シェアオフィス、レストラン、ゲストルーム、小屋付き農園スペースからなる多目的施設「シラハマ校舎」

温暖な気候で知られる房総半島の最南端・南房総市白浜町。車やバイクで何回か訪れたことがあるが、個人的にすぐに思い浮かぶ名所は、野島崎灯台、白浜海岸、房総フラワーラインなどだろうか。私が暮らす横浜からアクアライン・館山自動車道を利用すれば2時間強で到着できる距離と、遠いという印象はあまりない。この白浜町に昔の幼稚園と小学校をリフォームし、多目的施設に生まれ変わった「シラハマ校舎」がある。地域の活性化にも貢献している廃校利用の好例ということで早速取材に訪れた。

お話を伺ったのは、シラハマ校舎を運営する合同会社WOULD代表の多田朋和さん。多田さんは2010年5月、シラハマ校舎からほど近い場所にカフェ、ゲストルーム、シェアハウスからなる「シラハマアパートメント」をオープン。シラハマアパートメントは、「廃墟ビルのような、すべてを自分の好きなように改修できる建物を探している時に紹介された物件」という。以前はホテルの社員寮として使われていた4階建ての建物で、天気のいい日に屋上から見た180度広がる海と山のパノラマビューにすっかり魅せられ、賃貸借契約を結んだそう。

今回紹介するシラハマ校舎は2016年9月にオープン。地元で長く愛されながら閉校した旧・長尾幼稚園、長尾小学校の歴史ある木造校舎をリノベーションした、シェアオフィス、レストラン、ゲストルーム、小屋付き農園スペースからなる多目的施設だ。

旧長尾幼稚園・長尾小学校だった2棟の木造校舎をリノベーションして生まれたシラハマ校舎。広い校庭は小屋付き農園スペースに。浄化槽の容量増加に多くの予算が割かれたため、ほとんどの場所を多田さん自らコツコツとリノベーションを行い完成させたという旧長尾幼稚園・長尾小学校だった2棟の木造校舎をリノベーションして生まれたシラハマ校舎。広い校庭は小屋付き農園スペースに。浄化槽の容量増加に多くの予算が割かれたため、ほとんどの場所を多田さん自らコツコツとリノベーションを行い完成させたという

「廃校+市民農園」をパッケージ化した、オリジナリティのある多目的施設が特徴

上/校庭を「小屋付き農園スペース」として活用するプランが高い評価を受け、シラハマ校舎の誕生につながった。今後校庭には全21棟の「小屋」が建つ予定。小屋のまわりには区画を分ける2.5mと1.2mの生垣を設置。小屋はそれぞれ向きを変えて配置し、プライバシーが保てるように配慮されている 下/シラハマ校舎の建築模型。中央の小屋にトイレと浴室がつくられる予定上/校庭を「小屋付き農園スペース」として活用するプランが高い評価を受け、シラハマ校舎の誕生につながった。今後校庭には全21棟の「小屋」が建つ予定。小屋のまわりには区画を分ける2.5mと1.2mの生垣を設置。小屋はそれぞれ向きを変えて配置し、プライバシーが保てるように配慮されている 下/シラハマ校舎の建築模型。中央の小屋にトイレと浴室がつくられる予定

シラハマ校舎は2014年秋、南房総市による旧長尾幼稚園・小学校の利活用事業案に応募し、採用されて事業化した多目的施設。
「すでに誰かが実現している『二番煎じ』ではなく、見本がない、オリジナリティのある事業を行いたいと考えていました。そこで思い付いたのが『廃校+市民農園』というパッケージ。校舎をオフィスや宿泊施設、レストランとして再生し、ヨーロッパで市民農園として親しまれている『クラインガルテン』(ドイツ)や『コロニヘーブ』(デンマーク)、『ダーチャ』(ロシア)などを参考に、校庭を小屋付き農園スペースとして利用するプランで応募しました。同じ時期に良品計画さんの『無印良品の小屋』の開発担当者と話ができる機会に恵まれ、小屋付き農園スペースの建物に『無印良品の小屋』を使わせていただくサポートを受けられました。ご縁とタイミングで企画案が採用されたと思っています」

