日本の3倍以上の断熱性能があるドイツの窓

(上)世界的に見ても日本の窓はアルミが圧倒的に多い[出典:社団法人日本サッシ協会 住宅用建材使用状況調査H24.3、2010/2011 U.S.National Statistical Review and Forecast、Interconnection Consulting Group, (上)世界的に見ても日本の窓はアルミが圧倒的に多い[出典:社団法人日本サッシ協会 住宅用建材使用状況調査H24.3、2010/2011 U.S.National Statistical Review and Forecast、Interconnection Consulting Group, "Windows in Europe 2005"、日本板硝子(株)調査2011年データ] (下)各国の断熱基準。日本では気候に合わせて区分けがされ、関東以西の多くの都府県は4分類となる[出典:日本/住宅建材使用状況調査、日本サッシ協会(2016)、アメリカ・EU/日本樹脂サッシ工業会(アメリカ2010-11、EU2005)、中国/樹脂サッシ普及促進委員会(2000)]

2019年3月21日に、神奈川県で開催された横浜市主催の「新築・リフォームによる健康・快適な住まいづくり講座」。持続可能な開発を目指す「SDGs未来都市」に選定され、温室効果ガスの排出削減なども進めている横浜市にとって、省エネ住宅の推進は重要な課題のひとつでもある。講座には、住宅の建築やリフォームを検討している市民などが参加し、講師の「『高性能な』住まいの相談室」を運営する住まいるサポート株式会社代表取締役・高橋彰氏の話に聞き入っていた。

住宅の省エネ性能に関して、「日本の基準は主要先進国の中で最も低く、性能の向上には消費者の理解と関心が必要です」と訴えた高橋氏。低い日本の省エネ性能の代表例として挙げたのが窓の断熱性だ。
「熱の通しにくさを表すU値で、ドイツと日本の窓の断熱基準を比較すると、ドイツの1.3に対して、日本の横浜などの地区は4.65 。数値が小さいほど熱を通しにくいので、ドイツの窓の断熱効果は、横浜の3倍以上になる計算です」と指摘する。日本の家は窓から熱が逃げるので、冷暖房効率が悪い。エネルギーのムダが多いとも言える。
しかも、日本の基準は、アルミサッシで複層ガラスを使用した場合のもの。実際にはシングルガラスを使用している住宅が大半なので、断熱性能はさらに下がり、エネルギーのムダも大きくなることになる。また、サッシの断熱にも課題がある。
「日本の新築住宅の多くが使っているアルミのサッシは、樹脂製や木製のものに比べて約1,000倍も熱を通しやすいので、他の先進国ではほとんど使われていません」
このため、日本の窓で結露が起きるのは当たり前だが、ドイツなどの窓では結露が起きるどころか、起きてはならないものになっている。高橋氏は、断熱に対する基本的な考え方から変えていく必要があると訴えた。

いまだに続く“兼好法師の呪縛”とは?

低い断熱性能が日本の住宅にもたらすものは、冬の寒い室内だ。
「イギリスでは、健康的な室内温度を21度とし、高齢者に低体温症が表れる温度を10度としています。ところが、たいていの日本の住宅では、部屋の暖房を止めて寝ると、翌朝には10度以下になってしまうのです」と高橋氏は言う。
暖房の「房」は室内を示すので、暖房とは本来、部屋全体を暖めることを意味する。コタツやストーブなどによって部屋の一部を暖めるのは「採暖」といい、正確には暖房にはあたらない。採暖が多い日本では、エネルギーの消費量は欧米諸国に比べて少ないが、「私たちは、冬の寒さを我慢して暮らしてきたとも言えるでしょう」と、高橋氏は振り返る。
日本人がこうした断熱も暖房も少ない家づくりを続けてきたことについて、高橋氏は、兼好法師が『徒然草』に書き著した「家の作りやうは、夏をむねとすべし(家をつくるなら、夏に過ごしやすいようにつくりなさい) 」にいまだに縛られているのではないかと思っているそうだ。

断熱性の低い家が引き起こす問題に、最近よく知られるようになった「ヒートショック」がある。ヒートショックとは家の中の大きな温度の差によって体に負担がかかることで、消費者庁の調査では、交通事故の被害者をはるかに上回る年間1万9,000人もの人がヒートショックにより亡くなっているという。断熱も暖房も少ない家は寒いだけでなく、暖かい寝室と冷たいトイレや風呂場といったように、場所によって大きな温度差が生じやすく、ヒートショックを招きやすい。死には至らなくても半身不随等の後遺症に苦しんでいる人は、その何倍にも上ると言われているそうだ。低い断熱性能は、省エネだけでなく、健康寿命にもかかわる、と高橋氏は警告する。

日本の省エネ基準は、イギリスでは危険な温度とされている<br>(出典:近畿大学 岩前篤教授)日本の省エネ基準は、イギリスでは危険な温度とされている
(出典:近畿大学 岩前篤教授)

