空き家を改装し、地域間多世帯交流の拠点に

福岡市から1時間ほど車を走らせ、県の南東部に位置するうきは市に向かう。
うきは市は、地形と気候条件に恵まれ、古くから農業が盛んな場所だ。平野部には水田地帯、山麓部には果樹地帯、山間部は棚田や森林が広がる。いわゆる「古き良き日本の原風景」とされる景色が比較的大事に残されているまちである。日本棚田百選に選ばれた「つづら棚田」の散歩道や、筑後吉井地区の「白壁の町並み」(重要伝統的建造物群保存地区)は歴史的・観光的資源として市もおしている。特に筑後吉井地区は、ここ数年若い経営者が古家を改装したオシャレな店を構えはじめ、街歩きが楽しいエリアになっている。
また、うきは市は「フルーツの里」としても有名。観光果樹農園が多数点在し、1年を通して果物狩りを楽しめる。道の駅などの産直販売は、果物の種類の豊富さが人気だ。

しかし、うきは市も人口減少と高齢化が進んでいる。まちに目を向けると、長期間放置され空き家化している家も少なくない。都市部ほどにスクラップ&ビルドが進まなかったこともあって、100〜200年前に建てられた歴史ある家も残るが、多くは所有者不明や所有者の高齢化により、今後は廃墟化することも予測される。

「古民家」「空き家」という今ある資源を活用し、多地域・多世帯の交流を促す場としてうきは市で新たに営み始めたのが、今回の取材先「FARM THEATRE 山北小路(ファームテアトルやまきたしょうじ)きふね(以下、きふね)」である。

物件の改修前の様子。うきは市ブランド推進課の職員に案内されての物件調査。建物は傾きがひどく、長期間雨漏りが放置されていたため傷みもかなりあった物件の改修前の様子。うきは市ブランド推進課の職員に案内されての物件調査。建物は傾きがひどく、長期間雨漏りが放置されていたため傷みもかなりあった

食べて、遊んで、泊まれる「きふね」の施設概要

国道210号線沿いの「道の駅うきは」から少し入ると、グレーの大きな茅葺きトタン屋根が見えた。建物前面の敷地にはテントや、チェア、遊具などもある。長期間空き家だった築150年の古民家を現代的なデザインに一新し、「きふね」は昨年11月末にオープンした。十割蕎麦と地元食材を楽しめるレストラン&カフェとして、また、今年の4月からは非日常を体験できる農家民宿施設としても営業中だ。

「ようこそー!」と元気な声で迎えてくれたのは、きふねを運営する鍋島崇暢さん(株式会社シンクロライフ取締役)。まずは鍋島さんに施設を案内してもらった。

広めのエントランスで靴を脱ぎ、進むと左手に宿泊用の客室が2部屋(各3名)、その奥に水回り関連がある。エントランス右手は、ガラス戸の先にレストランという造り。30名ほどがゆったりと座れる空間になっている。梁や柱には年代を感じるが、床やテーブルに使用されている建材は、白とグレーの斑模様が特徴的で、全体的にモダンなデザインだ。階段を上がると8畳ほどの多目的スペースがあった。茅葺屋根裏が見える。

建物前の敷地では、キャンプもできる(テント、バーベキューコンロの貸出が可能)。キャンプ利用者のためのシャワーブースやトイレも完備している。また、鍋島さんが導入した「五右衛門風呂」の体験もできるそうだ。

レストランスペースには、鍋島さんこだわりの薪ストーブを設置(左上)屋根の構造がわかる2階の多目的スペースは、ヨガ教室やイベントとして貸し出す予定だ(左下)キャンプ利用客に人気の五右衛門風呂体験(右上)と、お外カフェとしても利用可能なキャンプ施設(右下)レストランスペースには、鍋島さんこだわりの薪ストーブを設置(左上)屋根の構造がわかる2階の多目的スペースは、ヨガ教室やイベントとして貸し出す予定だ(左下)キャンプ利用客に人気の五右衛門風呂体験(右上)と、お外カフェとしても利用可能なキャンプ施設(右下)

「どこにも行けない」人たちの、「行き先」をつくりたい

鍋島さん達は、もともと福岡や佐賀で薬局を運営する会社のメンバーである。店舗運営や在宅支援を行う中で、一人住まいの高齢者と関わる機会は多い。

「薬局を運営していた際、患者さんから『どこにも行けない』『行く場所・手段がない』という話をよく耳にしていて。そういう方々の行く機会や場所をこちらが作ってはどうだろう?というのを以前から考えていました」と鍋島さん。

ヘルスツーリズム(※旅行という非日常的な楽しみの中で、健康回復や健康増進を図るもの。旅をきっかけに健康的な行動を意識・持続して、豊かな日常生活を過ごせるようになること)に興味を持ち、ぼんやりと構想を描いていたという。そんな折、コンセプト設計を担当していた建築家から、「うきは市の古民家改修で、運営者を探している」と聞き、コンセプトに賛同して手を挙げた、というのがきふねを始めるに至った経緯だ。運営にあたって、株式会社シンクロライフを立ち上げた。

「患者さんがほんの少し足を伸ばした先で、非日常を味わって元気になってくれたら。行った先に、世代を問わずいろんな人がいるように、飲食店にしよう。地元の食材をふんだんに使って。泊まれるのもいいかもしれない。せっかくなら、地元の人との交流を育みたい。地域の人が気軽に立ち寄れる公民館みたいな場所になれば…」。