アナログとハイテクの融合も、多田さんのこだわりのひとつ。
「シラハマ校舎は木のぬくもりにあふれるノスタルジックな木造校舎をリノベーションしたアナログな建物ですが、その真逆ともいえる、房総半島で初となるテスラ充電器を設置しています。『こんな田舎にこんなものがある』というギャップ、都会の方が喜ぶような仕掛けをつくりたいと考えて設置しました。『無印良品の小屋』もシラハマ校舎が世界初の事例となります」

地域の交流の場として機能し始めたシラハマ校舎。木のぬくもりに満ちた施設が好評

シラハマ校舎内には約20坪の広さのシェアオフィス2部屋、約10坪の広さのシェアオフィス10部屋、ゲストルーム2部屋、レストランとシェアキッチンがつくられている。約20坪のオフィスは大学のゼミ合宿などで利用されることが多く、約10坪のオフィスは10部屋中7部屋が稼働中という。現在改装中の部屋は準備が整い次第貸し出しを行う。オフィスは自由に改装でき、原状復帰は不要。内装業の経験をお持ちの多田さんは「たいていのことは自分で直せるので、自由に使っていただきたい」と話す。

ゲストルームは2部屋。ハリウッドミラーを設置した楽屋裏をイメージした部屋と、プレジデントデスクがある落ち着いた書斎風の部屋という趣の異なる2タイプを用意。一般の宿泊客はもちろん、小屋に遊びに来た友人の宿泊、シェアキッチンを使って自炊もできるためグループでの利用にも便利そうだ。

キッチンカウンターを2台設置したシェアキッチンは、多田さんが新たなコミュニティを発生させたいと考えてつくったもの。
「シェアキッチンは小屋のオーナー様が農園で採れた野菜を調理するもよし、シェアオフィスの利用者様が給湯室代わりに使ってもよし、宿泊されたお客様が持ち込みで料理をつくってもOKです。遊びに来た方といつも利用している方が混在できる空間をつくり、新たなコミュニティが生まれれば面白いと考えました」

木の香りが漂ってきそうなナチュラルテイストの室内。美しく清潔感が漂う洗面など、女性の利用を意識して設計・施工している。2018年には自転車を解体せずに持ち込める「自転車の旅」専用の車両が導入され館山まで運行される予定。</br>自転車愛好家の利用などを見越して、校舎内には愛車の保管とメンテナンス用のスペースを完備している木の香りが漂ってきそうなナチュラルテイストの室内。美しく清潔感が漂う洗面など、女性の利用を意識して設計・施工している。2018年には自転車を解体せずに持ち込める「自転車の旅」専用の車両が導入され館山まで運行される予定。
自転車愛好家の利用などを見越して、校舎内には愛車の保管とメンテナンス用のスペースを完備している

校庭を、ヨーロッパの市民農園をイメージした小屋付き農園スペースに

良品計画の「無印良品の小屋」を設置。すでに4棟で使用が開始され「南房総でのリラックスタイム」を満喫されているようだ良品計画の「無印良品の小屋」を設置。すでに4棟で使用が開始され「南房総でのリラックスタイム」を満喫されているようだ

校庭を利用した小屋付き農園スペースは、ヨーロッパでよく見られる郊外の市民農園をモチーフにしたもの。1区画80~90m2ほどでその中に15m2弱の小屋が建ち、小屋以外のスペースは農園のほかウッドデッキの設置や芝生を植えるなどして自由に使える。21棟建築予定で、取材時で10棟販売済、4棟が引き渡し済だった。費用は、材料費・施工費300万円、施設整備費50万円、電気代など毎月の管理費が1万5000円必要となる。校舎内の風呂やトイレ、シェアキッチンも利用可能だ。

「ゴミは自主処分、自主回収の自己責任でお願いしています。都会で抱え込んだストレスを発散し、週末にゆったりと過ごしていただく場所ですから、マンションの管理規約のような皆さんのストレスになるものは導入していません」

販売済の10棟のうち3棟は中小企業が福利厚生用に購入したものという。
「価格が手頃なこともあり、『どこかに保養所をつくるのであれば小屋を使った新しいライフスタイルを採り入れた方が面白い』と考えて小屋を購入された企業様もいらっしゃいました。『福利厚生用』という用途は頭になかったので新たな発見でしたね」

