北海道の林業業界でフリーの木こりとして活躍するoutwoods

「林業」と聞いて、いったいどれほどの人がその実態をイメージできるだろうか。
林業で働く人たちの姿は、一般的には森林の中に入り作業することがほとんどのため、街で生活する私たちは見ることができない。
木を伐っているイメージはもちろんあるだろうが、伐るだけでなく、苗を植える、育つために手入れをする、など時間をかけて次世代へと繋がる森づくりをしている産業だ。

北海道の林業は人工林の利用期を迎え、伐採事業量が増大、そして機械化も進み林業労働者数も概ね4200人弱で横ばいで推移している。そして新規参入者数も平成25年度を底に少しずつではあるが上昇傾向にある。しかし、依然として若年層よりも60歳以上の割合が高く、業界全体での若返りにはほど遠いのが現状である。

そんな北海道の林業業界でフリーの木こりとして活躍し、手がけた森に足を踏み入れた人たちを魅了する「森林作業道」をつける人物がいる。北海道札幌・旭川を拠点に道内各地で活動するoutwoodsの足立成亮さんだ。

outwoodsがつける森林作業道とは。そして木こりと大工が手を組んで、100%道産材を使用した建築を行う『木こりビルダーズ』プロジェクトとは…「outwoods」という屋号に込められた足立さんらの山への想いについて話を聞いた。

北海道の林業業界でフリーの木こりとして活躍するoutwoods

北海道の森という大きなくくりの中で働く木こり、という自覚

足立さんは小さい時から野山で駆け回るのが好きで、子どもの頃から地球環境にも関心が高かったそう。26歳までは写真撮影活動をし、作品発表をしたり、ギャラリースペースなどの運営を行っていた。木が被写体の作品が多かったことに後から気が付いたという。

「林業の世界に入れば、子どもの時から関心のあった地球環境に関わる仕事ができると思いました。それで2009年、滝上町にある林業の会社に入社したんです」

足立さんはそこの会社で2年ほど山の現場で作業員を経験し、その後滝上町役場の林政課の臨時職員としても林業に携わった。想いを持ってスタートした山での仕事に喜びや楽しみを感じていた半面、林業業界の実状や一緒に働く人との熱量の差に乖離を感じ、山に想いがあればあるほど孤独になっていく瞬間があったと当時を振り返る。

「山の現場に戻りたい」という想いを募らせていたときに、旭川で「NPO法人もりねっと北海道(以下もりねっと)」が『森林作業道』に関しての研修を行っていることを知り、そこに参加。
その研修で、現在足立さんの仕事のパートナーでもあり、山での暮らし・仕事全般の尊敬すべき先輩でもある陣内雄さんと出会った。

もりねっとでは『森林に色々な人が入って、色んなものをもっと山から街に搬出できるような、資源を有効に活用出来る装置』として森林作業道は絶対必要だろうという考えのもと、道をつける技術をシェアする研修を企画していた。このもりねっとを立ち上げたのが陣内雄さんである。
また、講師として来た方は『森林作業道』に関して日本を代表するスペシャリストの一人、田邊由喜男さんという「四万十式作業道」や「サントリーの森づくり」などを手がけてきた人物だ。

足立さんは講師の方やもりねっとの山への想いに共感し、実際に森林作業道のつけ方を見て、自身の考えが明確になった。また、陣内さんらと話すことで共感が増え、林業の抱える課題への解決策を話し合える仲間としての意識が強まっていったという。そして、森林作業道をつくるプレイヤーとなるべく、フリーの木こりとしてスタートをきった。

「自分は、北海道の森という大きなくくりの中で働く木こり、という意識を持っています。そして地元である札幌にも『木こり』として戻ったら面白いだろうな、という考えが心の中にあって、滝上から12号線を袈裟懸けに旭川から札幌まで股にかけて、木こりの仕事ができるようになったらいいなぁなんて妄想しながら、陣内さんの仕事を手伝い、そして助けられながら技術を身につけていきました」

足立さん(右)と陣内さん(左)。撮影/山内麻由美さん。足立さん(右)と陣内さん(左)。撮影/山内麻由美さん。

outwoodsが手がける森林作業道とは

「森林作業道」……聞き慣れない言葉かもしれないが、これは林業には欠かせない重要な道だ。木を伐り出すためにも、伐り出した木を運び出すためにも、山を管理するためにはまず道をつける必要がある。

