賃貸の常識をひっくり返すことを意図

もともとは南北で1フロア、特徴のないごく普通のオフィスだったもともとは南北で1フロア、特徴のないごく普通のオフィスだった

これまでは最初から転貸目的で契約をしたのでない限り、自分が借りた部屋を他人に貸すことは契約違反とされてきた。だが、2020年4月に仙台市青葉区、地下鉄南北線北四番町駅近くに誕生した「TNER」(以下トナー)は借りたスペースを貸すことを可能にした賃貸物件である。物件名がRENT(貸す)を逆さまにしたものということからも、これまでの賃貸の常識をひっくり返したいという意図が分かる。

建物は1981年築の10階建て。4年前に、住宅を借りると階下のシェアオフィスを利用する権利が付いてくるという斬新な仕組みの物件「THE 6」を作った株式会社エコラが、都心部に次の一手をと考えて2年前に1棟をまるごと購入。ある程度の入居者が退居するのを待ってリノベーションした。南北に細長い建物は中央部の階段、トイレなどの共用部を介して1フロアが南北に分かれる形となっており、それぞれが25坪(82.5m2)ほど。使い方はフロアごと、南北でも異なっており、いずれも単一の用途ではない。

「市内には古い建物が多く、取り壊すか、売却するのか、残すかを考えざるを得ないタイミングです。ただ、残す場合、見た目を新しくしただけでは変化する賃貸市場で、借りる人のニーズに合ったものにはなりません。THE6以降、これからの新しい賃貸の形を模索し続けており、今回、コミュニティメイン、住宅から発想したTHE6より少しビジネス目線で、ある程度ビジネスの経験のある人たちや小商いや副業を始めたい人たちに向けて、場を時間でシェアできる空間としてトナーを考えました。借りたオフィスを時間貸しすることで起業、副業がしやすくなりますし、建物としても関係人口が増えると考えています」(エコラ・百田好徳氏)

レンタルキッチンで起業、副業を応援

では、実際にどのような場になっているのか。順に見ていこう。

まず、2階だが、ここは北側に以前からの入居者がオフィスを構えているため、トナーとして使っているのは南側のみ。他のフロアが主にオフィスとしての用途となっているのに対し、ここには菓子製造、飲食店営業ができるレンタルキッチンが配されている。独立したキッチンが2台設置されているのだが、テイクアウト、その場でのイートインもできるようになっており、キッチンともうひとつの用途であるミーティングスペースとの間にはThe PARKと呼ばれるカフェスペースも。作るだけのために使っても良し、その場で売っても、持ち帰って食べてもらってもよしと、使う人が自由に使い分けられるのである。

「苦労したのは飲食業営業と菓子製造の、2種類の営業許可を得ること。菓子製造には一般的な飲食業とは異なる基準があり、仙台ではその要件を満たしたキッチンは少ない。ニーズはあると考えています」

利用は1日(9時~18時)単位から。料金は光熱費別で1日1万円、1週間で6万円(税別。以下同)など。夜間も1時間1,000円で借りることができるので、副業として、いずれ独立するためのお試しなどとして使える。

レンタルキッチンの向かいにあるのはミーティングスペース。約30m2あり、定員は30人。一般の人も利用でき、上のフロアでオフィスなどを借りている人には割引がある。また、このフロアにはもうひとつ、オンラインミーティング用の個室も。シェアオフィスでは声を出してのやりとりはしにくいだろうという配慮で、テレワークが進むとこうしたブースが求められるようになりそうだ。

左上から時計周りにカフェスペースになるThe Parkと名付けられたスペース、キッチン内からカフェスペースを見たところ、キッチン、ミーティングスペース左上から時計周りにカフェスペースになるThe Parkと名付けられたスペース、キッチン内からカフェスペースを見たところ、キッチン、ミーティングスペース

オフィスの一部を他社に、他の人に貸す

続いて3階、4階。「借りながら貸す」が実現できるのはこれらのフロアから。3階の北側には開閉することによって広さを変えられるシェアキッチン、イベントスペース、ダイニングスペースがあるが、それ以外の主な用途はフリーデスク、オフィス、固定デスクの3種類。フリーデスクはそもそも自分が使う場所が固定されていないため、借りながら貸す対象にはならないが、それ以外については自分の希望でオフィスの一部を貸し出すことができるようになっているのだ。

まず、オフィスは4~10人用とさまざまな広さがあり、シャワー、バス、トイレ、バルコニーの付いたタイプも。面白いのは貸すことを想定し、ひとつのオフィスの中に分けて使える空間が作られていること。会議室として考えると4人分くらいのスペースだろうか、あまり大きくはないが、逆に個人にも貸しやすい広さでもある。

