グランプリは500万円未満、住宅性能向上に取り組んだ物件に

性能を上げるだけではなく、それをきちんと消費者にアピール、空室対策として役に立ったことも評価された性能を上げるだけではなく、それをきちんと消費者にアピール、空室対策として役に立ったことも評価された

年末恒例となったリノベーション・オブ・ザ・イヤー。年々規模は拡大しており、今年は過去最高の97社、279作品がエントリーした。その数以上に2019年のエントリー作品、受賞作品には大きな特徴があった。住宅性能向上への取組みが高く評価されたのである。

既存住宅の弱点は耐震性能や省エネ性能などの低さだ。その性能を向上させるためには費用がかかる上に、施工会社に知識や技術が必要で施工できる事業者が限られるという二重の難しさがある。そのため、どうしても性能向上はこれまで疎かにされがちだった。既存住宅取得に二の足を踏む人がいるのはその点が克服されていないという見方があるからだろう。

その弱点に真っ向から挑み、既存住宅であっても新築住宅以上の性能を持ちうることを示したのが2019年のいくつかの受賞作品である。特に印象的なのはグランプリ受賞作品。ご存じのようにリノベーション・オブ・ザ・イヤーは500万円未満、1,000万円未満、1,000万円以上、無差別級と施工費別に4部門に分けられている。金額が高くなればなるほど、できることは増え、当然、評価される点も増えることが多く、これまでは高額の作品がグランプリとなることが多かった。

ところが、2019年にグランプリに輝いたのは500万円未満部門の「鹿児島断熱賃貸~エコリノベ実証実験プロジェクト~」(株式会社大城)。かかった費用は400万円と少ない上に賃貸である。自分が居住する場合、予算は施主の懐具合に左右されるものの、多少かかっても良い家にできるならと施主は考える。しかし、賃貸の場合には家賃で改修費用を回収することが前提のため、予算の制限は自家使用より厳しくなりがちだ。

受賞作品の場合、実証実験としてのプロジェクトであるため、本当に経済合理性を持ちえるのかは検証する必要はあろう。だが、それでも賃貸で、それほどで高額ではないリノベーションで新築以上の性能を実現したのはすごいことだ。

鹿児島で断熱という点にも注目

無差別級部門最優秀賞受賞のYKK APの「古くなった建物に、新築以上の価値を。~戸建性能向上リノベ実証PJ」でも評価を数値で示していた無差別級部門最優秀賞受賞のYKK APの「古くなった建物に、新築以上の価値を。~戸建性能向上リノベ実証PJ」でも評価を数値で示していた

グランプリ作品は鹿児島市の玄関口である鹿児島中央駅と中心繁華街・天文館から共に1kmという好立地であるにも関わらず、各部屋が仕切られた閉鎖的な間取り、暑くて寒い住み心地の悪さから長年空き家だった昭和56(1981)年築の団地。増加する空き家問題解決の一助にと団地オーナーである鹿児島市のガス会社・日本ガスがリノベーションを決断。隣り合う約35m2の2DKを快適に住める広いワンルームに作り直した。

また、リノベーション後はどのような改修を行い、その結果、体感温度がどれだけ上昇したか、電気使用量はどの程度減少したかなどのデータを入居者募集時に明文化。それにより完成直後に入居が決まってもいる。断熱改修が空き家対策として功を奏したのだ。

この作品のグランプリ受賞にあたり、同物件の設計・温熱計算に当たった株式会社エネルギーまちづくり社の内山章氏が、鹿児島のプロジェクトが受賞したことの意味をFacebookに書かれており、それが非常に分かりやすかったので、以下、紹介したい。内山氏によると過去30年の鹿児島と東京の1月の平均気温差は2.7度。鹿児島のほうがもちろん暖かいわけだが、だからといって断熱が不要というわけではない。それを示すのが冬季の死亡増加率だ。

「鹿児島の冬季死亡増加率(夏と比較した冬の死亡者の割合)は全国で6位。ちなみに北海道は47都道府県で47位。これはなぜか。当たり前だが家の断熱化率が圧倒的に違うから。関西から中部、山陰、四国そして九州の家の断熱化率は低い。つまり断熱を舐めている結果だ」

冬もヨソよりは暖かいからと断熱を軽視している地域では冬に死者が増え、きちんと備えている地域では夏も冬も変わらず快適な暮らしが続けられる。これからはどの地域であっても備えるべきであることは明らかだろう。

来年の課題は法令の順守?

性能向上リノベーション賞のうちの2作品。上は築40年、下は築49年の住宅をリノベーションしている性能向上リノベーション賞のうちの2作品。上は築40年、下は築49年の住宅をリノベーションしている

グランプリを最後まで競った作品が無差別級部門で最優秀賞を受賞した「古くなった建物に、新築以上の価値を。~戸建性能向上リノベ実証PJ」である。これは窓を中心にした建材メーカー・YKK AP株式会社が北海道、神奈川、京都、神戸、福岡のどこにでもある普通の木造2階建ての一戸建て住宅を地元の建築事務所などと組んで断熱・耐震性能、デザインともに刷新、再生したもので中には築100年(!)という建物も含まれている。

同社は2017年にも性能向上をテーマに1,000万円以上部門で最優秀部門賞を受賞しているが、それがさらに広範に行われるようになっているのである。加えて、日本全国の現場で見学会を開くなどして啓蒙を図り、技術やノウハウの共有を図っている点も評価されたという。実物を見て体験してもらうことの大事さは言うまでもない。

