モリウミアスが「大切にしていること」

自然豊かな雄勝の風景。モリウミアスの体験プログラムはこの自然の力を借りた一次産業の体験を中心としている自然豊かな雄勝の風景。モリウミアスの体験プログラムはこの自然の力を借りた一次産業の体験を中心としている

前回の"【建物と生きる力の再生-MORIUMIUS(モリウミアス)①】複合体験施設として再生した築93年の廃校"では、モリウミアスの誕生及びコンセプトと建物の再生を中心にお伝えした。今回は、子どもたちの生きる力を育てる体験プログラムの内容にフォーカスしてみたい。

モリウミアスは、旧桑浜小学校のリノベーション再生を行い、2015年7月より子どもたちの宿泊体験の受け入れを始めた。建物と同様にその宿泊体験プログラムには、明確なメッセージが込められている。モリウミアスのフィールドディレクターである油井元太郎さんは、

「僕が手掛けたキッザニアでは、体験できるプログラムが“都会にある仕事の体験”に限られていました。当時からどうやったら一次産業の体験プログラムができるか、という試みをしたくて、“アウト・オブ・キッザニア”と称し、夏休みや冬休みを利用した農林漁業体験プログラムを実施していたのです。

雄勝のまわりには、豊かな海があり、農地があり、自然体験ができる山があり、川があります。自然の生態系がこれほど凝縮されていて、しかも間近に体験できる地域はそうそうありません。また、そこで第一次産業を生業として従事している方々もいる。この地であれば、子ども達のための農林漁業、そして自然体験の充実した学習プログラムができると思ったのです。

雄勝の豊かな海や山、人々の暮らしや仕事を元にしながら、モリウミアスの体験プログラムでは、大切にしていることがあります。

それは、サスティナブルな考え方に基づいて、"循環する暮らし"、"地域の暮らし"、"多様性との出会い"です。また、"自分のことは自分でする"という当たり前の行動です。このことをしっかりと子ども達にメッセージとして伝えています」という。

“雄勝のいのちの恵みに触れる”多様なプログラム

具体的なモリウミアスの体験宿泊プランは、春休み・夏休みなどを利用した7泊8日の滞在型プランと、週末や連休を利用した1泊2日・2泊3日の“家族で訪れる、モリウミアスを体験する”短期訪問プランが用意されている。

7泊8日のプランでは、雄勝町のまち歩きや・森や海・田畑を学ぶ、そして“未来をつくる”ためにモリウミアスに何かを残す、もしくはボランティアなどの多様なプログラム構成となっている。1泊2日の短期訪問プランでも、季節ごとに田植えや味噌づくり、野菜の収穫、いくら・荒巻鮭づくりなど、こちらも都会では体験できないプログラムが用意されている。それぞれのプログラムでは、モリウミアスのスタッフだけでなく、雄勝町の地域の住民とも交流をできるようになっている。

「子どもの親など、大人の同行も可能ですが、プログラムの参加はオリエンテーションも含めて子どもたちのみとさせてもらっています。たとえば、夕食も竈を使って火を焚き、ごはんやお味噌汁を自分たちで作るのですが、包丁なども"あぶないから"といって使わせない、ということはないです。料理には、包丁も火も必要です。必要だからこそ、使いこなせるようになることが重要だと考えています。
常時、スタッフがそばについていますが、危ないギリギリまで手を出しません。自主性や自立心を育んでもらうようにスタッフは、指導というより子どもたちをサポートすることを心がけています。親御さんなどがプログラムで一緒に参加すると、どうしても手を出してしまいますしね(笑)」と油井さんは言う。

実際にプログラムに参加した子どもたち、親の感想はどうなのだろうか?
取材したプログラムでは、合計13名の子ども達が参加していた。年齢、学年は様々…はじめて参加する子どもや、なんと"今回で8回目"という子どももいた。数回訪れている子どもは、仙台駅からのモリウミアスに向かう車中で「あと、少しで着くよ」と、他の子どもたちに教えてあげていた。子ども達に、"どんなことをモリウミアスでしたの?"と尋ねると「前に来たときは、魚を釣った!」「校長先生の家でごはんを食べた!」「鮭をさばいてイクラをつくった!」と楽しそうに教えてくれた。

数回目になるという子どもをプログラムに参加させたお母様は、
「うちの子どもは、まったくの都会っ子。下手をすると駅の階段さえ登らないのに、ここに来たら、山を駆け回り、海で泳ぎ、魚を釣り…とすごく身体を動かすんです。食事も自分で作り、みんなで食べるからか、案外好き嫌いなくおいしそうに食べています」という。
今回初めて子どもと一緒に自らモリウミアスを訪れたお母様は、
「何回か参加させて子どもからは、モリウミアスってね…といろいろ聞いていました。"楽しそうね"くらいに思っていたけど、自然が与える影響や感動が大きいことを実感します。夜寝るときに星が見える、薪で焚いた露天風呂で感じる風、山の空気…など、ここに来ないと感じられないものがたくさんある。都会ではできない経験が、子どもから聞く言葉よりも多く日常にあることを感じました」という。

モリウミアスに到着後、子どもたちはおもいおもいに校庭を駆け回った。校庭にはブランコや滑り台のような遊具はいっさいない…にもかかわらず、子ども達は縄跳びや鬼ごっこなど日が暮れるまで外で遊んでいた。
昔の小学校の校庭で、よく見かけた光景である。

