なぜ、熊谷は暑いのか?

向かって左から、政策調査課主査の杉浦氏、課長の平氏、主査の関口氏向かって左から、政策調査課主査の杉浦氏、課長の平氏、主査の関口氏

2018年に41.1度の最高気温を記録し、暑さ日本一となった埼玉県熊谷市。東京都心やさいたま市など都市部のヒートアイランド現象によって温められた空気が風にのって運ばれてくることや、秩父の山を越えて吹き降ろす西風が乾燥して高温になるフェーン現象が起こることなど、さまざまな要因が重なり、毎年のようにその暑さが話題となっている。

近年は熱中症による健康被害も多く聞かれるようになっている。日本一暑いまちでは、どのような暑さ・熱中症対策を行っているのだろうか? 熊谷市の担当者に話をうかがった。

日本一暑いまちのバラエティに富んだ暑さ対策

JR熊谷駅正面口のロータリーを囲むように設けられた冷却ミストJR熊谷駅正面口のロータリーを囲むように設けられた冷却ミスト

JR熊谷駅を出た人を涼しく迎えてくれるのが、各出口付近から吹き出す冷却ミストだ。気温28度以上、湿度75%未満、風速3m未満の午前7時から午後8時まで、雨天時を除いて自動散布されるもので、2019年はすでに4月から運用が始まっている。熊谷市の「暑さ対策」を代表する施策のひとつだ。今年は隣の籠原駅にも新設され、熊谷駅正面口の冷却ミストは拡張されて、バスなどが発着するロータリーを囲むように延びた。

2019年、熊谷市で実施される暑さ対策は、主なものだけでも20を超える。冷却ミストの設置をはじめ、AEDが設置されている市の約140施設に、瞬間冷却剤や飲料水などが入った「熱中症応急キット」を用意する、市内の商店街で番傘や日傘を無料で貸し出す、市内公共施設に、熱中症などで気分が悪くなった場合の休息所を開設するなど、きめ細かい内容になっている。
市内の中学校に通う生徒は、1、2年生で熱中症、AED講習などを受け、3年生になると、「暑さ対策サポーター」として、地域の体育祭や防災訓練などで、熱中症予防の呼びかけを行っている。また、「熱中症対策キーパーチーム」が、お祭りやイベントなどの来場者に噴霧器でミストを吹きかけながら、熱中症予防を訴えるというユニークな対策もあるそうだ。

このようにバラエティに富んだ対策を実施している理由について、熊谷市の市長公室政策調査課の課長、平雅史氏は「熱中症予防の大切さを浸透させ、万一、熱中症になっても重症化することを防ぐためには、対策の切り口をできるだけ多様なものにすることと、対策の必要性を繰り返し伝えることが重要です。熱中症に特効薬はありませんから」と説明する。

貴重な地域資源の「暑さ」でまちづくりを

2005年からの暑さ対策の歩みをまとめた熊谷市の資料。多様な取組みの全容を知ることができる2005年からの暑さ対策の歩みをまとめた熊谷市の資料。多様な取組みの全容を知ることができる

熊谷市が「あつさ」をキーワードにした取組みを始めたのは、2004年のことだった。「ひと夏の猛暑日が28日となり、当時の日本記録を更新したことから、マスコミに大きく取り上げられました」と、政策調査課の主査、関口仁美氏。記録更新は全国的な話題になり、熊谷市の名前が広く知れ渡ることになった。
暑さは単なるやっかいものではなく、貴重な地域資源として、まちづくりに活用することができるのではないか。そう気づいたことから生まれたのが「あついぞ! 熊谷」。2005年にスタートした「あついぞ! 熊谷」事業は、暑さとかけて市民の気持ちの熱さや人情の篤さをまちづくりに生かそうと、市と市民が協働する形で、「商店街40℃セール」「最高気温あてクイズ」「打ち水大作戦」といったさまざまなイベントを行うなど、当初は地域振興の色合いが濃いものだったのだ。

政策調査課の主査、杉浦範昭氏は、「2005年は、ちょうど熊谷市と近隣の妻沼町、大里町との合併があった年で、『あついぞ! 熊谷』には、新しい熊谷市民の一体感の醸成を図りたいというねらいもありました」と振り返る。

