空き家問題の解決に必要な「受け身の施策」からの転換

2020年2月18日に開催された佐渡市 空き家対策シンポジウムに登壇する佐渡市長、三浦基裕氏2020年2月18日に開催された佐渡市 空き家対策シンポジウムに登壇する佐渡市長、三浦基裕氏

2020年2月18日、東京・表参道にある「新潟館ネスパス」で、新潟県佐渡市が取り組んできた「空き家調査員育成プロジェクト」の成果を紹介するシンポジウムが開催された。佐渡市では、多くの市町村と同様、増え続ける空き家という課題を抱えている。現在、佐渡市の空き家は約3,600戸。倒壊などの恐れのある特定空き家も約70戸あるという。

これまで、「空き家バンク制度」を活用した空き家の流通促進、老朽化した空き家の解体費用の補助といった施策を行ってきたが、空き家の増加になかなか歯止めがかからないのも、他の市町村と同じだ。シンポジウムで佐渡市の状況を説明した三浦基裕佐渡市長は、「空き家バンク制度などの施策は、基本的には空き家を利用したい人を待つという受け身のものでした」と振り返り、空き家の利活用を提案するような積極的な施策が必要と判断したと、「空き家調査員育成プロジェクト」に取り組んだ理由を説明した。

地元の人材を起用する「空き家調査員育成プロジェクト」

(写真上)株式会社三友システムアプレイザル 取締役 田井政晴氏<br>
(写真下)株式会社ブリッジにいがたのゼネラルマネージャー、川邊正則氏。ブリッジにいがたは、第四北越フィナンシャルグループの地域商社。「空き家調査員育成プロジェクト協議会」に参加している。シンポジウムでは、川邊氏が地域商社の役割や取り組みなどについて紹介した(写真上)株式会社三友システムアプレイザル 取締役 田井政晴氏
(写真下)株式会社ブリッジにいがたのゼネラルマネージャー、川邊正則氏。ブリッジにいがたは、第四北越フィナンシャルグループの地域商社。「空き家調査員育成プロジェクト協議会」に参加している。シンポジウムでは、川邊氏が地域商社の役割や取り組みなどについて紹介した

「空き家調査員育成プロジェクト」は、佐渡市と連携協定を結んだ株式会社三友システムアプレイザルをはじめ、地域の事業者などが参加した「空き家調査員育成プロジェクト協議会」が運営主体となって、空き家調査員を育成し、その調査員が行った空き家の調査結果を基に、「空き家トリアージ」を実施するというもの。三友システムアプレイザルの取締役で、協議会の事務局担当の田井政晴氏は、トリアージの結果に基づいた空き家の利活用案を、所有者に提案することによって意思決定を促進させることを、取り組みの目標に挙げている。また、佐渡市では、空き家の利活用によって移住や定住、地域の活性化が推進されることに期待を寄せている。

佐渡市では、不動産の専門家ではない地元の人材を、空き家調査員に起用することにし、2019年9月に候補者を公募。10月から11月にかけて、3回にわたって不動産に関する基礎知識や情報、建築基準法などの関連法令などについての講習、建物調査や不動産調査の実習などを行い、5名の調査員を認定した。11月下旬には調査員による空き家調査を実施。そして2020年1月に、調査結果に基づいた空き家トリアージの検討会議が開催された。

佐渡市の空き家を4つの色に分類する「空き家トリアージ」

(写真上)合同会社Palette代表 熊野礼美氏<br>
(写真下)東洋大学理工学部建築学科 中村亮太氏(写真上)合同会社Palette代表 熊野礼美氏
(写真下)東洋大学理工学部建築学科 中村亮太氏

トリアージとは、もともとは医療用語で、救急医療の現場において、患者の状態に応じて治療の緊急度や優先順位などを決めることだ。緊急度や優先順位を表す色別の札を患者につけ、ひと目で識別できるようにするのが一般的な方法になっている。
この方法を空き家トリアージでも取り入れ、地域特性や、売却見込額や修繕コストなどの経済性を検討して、空き家を4つの色に分類。市場性、安全性ともに高く、流通可能なものを緑色、改修やリフォームなどを施せば流通可能なものを黄色、安全性は問題がないが、市場性が低く流通不可のものを赤色、安全性に問題があり、かつ市場性も低く、取り壊しが必要なものを黒色とした。

佐渡市の空き家トリアージには、「空き家調査員育成プロジェクト協議会」のメンバーのほかに、東洋大学理工学部建築学科などの専門家も参加。シンポジウムでは、メンバーのひとりで、佐渡UIターンサポートセンターを運営している合同会社Palette代表の熊野礼美氏と、東洋大学理工学部建築学科の中村亮太氏が、トリアージを行った物件の中から、赤色の判定ながら、歴史的・文化的に価値が高いと判断した空き家について、民泊用の施設やカフェ、ギャラリーなどに改修して利活用するプランを紹介した。

空き家問題を先送りしないために、問われる「攻めの施策」

(写真上)東洋大学理工学部建築学科教授 野澤千絵氏<br>
(写真下)空き家数及び空き家率の推移-全国(1958年~2018年)総務省平成30年住宅・土地統計調査を参照して作成(写真上)東洋大学理工学部建築学科教授 野澤千絵氏
(写真下)空き家数及び空き家率の推移-全国(1958年~2018年)総務省平成30年住宅・土地統計調査を参照して作成

シンポジウムで基調講演を行った東洋大学理工学部建築学科教授、野澤千絵氏によると、トリアージの建物や土地への応用は、アメリカのデトロイトで行われていたもので、野澤氏が日本での研究を進めている。「空き家の問題は、具体的な解決策がなかなか見つからないために先送りにされがちで、結局は特定空き家になってしまいます。空き家トリアージを行い、空き家や跡地の利活用案を提案することによって、問題の先送りや特定空き家の阻止につながります」と話す野澤氏。さらに、立地や地域特性によって空き家の利活用の可能性が異なるために、地域ごとの空き家を生かしたまちづくり戦略や、利活用する空き家の担い手づくりが重要と提言している。佐渡市の「空き家調査員育成プロジェクト」が、調査員に地元人材を起用しているのも、こうした野澤氏の研究を踏まえている。

総務省の住宅・土地統計調査によると、日本の空き家は2018年10月現在で約850万戸。総住宅数に占める空き家の割合は約13.6%に達している。野澤氏は「所有者不明や相続人不在の空き家の放置や先送りは、公的コストの増大を招きます」と指摘する。空き家問題を将来世代に押しつけないためには、三浦佐渡市長が提案する「攻めの空き家問題対策」が必要で、関係者のアイデアが求められているといえるだろう。

2020年 03月15日 11時00分