全国でもトップクラスの高齢化 課題先進の町"五城目町"

秋田市から北へ30キロメートルほどのところにある、南秋田郡「五城目町」。地元の人から町のシンボルとして親しまれている森山と、美しい田園風景が広がる自然豊かな町である。

高齢化の進行は日本全国の課題であることは認識の通りだが、ここ秋田県は、32.6%と日本で最も高い高齢化率である。その中でも五城目町は、平成27年度の高齢化率が43.9%と高く、ひいては、世界で見ても高齢化が進んだ地域であるといえる。
五城目町の人口は、平成25年度に1万人を割って以降減少を続けており、秋田県内でも早いスピードで人口減が進んでいる。人口減少、高齢化が誘発する課題は、生産力の低下、過疎化や管理出来ないまま放置される空き家の増加など、あげるときりがない。

だが、そんな課題を抱える五城目町の、"ある施設"が注目を集めている。2013年に誕生した地域活性化支援センター「BABAME BASE」(ばばめベース)には、各地から参考にしたいと視察が訪れるという。"馬場目の基点"「BABAME BASE」について、まちづくり課 まちづくり係長 柴田浩之氏にお話を伺った。

五城目町馬場目にある地域活性化支援センターの愛称、「BABAME BASE」は、直訳すると馬場目の土台・基点。<br> この地を基点に、何が動き出しているのだろうか?五城目町馬場目にある地域活性化支援センターの愛称、「BABAME BASE」は、直訳すると馬場目の土台・基点。
 この地を基点に、何が動き出しているのだろうか?

旧小学校舎を企業誘致の場に

「BABAME BASE」は、閉校した旧馬場目小学校を活用しつくられている。旧校舎と聞いて、老朽化した建物を想像したが、訪れて驚いたのは、建物がまだ新しく綺麗なままであることだ。

「小学校を、老朽化の為に建て替えることになり、新しい校舎を2000年に竣工しました。その当時は当然、閉校になる想定ではありませんでした。新入生の入学が無くなり、近隣の小学校との統合が2011年に決定しました。閉校が決定して以降、この残された小学校をどう活用するか?と、役場の検討委員会、そして町内会の方たちにも意見を頂きながら検討を進め、グラウンドや体育館はこれまで通りに利用することがすぐ決定しました。小学校は図書館にするという案もありましたが、五城目町の課題でもある、新しい雇用の創出を生み出せるようにしたいと、企業誘致の場として活用することになりました」と、柴田氏は開設までの経緯を語ってくれた。

もともと企業誘致の担当をしていた柴田氏。これまでは、都市の大企業や製造工場などをターゲットに誘致活動を進めていたそうだが、秋田市などでも誘致に苦戦している状況。なかなか円滑には進まず、誘致のターゲットを、サテライトオフィスや支社向けに変えたという。もとは小学校ということもありオフィスには十分な広さがあり、入居費用は1ヶ月2万円。規模的にも誘致をしたいターゲットに合致し、環境のよさもあったのだろう。開設前にはすでに3社入居が決まっていたというから幸先のいいスタートである。

センター職員や五城目町の地域おこし協力隊がデスクを並べる事務室の黒板には、体育館などの利用予定やイベントのスケジュールが記載されていた。地域の人が体育館や会議室を利用したりと、コミュニケーションの場でもあるのだ。企業誘致を目的にした、企業向けイベントも定期的に実施しているそうだが、これまでどのようなイベントが開催されたのだろうか?

「開設してすぐ、県内・県外からIT技術者を呼んで、五城目町の魅力発信や課題をITで解決するハッカソンを開催しました。五城目町の郷土料理に"だまこ鍋"という、きりたんぽを小さく丸くした鍋があるのですが、発信力が弱い。もっと認知率を上げたい、という地元の人たちの声に答えて作られたのが、だまこ鍋の具材を集めて鍋を完成されるゲームアプリです。位置情報から、その地点のエリア情報が見られるアプリなど、いろいろな提案やアプリが出来ました」

これらのイベントは、企業誘致活動をするなかで、これまで付き合いのあった企業にアイディアをもらったり、集客を手伝ってもらったりもしたそうだ。

(画像左)国産の木材のぬくもりが感じられる玄関ホール(画像右上)入居する企業のパネルが飾られていた<br>(画像右下)玄関入ってすぐの事務室は、センター職員の方の事務スペース、地域おこし協力隊3名の活動拠点になっている(画像左)国産の木材のぬくもりが感じられる玄関ホール(画像右上)入居する企業のパネルが飾られていた
(画像右下)玄関入ってすぐの事務室は、センター職員の方の事務スペース、地域おこし協力隊3名の活動拠点になっている

