時代の変化で求められるコンパクトな住居
ここ数年、「減築」が注目されている。減築とは、その名の通り「増築」の反対、家を小さくする改築工事のことだが、なぜ費用を掛けてまで家を小さくする必要があるのか、不思議に思う人もいるだろう。増築のメリットには、個室を作る、収納を増やす、部屋を広げてのびのびと暮らすなどすぐに色々と思いつくが、減築となると、使わない部屋はそのまま空き部屋にしておけばいいと思われがちなので、一般にはあまり馴染みが無いのが現状だ。
減築が注目されるようになったきっかけのひとつには、国土交通省による世帯規模の縮小にあわせたコンパクトな住宅を推進するための取り組みがある。2011年3月、国交省は「減築による地域性を継承した住宅・住環境の整備に関する研究 」という報告書を発表した。
これによると、現代社会においては、少子化による夫婦のみ世帯、未婚・晩婚や熟年離婚などによる単身世帯の増加などから平均世帯人数は減少傾向にあり、住居の床面積はかつて程必要ではなくなったとしている。少人数で大きな床面積の家で暮らすとなると、一人当たりの光熱費割合が大きくなりエネルギー消費的にも健全とは言い難く、また住宅の維持管理のためのコストの負担も大きくなる。
実際、内閣府が公表している平成25年版「高齢社会白書」によると、団塊の世代(昭和22年~昭和24年に生まれた男女)の一戸建て持家率は75.3%と高く、また住宅の一次取得時期が今から30年ほど前、ちょうどバブル期と重なり、住居の床面積が拡大傾向にあった時期にあたるため、今後高齢化が進んで独居が増加すれば、広い家で一人暮らしをするケースが増えてくると予測される。
このような状況の中で、家を小さくしてコンパクトな住まい方を実現する減築は、省エネやコスト削減などに有効な手段となり、また生みだされた余白空間は、災害時における過密地域の連鎖的な倒壊・延焼等の防止や、日照・通風の改善など、地域環境の向上にも一定の効果があると期待されている。
大規模分譲地で見かける空き部屋を持て余した暮らし
30年ほど前に開発された大規模分譲地では、延床面積35坪程度の2階建てで、1階にLDK+和室+水まわり、2階に主寝室+子供部屋という間取りがよく見られる。国交省のデータによると、昭和63年の新設持家住宅の平均床面積は116.78m2(約35坪)であり、住居地域の建ぺい率と容積率を考えると、平均的な間取りと言えるだろう。
このような一戸建て住宅は子育てにはよいが、子供が巣立った後に持て余しているケースが少なくない。家族の人数が変わり、2階に住む人がいなくなれば、防犯への不安、掃除が行き届かない、光熱費や維持費が掛かって家計に負担が掛かるなどの問題が起きる。
中には、1階だけで十分に暮らせるため、高齢になるに従って階段の昇降がおっくうになり、2階にはほとんど上がることがないという声を聞くこともある。では2階は使わなければいいかと言えば、家の中に数ヶ月入ったことが無い部屋があるのは、防犯面での問題はもちろん、締め切った部屋はカビが生えやすく腐食しやすいなど、家の維持管理においても悪影響を及ぼす。
また高齢者にとって2階への階段の昇降は、おっくうなだけでなく、危険を伴うものでもある。家の中の階段ごときでと侮ってはいけない。平成25年国民生活センターの発表によると、65歳以上の家庭内事故の発生場所の18.7%が階段であり、死亡事故も発生している。つまり高齢者にとっては、2階建ての家より平屋のほうが、終の棲家としては相応しいということになる。
住み慣れた我が家を終の棲家にするための選択肢として
そこで高齢になると、一戸建ての自宅を売却して、ワンフロアでコンパクトに暮らせるマンションを終の棲家にするという選択肢が生まれるわけだが、この転居が高齢者にとっては大きなハードルになる。長年一戸建てで暮らしてきた人たちは、既に完成されたコミュニティの中にいる。年をとってから新しい土地でまた新たな人間関係を築いていくのは、若い人ならいざ知らず、精神的にも肉体的にもかなり大きな負担になる。
そこで住み慣れた我が家を、安全で快適な終の棲家にするための選択肢のひとつとして減築がある。もちろんバリアフリー化や耐震、断熱工事なども安全で快適な住まいにするためには必要なものだが、それに加えて家のコンパクト化をすることで、より暮らしやすい住環境を整えることが可能になる。また小さな家なら性能向上やメンテナンスの費用負担もそれだけ軽くなる。
減築には2階を無くして平屋にする、建築面積を減らして庭を広く取るなど様々な方法があり、それぞれに意外なメリットもあるので、その詳細は次回の記事でご紹介しよう。
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