東京の先にあるコトを求めて高知に移住

東京と高知で靴づくりを教えている勝見友彦さん。月曜日~金曜日までを高知で、土日は東京が会場となる。東京の教室をやめなかったのは「自ら人が集まる場所をつくったのに勝手に辞めるのは失礼だと思ったから」。多くの生徒さんに、何でも買えば済む今の時代に物づくりの大切さを伝えている東京と高知で靴づくりを教えている勝見友彦さん。月曜日~金曜日までを高知で、土日は東京が会場となる。東京の教室をやめなかったのは「自ら人が集まる場所をつくったのに勝手に辞めるのは失礼だと思ったから」。多くの生徒さんに、何でも買えば済む今の時代に物づくりの大切さを伝えている

東京都渋谷区で靴づくりの専門学校「base works」を経営している勝見さんご夫妻。高知県香美市に移住してきたのは2012年4月。
「東京で靴づくりを教えていて、常々『物づくりは暮らしである』と言っていました。しかし、何でも買えばすぐに手に入る東京で言っていてもまったく説得力がありません。自分の物は自分でつくる、そんな暮らしができる場所をずっと探し求めていました」と勝見さん。

「実はずっと静岡県の下田に移住したいと思っていました。サーフィンをする関係で下田には16年位通っていましたが、縁がありませんでした」

それではなぜ、高知を移住先に選んだのだろう?
「妻の友人が高知県に就職して、たまたま遊びに来たのがきっかけです。昔四国観光で高知にも来た事があったのですが、若かったせいか正直なところ魅力を感じませんでした。今回妻が『高知がいいみたい』と提案した時も、僕は大反対だったんです」と笑う。

「高知に来て観光に連れて行くといわれたのですが、ランドマークよりも暮らしを感じられる場所に行きたいと言ったら、妻の友人の同僚が『だいぶ山の中』に住んでいるということで、興味を持ちました。高知へ移住して物づくりを続けるなら便利な町よりも中山間部で暮らしたいし、そこに工房を持ちたい。来た瞬間にここだと思いました」

東京と行き来するにあたり、山の中を希望しつつも、空港へのアクセスの良さも魅力だった。
「東京渋谷の自宅を出て車で羽田空港まで15分、羽田空港から高知龍馬空港まで1時間半ほど。当初考えていた下田は電車でも車でも3時間はかかりますからね。また空港から乗ったタクシーに前席と後席の仕切りがなく、どことなく昭和の香りがしたことにも好感を持ちました」

香美市に家探しを依頼。空き家バンクにも掲載されなかった家を自らリフォーム

とても空き家だったとは思えない、勝見さんの工房を兼ねた住まい。築75年ほどの家をコストを抑えながら巧みにリノベーションしたとても空き家だったとは思えない、勝見さんの工房を兼ねた住まい。築75年ほどの家をコストを抑えながら巧みにリノベーションした

家探しは「空き家があったら見せて欲しい」と、友人に頼んで香美市に連絡を取ってもらったいうご夫妻。香美市からは様々な物件を紹介してもらったという。「不動産事業者も考えましたが、場所と価格のバランスが悪いように感じました」

現在のお住まいの工房兼住居は、空き家バンクにも入れず、道から家までの私道や庭にも草が生い茂りゴミだらけだったそうだ。「ここは誰に見せてもいらないと言われます。空き家バンクにも載っていません」と香美市の方が案内してくれたものだった。

「中に入ったら梁がすごく立派な家だったんです。なんとかこの家を再生してみたいと思いました。なるべくコストをかけずに、予算は300万円と決めて、屋根や柱、梁などはそのままに、床や壁、建具などをリノベーションしました」

厳しい環境が人を強くさせる。「怒られたことすら嬉しかったですね」

高知で暮らし始めて4年が過ぎた。高知の印象を尋ねてみた。
「物部町大西に住んで4年以上になりますが、引っ越して来た時よりどんどん良くなります。山道を車で走りながら、毎日のように『なんて素晴らしい場所なんだろう』と実感しています」