足立さんと陣内さんがタッグを組み約10年。二人が取り組んできた「森林作業道」への考え方・姿勢について聞いた。普通の森林作業道と違う部分はどこなのだろうか。

「北海道のヤマは本州に比べて傾斜が緩い地域が多く、面積も広いので、林業機械化が進んでいます。高効率低コストを推し進める林業業界の時代の流れにフィットし、ヤマに大きな機械をいれて作業をする、ということが増えていました。
大きな機械を通すためには大きな道も必要になります。ただ、ヤマに愛着をもっている山主さん達からは『ヤマをもっと大切にできないの?ヤマがズタズタじゃないか。こんなのはちっとも嬉しくない、二度と嫌だ』と相談を受けたことがあります。でも、仕方がないことなんです。そういった大量に木を効率よく運び出すようなスタイルが当たり前だった。林業では、早くしろ、気をつけろ、のこのキーワードしかない。キレイに、木や森を傷つけないでやるっていうところは評価の対象じゃないんです。じゃあ、早くして木や森を傷つけずに済む方法ってないの?と、我々は悩んでいたんだけど…」と陣内さんはゆっくりこれまでを噛みしめるように話してくれた。

「実際に僕らがつける森林作業道が森の中に出来た瞬間に、森と人との関係がガラっと変わっちゃうんですよね。この道があれば何でもできる。『薪が欲しい』『遊びたい』『間伐しっかりやりたい』ということが同時にできる道のつけ方なんです。この感覚を広めないとだめじゃないかな、って思ったんです。それがこの10年ですね。(この考え方は)少し前までの北海道林業界では我々はアウトローだったけど、どんどん北海道でもこの考えが広まってきた感覚があるし、なにより一般受けは、すごくいいんですよ」と熱く語る陣内さん。

実際に取材時に歩いた森林作業道は、最低限の車や重機が入れる幅だった。山の奥に向かって緩やかに曲がりながら幾筋にも分かれ、歩いていると立ち止まり深呼吸をしたくなるような気持ちの良さだ。

「今も『どうしたら林業って面白くなっていくのかな』って考えながらやっています。そしていろいろな人が森林・林業について自分事として感じて欲しい。実際に貴重な資源がフルで利用されず、捨てられている現実もあります。ちゃんと道がついてないせいでせっかく間伐した木を搬出できずヤマに置いてきてしまっている、なんてことは日本全国しょっちゅうあることです。この「もったいないじゃん」というのと、「もっと人目についたら楽しいじゃん」という気持ちを大事にヤマづくりをしています」と足立さんも言葉を続ける。

撮影/山内麻由美さん。outwoodsと陣内さんの活動は、写真家でもあり足立さんのパートナーでもある山内麻由美さんが写真におさめ発信している。撮影/山内麻由美さん。outwoodsと陣内さんの活動は、写真家でもあり足立さんのパートナーでもある山内麻由美さんが写真におさめ発信している。

林業と建築を直結させる、木こりビルダーズ

現行の林業形態だけではなく、元々木こりが行っていた昔ながらの『人間とヤマとの共存型の林業』を取り入れる流れの実感を感じている、と足立さんは力強く言う。

「僕が林業に携わりはじめてちょうど10年なのですが、10年目にしてここまで時代が変わってきた、という実感が本当にあるんです。フリーになって7〜8年。その中で培ってきた僕たちがやってきたヤマの活動をみんなに伝えられるときが来るのかも……と思っています」

2人に直接相談にくる山主さんも増え、そして行政からもかつての里山的に山林や農地を利用していこうという流れも生まれてきているのだとか。

また、2019年、9月21日〜23日の3日間「第9回若手林業ビジネスサミット2019in北海道」が開催され、outwoodsが関わる山の現場や北海道札幌南高等学校林の視察もプログラムに組み込まれた。
全国で毎年開催されている「林業で生きる」を目指す39歳以下の若者同士でつながり語り合うイベントだ。

