まちづくり活動+トリエンナーレで活性化した長者町

あいちトリエンナーレの背景などについてお伝えした前回に続き、今回は、過去2回の開催によって、まちや人にどんな変化が現れたかを紹介する。まずは、まちの変化について。

前回の記事の後半で取り上げた長者町会場の繊維街は、戦後には全国有数の繊維問屋街として栄えていたまち。それがバブル崩壊以降、繊維業そのものの衰退などの理由で商店街に空き店舗が目立つようになり、まちは活気をなくしていった。しかし、まちの人たちが「これではいけない、何とかしなければ!」と立ち上がり、2000年頃からまちづくり活動を開始した。

そんな折、2010年にあいちトリエンナーレが開催されることになり、メイン会場となる愛知芸術文化センターと名古屋市美術館をつなぐ、まちなか会場を設けることになった。いくつかのルートが候補に挙がったなかで、空きビルや空き店舗があり、まちづくり活動にも精力的に取り組んでいる長者町なら空間的な可能性が大きいということで、会場に決定したのである。

こうして会場となった長者町繊維街は、空間としてだけでなく活動でも盛り上がりを見せた。なかでも際立っていたのが「長者町ゑびす祭り」での山車を曳いた練り歩きだ。アーティストのKOSUGE1-16(こすげ いちのじゅうろく)が繊維街とコラボーレションし、戦争で焼失した山車を再生させるというプロジェクトを実施。祭りとあいちトリエンナーレの相乗効果により、まちは大いに活気づいた。

その結果、前回の記事で触れたとおり長者町繊維街の空き店舗が減り、あいちトリエンナーレ2016の会場探しに苦労するまでになったという。長者町会場に訪れる際は、ぜひそんなまちのエネルギーも感じていただきたい。

あいちトリエンナーレ2010の展示風景<br />
長者町ゑびす祭りで曳かれるKOSUGE1-16の《長者町山車プロジェクト:かたい山車》、長者町通<br />
photo:石田亮介あいちトリエンナーレ2010の展示風景
長者町ゑびす祭りで曳かれるKOSUGE1-16の《長者町山車プロジェクト:かたい山車》、長者町通
photo:石田亮介

トリエンナーレで変化を遂げた伏見地下街

長者町会場ではもう一カ所、トリエンナーレがきっかけで変化を遂げた場所がある。市営名古屋地下鉄・伏見駅の東改札口から直結する「伏見地下街」だ。1957年(昭和32年)にオープンした伏見地下街は、古くて場所もわかりづらく、あまり注目されることのない空き店舗が目立つ商店街だった。

だが、第2回目のあいちトリエンナーレの参加アーティスト、台湾の「打開連合設計事務所」が伏見地下街を下見した際に創作意欲を駆り立てられ、リノベーションすることになったという。打開連合設計事務所は、台湾で古い建物や店舗をリノベーションすることで著名な団体。あいちトリエンナーレでは、地下鉄の出入口を青く塗ったり、地下街にだまし絵のような階段を描いたりして、古いだけだった空間を不思議な魅力を放つ空間に生まれ変わらせた。

商店街の意向でそれらの作品が残されることになり、現在も伏見地下街の様子は当時のまま。それにより注目が集まり、新しい店が入り、現在では入居待ちが17件ほどになっているという。あいちトリエンナーレ実行委員会事務局の水野亜依子さんは、現在の伏見地下街についてこう話す。

「レトロな部分と新しい現代アートの部分を楽しめる空間になったことで、新たに入店したお店と、昭和レトロな呉服屋さんや薬局などが混在する面白い場所に変わってきていています。トリエンナーレはまちづくり活動ではないので、事務局としてまちづくりに関して特に何かするということはなく、作品をまちに託すだけです。まちの方々がトリエンナーレの余韻を利用しながら上手にまちの活性化につなげている、ということが続いているようですね」

あいちトリエンナーレ2013の展示風景<br />
打開連合設計事務所 《長者町ブループリント》2013<br />
photo:怡土鉄夫あいちトリエンナーレ2013の展示風景
打開連合設計事務所 《長者町ブループリント》2013
photo:怡土鉄夫

