうことで、むしろいいこともある」と提唱する。
ただし、この「DIY型賃貸」を実施するにあたっては、大家さんが率先して動くか、或いは大家さんとの間に入りリスクを軽減できる人物の存在が必要不可欠だという。

「コスト、デザイン、リーシングをトータルで担える人が必要です。今回その役割をしてくれたのは吉浦さん。設計などは私もできますが、既存不動産は蓋を開けてみて初めてわかることもたくさん。そんな時、現場で瞬時に把握しつつ責任を持って指示やアドバイスができる人の存在は不可欠だと感じました。」(西野さん)

ちなみに、吉浦さんが有限会社吉浦ビルとは別に運営する「株式会社樋井川村」はそういったところをカバーするために作った会社。設計・デザイン・施工・不動産のノウハウを集結し、他のオーナーへのDIY型賃貸のコンサルも対応しているという。

「不動産はある意味地域と運命共同体です。若い世代の感覚や価値観を空き家の活用に活かし、地域の魅力を再発掘したい。深く関わることで、福大エリアを第2の故郷のように思ってもらえたら。」(吉浦さん)

人は自ら率先して関わったことには自然と愛着が湧く。DIYリノベーションのもつポテンシャルは、まだまだ未知数だが確実に拡がっているようだ。

DIYの様子。インパクトや丸鋸を使いこなしたとしても、入居者も学生も、物件については素人だ。現場で「これでいいよ」「じゃあこうしようか」と言ってくれる存在は大きいDIYの様子。インパクトや丸鋸を使いこなしたとしても、入居者も学生も、物件については素人だ。現場で「これでいいよ」「じゃあこうしようか」と言ってくれる存在は大きい

2018年 06月04日 11時05分