相次ぐ大地震。首都直下地震への備えは?

地震大国・日本では、震度1程度の身体に感じないものを含めれば毎日複数回の地震が起こっている。2018年に入ってからは、6月に大阪北部地震、9月には北海道胆振東部地震と、マグニチュード6を超える地震が相次ぎ、防災意識を新たにした人も少なくないだろう。

政府の地震調査研究推進本部事務局が発表した『全国地震動予測地図2018年版』によると、東京で今後30年以内に震度5強以上の地震が起こる確率は26%以上。震度6弱以上の地震の確率も都の東側を中心に高くなっており、いつ大地震が発生してもおかしくないという状況が続いている。このような状況で、どのように地震に備えればいいのだろうか?
東京都が実施している耐震キャンペーンの一環として2018年10月12日に行われた、「首都直下地震への備え」と題したフォーラムに参加してきた。

大阪と北海道、同じ震度でも被害には大きな差が

基調講演に登壇した福和伸夫教授基調講演に登壇した福和伸夫教授

冒頭に行われた基調講演に登壇したのは、名古屋大学減災連携研究センター長・教授の福和伸夫氏。『次の震災について本当のことを話してみよう。』と題し、大都市に人口が集中していることや、脆弱なインフラに対する危機感とともに、一人ひとりが地震対策を行う重要性を訴えた。

福和教授によれば、大阪北部地震はマグニチュード6.1、最大震度6弱という規模で死者5名、負傷者435名、建物は全壊12、半壊273、一部損壊41,459という被害が出た。発生が通勤・通学時間帯に重なったことで交通機関が麻痺。6万6,000基ものエレベーターが緊急停止し、300人以上が閉じ込め事故に遭った。同程度の規模の地震は日本全国どこでも起こる可能性があり、もし、これが東京で起こったとすると、これ以上の被害が出ることは想像に難くない。

一方、北海道胆振東部地震では、目立ったのは土砂崩れや埋め立て地の地盤沈下などによる被害だった。同じ震度6弱だった札幌市東区と大阪市北区の被害状況を比較すると、一部損壊住家数は、札幌の314棟に対し、大阪では35,349棟。実に100倍もの差がついたことになる。
人口密度の差もあるだろうが、「北海道の場合、『土地に余裕があるので平屋が多い』、『寒さ対策のため窓が少ない』、『雪の重さ対策で軽い屋根が使われている』、『土が凍ってしまうため基礎がしっかりしている』といった、雪国ならではの住まい事情があります。こうした建物は地震にも強いため、大阪の地震に比べて被害が少なかったのではないでしょうか」と、福和教授は推察する。

また福和教授は、大阪北部地震の被害が大きくなったのは「災害そのものではなく社会にも原因がある」という。
「大都市圏に人口が集中して高層の建物が増えていることや、効率やコストダウンを重視するあまり、ギリギリの強度しかない建物が増えていること、交通網をはじめとするインフラの脆弱さなどが、被害の拡大を招く要因となっているのではないでしょうか」

大規模災害になればなるほど、行政の対応も追い付かない可能性が高い。
「東京の消防庁に所属する消防士は約1万8,000人。人口約1,400万人の東京都を完全にカバーすることは難しい」と福和教授。
いざ大規模災害が起こった時、行政の手が届かないとなれば、事前に自分自身で万全の対策をしておくことが必要になる。いかに普段から地震に対する知識を蓄えておき、対策を行えるか。「敵(=地震)を知り、己を知る」ことが重要だと福和教授は話した。

明日は我が身。熊本地震から見る減災

吉本直樹氏(上)座屈マンションの様子とハザード(危険要因)。現場に到着したら、まずどのような危険があるかを評価する(下)吉本直樹氏(上)座屈マンションの様子とハザード(危険要因)。現場に到着したら、まずどのような危険があるかを評価する(下)

続いて登壇したのは熊本地震の際に救助活動に従事した、熊本市消防局東消防署 警防課長代理消防司令の吉本直樹氏。座屈(柱などの細い部分に大きな力がかかって破損してしまうこと)マンションから逃げ遅れた人たちを救助した体験を語った。

現場は、築42年、7階建てのマンション。最上階に数名逃げ遅れた住民がおり、救助に向かった。1階が駐車場になっているつくりだったため座屈、車はペシャンコに潰され、建物全体が傾いていた。ガソリンが漏れ出し、あたりにはガスのにおいも漂う。さらに、強い余震が断続的に続く、危険な状態だったという。停電中でエレベーターは動かず、建物内部も崩壊していたため、まずは救出可能なルートを探り、安全を確認してからの救助活動となった。
細心の注意を払って要救助者を全員ベランダから助け出すと、その後、全戸の扉を叩いて逃げ遅れを確認。13名を発見し、無事救助することができたそうだ。

