日本風土に合った日本建築

ヨーロッパへ行くと、築300年以上の家もそう珍しくはなく、一般家庭が普通に生活をしていたりする。しかし日本では、築300年の古民家なら重要文化財に指定されてもおかしくないだろう。なぜそんなに耐久年数が違うのかというと、木造で四季もあり、気候の影響を受けやすい日本の建築物は、石やレンガで作られた西洋建築物と同じようにはいかないのだ。
しかしもちろん、西洋と比べ耐久年数が短い日本の家が悪いというわけではない。木と土でできた家は通気性が良く、気温も湿度も高い日本の夏を快適に過ごすには最適なのだ。また、家が倒壊した場合、中にいる人の生存率を考えると木造建築の方が優れている。地震大国日本で木造建築が選ばれ続けてきたのは、理由があるのだ。

さて、高温多湿という日本の風土は、部屋のしつらえにも影響している。日本の伝統的な和室にはどんな特徴があるのだろうか。

和室の特徴にこめられた意味

彫刻が施された欄間彫刻が施された欄間

和室最大の特徴は、なんと言っても畳だろう。芯部分は藁を圧縮したものが使われ、表面には藺草と呼ばれる植物を編み込んである。藁や藺草は湿度の高い季節には水分を吸収し、乾燥した季節は湿気を放出するため、部屋の湿度を調節する働きがある。そして藺草の香りは日本人の好みに合致しており、癒し効果があるという報告もある。

日本建築の特徴として、柱にも注目するべきだろう。レンガなどでできた西洋建築は壁から積み上げていく場合も多いが、日本建築はまず柱を建ててから壁を作る。家を支えるのは壁ではなく柱なのだ。特に大切とされるのは、建物の中央で家全体を支える大黒柱。一家の家長を「大黒柱」とも呼ぶのは、日本だけかもしれない。そのためか、日本人は柱はただの建材としては扱わなかった。木目の美しい木材を選び、装飾的な役割を持たせていることも多い。
また、出入口の扉は押し開きタイプではなく、横開きだ。障子や襖などは紙で作られていて、吸湿性の高さはもちろん、軽量なので隣の部屋との仕切りの取り外しが簡単、空間の広さを変えるのが容易なのも特長で、そうした合理性も考えてつくられている。

和室のタイプとは

和室には欠かせない床の間和室には欠かせない床の間

上に述べた和室の特徴は寝室でも同じだが、意匠が凝らされてきたのは客間だろう。客間は居間や寝室から遠く、生活から切り離された位置に設けられる場合が多い。茶室などは小さな庵の中に作られるほどだ。それだけ特別な空間だったわけで、さまざまな工夫が施されていた。そこで次は客間に注目してみよう。
一言で「和室」と言っても、タイプによって「真」「行」「草」と区別されている。
「真」の和室とは、室町時代に成立し、武家に多用された「書院造」が基本。武家のイメージ通り、厳格な決まりにのっとって建てられた、格調高い和室だ。反対に「草」の和室には遊び心が盛り込まれており、床柱の意匠がユニークだったり、天井に竹が使われていたりする。
そして、「行」は「真」と「草」の中間と思えばいいだろう。

「草」の和室は主が各々自由な発想で意匠をこらすため、定形はないが、「真」の和室には決めごとがある。ここでは、「真」の和室のしつらえについてざっと描写してみよう。
部屋に入ってまず目に入るのは床の間だろう。壁面の中央あたりに左右を区切るように床柱が立てられ、片方上部には長押と呼ばれる化粧材が渡されている。その下の床は一段高くなっており、花や掛け軸が飾られていることが多い。これが床の間だ。他方は床脇と呼ばれ、違い棚とよばれる段違いに取り付けられた棚があり、上下には天袋・地袋と呼ばれる収納スペースが設けられている。また、「真」の床柱は角柱が決まりだ。
庭に面した壁には障子があり、外の光が漏れてくる。天井付近には彫刻を施された欄間が据えられていることもある。

「真」の和室は武家の客間に使われることが多く、主の趣味が大いに反映される茶室は「草」の和室にあたる。茶道を大成した千利休は侘びや寂びを大切にし、茶花も決して華美ではなかったとされるが、豊臣秀吉は黄金づくしの茶室を作ったというように、草の和室には、主の嗜好や審美眼が反映されるのだ。

武士が「草の和室」である茶室を活用した理由

さて、武家は書院造で建造されることが多かったとされ、部屋もまた「真」の和室に造るのがふさわしかったはずだ。しかし、「草」の和室である茶室をよく利用したのも、武将だった。茶の湯を大成した千利休本人は商人だったが、彼を重用したのは織田信長だし、後に確執が生まれたとはいえ豊臣秀吉にも仕えている。そして利休の茶会には、徳川家康も訪れたという。
彼ら武将が茶室を多く利用したのは、何も流行に乗らんが為ではない。茶室が隔離された場所にあるうえ、決して広くはないため主人と客人が膝を突き合わせて対話をすることになる。つまり、密談に最適だったのだ。戦国時代の武将にとって、茶室は謀をめぐらすために必要不可欠な場所だったのかもしれない。

現代では秘密の会議などはめったにないだろうが、茶室には主と客が心を開いて言葉を交わしやすい条件が整っていると言えるだろう。解放感のある洋室の客間も魅力的だが、和室には親密さを育てる雰囲気があるのだ。

和室のエッセンスを取り入れる

洋室にも合うデザインの畳洋室にも合うデザインの畳

本格的な和室客間を設けるには十分な敷地が必要だが、広い家ではなくとも、生活空間に和室の利点を取り入れることは可能だ。
家を新改築するなら、庭に面した部屋の一つに、障子を設置してみてはどうだろう。家の中を覗かれる心配はなく、薄い紙を通した柔らかな光だけを取り入れられる。
新改築の予定がないなら、洋室を畳の部屋に変身させるのもいい。近年畳の良さが見直され、縁のない畳など、現代風家屋にマッチしやすいデザインのものも登場している。部屋に合う畳を選んで床に敷きつめれば、湿気を調節してくれるうえ、藺草の香りに癒されること間違いなし。
部屋を模様替えする際には、和室のエッセンスを取り入てみてはいかがだろう。

2015年 01月28日 11時12分