写真左上:数回、子どもたちと訪れているお母様。「子どもがたくましくなっていくことを実感しています」という</br>写真右上:夕食は子ども達が自分たちで竈でご飯とお味噌汁を作る</br>写真左下:校庭で縄跳びをする子ども達。なんどでも挑戦する</br>写真右下:初めて訪れたお母様。「自然の中で過ごすことの経験が、必要なことだと実感しました」写真左上:数回、子どもたちと訪れているお母様。「子どもがたくましくなっていくことを実感しています」という
写真右上:夕食は子ども達が自分たちで竈でご飯とお味噌汁を作る
写真左下:校庭で縄跳びをする子ども達。なんどでも挑戦する
写真右下:初めて訪れたお母様。「自然の中で過ごすことの経験が、必要なことだと実感しました」

短期滞在プラン「お花見・文化祭」の様子と、子ども達と地域住民の交流

今回取材させていただいた短期滞在プランは、4月16日17日の1泊2日での「お花見・マーケット」。
16日は、ボランティアの某グループ企業の方々45名も集まり、翌日のマーケットの準備を行った。モリウミアスのスタッフも自家製のコーヒーづくりのため、生のコーヒー豆をコンロで焙煎する。同行したお母様の手作りのカップケーキやさんのため、子どもたちはその看板作成のお手伝いをする…と、まさにマーケットの準備が行われた。

17日当日はあいにくの曇りと雨。外での開催は断念となったが、旧講堂であった場所などを使い、モリウミアスの建物内でマーケットが行われた。地元の方々も多く訪れ、講堂内で買い物をしたり、食堂でおにぎりや豚汁、山で捕れた鹿肉などが振舞われたりと賑わいを見せた。

当日来た多くの地元の方々は、モリウミアスの建物の前身であった旧桑浜小学校の卒業生である。その方々がまた、学校に集まって子どもたちと談笑する様子は見ていても楽しいものであった。今回のマーケットは、一次産業の体験プログラムとはまた別であるが、逆に地域の人々と子どもたち、ボランティア企業の人たちなど、多様な交流の場となった。

写真左上:手作りのカップケーキやさんの看板作りを手伝う子ども達</br>写真右上:子ども達がつくったモリウミアスマーケットの看板</br>写真左下:あいにくの雨の中だったが、旧講堂の中でマーケットが開催された</br>写真右下:地域の方々の中には旧桑浜小学校の卒業生も多い。体験プログラムに参加した子どもとのふれあいも生まれる写真左上:手作りのカップケーキやさんの看板作りを手伝う子ども達
写真右上:子ども達がつくったモリウミアスマーケットの看板
写真左下:あいにくの雨の中だったが、旧講堂の中でマーケットが開催された
写真右下:地域の方々の中には旧桑浜小学校の卒業生も多い。体験プログラムに参加した子どもとのふれあいも生まれる

"便利さ"や"暮らしの均一化"で失ってしまったものが、地方にはたくさん残っている

「雄勝町の暮らしの豊かさや自然の美しさを、世界中の子ども達に体験してほしい…と思っています」と油井さん「雄勝町の暮らしの豊かさや自然の美しさを、世界中の子ども達に体験してほしい…と思っています」と油井さん

油井さんは、「僕は、近頃このモリウミアスで行った再生のことなどで講演に呼ばれることも増えました。その中で"ウチも地方をなんとかしたいのだけど、モリウミアスだから、できたんですよね?"といった質問を受けることがあります。

僕自身は、どの地方でもそこにしかない特別なものがある、と思うのです。雄勝町の地域に住む人たちの食卓には朝からウニがならぶそうです(笑)。例えば、そういったその土地の人には普通でも、他から見たら贅沢だったり、稀だったりする、暮らしや自然や地域の豊かさがあるはずだと思います。都会が"便利さ"や"暮らしの均一化"で失ってしまったものが、地方にはたくさん残っているんです。

モリウミアスについていえば、ここの暮らしの豊かさや自然の美しさを世界中の子ども達に体験してほしい…と思っています。そこで感じ、学ぶこと、そこから生きる力を育てていくこと…その力が自然や人の暮らしには宿っていると思うからです」という。

モリウミアスをもっとこうしていきたい、というのはありますか?と聞くと
「こういったことを手掛ける以上、これで完成…というのはないのだと思っています。終わりもないし、急いでもいません。自然を相手にしているプログラムである以上、1年でようやく1サイクルです。手掛けるものによっては、もっともっと年数がかかるものだってあります。

山や森や海、そして暮らしは、そうやってじっくり育んできたもので出来ています。そこから学ぶ側がそれを急いではいけない…生きる力を育む、つなげる、続ける、ことを急かしてはいけない、と思います」と話してくれた。

モリウミアスが生み出す「グローカルモデル」

マーケットが行われた講堂の一角には、校舎として使われていた当時の旧桑浜小学校の"教育目標"が残されていた。

■児童像 ・学びを生かす子ども ・感性豊かな子ども ・社会性のある子ども
■教師像 ・共感的、受容的な教師 ・情熱のある教師 ・感性豊かな教師
■学校像 ・快適な学びの場としての学校 ・自己実現の場としての学校 ・遊びたくなる学校

とある。奇しくも廃校になった後も、モリウミアスがその意志を継いでいるようである。

グローカル…という言葉がある。
グローバルとローカルを掛け合わせた造語であるが、「地球規模の視野で考え、地域視点で活動する」という考え方らしい。モリウミアスの学びの形が雄勝町だけでなく、体験する人たちによって、日本中に、そして世界中に拡がっていくことを願ってやまない。

取材協力:モリウミアス http://www.moriumius.jp/

4月16日17日の1泊2日での「お花見・マーケット」に集まったみなさん。</br>モリウミアスのプログラム参加の子ども達、スタッフ、ボランティア企業や地域の方々と顔ぶれもさまざま4月16日17日の1泊2日での「お花見・マーケット」に集まったみなさん。
モリウミアスのプログラム参加の子ども達、スタッフ、ボランティア企業や地域の方々と顔ぶれもさまざま

2016年 06月27日 11時06分