熊本市内の被害状況を見ると、座屈してしまった建物はいずれも、1階部分が柱のみで支えられたピロティ構造であったり、ガラス張りの開口部だったりと、壁が少ない構造となっていたそうだ。また、旧耐震基準に合わせて作られた古い建物の被害が多かったという。壊れた建物を修復するにしても解体するにしても、かなりの金額がかかってしまう。一部でも耐震補強をしておけば…というケースもあっただろう。

自らも被災した吉本さんは、「家具は必ず固定しておくべき」と言う。
「自分でも使って有効だったのはL字金具。壁に傷がつくのを嫌がる人もいますが、自分がケガをするのとどちらがいいか考えてみてください」
ちなみに、もし建物の下敷きになるなど身動きがとれない状態になってしまったら、シグナルを出してほしい、と吉本さん。何かを叩いたり、声を上げたりすることで発見しやすくなるのだそうだ。

吉本さんによれば、個人で行う地震への備えとして最も必要なのは食料と水。中でも水は、飲料としてだけではなく、トイレや洗い物などの生活用水としても必要となる。タイプによっては停電してしまうと流せなくなるトイレもあり、停電・断水時には非常に苦労したそうだ。また、停電時はクレジットカードや電子マネーが使えなくなることから、ある程度まとまった現金も備えておくことが必要だと話していた。

シミュレーションで耐震補強の効果を実感

後半は、再び福和教授が登場。「ぶるる」と名付けた簡単な模型を使い、耐震補強の効果を実感できる実験を行った。

まず、テーブルを使用して、どうすれば強い家になるのか?をシミュレーションした。テーブルの上に立った人を建物に見立てると、足をそろえてまっすぐに立つよりも、足を開き、重心を低くした方が安定する。また、立ったままでも、膝で衝撃を吸収したり、しっかりと踏ん張ったりすると安定する。つまり、高層ビルよりも平屋、同じビルなら免震構造や耐震構造になっている方が揺れに強いということである。さらに、屋根に見立てた椅子を持つと、屋根の重さや重心の変化により、建物が不安定になってしまうことも分かった。

続いて、木製の「ピノキオぶるる」を使って、どのように耐震補強すれば丈夫な家になるのかを実験した。2階建て住宅の木造模型に、筋交いや耐震壁を入れていく。窓以外のすべての面にバランスよく筋交いもしくは耐震壁が入った状態だと、揺らしても影響はない。しかし、ある一面の筋交いを減らすと、それだけで家は崩れてしまった。
さらに、南側の屋根に太陽光パネルを乗せる想定で、片側の屋根を重くする。すると家のバランスが悪くなり、先ほどと同じ補強では支えきれないことが分かった。そこで、重いパネルが乗っている南側の壁にしっかりと耐震壁を入れて補強すると、揺らしても崩れない、丈夫な家ができあがった。

福和教授の研究室では、こうした実験が気軽にできる「紙ぶるる」を制作、HP上で配布している。実際に自分でシミュレーションしてみると、耐震補強の重要性が実感できるはずである。

屋根と柱だけの「ピノキオぶるる」(左上)<br>筋交いや耐震壁を入れていく(右上)<br>片方の屋根を重くすると、バランスが変わる(左下)少し揺らしただけで崩れてしまった(右下)屋根と柱だけの「ピノキオぶるる」(左上)
筋交いや耐震壁を入れていく(右上)
片方の屋根を重くすると、バランスが変わる(左下)少し揺らしただけで崩れてしまった(右下)

耐震補強をしたいと思ったら

首都直下型地震が起こった際に想定される被害首都直下型地震が起こった際に想定される被害

それでは、実際に自分が所有する住宅の耐震補強をしたいとき、どのように進めればよいのだろうか。また、費用はどれくらいかかるのだろうか。フォーラムの最後には、耐震補強に際して利用できる助成制度についての紹介があった。

東京都の区市町村では、耐震工事に対して助成金制度を用意しているところが多い。まずは各自治体が設置している耐震担当窓口や、東京都の耐震化総合相談窓口に事前相談をしてみることだ。その後、専門家による耐震診断を行い、どのように耐震改修を進めるかの補強設計をしてから、耐震改修工事に入る。費用の目安は、耐震診断で10~20万円、補強設計で約30万円、耐震改修工事に150~500万円程度かかるが、それぞれの段階で助成金が利用できるほか、旧耐震基準で建てられた建物に関しては固定資産税や都市計画税の減免を受けられる可能性もあるので、事前相談の時に詳細を確認しておくとよいだろう。
東京都では、耐震に関して「耐震ポータルサイト」で情報を発信しているので、耐震改修を考えている場合はチェックしておきたい。

いつかくる大地震、それは30年後かもしれないし、明日かもしれない。行政に頼りすぎずに、一人ひとりが自分事として地震への備えを行うことが、何よりも効果的な防災になるのかもしれない。


■東京都耐震ポータルサイト
http://www.taishin.metro.tokyo.jp/

2018年 11月20日 11時05分