タイミングが遅すぎる成年後見の相談が多い

東京都多摩消費生活センター主催の、終活をテーマとした消費生活講座「知ってトクする暮らしの連続講座」2019年12月3日開催の「今からでも間に合う、老後の財産管理~成年後見制度と民事信託~」に登壇する司法書士村山澄江事務所代表 司法書士 村山澄江氏東京都多摩消費生活センター主催の、終活をテーマとした消費生活講座「知ってトクする暮らしの連続講座」2019年12月3日開催の「今からでも間に合う、老後の財産管理~成年後見制度と民事信託~」に登壇する司法書士村山澄江事務所代表 司法書士 村山澄江氏

司法書士で、司法書士村山澄江事務所の代表、村山澄江氏は「成年後見制度」に詳しく、後見人を務めた経験も豊富なエキスパートだ。その村山氏が、2年前に気づいたのは「成年後見の相談を受けるタイミングが遅すぎる」ということだった。

たとえば、父親が認知症で判断能力が低下してきたので、自宅を売却して施設の入居費用を捻出したいといった相談が、その代表的なものだ。

「本人の判断能力が低下してからでは、後見人をつける以外に対策が見つかりません」と村山氏は解説する。もちろん、身寄りのない認知症の方が、後見人をつけることによって生活状況が改善したという例もあり、村山氏は「後見人をつけないほうがいいということではありません」と言う。しかし、判断能力が低下する前なら、さまざまな対策から最適なものを選ぶことができ、結果として費用も時間も節約できることが少なくない。

「家の売却」と「定期預金の解約」ができない

振り込め詐欺対策もあり、家族であっても定期預金の解約は難しい振り込め詐欺対策もあり、家族であっても定期預金の解約は難しい

認知症などによって判断能力が低下し、後見人をつけないとできなくなることで、家族がもっとも困るのが「家の売却」と「定期預金の解約」だ。不動産の売却には提出しなければならない書類も多く、判断能力が低下した人が処理するのは不可能だ。定期預金の解約は、振り込め詐欺対策もあって、銀行の本人確認が厳しくなっているので、家族でも代わって行うことは許されない。「後見人制度は、後見を受ける本人の資産などを守るためのものですから」と村山氏は言い、利息のメリットが少なくなった定期預金は本人が元気なうちに普通預金にしておくことを勧めている。普通預金はキャッシュカードで家族でも引き出せるからだ。

判断能力が低下するとできなくなることには、ほかに「相続が発生し、遺産分割をする」「遺言書を書く」「税金対策で生前贈与をする」「保険金を受け取る」などがある。この中で「保険金の受け取り」については、請求する人が本人というケースもあるので、「指定代理請求という制度があります」と村山氏は、代理人が本人に代わって保険金請求することができる制度の活用を呼びかけている。ただし保険商品によっては、利用できないこともあるので、保険会社への確認が必要だ。

近年、低下している親族が後見人になる割合

成年後見制度には、法定後見と任意後見の2種類があり、法定後見は後見を受ける本人の判断能力が低下している場合で、後見人を家庭裁判所が選定する。本人に残された判断能力の程度によって、後見人は後見、保佐、補助に分かれ、医師の診断書に基づいて、いずれかを申し立てることになる。法定後見を家庭裁判所に申し立てる際には、必要書類とともに、希望する後見人候補なども提出する。候補者が後見人にふさわしいかどうかを、専門の調査官が調査・鑑定し、最終的に裁判官が選定。審判書で後見人が通知される。なお、後見人には特別な資格は必要ない。

近年の傾向では、本人の流動資産が1,000万円以下では、親族が後見人に選任されるケースがほとんどだが、1,000万円以上では司法書士や弁護士などの専門職が後見人に就くケースが多く、村山氏によると「全く知らない専門職が選任されることもあります」とのことだ。専門職が後見人に就いた場合には、報酬が発生する。報酬額は家庭裁判所が決め、裁判所のホームページには料金表が掲載されている。

親族が後見人に選定されると、家庭裁判所の判断で後見監督人をつけられることがある。これは文字どおり後見人を監督、チェックする人で、弁護士や司法書士が選任される。また、家庭裁判所が「後見制度支援信託」を親族の後見人に勧めることもある。これは後見人の手元に200万円から500万円だけを残し、残りのまとまった資産を信託銀行に入れてしまう成年後見制度専用の信託。最近、信託銀行以外の金融機関も対応できる「後見制度支援預金」も始まっている。仕組みは「支援信託」と同様だ。

出典:法務省ウェブサイト「いざという時のために 知って安心成年後見制度パンフレット」より(http://www.moj.go.jp/content/001287467.pdf)出典:法務省ウェブサイト「いざという時のために 知って安心成年後見制度パンフレット」より(http://www.moj.go.jp/content/001287467.pdf)

「任意後見」と「家族信託」の特徴とメリット

一方、任意後見は判断能力のある人が、自分で後見人を決めるもので、任意後見契約を公正証書で締結する。そして、判断能力が低下したら、任意後見監督人選任の申し立てを家庭裁判所に行い、契約を発効させる。任意後見契約にはオプションの契約として、定期的な訪問や電話連絡などで本人を見守る「見守り契約」、銀行の手続きなどを委任する「財産管理等委任契約」、死亡後の葬儀やお墓の手続きなどを委任する「死後事務委任契約」がある。死後事務委任契約は、「おひとりの方に需要があります」と村山氏は説明している。

そして、使い勝手のよさで話題になっているのが「家族信託」だ。家族間で行うことが多いので、そう呼ばれているもので、正式な法律用語ではない。家族信託は、たとえば父親が委託者として、自宅や所有不動産などの財産を、受託者である子どもに託し、受託者は財産の管理・運用・処分を行って、その運用・処分による利益は、父が受益者となって受け取るというものだ。受託者である子どもは、形式的に不動産などの財産の名義人になる。また、金融資産については、受託者が信託用の口座をつくり管理することになる。

信託する財産は、借金以外は何でもいいので、柔軟な財産管理処分ができること、成年後見制度の代用になること、遺言と同等以上の効果を発揮できること、遺産分割協議が必要ないこと、株の分散を事前に防止できるので、事業継承に利用できることなど、さまざまなメリットが家族信託にはある。家族信託の手続きは司法書士や弁護士が行うケースが多く、最低30万円から50万円の費用がかかる。

講座にて配布された司法書士村山澄江事務所代表、村山澄江氏作成の資料から抜粋講座にて配布された司法書士村山澄江事務所代表、村山澄江氏作成の資料から抜粋

判断能力に問題がない元気な間に準備したい

「家族信託も、任意後見も、遺言を書いておくことも、判断能力に問題がない元気な間なら、すべて選ぶことができます」と、村山氏はできるだけ早く準備することを呼びかけ、手始めとしてエンディングノートで現状を整理することや、将来はどうしたいかを家族と話し合うことを勧めている。

「預金のリストをつくるだけでも、残された家族は助かるんですよ」と村山氏。認知症は今や誰もがなる可能性があり、誰もが備える必要がある。いざというときに家族をはじめ周囲の人が困らないようにしたい。そんな切実な思いや願いといったものが、東京都多摩消費生活センター主催による東京都立川市で行われたセミナー会場からは伝わってきた。セミナーには定員の100名を超える申込者があり、会場は満員だった。

東京都多摩消費生活センター主催、終活をテーマとした消費生活講座「知ってトクする暮らしの連続講座」の様子東京都多摩消費生活センター主催、終活をテーマとした消費生活講座「知ってトクする暮らしの連続講座」の様子

2019年 12月29日 11時00分