セットで考えたい高断熱と高気密

高橋氏は断熱をセーター、気密をウィンドブレーカーにたとえ、「両方がそろってはじめて、冬でも暖かく過ごせます」と、高断熱・高気密をセットにすることで快適な住宅になると言う。たとえば、人間の体感温度は室温と壁面温度の平均値と言われていて、高断熱・高気密住宅と低断熱・低気密住宅では、後者は室温と壁面温度とに差が生じ、壁面温度の方が低くなるので、壁や窓などからの輻射熱で寒く感じ、室温をより高くしなければ体感温度が同じにならない。そのため、快適性は落ちることになる。
高気密化することによって、すきま風が防止でき、室温の均質化、冷暖房効率の向上を図ることができるほかに、壁内結露(内部結露)の防止や、空気の流れをコントロールできることで計画換気も可能になる。
「高断熱でも高気密でないと壁の中に結露が発生することがあります。そうなるとカビやダニ、シロアリのリスクが生じ、住宅の耐久性に影響してしまいます。窓などにできる表面結露と違って、結露が見えないのでやっかいです」と、高橋氏は注意を促した。

高断熱・高気密住宅の欠点としては、「冬の過乾燥」と「室内の音」が挙げられる。高橋氏は、過乾燥対策としては漆喰などの調湿効果のある内装材の使用や洗濯物の部屋干しエリアの設置、外の音が入りにくいためかえって室内の音が気になるという点については、トイレの配置などに留意することを勧めている。

気密性・断熱性の低い家では、いくら暖房をかけてもなかなか暖まらない。その理由は壁面温度との差にある気密性・断熱性の低い家では、いくら暖房をかけてもなかなか暖まらない。その理由は壁面温度との差にある

EUではすでに義務化された住宅の燃費表示

実際に高断熱・高気密の住宅を建築する上で、目指すべき性能について、高橋氏は専門家の意見などを集約して、以下の数値をあげている。
「住宅の断熱性能を表すUA値は、ZEH住宅の基準である0.6以下、できれば0.46以下、可能ならば0.30以下を目指してください。0.46以下になると本当に快適な住まいになります。窓の断熱性能は、高断熱住宅ならU値2.33以下、できればドイツ並みの1.3以下を勧めます」

現在の省エネ基準に、気密性能に関する規定はないが、高橋氏は「住宅の気密性を示すC値を1.0以下にすることが、高気密住宅のひとつの目安になります」と言う。ただ、C値は設計図ではわからず、実際に気密測定を行う必要がある。そのため、高気密の住宅を求めるなら、住宅会社を選ぶ際に、「気密測定を実施していますか?」と確認することが必要だろう。

こうした数値とともに、住宅の「燃費性能」も気にかけることを高橋氏は提案している。
「燃費は、自動車の評価を左右しますよね。同じように住宅でも重視すべきです。すでにEU諸国では住宅の燃費の表示が一般化していて、どんな小さな広告にも入っています」。
住宅の新築にあたっては、イニシャルコストである建築費を重視しがちだが、燃費にあたる光熱費などのランニングコストとのバランスを考えて仕様を決めることを、高橋氏は推奨する。高気密・高断熱化すると建築費は増えるが、逆に冷暖房にかかる光熱費を大幅に削減できるので、住宅ローンの増額分よりもむしろ月々の支払額は減ることも多いそうだ。

各国の住宅の燃費表示(出典:松尾設計室)各国の住宅の燃費表示(出典:松尾設計室)

予算に合わせて実施したい断熱リフォーム

(上)一戸建ての部分リフォームの例。LDKと水回り、2階の主寝室に断熱工事を行う[出典:株式会社バウハウスデザイン](下)マンションでは、多くの場合は隣接住戸があるため、主に玄関と窓のリフォームとなる(上)一戸建ての部分リフォームの例。LDKと水回り、2階の主寝室に断熱工事を行う[出典:株式会社バウハウスデザイン](下)マンションでは、多くの場合は隣接住戸があるため、主に玄関と窓のリフォームとなる

断熱リフォームについては、窓のリフォーム、部分リフォーム、全面リフォームの3タイプが考えられる。全面リフォームでは建て替えの70%前後の費用が目安になることから、予算に応じて選択したい。部分リフォームは、リビングやダイニング、水回りをセットで断熱し、できれば主寝室も行うことを高橋氏は勧めている。費用は500万円から600万円程度が目安になるそうだ。
マンションの断熱リフォームについては、窓などを勝手に交換することはできないので、断熱材とインナーサッシの組み合わせで対応するのが一般的だ。また、玄関部分の断熱性が低いので、リビングなどとの間に気密ドアを設け、リビング側の断熱性を確保するとよいという。

日本の住宅は穴の開いたバケツのようなもので、「いくら暖房や冷房に力を入れても、室内の空気が外に流れ出てしまいます」と高橋氏。まずはバケツの穴をふさぐことが大切であること、それはSDGsに貢献するといった大きな話だけではなく、身近な健康や節約につながることを、出席者は改めて理解したのではないだろうか。

2019年 05月09日 11時05分