JAXAが開発した大気圏突入時の高温に耐えうる塗料の断熱技術を転用

遮熱、遮光、防熱のコントロールに関する実験。最近では遮音、遮熱その他の機能のあるカーテンが一般化していることを考えると、今後は塗料に機能を求めるようになってもおかしくはないはず遮熱、遮光、防熱のコントロールに関する実験。最近では遮音、遮熱その他の機能のあるカーテンが一般化していることを考えると、今後は塗料に機能を求めるようになってもおかしくはないはず

人間が宇宙に行くためには様々な障壁がある。そのひとつが宇宙船が大気圏突入時に発生する高熱。国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)ホームページ内のコラムによると「スペースシャトルが再突入したとき、機首先端部の材料の最高温度は1600℃、機体下面のセラミックタイルの一番温度が高いところで1000℃になる」のだとか。

当然、それだけの高温から機体を守る断熱材が必要になるのだが、日本の場合にはそれを塗料として開発した。NASAはセラミックタイルの上にコーティングという断熱方法を取っているそうだが、その場合にはタイルの剥落という問題が起こりうる。実際、過去には剥落が原因となった悲惨な爆発事故も起きている。それに対し、塗料であればまんべんなく機体をカバーすることができ、弱い部分ができない。

実際の耐熱材料はこんな風になっている。「現在のスペースシャトルでは、一番加熱の厳しい機首や主翼、尾翼の先端には、材料の温度が3000℃になっても強度や剛性が変化しないカーボン・カーボン・コンポジットという、炭素繊維で強化した特殊な炭素材料の上に、酸素が入って来ないように(炭素は酸化に全く弱いため)セラミック材料を薄くコーティングしたものを装着している」(JAXAホームページより)。

その技術を地上で使えるように転用、住宅その他の建物などに使えるようにした塗料がGAINA(ガイナ)である。

塗る断熱材、塗料に機能を持たせるという新発想

冷凍車内部に塗布した成果について語る石子氏。塗料の専門家でなかったからできた発想の転換かもしれない冷凍車内部に塗布した成果について語る石子氏。塗料の専門家でなかったからできた発想の転換かもしれない

GAINA(ガイナ)を開発した株式会社日進産業は、元々物流の無人搬送の機械を製造していた会社。ところが28年前、取引先から工場の断熱を依頼される。壁面に断熱材を入れるのがセオリーだが、機械と壁の間はわずかに5㎜。期待する性能を断熱材で得るためには75㎜は必要だという。そこで同社の石子達次郎氏が思いついたのは塗る断熱材というコンセプト。この工場の場合は元々が濃いグレーの建物であったため、それを真っ白に塗ることで室温を3度下げることに成功した。光を反射させることで、温度を下げたわけだ。

だが、この方法で効果があるのは日が当たっている時だけ。それ以外の時も含め、塗ることで断熱ができないか。以降、石子氏は断熱塗料の開発を始める。極小のセラミックを配合した断熱性の高い塗料を作ることはできたものの、さらに一段の工夫を模索していた2005年に出会ったのが、「JAXAがH-ⅡAロケットのために開発した断熱技術の民間への転用を決め、連携する会社を探している」という情報である。

すでに大手を含め20社ほどが申請しており、同社は21社目として遅れてエントリーする。規模、技術力ともに勝てないと思っていた他社が技術審査の過程で対応できないと次々と撤退するなか、ただ一社指名を受け、1年後にはGAINA(ガイナ)を開発。2008年にはJAXAと共同開発した最先端技術ブランドJAXA COSMODE第一号として認定されている。日本の中小企業の底力を感じさせる、リアル下町ロケット的な物語だ。

断熱に加え、結露防止にも

屋根に塗布、内装に塗布、それぞれの場合の効果を見せる簡単な実験。簡単だからこそ、種も仕掛けもないことが分かる屋根に塗布、内装に塗布、それぞれの場合の効果を見せる簡単な実験。簡単だからこそ、種も仕掛けもないことが分かる

GAINA(ガイナ)は特殊な中空セラミックビーズとアクリルシリコン樹脂、水で作られており、乾燥すると水分が蒸発、セラミックビーズが多層化する。ローラーで2度塗りした0.4~0.5㎜の厚さの中に30層というから、ビーズの細かさが分かるだろう。塗膜の中に非常に細かいビーズが石垣のようにびっしり積まれているような感じだ。

この特殊セラミックには周辺温度に適応する性質がある。たとえば室内の天井、床、壁に塗布し、そこで冷房を使用、空気が冷たくなると同時にGAINA(ガイナ)塗布面も冷たくなる。暖房の場合も同様で、空気が温まると壁面も温まる。

