減り続ける海女さんを救え! 見習い海女が活動中!

海女の文化遺産登録、漁業観光業がタッグを組んだ取り組みについては以前の記事でふれたが、引き続き鳥羽における地域活性の取り組みをお伝えしたいと思う。

海女振興協議会(※)では、海女漁の振興・海女文化の継承保存活動を行いながら、漁業面、文化面、観光面においてさらに振興し、地域活性化につなげていくための取り組みを行っている。そのなかで、減り続ける海女の後継者を育てようと、三重県鳥羽市が都市住民を対象に海女の見習いを募集していた。市から「地域おこし協力隊」として報償費などが支給されるこの見習いに、大阪や愛知など5都府県から6人が応募。受け入れ先の同市石鏡(いじか)町の住民らが面接し、そして、東京都出身の上田桃子さんと大野愛子さんの二人が見習い海女に決定した。
昨年8月から鳥羽市に移住し、先輩海女について、見習い漁がスタートしているという。

※2014年6月に鳥羽市と志摩市、両市海女、三重県、漁協、観光商工団体に学識経験者等により結成された。

「地域おこし協力隊」として見習い海女となった大野愛子さん(左)と上田桃子さん(右)「地域おこし協力隊」として見習い海女となった大野愛子さん(左)と上田桃子さん(右)

華麗なる転身!! 看護師から海女に

毎朝7時には海女小屋に行き、先輩海女さんについて海に潜る。大きな黒アワビを採ってご満悦! 「大きな獲物が採れたときは最高の気分ですよ」と上田さん毎朝7時には海女小屋に行き、先輩海女さんについて海に潜る。大きな黒アワビを採ってご満悦! 「大きな獲物が採れたときは最高の気分ですよ」と上田さん

「海が大好きで、10代の頃から海女になりたかった」という上田さん。東京では看護師として働いていたが、鳥羽市の海女募集を知り応募したそう。「美しく潜る海女になりたくさん獲物をとりたい」という意気込み通り、石鏡町の海に潜り、海女として活躍をしている。
「今の時期はアワビの最盛期。道具の使い方や傷をつけずにアワビを採る方法など、自分なりに研究したり先輩に聞いて毎日楽しく潜っています」と上田さん。

全国には上田さんたちのように海女になりたいという女性も少なくないと思う。海女の数が減っているならば、今回のように希望者をもっとたくさん募集すればいいのでは?と考えてしまうが、そんな簡単な話ではない。

海女になるには漁業権が必要なのだ。その漁業権を得るには、地元の漁業組合に入り組合費を納めることになるが、組合というのは地元の漁師の集まり故、急に他の地域からやってきて組合費だけ払ったとしても受け入れてもらえないのだ。
例えば、高価なアワビのシーズンだけ海女をしに来るとか、当番制の海女小屋の管理や地元の行事には参加せず、漁の時だけ来て帰っていく…。これでは地元の人の感情としては複雑だろう。海女の頭数だけ増やそうとすれば、そういった軋轢を生じさせることになりかねない。
地域の人と暮らし、地元に根を張り、喜びも苦労も分かち合ってこそ“海女”なのだ。

海女とは“生き方”そのもの。地元女性らの参入にも期待

約50秒の勝負!! ウェットスーツを着用し、息を止めて水深7~8mほどの海でアワビやサザエを採る。中には30mまで潜る海女もいるのだとか(写真提供:鳥羽市)約50秒の勝負!! ウェットスーツを着用し、息を止めて水深7~8mほどの海でアワビやサザエを採る。中には30mまで潜る海女もいるのだとか(写真提供:鳥羽市)

今回の2人の場合は、市が推し進める移住の制度を利用し、「地域おこし協力隊」という特例で海女の資格を得たわけだが、地域に溶け込んでいくためには、これからの貢献度にかかっているといえるかもしれない。
鳥羽市役所企画財政課 移住・定住係の重見昌利さんは、
「年々人口が減少している鳥羽市において、他県他市からの移住希望者を募ることが大きな課題となっています。上田さんたちは東京からの移住。彼女らの活躍をみて見習い海女を今後受け入れてもいいという漁協が増えてくれたらいいですね」と話す。
海女の後継者不足、人口減少、両面でメリットをもたらす可能性がある見習い海女さん。移住してまだ間もないが、地域にも溶け込み、出だしは好調のようだ。

