港まちならではの視点で空き家を再生するプロジェクトが始動!

空き家再生スクールの監督役・大同大学の米澤隆氏。木造住宅のリノベーション手法を分析し、それを元に作成したアイデアの集積と具体的な生活像の想定を組合せ体系化した「空き家再生データバンク」を作成し、SDレビュー2015入選。愛知県津島市の築80年の長屋群の再生プロジェクトなどにも携わる空き家再生スクールの監督役・大同大学の米澤隆氏。木造住宅のリノベーション手法を分析し、それを元に作成したアイデアの集積と具体的な生活像の想定を組合せ体系化した「空き家再生データバンク」を作成し、SDレビュー2015入選。愛知県津島市の築80年の長屋群の再生プロジェクトなどにも携わる

アートを取り入れた防災プロジェクトや、クリエイティブな視点で街づくりを考える「ポットラックスクール」など、エッヂの効いた街おこしを行っている名古屋市港区の「港まちづくり協議会(以下まち協)」。
今回まち協のアートチームが中心となって開催したのは、「空き家再生スクール」。
日本国内で約820万戸もの空き家が存在し、昨今、どの地域でも抱える空き家問題を「港まち」ならではの視点で考えてみようという試みである。
プロの大工を講師に迎え、地域にある物件を対象に、実践を通して空き家再生のノウハウを学んでみようというプログラムだ。

「実際に見てみると、スクールとして使うには“最悪”に近い物件でした(笑)」と話すのは、今回のスクールに建築の専門家として携わった米澤隆氏。大同大学工学部建築学科の講師であり、工学博士、そして一級建築士の資格をもつ米澤氏から見ると、素人が参加して改築を行うには難しいのでは?と思うような手ごわい物件だったそう。

どんな建物なのか、米澤氏とまち協でコーディネーターとして活動する児玉美香さんに案内してもらい、現場を訪れた。

ちぐはぐな梁、ゆがんだ床。“最悪の物件”空き家は再生できるのか?

まち協の拠点「ポットラックビル」から徒歩1分ほど。5軒長屋の真ん中にある建物が今回のスクールの会場。戦後すぐに建てられたもので、20年前まで寿司屋として使われていたものだ。外から見る限り、そこまで大変な様子はないのでは?と思ったが、中に入ってみると複雑な構造になっているのが素人目にもわかる。
梁が何本も入ってはいるが、ちぐはぐな箇所があったり、歪みが出ている場所もあるように見受けられた。

「戦後まもなくは焼け野原から使えそうな資材を持ち寄ってきて、住まいを建てるというありあわせの建築が多く、現代の建築基準からすると到底考えられないような危うい作りになっているんです」と米澤氏。
もちろん耐震も現代の基準に合わせなくてはいけない。そのため、構造設計士にもアドバイザーとして参加してもらい、施工の指揮・監督には工務店である株式会社丸協の協力のもと、熟慮をかさねて改築をスタートさせたそう。

今回は、この物件を全7回に分け、構造体から改修する作業を体験できるものとなっている。

5軒長屋の真ん中が旧・潮寿司。真ん中にある建物が補強されることで、長屋自体の強度も強まるという利点がある5軒長屋の真ん中が旧・潮寿司。真ん中にある建物が補強されることで、長屋自体の強度も強まるという利点がある

建物の構造体から手を入れられる、珍しいイベント

スクールは全7回で、2016年7月~8月の土日に行われた。内容をあげてみよう。

[第1回] 建物を雨から守ろう
[第2回] 建物を地面に固定しよう
[第3回] 柱と梁の接合部を固定しよう
[第4回] 地震に耐える壁をつくろう
[第5回] 床組みをつくろう
[第6回] 建物を支える床をつくろう
[第7回] 予備日

これを見るとわかるように、建物の構造から再生していく過程を学べる内容となっている。
タイルを敷いたり、ペンキや漆喰を塗るなど、簡単なリフォーム体験はよく見かけるが、構造体から見て触って、自ら手を下せるというスクールは、なかなかない。とはいっても、素人が手を出すには限界もある。
「スクールの参加者を労働力としてみるのではなく、ある程度の下ごしらえや準備は、講師となる大工さんたちにやっていただいて、ハイライトだけ参加者にやってもらうという形式にしました」(米澤氏)。

