遺言書が役立つケースや必要な人とは

東京都多摩消費生活センターが主催する、終活をテーマとした消費生活講座「知ってトクする暮らしの連続講座」の2019年12月11日開催「知って安心、遺言書の書き方と相続の仕方~相続法の改正を受けて~」に登壇する講師の村山氏と会場の様子東京都多摩消費生活センターが主催する、終活をテーマとした消費生活講座「知ってトクする暮らしの連続講座」の2019年12月11日開催「知って安心、遺言書の書き方と相続の仕方~相続法の改正を受けて~」に登壇する講師の村山氏と会場の様子

相続に関連して親族の間でトラブルが発生した、しそうだという話を聞くことは少なくない。そうした相続のもめごとを遺言書が防いでくれるケースがあると説明するのは、司法書士村山澄江事務所 代表、司法書士の村山澄江氏。東京都多摩消費生活センター主催、東京都立川市の東京都多摩消費者生活センターで行われたセミナーの講師で、司法書士村山澄江事務所の代表だ。

「よく言われるように、お金がからむと人は変わります」と話す村山氏は仕事柄、遺産争いに巻き込まれることもあるそうで、「相続人同士の争いが心配なら遺言書を」と呼びかけている。遺言書を書くことを勧めるケースはほかに、相続人以外に財産を残したい、特定の相続人に財産を渡したくない、事業を相続人の1人に継承させたいなどの場合がある。

また、配偶者や子どもがいない人、離婚や再婚などによって家族関係が複雑になっている人、介護を必要とする家族がいる人などにも、村山氏は遺言書を勧めている。「配偶者や子どもがいないと、両親、兄弟、おい、めいと相続人が増え、相続手続きがなかなか進まないことになりかねません。一生懸命介護をしてくれた人へ、遺言で財産を渡された方もいらっしゃいます」

「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の特徴

遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証言遺言」の3種類がある。自筆証書遺言は文字どおり自ら書いた遺言で、氏名・日付を入れ、押印して自分で保管する。手間も費用もかからないが、日付などの記入漏れで無効になるといったミスが起こり得る。自分で保管するので、紛失や盗難といった事態もある。また、相続人は裁判所で検認を受ける必要がある。遺言書の形式が整っているかどうかのチェックを受けるもので、検認を受けないと、遺言内容を銀行などで受け付けてもらえないことになる。

公正証書遺言は、公証人に作成してもらうものだ。証人2人と一緒に公証役場へ行き、遺言内容を口述する。それを公証人が記述して作成する。遺言書は公証役場で保管してもらえるので、紛失や盗難のおそれはまずない。裁判所の検認も必要ない。法的に有効な遺言を確実に作成できるが、自筆証書遺言と違って費用がかかる。証人を公証役場に依頼することもできるが、それも有料となる。なお、秘密証言遺書にかかわった人は、司法書士や弁護士などの専門家にもほとんどいないそうだ。

遺言書のポイントとして村山氏は、元気で判断能力がある間に作成すること、自筆証書遺言の場合は作成したことを、信頼できる人に伝えておくことなどを挙げている。また、遺産を相続する人が、配偶者や子どもなどの相続人でない場合などには、遺言どおりに執行してくれる遺言執行者を決めることも必要だ。

司法書士村山澄江事務所 代表 司法書士村山澄江氏作成のセミナー資料より抜粋司法書士村山澄江事務所 代表 司法書士村山澄江氏作成のセミナー資料より抜粋

遺言書がない場合に遺産を相続する方法は

相続をめぐる紛争を防ぐためにも準備しておきたい遺言書。作成の際には事前に記入内容や保管方法の確認が必要だ相続をめぐる紛争を防ぐためにも準備しておきたい遺言書。作成の際には事前に記入内容や保管方法の確認が必要だ

遺言書がない場合の相続は、「法定相続」あるいは「遺産分割協議」で行うことになる。

法定相続では、たとえば、相続人が配偶者と子どもの場合は、配偶者が2分の1、子どもが2分の1といったように、民法の規定に従って相続額が決まる。子どもが2人以上いるときは、原則として均等に分けることになっている。村山氏は「不動産が遺産の場合は分割が難しいので、法定相続はなるべく避けたほうが無難です」とアドバイスしている。

遺産分割協議とは、相続人全員で話し合って遺産を分けることだ。協議の結果は遺産分割協議書にまとめ、署名し実印で捺印して印鑑証明書を添付する。「遺産分割協議は、相続人が1人でも欠けると無効になります」と、村山氏は注意を促している。遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所で調停してもらうことができる。調停でもまとまらないと、裁判で決めることになる。

また、民法では一定の相続人に、「遺留分」として最低限の相続分を細かく定めている。遺言で遺留分が侵害された相続人は、侵害した人に対して遺留分を請求することができる。請求できる相続人は配偶者や子ども、父母や祖父母で、兄弟姉妹は請求できない。遺留分の請求には時効があり、相続の開始および遺留分の侵害を知ったときから1年、また、相続の開始から10年が経過したときとなっている。

相続法の改正でスタートするさまざまな施策

相続に関して最近の大きな話題としては、相続法の改正がある。2019年1月に「自筆証書遺言の方式緩和」、7月に「預貯金の仮払い制度」などが施行され、2020年4月に「配偶者短期居住権・配偶者居住権」、7月に「法務局における遺言書の保管等に関する法律」などが施行予定だ。

自筆証書遺言の方式緩和によって、遺書のすべてを自分で書く必要がなくなり、財産目録はパソコンなどを使って作成することや、不動産の登記簿謄本の写しを添付することも可能になった。ただし、登記簿謄本の写しなどにも自筆で署名、捺印しなければならない。預貯金の仮払い制度は、葬儀費用などに充てる一定額の払い戻しを認めるもので、これまでは相続が開始されるまで1円も引き出せなかった。

司法書士村山澄江事務所 代表 司法書士村山澄江氏作成のセミナー資料より抜粋司法書士村山澄江事務所 代表 司法書士村山澄江氏作成のセミナー資料より抜粋

2020年4月施行予定の「配偶者短期居住権・配偶者居住権」

「配偶者短期居住権・配偶者居住権」は、簡単に言うと、相続人となった配偶者が住み慣れた家に引き続き住むことを認める権利だ。2013年に非嫡出子(婚姻関係にない夫婦の間に生まれた子ども)の相続分を、嫡出子の2分1とした法律が最高裁判所で憲法違反とされ、同じ相続分に法律が改正されたことから、今度は配偶者を保護する措置が必要との意見が提起されて改正に至ったものだ。

法務局における遺言書の保管等に関する法律によって、自筆証書遺言を法務局に預けることが可能になる。その際に遺言の形式などをチェックされる予定なので、村山氏は「日付もれなどの単純なミスを防止できるのでは」と期待している。これらの改正は施行前のものはもちろん、施行されていても実例が少ないことから、どのように活用されていくのかを少し見守る必要があるようだ。法務局に保管した場合は、相続開始後の「検認」手続きが不要になる。

遺言書には付言事項を加えることができる。「家族に対する思いや遺言に託した思いを、付言事項としてぜひ残してほしいですね」と村山氏。「遺言書は残された家族への手紙」との意見に、共感を覚えたセミナー参加者は少なくなかったはずだ。

司法書士村山澄江事務所 代表 司法書士村山澄江氏作成のセミナー資料より抜粋司法書士村山澄江事務所 代表 司法書士村山澄江氏作成のセミナー資料より抜粋

2020年 01月19日 11時00分