購入した方のほとんどが東京在住という小屋オーナーと、地元の農家の方とのネットワークの構築も視野に入れる。
「小屋のオーナー様には畑にするための土づくりの経験がない方もいらっしゃるでしょう。また、毎日この場所に来て農作物に水やりをすることもできません。幸い周辺には農業経験豊富な方がたくさんいらっしゃいますので、当社が仲介して苗の提案、水やりや畑の管理などを地元の方に依頼し、そこで新たなコミュニティが生まれればと考えています」

小屋のまわりには畑の水やりや外壁のメンテナンスなどに使うための散水栓を設置。バーベキュー後の水洗いなどにも便利だ。
「井戸端会議をするなど、小屋を利用する皆さんの横のつながりができると面白いですね」

「廃校+市民農園」というパッケージを広げていきたい

お話を伺った合同会社WOULD代表の多田朋和さん。「関東圏にありながらこれだけ自然が豊かな場所はそうないのではないでしょうか。シラハマ校舎の魅力の8割から9割はこの豊かな自然だと考えています。南房総も過疎が進んでいますが、ほかの地域と圧倒的に違うのは都心から近いこと。リゾート感がありながら生活感もある、かなりポテンシャルが高い場所だと思います。ぜひ南房総に遊びに来ていただきたいですし、シラハマ校舎がそのひとつのきっかけになれば嬉しいですね」お話を伺った合同会社WOULD代表の多田朋和さん。「関東圏にありながらこれだけ自然が豊かな場所はそうないのではないでしょうか。シラハマ校舎の魅力の8割から9割はこの豊かな自然だと考えています。南房総も過疎が進んでいますが、ほかの地域と圧倒的に違うのは都心から近いこと。リゾート感がありながら生活感もある、かなりポテンシャルが高い場所だと思います。ぜひ南房総に遊びに来ていただきたいですし、シラハマ校舎がそのひとつのきっかけになれば嬉しいですね」

「全国で小学校や中学校が毎年400~500校ほど閉校しています。学校のような公共施設は地域住民の避難場所に使われるなど安全性が高い場所に建築されていることが多いでので、耐震補強などを行い再利用できるなら有効活用した方がいいと思います。シラハマ校舎は『廃校+市民農園』をパッケージにして事業化しましたが、行政と連携してこのパッケージをほかの自治体にも広げていければと考えています」

現在500坪ほどの農園でぶどうを栽培し、2019年には収穫したぶどうを使ったワインをつくりたいと話す多田さん。昨年には狩猟免許を取得、ワイン+ジビエ料理をレストランで提供したいと夢を語る。
「海の近くなので塩害に強い3種類のぶどうを栽培して試しています。試行錯誤しながら、どの苗が順調に育つか楽しんでいるところです。多少無理をしてでも色々なことを同時進行で行っているので休日はありませんが、興味のあることしかやっていないので疲れはありません。そもそも毎日が休日みたいなものかもしれませんね」と笑う。

またエネルギーを元から創りたいと、今年度中に海風を利用した小型風力発電機の設置も予定している。
「将来的には農園をもっと広げたいと思っています。オリーブの木とワイナリーが広がっている農園の中に小型風力発電機を何基か設置し、そのエネルギーを使ったサスティナブルな社会をつくりたいと考えています。また、車やバイク、自転車で走る方が気持ち良く走れるような景観づくりにも取り組みたいですね。南房総の魅力は景色と食。遊びに来た人が気持ちいい、楽しいと感じられる景観づくりが地域の活性化につながると思います」

南房総の玄関口となる館山駅へは東京駅からJRの特急電車が運行されているほか、東京駅や横浜駅発着の高速バスの利用も便利。また、アクアラインや館山自動車道の開通もあり車でもアクセスしやすい。館山駅からシラハマ校舎までは車で20分ほどだ。
観光名所としてはもちろん、交通インフラが発展したことで近年は都心のベッドタウンとしても注目を集める南房総。シラハマ校舎やシラハマアパートメントをコア施設に、地域の活性化につながるコミュニティづくり、訪れた人を魅了する景観づくりが今後どのような展開を見せるのか、楽しみに見守りたい。

■シラハマ校舎
http://www.awashirahama.com/nagao/

2017年 10月24日 11時05分