既存建築物の「用途変更」がこれから重要性を増す!?

古いビルや空き事務所の活用も大きな課題(※写真はイメージ)古いビルや空き事務所の活用も大きな課題(※写真はイメージ)

空き家の増加が大きな社会問題になるのと同時に、空き店舗、空きビル、空き事務所、空き倉庫などの「遊休不動産」も、これからの日本にとって重要な課題となっている。そこで注目を集めつつあるのが、既存建築物の「用途変更」だ。

空き家をリフォーム・リノベーションなどで再生し流通させても、残念ながら空き家数の減少には直結しない。世帯数が増えないことを前提にして考えれば、再生した空き家に新たな住人が入居した時点で、その住人の旧居が空き家となるのである。もちろん、新築によって住宅の数を増やすことは空き家対策にとってマイナスであり、新築住宅を建てることよりも、リフォーム・リノベーションによって空き家の活用を図っていくことのほうが有意義であることは言うまでもないだろう。

だが、用途変更によって空き家(住宅)をそれ以外のものとして活用できれば、住宅総数を減らすことにもつながり、大きな効果が期待できる。依然として住宅需要の多い地域なら、空き事務所などを住宅に用途変更することで、新築に頼らない供給も可能となるだろう。ニーズに合った適切な用途に変えることで、有効活用を図ることができる遊休不動産も多いはずである。

それでは、既存建築物を用途変更する際に考えなければならないことや、注意しなければならないことは何なのか、主なポイントをみていくことにしたい。

「用途変更」の実態はまだ低い水準のまま

まず、現実の不動産市場の中で用途変更がどれくらい行われているのかを確認しておきたいが、残念ながら用途変更にテーマを絞った調査、統計などは実施されていない。だが、国土交通省が半年ごとにまとめている「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」が市場規模を考えるうえで、ある程度の参考になるだろう。

これは建設業者を対象に、建築物リフォーム・リニューアル工事の受注高などを調べているものであり、その中に「工事前後の用途」について「全数推定」をした項目があるのだ。2015年度上半期受注分の報告書(2016年4月28日公表分)によれば、工事総数2,559,878件(工事前の用途が不明のものを除く)に対して、工事後に用途が変わったのは22,166件であり、割合にすれば0.87%程度にすぎない。100件のうち1件にも満たない水準であり、用途変更が盛んに行われているとは言い難い状況のようだ。ただし、この集計では「その他」(学校の校舎、医療施設、宿泊施設、老人福祉施設、その他の非住宅建築物)の用途内での変更は示されていない。

これを用途別にみていくと、工事前の用途が「住宅」だった場合には、工事後も「住宅」のものが99.6%を占め、用途変更したものは0.4%にすぎない。用途変更が最も多いのは工事前が「事務所」の場合で、工事後も「事務所」のものが96.4%、用途変更したものが3.6%といった割合である。リフォーム・リニューアル工事によって用途変更した建築物における、工事後の用途の割合をまとめたのが下のグラフだ。

なお、国土交通省の調査は建設業者の受注をもとに「全数推定」したものだが、半期ごとの変動が大きい(前年同期比100%超の変動も多い)点や、DIYなど建設業者に依頼しない工事、あるいは工事を伴わないまま用途変更したケースなどは含まれないことに留意しておきたい。

「建築物リフォーム・リニューアル調査報告(2015年度上半期受注分)」をもとに作成「建築物リフォーム・リニューアル調査報告(2015年度上半期受注分)」をもとに作成

用途変更に確認申請が必要なケース、不要なケース

一定の用途変更をする際には確認申請を行い、確認済証の交付を受けなければならない。ただし、新築や増改築の場合のように工事完了後の検査を受ける必要はなく、工事完了後4日以内に建築主事へ届出をすればよいことになっている。また、確認申請そのものが不要となる用途変更も多い。

まず、非特殊建築物(専用住宅、長屋、事務所、銀行、市役所、神社、寺院など)をそのまま非特殊建築物に用途変更する場合は、確認申請を要しない。一戸建て住宅を事務所へ、あるいはその逆の用途変更は確認申請の手続きをしなくてよいのだ。また、特殊建築物を非特殊建築物(たとえば飲食店・物販店を、住宅・事務所)へ用途変更する場合も、面積に関わらず確認申請は不要となる。

さらに、「建築基準法施行令第137条の18」で定める特殊建築物の「類似用途」(下表)間における用途変更の際も確認申請はいらない。たとえば劇場を映画館に改装する場合などだ。なお、ここで規定される「類似用途」に飲食店が含まれていないことに注意しておきたい。物販店を飲食店にしたり、逆に飲食店を物販店にしたりする用途変更には、この適用がないのだ。

用途変更の前に確認申請が必要となるのは、変更後の用途(全部または一部)が「類似用途ではない特殊建築物」であり、その用途に供する部分の床面積が100平方メートルを超える場合だ。それに満たない床面積の用途変更は、特殊建築物の場合であっても不要となる。特殊建築物の種類については「建築基準法別表第1(い)欄」に掲げられているが、一般的には専用住宅、長屋、事務所以外の建築物と考えておけばよいだろう。共同住宅(マンションなど)も特殊建築物に含まれることは理解しておきたい。