一般の内装材を使用した住宅ではこうはいかない。冷房をつけると空気は冷えるが、躯体は熱いまま。その熱が室内に侵入してくるため、冷房を利用してもなかなか涼しくならない。ようやく、涼しくなったと冷房を切ると、躯体の熱でまた暑くなり……。暖房の場合もせっかくの暖気がどんどん逃げて行ってしまい、いつまでも暖かくならない。GAINA(ガイナ)を内装に施工するとこうした悩みが解決できるというのだ。

内装表面の温度と室温の間に差が無くなると、もうひとつのお悩み、結露も解決する。ご存じのように結露は住戸内で温度の低い窓や壁面などに発生するが、そもそも温度差がなければ発生しにくくなる。実際、結露防止効果を買われ、東大寺宝物殿のような内部の環境を一定に保たなければならない場所でも利用されており、重要文化財となっている寺社だけで70か所以上の導入実績があるそうだ。

外装に使うと赤外線を反射、建物が熱くなりにくくなる

内装だけでなく、屋根や外壁に使うという手もある。その場合、太陽の熱と適応されたのでは暑くてたまらないが、面白いことに、この場合には球体のセラミックのプリズム効果が遮熱効果を発揮する。イメージとしては塗膜面の中にある小さなビーズひとつずつが太陽光に含まれる赤外線を反射、屈折させて外に弾き返すというところだろうか。それによって建物が熱をため込むことを防ぐのだ。

この機能を利用し、倉庫や工場などの屋根に塗布されている例も多く、一番面白かったのは車両運搬船の甲板で使われているというもの。赤道直下を航行すると甲板は70度近くにもなり、直下の船室では人が入ることができなくなる。機器類への影響も考え、GAINA(ガイナ)塗布前は4層ある船室のうち、最上層は空のまま運搬していたというが、塗布後は38度にまで下がり、使えるようになったという。

それ以外にも遮音、臭い対策など様々な効果があるというが、1㎜に満たない塗料の膜にそこまでのパワーがあるとは信じがたい。そう思う人のために日進産業では本社ショールームで実験を行い、効果を体験できるセミナーを開いている。

実験自体は単純なものだ。たとえば、GAINA(ガイナ)と一般的な塗料を塗った2㎜の板をアルコールランプの火で炙り、その上に氷を置くというもの。同じくフライパン内にそれぞれの塗料を塗って氷を入れる。いずれもGAINA(ガイナ)塗布では氷はなかなか溶けない。冷凍庫から出した、2㎜ほどの板を左右の手で挟む実験では右手は冷たくない、左手は恐ろしく冷たいという、実に不思議な体験ができる。

アルコールランプで氷を炙るような単純な実験だが、不思議な体験ができること請け合いアルコールランプで氷を炙るような単純な実験だが、不思議な体験ができること請け合い

電気代削減に加え、助成が出る自治体も

効果の数々は分かったが、あまりにメリットが多い商品を見ると、高いのではないか、施工しにくいのではないかと疑いたくなるのが人間というもの。率直に聞いてみたところ、一戸建てのリフォームで2~3割は高くなるという。

「航空機の外装にも使われ、付着した汚れが落としやすく、長期に持つと言われるフッ素系塗料と同じくらい内装に使われ、調湿効果があると人気の珪藻土よりは安いといったところでしょうか。でも、電気代が下がるので元は取れます。先日塗布した一戸建てでは夏の電気代が10%安くなったそうです。それに省エネリフォームとして助成が出る自治体もあります」とはさいたま市で塗装業を営む原島信一氏。

さいたま市の場合は既存住宅の屋根面への高遮熱塗装については塗装面積1m2あたり400円(上限は一戸建てで3万円、集合住宅で50万円)の助成が出る。23区では半分ほどの自治体が助成しているなど、助成対象になるところは意外とありそうだ。

色数は200色以上あり、コテ塗り用、ローラ―・吹き付け用の商品があるので、好みの色、仕上げを選ぶことができる。外壁のモルタルや室内のクロスの上からでも塗れ、外装では薄い色ほど効果が高い。DIYで塗るには多少ハードルが高そうだが、珪藻土が塗れる人ならできるということだ。

一般の塗料は紫外線に弱く、経年変化でチョーキングという白い粉を吹く現象が起きるが、セラミックは紫外線に強く、劣化もしにくい。他の塗料に比べ、2~3倍の耐久性があるというから、最初はちょっと高くつくが、助成、電気代節約、塗り替え期間長期化で全体としては安くなるという計算だ。そして、それ以上に快適に暮らせるという点が大きい。もし、暑さ、寒さや結露などに悩んでいる家なら、まずは実験を見に行ってみても損はないと思う。

株式会社日進産業
http://nissin-sangyo.jp

2016年 08月30日 11時06分