“増築”ではなく、“減築”の必要性とは

都市部では、2階建てから平屋に減築するケースが多い都市部では、2階建てから平屋に減築するケースが多い

リフォームの情報を探していると、その中に“減築”というワードが目につくようになった。今、“減築”のニーズが増えているのだろうか?

一昔前ならライフステージの変化でリフォームを行う際に、“増築”はあっても、“減築”という考えはなかなか出てこなかったように思う。しかし、特に都市部では減築を行うケースも見受けられるようになってきた。

なぜ今減築が注目されるのか? また減築が必要とされるケース、そのメリットにはどのような点があるのだろうか?

今回は、数多くのリフォームを手がけ、減築の事例も豊富な住友林業ホームテック株式会社に伺い、減築に関する現状やその事例などを取材してみた。

減築事例で多いのはアクティブシニアのリフォームケース

減築が目的ではなく、リフォームの結果として“減築”する人が多いという減築が目的ではなく、リフォームの結果として“減築”する人が多いという

「当社はお客様のご要望にあわせ、リフォームのお手伝いをしています。特にその中で減築というカテゴリーでサービスを提供しているわけではありませんが、よりよいリフォームの結果として“減築”を選択するお客様がいらっしゃいます」と話すのは住友林業ホームテック株式会社 常務執行役員 技術開発部長 大澤康人氏だ。

"減築"に発展するケースで多いのは、子供が独り立ちをし、夫婦2人きりの再出発としてリフォームを行う場合だという。築年数を重ねた家の老朽化を改善し、耐震性などを向上したいとリフォームを考えた時に、2階建てから平屋建てに変更する“減築”のケースが多いという。

「減築の事例として多いのが、2階建てから平屋に変更する計画です。これには様々なメリットがありますが、中でも不要となった2階を無くすことにより家が軽くなり、構造的に耐震性が向上します。また動線も短くなり、効率良く暮らせるのも魅力です」

シニアになると「階段を上り下りしながら広い家の中を掃除するのは大変」「子どもが独立して日頃出入りしない部屋の風通しが悪く、家が傷まないか心配」「防犯面に気を使う」「家のメンテナンス費用が心配」など問題がたくさん出てくる。減築はこういった問題を解決する一つの手段として注目されている。

太陽光発電も減築して可能になるケースも

では実際に、住友林業ホームテックで行った減築事例を見てみよう。関西のM邸は築47年の2階建て木造住宅だった。子育てとご両親の介護を終えられたご夫婦が親から譲り受けた家だ。築年数から老朽化が目立ち、阪神大震災を耐えたもののそのダメージもどれほどのものか不安があったという。建て替えも考えたが、奥様の生家であり亡きお父様がこだわって建てた家だったことから取り壊すのではなくリフォームを選択されたそうだ。

「こちらのお宅では、介護を経験されるなかで2階にご両親が上がれなくなるのを目の当たりにし、2階の必要性を感じられなくなっていました。そこで、2階から平屋に減築することを提案しました。もちろん耐震性も気にされていましたので、その点も減築することでクリアになりました」

このほかM邸では屋根に太陽光発電を導入しているが、これも減築することで可能になる例もあるという。

「2階建ての場合、斜線制限などで面積が1階よりも少ない場合があります。こうした際も平屋に減築することで屋根面積が広くなり、2階建てでは太陽光発電が不可能だった屋根に導入できる場合もあります。Mさんのお宅でもリフォーム時に太陽光発電を設置しました。リフォーム後の感想でも、売電できることを高く評価されています」

M邸では、部屋数は多くあったものの、ごちゃごちゃした印象でさらに冬に寒く、夏も暑かった家から一転、広々とスッキリした平屋に変身した。亡くなったお父様の想いを受け継ぐように大黒柱を残し、こだわりの欄間をインテリアのアクセントに。もちろん断熱にも力を入れ快適な家に生まれ変わった。

「お客様からは、減築してよかったと喜んでいただいています。何より掃除が楽になり、便利で快適になった、と。懸念される巨大地震への備えとしても安心感が出たとおっしゃっていただいています」

リフォーム前のM邸「1」「2」、生まれ変わった居間「3」は天井にアクセントがある。キッチンも「4」の通りコンパクトながらすっきりとしている。「5」がお父様の時代から受け継いだ欄間のインテリア。「6」すべての部屋がバリアフリーになっているリフォーム前のM邸「1」「2」、生まれ変わった居間「3」は天井にアクセントがある。キッチンも「4」の通りコンパクトながらすっきりとしている。「5」がお父様の時代から受け継いだ欄間のインテリア。「6」すべての部屋がバリアフリーになっている

“2階建て→平屋”で転落事故を防止

独立行政法人国民生活センターが2013年に発表した報道資料。「医療ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編」(http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20130328_3.pdf)独立行政法人国民生活センターが2013年に発表した報道資料。「医療ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編」(http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20130328_3.pdf)

また同社が行った減築事例では、耐震性などに加え、階段による転落事故を気にして2階建てから平屋への減築に踏み切ったご夫婦もいるそうだ。“転落事故が心配で2階建てから平屋に”というとオーバーに聞こえるかもしれないが、この心配もあながち杞憂ではない。

というのも、高齢者の事故で多いのが家庭内によるものだからだ。独立行政法人国民生活センターが2010年から2012年の2年間、13医療機関から9889件の事故情報を分析した結果、65歳以上の高齢者の事故現場の77.1%が住宅という結果が出ている。家庭内事故の内でも最も多いのが「転落」30.4%、次に「転倒」22.1%。中でも「階段」によるけがが最も多い(「転落」43.3%、「転倒」15.8%)という驚きの結果だ。

・「階段の1段目から足を踏み外し転落し、尻餅をつく。太ももを骨折して入院」(86歳、女性)
・「自宅の階段を下りていたところ、手すりをつかむ手をひねってしまい、その場で転倒し、左肋骨を骨折」(83歳、男性)

もちろん家庭内の事故は階段ばかりではないが、それでも「階段」を起因とした事故が多いことには驚かされる。こうしたデータを見ていると部屋数が不要ならば2階建てから平屋にというニーズにも頷ける。

「減築」は、“耐震・省エネ・バリアフリー”にも好影響

住友林業ホームテック株式会社 常務執行役員 技術開発部長 大澤康人氏。同社では“減築”を勧めるわけではなく、最適なリフォームの結果の1つとして減築の可能性をお客様に提案しているという住友林業ホームテック株式会社 常務執行役員 技術開発部長 大澤康人氏。同社では“減築”を勧めるわけではなく、最適なリフォームの結果の1つとして減築の可能性をお客様に提案しているという

「これからの高齢化社会では、医療機関での長期入院なども難しくなります。介護の面などでは確実に医療機関で対応できない場合家庭で担う形になっていきます。その際、住宅のあり方も問われていくことになると思います。当社でも、住宅のリフォームでは“耐震・省エネ・バリアフリー”に重点をおいています。こうした観点でもシニア層による“減築”ニーズは今後増えていく可能性はあると思います」

「減築」というと“もったいない”という気がしていたが、それはナンセンスだった。アクティブシニアと呼ばれるように、夫婦二人きり自由気ままに暮らす世帯が増える中で、高齢者が過ごしやすい生活空間を作るためには、減築にもメリットが多いことがよく分かった取材だった。

2015年 05月25日 11時06分