20年以上続くアートによる島おこし

愛知県西尾市一色漁港からフェリーで約20分。三河湾に浮かぶ佐久島に到着する。

佐久島は、南知多町の日間賀島、篠島とあわせ「愛知三島」と呼ばれる離島のひとつ。歴史をひもとけば、海を生活の場とした海部族の末裔たちによって、江戸時代は海運業で繁栄した島だ。
この島に今、年間10万人を超える観光客が押し寄せている。島のあちらこちらにアート作品が点在する"アートの島"として、SNSを中心に話題となっているのだ。
とはいえ、この島がアートの島として有名になったのはずいぶん前のこと。何を今さら、とお思いの方もいるだろうが佐久島へ渡るフェリーの利用者数推移を見てもらうと、ここ2、3年で観光客の数がぐんと増えていることがおわかりいただけるだろう。

アートの島としての取り組みは、「三河・佐久島アートプラン21」として2001年から行政と島民、アーティストらが協働でスタートした島おこしプロジェクトであり、前身となった1995年のアートによる島おこしからカウントすると20年以上にわたって続いている。
長期にわたるプロジェクトの変遷と島おこしについて、当初から中心メンバーとして活動してきた「島を美しくつくる会」(通称:つくる会)の会長・鈴木喜代司(きよし)さんと、西尾市役所佐久島振興課主事の山下桂さんにお話を伺った。

佐久島に向かうフェリーの観光客数の推移をグラフにしたもの。<br>
2010年、あいちトリエンナーレの開催に伴って島では「あいちアートの森」が行われ、アートの島としての知名度があがった。<br>
※グラフは「西尾市渡船 利用者数推移」より抜粋して作成佐久島に向かうフェリーの観光客数の推移をグラフにしたもの。
2010年、あいちトリエンナーレの開催に伴って島では「あいちアートの森」が行われ、アートの島としての知名度があがった。
※グラフは「西尾市渡船 利用者数推移」より抜粋して作成

起死回生。祭りとアートをつないで再出発

「アートを観賞する、展示する、そういうことなら名古屋とか都心でだってできるんです。わざわざ佐久島までこないとできない、”佐久島を体験するアート”がここにはあるんです」
と鈴木さん。

アートによる島おこしをスタートさせた1995年から、現在の”佐久島を体験するアート”にたどり着くまでには紆余曲折あったという。
一番難しかったのは島民をどうやって巻き込んでいくかということ。

「アートと言われても、長老をはじめ、島の人たちはなんのことやらよくわからないわけですよ。とはいえ、最初は物珍しさからみんな手伝ってくれましたし、このまま軌道にのればいいなぁと思っていたんですけれど、簡単ではなかったですね。
しばらくやっていくと、アーティストの作品を島に展示しても島自体は潤っていないことに気がついてしまったんです。バブル期にはゴルフ場やリゾート地開発がとん挫するなど苦い経験もしているものですから、島民の不安と危機感が高まり、プロジェクトの練り直しをすることになりました」(鈴木さん)

アートを推進する「つくる会」と島民の間には溝ができ、このままプロジェクトを進めていけるのか危ぶまれる事態になっていったという。
そこで、少しでも理解を深めていくために鈴木さんらが考えたのが、島の人が大好きな祭りとのコラボレーション。島の祭りを基軸として、アートイベントや展覧会を実施。それらをまとめて「佐久島体験」として観光客にアピールしていくというもの。

佐久島には独特の音色と打ち方が特徴的な「佐久島太鼓」があり、島の祭りには欠かせない。この奉納太鼓とアートイベントを同時開催し「島がアートを引っ張り、アートが島を引っ張る」をテーマに、観光客だけでなくアーティストと島民が交流する場を作り上げていった。
こうして2001年、「三河・佐久島アートプラン21」と名前を新たにアートの島・佐久島は再出発を果たした。

独特な音色を放つ佐久島太鼓。<br>
島内のお祭りだけでなく、三河地区で活動する和太鼓チームを集めた「佐久島太鼓フェスティバル」でも披露される独特な音色を放つ佐久島太鼓。
島内のお祭りだけでなく、三河地区で活動する和太鼓チームを集めた「佐久島太鼓フェスティバル」でも披露される

観光客自身もアートの一部。「佐久島アート・ピクニック」で平常時も観光客が訪れるように

再スタートではアート・プロデュースを手掛ける「オフィスマッチングモウル」とタッグを組み、ただアート作品を展示するだけではなく、ここに来た人が佐久島の自然や歴史も体験できるようなものを作ろうとプロジェクトの舵を切った。

「年に1つのペースで常設のアート作品を増やし、作品をたどりながら島めぐりができるようになるまでに10年かかりました」と鈴木さんは話す。
年に数回の現代美術のアーティストによる展覧会やワークショップを開催するほか、2005年からはアーティストが島で制作した常設展示作品を観賞しスタンプラリーを楽しむ「佐久島アート・ピクニック」をスタート。島を訪れればいつでもアートな体験ができるとあって、年間通して観光客が訪れるようになっていった。