女性の働き方の変化により海女の数は減少したものの、昨今はその多様性が見直されようとしている。都会での仕事は高収入で仕事も多いが、その分物価が高かったり、子育てしにくいという面も否めない。鳥羽では、子育てや別の仕事をもちながら海女をやっている人も多いと聞いた。
観光の側面から海女の存続に力を入れている鳥羽市観光協会専務理事の世古晃文氏いわく「海女とはただの職業ではなく、“生き方”そのもの」だという。体力的な個人差はあるだろうが10代から80代と長い期間働き続けられる職業で、定年もない。考え方によっては、自由度の高いライフスタイルを実現できる職業かもしれない。
東京からやってきた見習い海女の二人を見て、地元に住む若い女性らが海女という生き方を選ぶようになれば、減少に歯止めがかかるのではと新たな期待も寄せられている。

移住したい県20位。移住希望者の増加に伴い専門部署を立ち上げ

さて、重見さんが話す鳥羽市のもう一つの課題、移住についてもふれてみたいと思う。
昨今、都心部で移住希望者が増えているという背景から、鳥羽市でも今年、三重県初の専門的な組織として移住・定住係ができた。重見さんを含め専属スタッフは3名。鳥羽に住みたい、家や子育て支援などトータルにサポートすることを目的としている。東京のふるさと回帰センターや、東京駅前に作られた総務省の移住情報ガーデンで移住希望者を募り、鳥羽市で受け入れるための窓口となっている。

鳥羽市の人口分布は典型的な逆ピラミッド型で、若者が少ない。ピークだった1960年に比べ人口は2/3に減り、2万人を切った。東京五輪が開催される2020年には1万8000人ほどに減る見通しとなっている。
「鳥羽市内には大学がなく、高校卒業と同時に別の都市に出て行ってしまい、そのまま戻ってこないパターンが多い」と重見さん。
昨年、初めて空家実態調査をした鳥羽市。人口の減少と同じ推移で空家も増えている現状が見えてきたと話す。市のホームページには空家バンクを設置し、移住希望者に紹介できるシステムもできつつある。こうした取り組みもあってか、昨年のふるさと回帰センターによる、移住希望地ランキングに和歌山県と並んで20位に食い込んだ。
「それまではランク外だったので、受け入れ窓口ができたことでこれからもっと希望者が増えることを願っています」と重見さん。伊勢志摩地域の中でも鳥羽は山を背に海に臨む地形。「海の見える家」をキーワードに移住者を募っていきたいと話していた。

鳥羽市の人口は、1995年を境に減少の割合は大きくなっている。推計値を見ると右肩下がりで急激に減少を続ける予想となっている。(出典: 総務省「国勢調査」、推計値:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」)。予想通り、鳥羽市の調べによると、2015年8月時点で1万923人と2万人を切っている鳥羽市の人口は、1995年を境に減少の割合は大きくなっている。推計値を見ると右肩下がりで急激に減少を続ける予想となっている。(出典: 総務省「国勢調査」、推計値:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」)。予想通り、鳥羽市の調べによると、2015年8月時点で1万923人と2万人を切っている

漁業再発展が地域活性の鍵。多方面からのアプローチで活性化を狙う

見習い海女の上田さんらは「地域おこし協力隊」として市の移住相談会やPRイベントにも出かけ、移住の先輩としてアドバイスなどをしているという。
鳥羽市観光協会では観光業で得た収益を漁業に還元する「海女さん応援宿泊プラン」の仕組みを作り、スタートさせた。
また、2015年には鳥羽市商工会議所のメンバーらで構成された“鳥羽リノベーション委員会”が発足。空き店舗での開業を見据えた移住を促進するために活動をしている。
こうした多方面からのアプローチで、活気あふれる鳥羽市を再建しようという試みが行われている。

鳥羽市の成り立ちを考えると、漁観連携というのが活性化のポイント。もともと豊富な海産資源があって、伊勢神宮参拝の後に海産物でおもてなしをするために宿泊業、観光業が発展してきた。漁業がもう一度元気を取り戻したら観光業も栄えるのだろう。
移住定住もしかり。生業となる仕事がないと定住は難しいので、漁業を再発展させることが地域の課題となる。その鍵となるのは、3000年続く伝統的な海女漁なのかもしれない。
「海女は素晴らしい仕事。私は死ぬまで海女でいたい」と話す上田さん。彼女が一緒に潜る海女さんらは、みな60代~80代と大ベテランばかり。高齢化する海女の世界で技術の継承が危ぶまれているが、頼もしい後継者がこの先も育ってくれることを願わずにいられない。

◆取材協力
鳥羽市役所   https://www.city.toba.mie.jp/
鳥羽市観光協会   http://www.toba.gr.jp/

海女という伝統文化を育んできた鳥羽市。<br>山を背に海に臨む風光明媚なこの土地では、穏やかな時間が流れている(写真提供:鳥羽市)海女という伝統文化を育んできた鳥羽市。
山を背に海に臨む風光明媚なこの土地では、穏やかな時間が流れている(写真提供:鳥羽市)

2016年 07月23日 11時00分