例えば第2回目などは、建物の基礎と柱を接合するという建物の根幹に関わる作業を体験。そもそも「地面に固定しよう」といわれても、固定されてなかったの?と驚いてしまうが、老朽化により基礎と上にのっている建物がずれてしまったり、基礎と木の間に隙間が空いてしまうことが戦後の建物にはよくあるのだそうだ。
スクールでは、こういった接合されていない部分にコンクリートを新たに流し込んだり、金物で固定したりという作業を体験。こちらの建物、継ぎ足され増築された箇所もあるようで、柱と梁がちぐはぐで接合されていない部分もあった。そこを第3回目で改修。
4回目の「地震に耐える壁をつくろう」の回では、地震の揺れを面で受け止めることで建物自体の倒壊を防ぐといった仕組みを、事前に参加者にレクチャー。知識と体験、同時に吸収できるスクールとなった。

「古い建物を再生することは、想像以上に大変です。新築とは全く違う労力が必要となることもあります。例えば床をはがしたり、壁を取り壊してみたら思いもよらない構造になっていたりして、設計から考え直さなければならなかったり。しかし、こうしたことを実体験として知ることが、今回のスクールの狙いでもあるんです」と、米澤氏は言う。

写真左上:宴会場として使われていた二階の梁。途中で途切れていたりちぐはぐになった箇所を、固定していく必要がある。左下:天井の漆喰もボロボロ。雨漏りもひどかったそう。外壁部分に防水シートを張り、内側には断熱材を入れることになる。写真右:土壁だった箇所も老朽化が激しい写真左上:宴会場として使われていた二階の梁。途中で途切れていたりちぐはぐになった箇所を、固定していく必要がある。左下:天井の漆喰もボロボロ。雨漏りもひどかったそう。外壁部分に防水シートを張り、内側には断熱材を入れることになる。写真右:土壁だった箇所も老朽化が激しい

気温39度を超える酷暑の中行われた最終回!埼玉からの参加者も。

各回の参加は限定10人。木造建築の仕組みや、古民家のリノベーションに興味がある人や、家具職人、職人技を習得したい人、名古屋市の職員など、毎回5~10人がスクールに参加した。

筆者がお邪魔したのは第6回。
午後の部の参加者は5名で、なかには20代の女性の姿も。ハウスメーカ―勤務で新築の現場に携わる浅岡みづきさんは、同じ会社に勤める同僚の松井理沙さんと「新築の現場とは違ったものを見られるのではないかと思って」参加してみたそう。男性ばかりの活気溢れる現場で、戸惑っている様子もあったが、柱に壁を固定する釘打ちを手際よくこなしていた。
米澤氏が講師を務める大学の院生・高木翼さんは「空き家のリノベーションを研究していて、実際に空き家がどのように再生されていくのか興味があって参加しました。現場は想像以上に活気があって驚きました。ビスを打つ間隔や大工さんの手際の良さなど、実際に見てみるとすごいなぁと思うことがたくさんあります」と、流れる汗を拭きながら話していた。

午前の部には、埼玉から参加したという女性も。不動産のオーナーでもある広崎千里さんは
「参加者もそうですが、大工さんや、スクールに携わる人たちの熱意が伝わってきましたし、単なるリノベーションというだけでなく、建物の構造を説明してくださったり、空き家を再生する過程をかなりつっこんで体験できたと思います。自分がオーナーとなっている物件の修繕や、空き家になったときの利用法を考えるヒントとなった一日でした」と話していた。

また、空き家再生には、街の人の理解が不可欠。米澤氏の元でコーディネータをしていた田邉健吾さんは
「空き家を再生するために地域に入っていくことの難しさや楽しさを学ぶことができました」と話す。現場での食事は近くのお店を利用し、店主と会話をしたり、近所の人へのあいさつを欠かさないことで、工事に対する理解と信頼をしてもらえるような関係づくりに努めたという。