岡崎市民も知らないエリアが注目のスポットに

では、第2回目に会場となった岡崎市は、どうだったのか。「一番手応えが大きかったのは『オカザえもん』だと思います」と、あいちトリエンナーレ2016のアーキテクトの武藤隆さんは笑う。

オカザえもんというのは、あいちトリエンナーレ2013の開催に伴い、岡崎市から“岡崎アート広報大臣”に委嘱された(非公式)マスコットキャラクターのこと。そのユニークな活躍ぶりについて、武藤さんが教えてくださった。

「実はオカザえもんは、トリエンナーレに先駆けて前年に行われる地域展開事業『あいちアートプログラム』のときに誕生したキャラクターなんです。プレイベントのお披露目のときには皆さんから、気持ちが悪い……といわれていましたが、あいちトリエンナーレの広報大使となったことで、イベントがあるたびに来てくれていました。それがいつの間にか、ゆるキャラグランプリに出るなどして全国的な知名度に。今ではセントレア(中部国際空港)にオカザえもんグッズがお土産として並ぶなど、トリエンナーレとは関係なく岡崎市のキャラクターとして活躍しています」

岡崎のまちの様子については、前回が初の会場となったため、見えてくるのはこれからだと思うとのことだが、すでに変化が現れていることもある。たとえば、展示会場の1つとなった松應寺周辺は岡崎市民にもあまり知られていないエリアだったが、かつて花街として栄え、狭い路地や木造アーケードから昭和の香りがただようという雰囲気に魅了された人々が、トリエンナーレが終わったあとも訪れる場所になっているという。

今や岡崎を代表する著名人(?)となったオカザえもん今や岡崎を代表する著名人(?)となったオカザえもん

トリエンナーレに刺激を受けた少女が時を経て参画

アートティーチング・トイ体験の様子<br />提供:愛知県児童総合センター<br />
過去2回のトリエンナーレで“キッズトリエンナーレ”とされていた普及教育プログラムが、あいちトリエンナーレ2016では「エデュケーションプログラム」として子どもから大人まで参加して楽しめる内容に一新されているアートティーチング・トイ体験の様子
提供:愛知県児童総合センター
過去2回のトリエンナーレで“キッズトリエンナーレ”とされていた普及教育プログラムが、あいちトリエンナーレ2016では「エデュケーションプログラム」として子どもから大人まで参加して楽しめる内容に一新されている

まちの変化だけでなく、あいちトリエンナーレの特長“アートがまちに飛び出す”ことで人に大きな影響を与えることもある。水野さんが、ある女子高生のエピソードを紹介してくださった。

「その女の子が小学生のときに第1回目のトリエンナーレを見て、自分が普段通っているまちの中で大きなアートイベントが行われたことに衝撃を受けたそうです。そのときに『自分も何かやりたい!』という思いが芽生え、それから6年が経ち、あいちトリエンナーレ2016が開催される年を迎えました。自分の意思を持って動けるようになった女の子は、今回あいちトリエンナーレで行われる連携事業に応募し、長者町からトリエンナーレや開催地の情報を発信しています」

さらに水野さんはこう続ける。

「あいちトリエンナーレが開催される74日間、子どもたちや若い人たちが、自分の生き方が変わるような刺激的な体験をすることができる。これはたぶん、箱もののなかだけの開催では叶わないことだと思います。自分が住んでいる日常的な場所でいつもと違う非日常的体験があり、それに触れることで、ものの見方が変わる瞬間がある。それはとても大事なことではないでしょうか。だからこそ、あいちトリエンナーレはこれからもずっと“アートがまちに飛び出す”芸術祭であり続けたいですね」

アートを通じて、まちや人にさまざまな影響を与えてきた過去2回のあいちトリエンナーレ。第3回目となる2016年は、訪れる人にどんな刺激を与えてくれるのだろう。次の記事では、あいちトリエンナーレ2016の見どころを紹介する。

【取材協力】
あいちトリエンナーレ実行委員会事務局(愛知県県民生活部文化芸術課国際芸術祭推進室内)

2016年 08月13日 11時00分