そういった想いを詰め込んだのが、「きふね」である。
「どこかに連れ出そう」ではなく、「行き先を作ろう」という発想。そんな経緯もあって、客室やレストランの一部はバリアフリーとなっているので、子ども連れにも優しい。

宿泊用の2部屋と水回り。女性グループや外国人から人気だそう宿泊用の2部屋と水回り。女性グループや外国人から人気だそう

「古民家」という資源を活用し、残したい

きふねには、その土台づくりに尽力した人々の存在もある。
古民家の利活用や「古民家を通して地域のためにできること」に日々熱意を持って活動する一般社団法人福岡県中央古民家再生協会うきは(以下、協会)の方々だ。プロジェクト責任者の川口智廣さんに話を聞いた。

「見てもらいたい空き家があります」と、うきは市の空き家担当者から、ある日協会に1本の電話が入った。
紹介された物件は、空き家になって10年以上は放置されていた。築年数は約150年。建物はかなり傾き、雨漏りもひどく、腐食箇所も多い。
これまで物件を見たどの建築士や不動産屋からも「壊した方がいい」としか言われなかったそう。しかし市に相談してきた所有者は、壊そうにも解体費を捻出できない状況にあった。また、空き家対策措置法が施行され、土地の固定資産税の減税緩和もなくなった。現状、所有者自身には使いみちはないが、先祖から受け継いだ家を壊したくないという想いは強かった。

内覧時、一緒にいた皆が顔をしかめた建物だが、川口さんは、この古民家と敷地、それらが溶け込む景観にポテンシャルを感じ、この空き家古民家の活用事業を請け負うことにした。所有者の意向を調整し、建物と前面の敷地を借り上げる。助成金と協会の自己資金を使って耐震補強と最低限の補修を施した。再生の事業形式はサブリースだが、単なる古民家の箱貸しにはしたくない。建築家と共に入念にコンセプトを練った。この時手を挙げてくれたのが、鍋島さんたち。その後も周辺の住民、事業者、農家、自治体との調整に奔走した。
これから20年間、協会はきふねの管理を行い、責任を持ってまちづくりに寄与していく。

古民家は、地域の資源ともなる。積み重ねてきた歴史や、今そこにある価値は、壊されてしまえば取り返しがつかない。けれどもそれに気づいていない持ち主は多い。あるいは気づいていても活用の余力がない。
埋もれている歴史的資源を少しでも見直し、活用できるのであれば、自走できる仕組みをつくることがのぞまれる。

屋根葺き替えの様子。元は茅葺だった屋根はトタンで覆われ、茅部分にも稲藁や麦藁が混在していた。茅葺き屋根を再生するとかなりの費用がかかるため、中身は建物の経年変化として残し、板金を吹き替えた。周囲の景観にうまく馴染んでいる屋根葺き替えの様子。元は茅葺だった屋根はトタンで覆われ、茅部分にも稲藁や麦藁が混在していた。茅葺き屋根を再生するとかなりの費用がかかるため、中身は建物の経年変化として残し、板金を吹き替えた。周囲の景観にうまく馴染んでいる

きふねを拠点に広げる交流とまちづくり

<写真上>きふね運営責任者の鍋島崇暢さん(右)と、大将の熊本康幸さん(左)熊本さんは、農家民宿のためもあり、きふねに移り住んで住民票も移したそう。<写真下>うきは市への報告会の様子。うきは市の高木典雄市長と福岡県中央古民家再生協会うきはの皆さん<写真上>きふね運営責任者の鍋島崇暢さん(右)と、大将の熊本康幸さん(左)熊本さんは、農家民宿のためもあり、きふねに移り住んで住民票も移したそう。<写真下>うきは市への報告会の様子。うきは市の高木典雄市長と福岡県中央古民家再生協会うきはの皆さん

シンクロライフが協会と結んだ定期借家契約は、20年。まずは20年を目標に、鍋島さん達もこの地に根を張っていく。オープンしてからの評判は上々。きふね目当てに、若者やデイサービスの利用者さん、地域の人々が訪れている。バリアフリーな造りのためか、「ここで法事をしたい」という地元の人の声もあるとか。また、かつての住人が訪れて、柱に残る傷(幼少期の成長記録)と建物の変貌に感動していたそう。

春先から少しずつ始めた宿泊も、土日は予約が埋まりつつある。場所柄か、宿泊を目的に訪れる人が多い。GW以降はキャンプの利用も増え始めた。五右衛門風呂体験がファミリーに人気のようだ。

夜、焚き火を起こすと、宿泊利用者やスタッフの間に自然に会話が生まれるそうだ。「お昼の時間や、忙しくしている時はちょっとむずかしいけれど、ただの蕎麦屋ではなく、そんな風にココロを感じる交流の場にしたい。」と鍋島さんは言う。周囲から、近隣河川のカヌー体験やアウトドア体験、体験農業など、きふねを拠点とした企画も持ち上がっている。

「個人的に、スポーツが好きなので、うきはでちょっとニッチなスポーツイベントなんかができたらいいなと思っています。場合によっては毎回、全国や世界中から人が訪れますよ。うきはの良さを知ってもらえるチャンスになります。そしてイベントの時に困るのは泊まる場所。今回、農家民宿の許可を取ったので、希望があれば地元農家さんにもノウハウを共有します。地域全体で盛り上げていきたいですね。」と鍋島さん。

なんとも夢のある発想である。今後のきふねと、これから起こるまちの変化がとても楽しみである。

2018年 07月20日 11時05分