なお、用途変更の確認申請が不要なことと、建築基準法をはじめとする法律などの適用は別に考えなければならない。たとえ確認申請がいらない用途変更でも、変更後の建築物にはその用途に応じた法律や自治体の条例などが適用されるのだ。

その場所に新築することが認められない用途にすることができないのはもちろんのこと、さまざまな規制に適合するように改修工事をしなければならない場合もある。用途変更においては一定の緩和規定などもあるが、変更後の用途に対する規制に適合しなければ、違反建築物になるのだ。用途変更にあたっては、計画の前に建築士のチェックを受けるなど、しっかりとした対策をしておくことも必要だろう。

「建築基準法施行令第137条の18」による、用途変更の確認申請がいらない類似用途「建築基準法施行令第137条の18」による、用途変更の確認申請がいらない類似用途

知っておきたい既存不適格建築物と違反建築物の違い

用途変更をする際に、その建築物が現行法規に適合しているかどうかが問題になる場合がある。その際に知っておきたいのは「既存不適格建築物」と「違反建築物」の違いだ。「既存不適格建築物」とは、その建設当時は適法だったものの、その後の法改正によって現行法規に適合しなくなった状態の建築物であり、一定の緩和規定が適用される。それに対して「違反建築物」は建設当時から法に適合していなかったものや、建設後に違法な増改築工事などがされたものだ。

もし用途変更しようとする建物が「違反建築物」であれば、用途変更をする前にその是正工事(容積率オーバーのときは減築など)が求められるなど、ハードルはかなり高くなりがちである。また、「既存不適格建築物」の場合には、そのまま使うかぎりは現行法規が適用されない部分が多いものの、用途変更をしようとすれば準用される規定の範囲が広がるのだ。変更後の用途によっても異なるが、規定の内容はたいへん複雑であり、やはり事前の建築士によるチェックが欠かせない。

だが、問題なのはそもそも適法な建築物なのか、既存不適格建築物なのか、あるいは違反建築物なのかが分からないケースが多いことだ。建設工事後の完了検査については、かつてその受検率が極めて低く、1998年時点で38%、さらに遡れば5%程度にとどまる時期もあったようである。完了検査を受けず「検査済証」が交付されていないために、建設当時の適法性が判然としないのだ。この検査済証がない建築物に対しては、国土交通省が2014年7月にガイドラインを公表し、その手続きにおいて一定の合理化が図られたものの、依然として難しい面は多いだろう。

また、1990年代頃までは建築確認どおりに造らない違反建築物や、はじめから建築確認そのものを受けないで建てるものも少なからず存在した。用途変更をしようとしてもスムーズにできないケースがあるので注意が必要だ。

自ら所有する建築物の用途変更を考えるときはまず検査済証の有無を確認すること、また、用途変更を目的として既存建築物を購入するときは検査済証の提示を求めたうえで、現況と相違する箇所がないかどうかを調べるようにしたい。

空き家を「民泊」に用途変更するときには旅館業法の適用も

近年の訪日客の急増により宿泊施設が不足し、その対策として「民泊」が期待されている。それと同時に、増え続ける空き家の活用策として「民泊」が担う役割は大きいだろう。そのルール作りが急がれており、一定の緩和規定が設けられることも考えられるが、現状では大半の地域において旅館業法の適用を受けることになる。用途としては「ホテル、旅館」の特殊建築物だ。

空き家を「民泊」にするときは、前述のとおり「民泊」に提供する部分の床面積が100平方メートル以下であれば確認申請はいらないが、さまざまな法律の規定を守らなければならない。まず「用途地域」だが、「ホテル、旅館」が認められるのは第一種住居地域から準工業地域であり、第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域などには建てることができない。したがって、「民泊」への用途変更もこの範囲で考えることが原則だ。

さらに、旅館業法や自治体の条例によって、学校や児童福祉施設などから一定の範囲内への「ホテル、旅館」の立地を認めていないため、緩和規定が設けられないかぎり「民泊」もそれに沿うことになるだろう。また、自治体の条例で排煙設備や非常用照明設備の設置、一定の耐火性能や廊下幅の確保など、さまざまな規定への適合が求められる場合もある。

国は「民泊」を推進したい一方で、自治体によってはなるべく制限したい場合もあり、「民泊」に供する床面積が100平方メートル以下でも、用途変更の確認申請を求めるケースもありそうだ。いずれにしても、空き家なら何でも「民泊」にできるというわけではない。今後の法整備の内容にも注意しておきたいが、自己判断で思わぬ失敗をしないよう、十分に気をつけたい。

古民家などをレストランやカフェにする例も増えているが、</br>今後は宿泊施設などへの転用例も増えていくと思われる(※写真はイメージ)古民家などをレストランやカフェにする例も増えているが、
今後は宿泊施設などへの転用例も増えていくと思われる(※写真はイメージ)

2016年 10月12日 11時06分