市民の安全と健康を優先する対策へシフト

ねらい通りの盛り上がりを見せた「あついぞ! 熊谷」だったが、2007年に当時の日本最高気温40.9度を記録したことから、「まちづくりは大切だが、市民の健康を守ることがもっと重要」(平氏)となり、暑さ対策にシフトすることになった。
「暑さ対策日本一を目指す」と目標を定め、対策の企画・立案も、環境や健康関係から教育、福祉、建設など、熊谷市の多くの部署の若手職員で構成される「暑さ対策プロジェクトチーム」が行うことになった。平氏は「市役所横断的なチームで対応することで、対策の幅を広げることにつながりました」と話す。

熊谷市では、10年以上にわたって暑さ対策に取り組んだ結果、救急搬送された熱中症患者における中等症、重症者の割合を、全国や埼玉県の平均より低く抑えることができている。また、環境省などが推進する「熱中症予防声かけプロジェクト」の「ひと涼みアワード」で、最も効果的な取組みを実施したとされるトップランナー賞を5回も獲得。それでも平氏は「熱中症の重症患者が少ないといっても、ゼロになったわけではありません。対策を継続することが重要なんです」と力を込めた。

全国や埼玉県の平均に比べて、熊谷市の熱中症患者は軽症者が多く、中等症以上の患者が少なくなっていることがわかる<br>(出典:埼玉県熊谷市の暑さ対策の取組 2005-2017)全国や埼玉県の平均に比べて、熊谷市の熱中症患者は軽症者が多く、中等症以上の患者が少なくなっていることがわかる
(出典:埼玉県熊谷市の暑さ対策の取組 2005-2017)

企業とのコラボレーションなども活発に実施

日清シスコとのコラボレーション商品。塩がきいたグレープフルーツ風味で、袋には熊谷市からのメッセージや熊谷市のマスコットキャラクター「ニャオざね」が入っている日清シスコとのコラボレーション商品。塩がきいたグレープフルーツ風味で、袋には熊谷市からのメッセージや熊谷市のマスコットキャラクター「ニャオざね」が入っている

対策の継続において、熊谷市がポイントのひとつにしているのが、小中学生を対象にした取組みの実施だ。先に挙げた「中学生の暑さ対策サポーター養成」のほかに、生徒自らが気温・湿度・輻射熱の3つを取り入れた「暑さ指数(WBGT)」を測定できるWBGT計を中学校の部活動に配布し、休憩の必要やタイミングを学び、熱中症予防の意識を高めるという取組みもある。小学生に対しては、委員会活動で児童が自主的に発案して行う暑さ対策を支援している。
「小中学校時代から暑さ対策にかかわることで、大人になっても熱中症予防に関心を持ち続けてもらうことが期待できます。また、高齢者に対する熱中症予防の呼びかけも、行政よりも、孫のような世代の子どもたちが行う方が効果的ですからね」と、平氏はねらいを明かしてくれた。

日本最高気温の記録とこうした積極的な暑さ・熱中症対策から、熊谷市に対して、企業からのコラボレーションの申し込みも多い。熊谷市も、熱中症予防への関心を高めることや、市のPRが期待できることから積極的に検討している。今年も、市内に工場を持つ日清シスコ株式会社と、市内で生産した小麦やミネラルを配合した「ミネラル塩サブレ」を考案。既に全国で販売し、好評とのことだ。また、株式会社LIXILは、熊谷市で「外付け日よけ」の実証実験のモニターを募集した。こちらは30世帯の募集枠に対して350件の申し込みがあったそうだ。「これも暑さ対策の切り口を広げる一環です」と、平氏はコラボレーションを歓迎する。

最後に、熊谷市も試合会場になっている、ラグビーの国際競技会の暑さ対策にも触れておこう。大会は9月・10月に行われるので、暑さのピークは過ぎているかもしれないが、日本の残暑に不慣れな外国人観客もより安全に、より快適に観戦できるように、会場周辺を中心として、道路や歩道に遮熱性舗装を施すことなどが予定されている。既に駅前や市役所通りなどにはブロックタイプの遮熱性舗装が施されており、今後実施される舗装によって遮熱性舗装のネットワークが形成されることになるそうだ。

日本の暑さは年々厳しいものになっている。他の自治体にとっても、熊谷市の暑さ・熱中症対策は参考になる事例ではないだろうか。今後も暑さ対策の最先端として、新たな取組みを実施し、情報を発信してくれることを期待したい。

2019年 07月04日 11時05分