outwoodsの活動が、向上心のある木こりたちの大きな歯車の一つとなって動き出しているとともに、繋がりは広まっていく。
かつては活動の孤独を感じていた足立さんと陣内さんだが
「今は若い人も孤独じゃないよね。だってSNSがあるからさ。僕たちが始めた時はほんっとうに孤独でした。たった一人ポツンと孤独と戦っていた。でも今はそういう人たちがSNSを通じて繋がっているから、良い時代になったなぁって(笑)」と陣内さんは笑顔をこぼす。
足立さんも
「林業はヤマの中で仕事しますから一般からは見られない。SNSで仲間が働いているところを見合えるのは安心感がありますよ。それに北海道だけじゃない、本州で頑張っている人の姿もみることができますからね。そういった意味では、今林業に興味を示している人、特に10代〜20代の若者は本当にはじめやすいと思います」と言葉を続けた。

仲間も増やしながら林業業界という道にも新しい風を吹かせてきた2人が、また新しいプロジェクトを進行させている。その名も『木こりビルダーズ』。陣内さんを筆頭に、各地の仲間たちから始まる林業と建築を直結させる取り組みだ。できるだけ100%足立さんらの仲間が収穫した丸太を使って建築し、製材(丸太から建築用の木材に加工すること)までも山で行い、木こりと大工が協力して建築を行うというもの。

曲がりのある木や節のある木、高く売れない木などを建材として木こりが加工し、それを実際に使って大工が家を建てていく。「輸入材に頼らずに、100%道産材で完結して、費用の7割は地元で人件費として落ちて、かつ、木こりの冬の仕事にもなる。現地の木材で現地に経済をまわすんです」と未来を見据えた目で陣内さんは語る。

このプロジェクトは、2020年4月中旬に下川町で100%道産材だけで建てられた「jojoni(ジョジョニ)パン工房」を完成させた。自然からお店をつくる、というコンセプトで「ジョジョニパン工房建築プロジェクト」と銘うち、ワークショップなども行った。そしてこれからはパン工房としてスタートする。

林業と建築を直結させる、木こりビルダーズ

木こりがまちに下りてくる

足立さんと陣内さんは、多くの人に森に知り、森に入ってもらうための空間づくりや展示なども手がける。北海道中川町で行われた「なかがわの森・森のギャラリー」や上川町の「大雪 森のガーデン」など、その取組みさまざまだ。

足立さんの屋号でもある『outwoods』にもその想いが込められているのだとか。
「森にいっぱい入れなきゃいけない『人の気持ち』や『アイデア』や『目』があると思っていて、逆に森からたくさん出してこなければならない『宝物』や『資源』っていっぱいあるでしょう?って思っているんです。それらを出したり入れたりするイメージを僕はずっと心に持っている」と真剣なまなざしで語る。

「ヤマで1日中頑張って仕事して、そして、ヤマから里に出て行く瞬間って『よし、終わったぞ!』っていう、違う世界の境界線を踏むような意識があったりするんですよね。車に乗って林道からスッと出ていく瞬間とか。ヤマから木こりが出てくる時の光景をすごく大切に思っています。そしてそれは『木こりがまちに下りてくる』というフレーズがしっくりきたんです。ひょっこりと仕事を終えてヤマから木こりがでてくる、そんな風景が日常になり、そして人の生活のすぐ隣にある森が、もっとリアルにみんなの生活に近づくことをイメージして頭に浮かんだのが『outwoods』です」

足立さんの空間センスや感覚に虜にされた人も少なくない。もちろん、取材に行きお話を聞いた私たちもそのうちの一人だった。

心や頭の中にあるイメージを表現するセンスや環境保全への意識の高さ、一つ一つのプロジェクトに対する気持ちの強さが、触れた人の心に残る。そんな仕事をしている熱い木こりたち。今日も北海道のヤマの中に入り黙々と仕事をするのだろう。そして北海道の林業の未来を照らす新しい兆しとなることを願う。

※今回足立さんたちの意向を踏まえてこの記事内では足立さんたちのお話の中の山は「ヤマ」と表記した。林業の現場は「林」の領域が多く、それが「森」とつながっている、という感覚と山への畏敬の念をこめて足立さん達は「ヤマ」と記す。

■取材協力
outwoodsのFacebook
陣内雄さんのHP
山内麻由美さんのInstagram
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◎筆者:くらしごと編集部 小林陽可

木こりがまちに下りてくる

2020年 05月30日 11時00分