たとえば、304号室は共用廊下に面した1室がガラス張りになっており、その部分を貸すことができる。使用方法としては会議室やポップアップストア、ギャラリー、教室、美容系のサロンなどだろうか。許認可が要るような業態は難しいだろうが、それ以外ならいろいろできそうである。もちろん、外の人に貸すだけではなく、週末の副業として自分で使う手もある。3階にはこうしたオフィスが4室あり、広さは20~30m2ほど。賃料は7~8万円(共益費含む。以下同)となっている。

左上から時計周りに3階にあるイベントスペース内のキッチン、貸せるスペースを外から見たところ、オフィス内部から見たところ、オフィス内部左上から時計周りに3階にあるイベントスペース内のキッチン、貸せるスペースを外から見たところ、オフィス内部から見たところ、オフィス内部

シェアオフィスをさらにシェアすることも

4階にも同様のオフィスが2室あり、こちらは43m2ほどと広めでキッチン、トイレにシャワーブース付きで賃料は9万円。SOHOとして居住しながら仕事という利用も可能で、外に貸し出す以外にも週末だけ本業とは別のビジネスを試してみるという手もありそう。貸し出せるスペースとそれ以外にそれぞれ入り口があるので、自分が使っている時にも貸せるのが3階とは違うところだ。

3階、4階の1~2人用の固定デスクも貸し出し可能。平日しか使わない人なら週末を他の人に貸すことで家賃を下げられるというわけである。

貸し方だが、2種類ある。ひとつは1社で借りて、それをもう1社とシェアするというやり方。このやり方の場合は3法人まで一緒に借りることができる。毎日オフィスに出る仕事ではないが、週に1日程度は使いたいという会社と組んだり、曜日で分ける、午前・午後で分けるなどやり方はそれぞれだろうが、テレワーク+αでできる業務ならアリだろう。このやり方の場合、最初に借りた会社がその他の会社の家賃を決めることができる。

一方、貸し出せる空間の場合には料金が決められており、2時間で500円。いささか安い気もするが、まずは人が来る空間にならなければ貸し出せない、貸すメリットが生まれないことを考えると当初はこんなものなのかもしれない。

いずれの場合にも誰に貸すかは事前に管理者の承諾を得ておく必要がある。不特定多数の、管理者にも誰だか分からない人がオフィスを借りるとなると、セキュリティ上の問題が生ずるためだ。一時的に借りる人でも基本、会員として登録、身元を確認することになるそうだ。

左上から時計周りに4階の中央から固定オフィスを見たところ。廊下は緩いカーブを描いており、不思議な空間になっている。固定オフィス、貸せるスペース、貸せるスペースをオフィス内から見たところ。扉を閉めてしまえば別々の空間になる左上から時計周りに4階の中央から固定オフィスを見たところ。廊下は緩いカーブを描いており、不思議な空間になっている。固定オフィス、貸せるスペース、貸せるスペースをオフィス内から見たところ。扉を閉めてしまえば別々の空間になる

住宅内でもビジネスOK、フリーデスクの権利も付いてくる

10階の住宅部分。住宅としては特に変わったところはないが、階下のフリーデスクを使える10階の住宅部分。住宅としては特に変わったところはないが、階下のフリーデスクを使える

5階以上は住宅となっており、間取りは1LDK、2LDKの2種類。賃料はそれぞれ8万円、9万9,000円で中古住宅として考えた場合、相場よりもちょっと高め。間取り、設備など部屋はそれほど変わったものではないが、一味違うのは最初から自宅を教室やサロンなどで使えるとしていること。

「住居用のマンションでビジネスを始めたいと考えた場合、管理会社、管理組合に届ける必要があり、物件によっては不可とされることも。ここは最初からやってもいいことになっているので、確実に自分のやりたいことが実現できます。また、ここで住居を借りた人はTHE 6同様に階下のフリーデスクが使えるようになります。そこで法人登録をすれば、住居とオフィスを一度に借りたことになり、起業しやすい。同じ仕組みのTHE6が人気で満室状態が続いているため、キャンセル待ちの人のうちにはトナーを検討したいという人も少なくありません」

THE 6から4年が経ち、仙台市内には似たような仕組みのあるシェアハウスなども増えたそうだが、百田氏は競合があるほうが市場が生まれ、選んでもらいやすくなるとポジティブに考える。箱は同じように見えてもオペレーションは異なるという自負もあろう。さらに2020年11月にはもう1物件、住宅を中心にした、これまでにない新しい仕組みの賃貸物件を考えているとか。変化する賃貸市場を考えると、ひとつ、新しい仕組みの物件を作ったからそれでおしまいというわけではない。変化に合わせて供給側も進化し続けなくてはいけないということだろう。

2020年 05月04日 11時00分