どのあたりが、勝見さんの心の琴線に触れたのだろう。
「住んでいる物部町大西という場所は、高知市街地から車で1時間半ほどかかる中山間地。最初の1年間は自分たちのことで精一杯でまわりを見るゆとりすらありませんでした。ゆえにまわりに対する配慮ができずに怒られた事もあったのですが、それすら嬉しく新鮮に感じたんです。高知の人は人との距離が近く、また真剣に向き合おうとするように感じます。間違った事をしていたら怒られる。逆にちゃんとしていたらそれもしっかり見て向き合ってくれます。簡単便利で誰が責任をとるかわからない場所では得られない、自分が成長できる場所だと感じています。そして中山間部で仕事をつくっていけたらと思います」

高知県の素晴らしさをサッカーの最高峰、イングランドのプレミアリーグに例えて説明する。
「例えば自分がサッカー選手だとしたら、より自分を成長させてくれる海外でプレーしたいと、サッカーの最高峰プレミアリーグを目指すでしょう。僕は高知県を同じように感じています。ずっと成長させてくれるような、ワクワクする環境だと思っています」

工作機械などが並ぶ工房スペース。この場所まで多くの生徒さんが山道を走り通ってくる。「この場所への道のりも靴づくりのひとつのプロセス。ここまで足を運んでくれるのが嬉しいですね」。今回ガイド役を努めてくれた高知県担当者の友人もこの工房の生徒さんで、担当者も驚いていた工作機械などが並ぶ工房スペース。この場所まで多くの生徒さんが山道を走り通ってくる。「この場所への道のりも靴づくりのひとつのプロセス。ここまで足を運んでくれるのが嬉しいですね」。今回ガイド役を努めてくれた高知県担当者の友人もこの工房の生徒さんで、担当者も驚いていた

この素晴らしい香美市を、もっとアピールしたい!

「例えば東京で暮らす人に、香美市と言ってもわからないですよね。勝手に観光大使になって、あちこちで宣伝しています」と笑う勝見さん。「特に」と教えてくれたのが、毎年8月に行われる「奥物部湖水祭」。

「奥物部湖水祭」は香美市はもちろん高知県内でも屈指の人気を誇り、毎年8月14日に開催。その一環で行われる「お山のディスコ」はかなり有名で、YouTubeにも多数動画がアップされている。また500発ほど打ち上げられる花火も美しく、山々に響き渡る音が一段と迫力を増すそうだ。臨時バスも出ているそうなので、お盆休みなどを利用して出かけてみても面白いだろう。

「人が住まなくなったら道も整備されないでしょうし、学校もなくなってしまうでしょう。そうしたらますます人が住まなくなる。移住者を増やすためには、物件情報の充実、一元化はもちろんのこと、『香美市』といってどんな町かすぐにわかるようなエリア情報の発信も必要だと思います」

移住者にとって何が有益な情報か。物件探しをする際に、「駅から何分」「築何年」などのありきたりな情報だけでなく、「海の近く」「サーフィンが楽しめる町」「お祭りが充実」など、暮らしを想起させる新たな検索エンジンの必要性と、同時にこれからの可能性も感じた。

県庁の皆さん、そして2組の移住者の方に話を聞いて感じたのは、高知の人の熱さ。色々な人と積極的につながりたい、もっと腹を割って話せる仲間を増やしたいと考える人には、きっと高知県は住み良い場所だと思う。高知県が移住相談件数で全国2位と高い人気を誇るのは、県や市町村などの積極的な取り組みはもちろんのこと、人懐っこい県民性が支持されているからだろう。

■base works(勝見さんの靴づくり教室。高知と東京で開校)
http://baseworks.org/

■香美市ホームページ
http://www.city.kami.kochi.jp/

勝見さんが開催する靴づくり教室「base works」入口。1日で行う体験クラスもあるので興味のある人は行ってみては。</br>勝見さんと話をするだけでも有意義な時間が過ごせるはずだ勝見さんが開催する靴づくり教室「base works」入口。1日で行う体験クラスもあるので興味のある人は行ってみては。
勝見さんと話をするだけでも有意義な時間が過ごせるはずだ

2017年 01月17日 11時06分