上司を説得して五城目支社を立ち上げ

(画像上)株式会社プロデュース・プロの坂谷 専一氏。2016年の春から活動拠点を秋田市から五城目町に移した。当初は本社受託の仕事が多かったが、徐々に五城目町からの依頼が増えてきているとのこと<br>(画像下)坂谷氏がデザインした福禄寿酒蔵とEDWINコラボの前掛け。写真撮影や広告クリエイティブも坂谷氏が担当したそうだ(画像上)株式会社プロデュース・プロの坂谷 専一氏。2016年の春から活動拠点を秋田市から五城目町に移した。当初は本社受託の仕事が多かったが、徐々に五城目町からの依頼が増えてきているとのこと
(画像下)坂谷氏がデザインした福禄寿酒蔵とEDWINコラボの前掛け。写真撮影や広告クリエイティブも坂谷氏が担当したそうだ

そういったイベントの繋がりから「BABAME BASE」に入居することになった、株式会社プロデュース・プロの坂谷専一氏にお話を伺った。プロデュース・プロは秋田市に本社を置く広告代理店である。

「五城目町に産まれ、長く住んでいるので、子どものころにあった賑やかな記憶から、急速に遠く離れていく様子を見て、これ以上寂れてほしくないという気持ちがありました。五城目町には500年以上続く朝市があって、昔は人が多すぎて歩けないくらいだった。林業や木を切るのこぎりなどの鉄鋼業なども盛んで、あの頃は職人のおじさんたちも元気でした。子供が産まれたことをきっかけに、"五城目町のいいところを子供に知ってもらいたい。"と、さらに思うようになりました。ちょうど『BABAME BASE』が出来て、柴田さんから面白い人たちが東京から移住してくると聞きました。その、ハバタク株式会社の丑田さんは、『課題先進の町だからこそ、いち早くそれをクリアできたら世界的な課題が解決できる!』と、熱く語るんです。その出会いもあって、過疎と高齢化が進む町を食い止めるのは、今しかないんじゃないかと思うようになりました」

五城目町から本社のある秋田市まで通勤していた坂谷氏。入居費用は一ヶ月2万円ということもあり、五城目町から秋田市までの交通費と比較しても高くはない。入居の意思を決めた坂谷さんは上司を説得し、会社もそれを許可してくれたという。

「距離が近くなったこともあり、五城目町に関連する相談が増えましたね。町内会で使う地域ごとの旗があるんですが、使い古されてボロボロ。だけど、みんな誰に頼めばいいのか分からず、そのままにしていたんです。1つの地域から相談されて新しく作り直したら、次々と依頼が増えました。それ以外にも、地元の福禄寿酒造と五城目町に工場があったEDWINがコラボした、蔵元の前掛けのデザインをしたり、町のパンフレットを作ったり…。五城目町の、ああしたい、こうしたいの希望を聞いて形にする。そのスピードが早くなったと思います」

「BABAME BASE」のホームページも坂谷さんがつくったそうだ。
週に1度は秋田市の本社に戻り打ち合わせをして、それ以外は五城目町で仕事をする生活。だが、不便はなく理想的な環境で仕事が出来ているそうだ。なにより、坂谷さんが入居する2階から見える五城目町の夕焼けはとても綺麗だ、と満足そうに語ってくれた。

人と人、企業と地域を結びつける"場"が起こす変化

「BABAME BASE」開設による効果について柴田氏に伺った。

「開設から3年、入居企業は6社。体育館やグラウンドなどの施設利用者も含めて、のべ来場者数は1万1038人になりました。地域おこし協力隊の拠点も兼ねていることもあり、協力隊に会いに来る人や、入居している起業家に相談しに来る人と、毎日ひっきりなしに人が集まっています。また、これまではこちらから企業誘致の営業をすることはあっても、相談を受けることはありませんでした。でも、開設してからは入居相談が入るようになりました。他の地域から視察や取材があったりと、『BABAME BASE』という"場"ができたことで、入居してくれる企業が少しずつ増え、またその企業の繋がりで入居企業が増えて…。と、状況がプラスに変化してきていると感じています」

ちょうど取材で事務室を訪れた際、先週大阪から移住してきたという家族が、柴田氏に「BABAME BASE」への入居について相談をしていた。家族で五城目町に移住し、「BABAME BASE」に入居した会社と知り合いで、五城目町を知ったという。また、地域おこし協力隊である石田さんもまた、東京でハバタク株式会社の丑田氏と知り合ったのが参加のきっかけだそうだ。

高齢化が進む町を、このままにしてはおけないと思っている地元の人。それに共感する外の人が移住して、地元の人と力を合わせ、またその人が新しい人を呼ぶ。
高齢化率の数値や、人口減少のグラフから見て、一般的に明るくはない未来を想像する人もいるかもしれない。だが、五城目町にはその数値だけでは測りしれない、人と人との繋がりから生まれる変化という、未知数の希望があるように感じられた。

五城目町地域活性化支援センター「BABAME BASE」
http://babame.net/index.html

写真左手はまちづくり課 まちづくり係長 柴田浩之氏。右手前は地域おこし協力隊の石田万梨奈さん写真左手はまちづくり課 まちづくり係長 柴田浩之氏。右手前は地域おこし協力隊の石田万梨奈さん

2016年 04月21日 11時00分