写真左上:現場で指揮を執る大工の表野芳紀さんに釘打ちの方法を教わる松井さん。左下:松井さんと午後の部から参加した浅岡さん。女性二人とも釘打ちは「なかなかの腕前」と褒められていた。右上:大学院生の高木翼さんはほぼ全回参加。現場でも“なじみのメンバー”として活躍していた。右下:最終回は、2階の壁と床を張る作業。下地自体に歪みがあるので、高さを調整したり、細かい詰めが必要となる箇所が多く、なかなか作業がはかどらない場面もあった写真左上:現場で指揮を執る大工の表野芳紀さんに釘打ちの方法を教わる松井さん。左下:松井さんと午後の部から参加した浅岡さん。女性二人とも釘打ちは「なかなかの腕前」と褒められていた。右上:大学院生の高木翼さんはほぼ全回参加。現場でも“なじみのメンバー”として活躍していた。右下:最終回は、2階の壁と床を張る作業。下地自体に歪みがあるので、高さを調整したり、細かい詰めが必要となる箇所が多く、なかなか作業がはかどらない場面もあった

街全体をひとつの空間としてみたて、アーキテクトという立場で会場づくりを行う

さて、そもそもこの空き家再生スクールは、「アッセンブリッジ・ナゴヤ2016(※)」という企画の関連プロジェクトとして開催されたもの。2016年秋に開催する同企画は、名古屋港~築地口エリア一帯で開催される、アートと音楽の祭典。「名古屋フィルハーモニー交響楽団」によるオーケストラコンサートや、「パノラマ庭園」と題した現代美術展が港まち全体を会場に盛大に繰り広げられる予定だ。

アートと音楽に空き家がどう関係してくるのか疑問ではあったが、「街全体をひとつの空間にみたて、アートや音楽でつなごうという主旨のもと、アーキテクト(建築)という立場で、会場づくりを行うという意図があるんです」と、まち協の児玉さん。
再生させた空き家は、秋の本番では2人組のアーティスト「L PACK」による“コーヒーのある風景”というアートプロジェクトの会場となる予定だ。

「空き家をただ会場として使用するだけでは一過性に終わってしまうという懸念がありました。イベントの時だけ活用しても、日常は空き家になってしまう。そうではなく、イベントをきっかけに建物が活きた状態で活用されなければいけないと考え、今回、再生までの過程にもさまざまな人が参加してもらえる関連イベントとして開講することになったんです」(米澤氏)
空き家を建築物としてだけではなく、その再生されてく過程もアートとして公開していこうということなのだろう。
「こうしたスクールの成功事例を見せていくことで、再生されるべきものが再生されるきっかけになってほしいですね」と米澤氏も話していた。

秋に行われる一大イベントで、今回の空き家がどんな形に生まれ変わるのか、アートの力によってどのように変化を遂げるのか、本番に期待したい。


※「アッセンブリッジ・ナゴヤ2016」:9/22~10/23に開催
アッセンブリッジとは、「集める」「組み立てる」という意味をもつ「アッセンブル(Assemble)」と「ブリッジ(Bridge)」を組み合わせた新しい言葉。音楽やアートが架け橋となり、街と人がつながり新しい文化が育まれていくようにとの願いが込められている。

http://assembridge.nagoya/

春に行われたプレイベントの模様。今回の空き家再生スクールの会場となった旧・潮寿司のカウンターを使って、2人組アーティスト「L PACK」による“コーヒーのある風景”が展開された。秋には、リノベーションされた店内で、また新たな風景が生まれることになるだろう(Photo:Tetsuo Ito)春に行われたプレイベントの模様。今回の空き家再生スクールの会場となった旧・潮寿司のカウンターを使って、2人組アーティスト「L PACK」による“コーヒーのある風景”が展開された。秋には、リノベーションされた店内で、また新たな風景が生まれることになるだろう(Photo:Tetsuo Ito)

2016年 09月12日 11時08分