点在するアート作品は、箱の中に座ってみたり横に立ってみたり、寝転んだり、観光客自身が作品の中に入ることができる。人がどこに立つか、目線をどこにおくかで作品を何通りも楽しむことができる、これこそが鈴木さんたちが狙った”佐久島を体験するアート”だ。

現在、島内にあるアート作品は22作品。
「人気のスポットではSNS映えする写真を撮るために行列ができることも多いんですよ」
と佐久島振興課の山下さん。

アート作品の中でも一番の人気スポットは「おひるねハウス」(2004年南川祐輝作)。<br>
2010年にアニメ「名探偵コナン」劇場版の中にも登場したことで一躍有名に。アート作品と海・空・森との絶妙なコントラスト、陰影など、見る時間によって作品の印象が変わるアート作品の中でも一番の人気スポットは「おひるねハウス」(2004年南川祐輝作)。
2010年にアニメ「名探偵コナン」劇場版の中にも登場したことで一躍有名に。アート作品と海・空・森との絶妙なコントラスト、陰影など、見る時間によって作品の印象が変わる

アーティストと大学生らが手掛けた佐久島弘法巡りの復活

さらに「三河・佐久島アートプラン21」の一環として佐久島弘法巡りが蘇った。

「島内には弘法大師を祀った八十八ヶ所の祠がありますが、高齢世帯ばかりになって維持していくことが難しく、荒れ果ててしまっていたんです」(鈴木さん)

戦前には本土から巡礼者が訪れ、阿弥陀寺の宿坊に滞在してにぎやかに島を巡ったといわれるが、時が経つにつれてにぎわいも薄れていった。
失われた祠を復活させ、なんとか島の魅力として復活させようと、2010年から3年計画で「佐久島弘法プロジェクト」をスタート。建築に携わる大学生らが島民を相手にコンペを行い、アートと建築、島の歴史を融合させながら祠をリノベーションしていくというもの。失われた弘法大師の座像もアーティストが再制作し、2012年に八十八ケ所巡りの完全復活となった。

佐久島弘法巡りのイラストマップ。佐久島アート・ピクニック同様、島内をスタンプラリーしながら回れるようになっていて、弘法巡りをしながら島の魅力を体感できる仕組みになっている佐久島弘法巡りのイラストマップ。佐久島アート・ピクニック同様、島内をスタンプラリーしながら回れるようになっていて、弘法巡りをしながら島の魅力を体感できる仕組みになっている

Iターンの若手が主宰するマルシェ『39の市』で移住促進も

手づくりマルシェ『佐久島39の市』を運営する加藤さん(中央)、神谷さん(左)、中村さん(右)。名古屋市内で開催される愛知県最大級のマルシェ『東別院てづくり朝市』の主宰者が加藤さんの友人ということもあって、こだわりの手作り作品がならぶマルシェが実現。次回の開催は10月29日とのこと手づくりマルシェ『佐久島39の市』を運営する加藤さん(中央)、神谷さん(左)、中村さん(右)。名古屋市内で開催される愛知県最大級のマルシェ『東別院てづくり朝市』の主宰者が加藤さんの友人ということもあって、こだわりの手作り作品がならぶマルシェが実現。次回の開催は10月29日とのこと

島がにぎわいを見せている理由としてアートプロジェクト以外にももうひとつ、若手がオープンさせたカフェが挙げられる。

佐久島で漁師をしていた夫との結婚を機に島へやってきたという加藤麻紀さんがオープンした「カフェOLEGALE」をはじめ、島には5軒ほどカフェがある。アート散策に来た観光客の間で人気となり、いまではカフェを目的に来島する人もいるのだとか。

昨年からは、加藤さんらが中心となり、愛知県が主導する離島振興事業の取り組みとして手作りマルシェ『佐久島39(saku)の市』をスタート。

「島は高齢化が進み、私たちみたいな世代がほとんどいません。そこで若い世代に"島で暮らす"ということに興味をもってもらいたいと思って『39の市』をスタートさせました」と加藤さん。

マルシェに出店するお店は、"こだわりをもったモノづくりをしている人"がコンセプトだという。
「島で生活していくには仕事がないと成り立たないですよね。漁師や観光業じゃなくても、アーティストさんたちならば島でも創作活動はできるので、移住を現実的に考えてもらえるのではと思っています」(加藤さん)

「移住した人たちの積極的な取り組みもあって、島での暮らしに興味をもつ人が少しずつではあるが増えてきています」
と、佐久島振興課の山下さんは話す。

新たに加わった若手のエネルギーが追い風となって、これからの佐久島はもっと面白くなっていきそうな気配だ。

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アートプロジェクト以外にも「黒壁運動」や藻場の育成など、島でしかできない体験をイベントとして島外に発信し、ボランティアが来島することで島を知ってもらう機会を作っている。こうした活動で佐久島の知名度をあげることも、アートプロジェクトが続いていくひとつの理由といえそうだ。

次回は、黒壁集落の存続をかけた「黒壁運動」と、移住・定住化に向けての取り組みについてお届けしようと思う。

【取材協力】
西尾市役所佐久島振興課
http://sakushima.com/guide/koutuu_kouji.php

※参考資料
「佐久島体験マップ」
「佐久島の概要」平成28年度版 

2017年 08月24日 11時05分