斬新な設備で話題が尽きなかった「ホテルナゴヤキャッスル」
1969年から51年にわたって名古屋のホテル業界をけん引してきた「ホテルナゴヤキャッスル」が、2020年9月30日をもっていったん幕を閉じる。
名古屋の観光名所として真っ先にあがるであろう「名古屋城」。徳川家が築いた名古屋城は豊臣家の大阪城に向いて建てられているため、西側が正面となる。そして、この西側に位置するのが「ホテルナゴヤキャッスル」だ。歴史ある名城を正面から堪能できるキャッスルビューがホテルの目玉でもあった。
唯一無二のロケーションと、展望エレベーターや屋外プール、回転するバー、など、その斬新な設備で話題が尽きなかった名古屋を代表する同ホテル。高度成長期に誕生してから半世紀を経た今、休館へと踏み切った。跡地には新しいホテルを、4年後の2024年度の完成を目安に建設する予定となっている。
日本初の展望エレベーター、1時間で360度回転するバーは憧れの的
「開業したのは、東海道新幹線が開通して名古屋国際会議場の建設や名古屋デザイン博の構想が持ち上がっていた時期。
高級ホテルとしては名古屋観光ホテルがありましたが、名古屋に人を呼び込むためのホテルが足りていませんでした。そこで国内外のVIPにも対応できる、名古屋を代表する国際ホテルをつくろうという財界人たちの想いがひとつとなり、当ホテルが開業しました」
と話すのは、総支配人室・販売企画課長の加藤美和さん。(以下「」は加藤さん談)
想いは斬新なアイデアとなって具現化された。まず話題を集めたのは、日本で第1号となった展望エレベーター。
ホテル南側に設置された赤いエレベーターは、最上階のレストラン「クラウン」へ直通となっている。「当時は、このエレベーターに乗って『クラウン』でお茶をする、というのが憧れのデートコースだった」という。
「クラウン」には1時間で360度回転するバーもあった。席についたまま、名古屋城から名古屋駅周辺の街並みを見渡せるパノラマビューは、カップルを中心に大人気となった。また、感性豊かなフレンチを提供してきた「クラウン」のレストランエリアでは、「クリスマスディナーだけで1晩800万円を売り上げた」という伝説も残っている。
「昔は、中央にステージがあってバンド演奏などもされていました。ホテル内には当時考えられる最新かつ最上級の設備が人気を呼んで、連日多くのお客様でにぎわっていたと聞いています」
最新の設備といえば、当時のホテルではまだ珍しかった屋外プールも造られていた。
「当時で入場料3,000円という、安くない価格にもかかわらず大勢の方がいらっしゃって、“芋洗い状態”だったそうです」。水中照明・水中音響を備えたプールは、人気歌番組の中継にも使われていた。
アイデアがちりばめられた「ホテルナゴヤキャッスル」は、憧れを叶えてくれる夢のホテルとなっていった。
全社員総出の “どんでん”も話題となった大宴会場
ほかにも「ホテルナゴヤキャッスル」の魅力として挙げられるのは、宴会場だ。
1988年にオープンした「天守の間」は、2,000平方メートルにも及ぶ中部圏最大の宴会場。国内外のVIPを迎えてきたメインバンケットで、2005年には、皇室の方々も列席した国際博覧会「愛・地球博」のレセプションホールとしても使用された。立食で3,000人のキャパを誇る大宴会場は、愛知県知事も参加する中部の財界人らが顔を揃える賀詞交換会などにも利用されてきた。
この「天守の間」は、会場装飾を全社員総出で短時間のうちに作り替える“どんでん”も、話題のひとつに。
「昼の部が終わると全社員に召集がかかり、夕方の部に間に合うようにものすごい勢いで作り替えるんです」
短時間で舞台装置を切り替える歌舞伎さながらの転換。何度かメディアでも取り上げられていたのを筆者も記憶している。
開業当時から受け継がれている西陣織を施したエレベーター、シャンデリア
ウェスティンホテル&リゾーツと業務提携をし「ウェスティンナゴヤキャッスル」に改称(※)した2000年に大きな改装があり、創業当初のものはだいぶ少なくなったそうだが、それでも今なお残っているものもある。館内で創業当初から残っているのは、エレベーター3基と、2つのシャンデリアだ。
エレベーターの内装には西陣織が使われており、モダンでシックな雰囲気が漂う。シャンデリアは休館までは、バー「ローゼン」、宴会場「青雲の間」に設置されている。
また、「ホテルナゴヤキャッスル」は“美術館のようなホテル”とも呼ばれていた。
「以前の社長が美術品に造詣が深かったこともあり、開業時よりピカソやシャガール、佐伯祐三、荻須高徳といった名だたる画家の作品を700点以上所有し、ロビーやレストラン、客室に飾っておりました。建て替えのため、そのほとんどは画廊などにお譲りし、今は地元の画家による作品が飾られています」
愛知県在住の水墨画の大家、山田大作氏の作品や、小原和紙の人間国宝、山内一生氏の作品が、2020年9月30日の閉館まで館内に花を添える。
(※)「ウェスティン」との契約満了により2018年に「ホテルナゴヤキャッスル」に改称
斬新で最新な「ホテルナゴヤキャッスル」再び⁉ 2024年、日本屈指の高級ホテルへ生まれ変わる

現スタッフたちは、他事業所や姉妹ホテルで引き続き勤務し、新ホテルが誕生した際にまた集結する予定だという。建物は無くなれど、地元に愛されてきた「ホテルナゴヤキャッスル」のホスピタリティは存続されそうだ
建て替えの話が出たのは10年ほど前。理由は「建物の老朽化と街の活性化」だ。
「ホテルのような大規模な鉄筋の建物は50年が寿命だといわれています。耐震補強工事などを含め、客室などお客様が利用するエリアは改修されてはいますが、排水設備などの傷みと老朽化は否めないため、建て替えとなりました」
愛知県と名古屋市が連携し、高級ホテルを誘致する補助金制度を新設したこともあり、富裕層をターゲットにした高級ホテルへ建て替える流れとなるようだ。
「名古屋で最も客室単価が高いホテルでも東京、大阪に比べると中レベル。国際会議の開催や海外のVIPを受け入れられるホテルをつくり、名古屋の観光、経済の活性化にもつなげたいと考えています。現時点では、はっきりした構想は明らかになっていませんが、これから数年後には新しいホテルの概要が発表されると思います」とのこと。
現在ロビーには、お客からの「ホテルナゴヤキャッスル」へのメッセージを張り出したメッセージボードが設置されている。
「ここで結婚式を挙げました」「両家の顔合わせがクラウンでした」「誕生日の食事会に利用していました」など、記念日に利用した思い出などがたくさん寄せられていた。
「親子2代で結婚式を挙げてくださった方もいます。なかにはスタッフの顔と名前を覚えてくださっている方もいて、本当に地元の方に愛情深く育てていただいたのだと実感しています。当ホテルのお客様は、アクセスが便利なまちなかのホテルではなく、わざわざここを選んで足を運んでくださっている顧客といえます。建て替え後も、こうしたお客様に喜んでいただけるようなホテルをつくっていきたい」と話していた。
「名古屋に一流ホテルを」と華々しく開業した日から51年を経て、再び各界の期待を背負った建て替え計画がスタートする。寂しさの半面、期待が高まる。
【取材協力・写真提供】
ホテルナゴヤキャッスル
https://www.castle.co.jp/hnc/
2020年 09月22日 11時00分