また、今回はこの2作品以外にも審査委員特別賞の性能向上リノベーション賞が設定され、3作品が選ばれた。審査委員長である島原万丈氏の講評によると、これら以外にも性能向上を実施した作品は多数あったとのことで、受賞に至らなかった作品のうちには性能をきちんと数字、証明書で示していなかったものがあったとのこと。単に耐震補強をした、断熱改修をしたというだけではなく、今後はどこまでやったのかを客観的な数値で示すことが大事ということである。

これにつき、面白かったのは社内の異動により、今回で審査委員を退く日経アーキテクチュア編集長の宮沢洋氏が建築の専門誌である同誌がこだわる住宅の性能・事業性について、リノベーション業界は意識が低いという指摘を昨年していたという点。その発言に発奮、住宅性能向上に注力した事例が多かったということであれば、来年、テーマになるのは適法性だろう。宮沢氏の最後の挨拶が空き家活用、民泊利用の場合に推したくても適法性に疑問のある場合は難しいというものだったからである。事業者の皆さん、来年はぜひ、その点の全面クリアをよろしく、である。

事業者、消費者ともに成熟

性能向上以外で目立ったのが買取り再販の一戸建て。同じ築年数の物件でもマンションに比べ、一戸建てではやるべきことが多く、費用も嵩む。その上で戸建をリノベーション、再販するためにはコストの削減その他さまざまな工夫が必要になる。だが、それを越えて取り組むという背景には事業者のみならず、消費者の成熟もあると思うが、どうだろう。

また、審査委員の講評の中ではRoomClip mag編集長の徳島久輝氏の「審査中に『この写真、いいね!』という会話が無かった」「なんとか風が好まれなくなっている」という言葉からも同様の成熟を感じた。当初はエントリー作品の写真の撮り方、プレゼンテーションの仕方も評されたものだが、今ではきちんと伝えられて当たり前。事業者側のレベルが各段に底上げされている。

消費者サイドも誰かの真似としてインテリア単体を「なんとか風」にまとめるのではなく、自分が望む暮らしを全体として実現しようと考えるようになっているという。代表的なものが「丁寧な暮らし」というあたりにまだまだ変化の余地はあるように思うが、見た目を真似するレベルからは確実に前進。暮らし全体を考える、自分が本当に好きなモノは何かを考えるようになっているという点はリノベーションという枠を超えて、日本の住のレベルが上がっているということかもしれない。

そう考えると、今回初めてゲスト審査員として参加した光文社HERS編集長の二村勉史氏の「『これからどうしたい』を提案できるのがリノベーションの強み」という発言が響く。これまでの不動産業界では家は完成した時が最高で以降築年で劣化していくとされた。時間はプラスの要因ではなかったわけだが、リノベーションでその時間をプラスに変えることができ、それが受け入れられるようになっているとしたら喜ばしい変化といえるのではなかろうか。

「なんとか風」が当てはまらない作品もいくつか。写真はR1ペット共生リノベーション賞「イヌはイエ。ヒトはケージ」。ヒトのいるダイニング、キッチンが囲まれており、それ以外が犬のスペースという、従来からすると逆転の住まいである「なんとか風」が当てはまらない作品もいくつか。写真はR1ペット共生リノベーション賞「イヌはイエ。ヒトはケージ」。ヒトのいるダイニング、キッチンが囲まれており、それ以外が犬のスペースという、従来からすると逆転の住まいである

尖ったデザイン、地域に愛される施設に感動

最後に今年の受賞作品その他から個人的に面白かったものをご紹介したい。まず、非常に尖ったというか、ぶっ飛んだデザインの作品としてずばり、ベストデザイン賞を受賞した「浮かぶガラスの茶室がある大阪長屋」(9株式会社)を挙げたい。1940年に建てられ、長年空き家になっていた大阪の長屋を宿泊施設に変えたもので、宙に浮いたガラスの茶室が一目見たら忘れられない印象を与える。外国人旅行者受けは絶大だそうだ。

和室リノベーション賞の、マンションのよくある6畳の和室の使い方を提案した「SHOGUN Castle」(有限会社ひまわり)も意表を突く作品だった。画家4名に壁面、天井面用にオリジナルの絵を描いてもらい、それを転写したというもので時代劇の世界のような空間だった。

行ってみたいという意味では地域資源リノベーション賞を受賞した鹿児島の「おおすみの人と自然が先生です。『ユクサおおすみ海の学校』」(株式会社プラスディー設計室)、拠点創出リノベーション賞を受賞した秋田の「ちょっとソコまで、SOKOまで。」(株式会社See Visions)を挙げたい。

前者は海に面した元小学校をリノベーションしたもので、着工前に訪れたことがあるが、その時の人の気配の失せた空間が新たな賑わいの場に甦っていることに感動した。秋田の作品は地元に住む友人が「近くにこんな施設が!」と誇らしげに教えてくれたもので、いずれの場合もご近所の、リノベーションに関心のない人たちでも自慢に思うような空間になっている。地域に密着した仕事というのはこういうものを言うのだろうと思う。

左上から時計回りに和室リノベーション賞「SHOGUN Castle」、地域資源リノベーション賞「おおすみの人と自然が先生です。『ユクサおおすみ海の学校』」、拠点創出リノベーション賞「ちょっとソコまで、SOKOまで。」、ベストデザイン賞「浮かぶガラスの茶室がある大阪長屋」左上から時計回りに和室リノベーション賞「SHOGUN Castle」、地域資源リノベーション賞「おおすみの人と自然が先生です。『ユクサおおすみ海の学校』」、拠点創出リノベーション賞「ちょっとソコまで、SOKOまで。」、ベストデザイン賞「浮かぶガラスの茶室がある大阪長屋」

2020年 01月07日 11時05分