「内装作家」という今までにはない職業を切り開いた女性がいる

明大前に内装が古きニューヨークのブルックリン風のイメージになっているユニークな賃貸物件がある。
内装作家の橋場まやさんが2018年手掛けた物件で、帰りたくなる部屋、友達を呼びたくなるような部屋を目指したという。この物件は、近隣相場よりも家賃がやや高めであったが、すぐに入居が決まったらしい。

一般的に最近の住宅は、内装が白いクロスの壁で、茶系のフローリングの床というのが普通のようで、一般のマンションやアパートは、どこの部屋も似たりよったりとなっている。
ところが、まやさんのは、大工さんのようなリノベーションではなく、ペインティングを中心に独特の世界観がつくりだされている。さらに外壁やドアに、サインをペインティングして独特な雰囲気をつくりだしているのだ。その腕前を見込んだ賃貸物件の大家さんたちが、彼女に内装や外壁デザインを依頼して、付加価値をあげているという。

右上:物件は一般的な2階建てのワンルームのアパート/左上:内観は古き良きアメリカのイメージ/右下:キッチンも塗装によって世界観を構築、黒いカラーボックスも活用/左下:トイレの中も文字塗装をすることでデザインの連続性をつくる右上:物件は一般的な2階建てのワンルームのアパート/左上:内観は古き良きアメリカのイメージ/右下:キッチンも塗装によって世界観を構築、黒いカラーボックスも活用/左下:トイレの中も文字塗装をすることでデザインの連続性をつくる

自宅での趣味のDIYが大きな反響を呼んだ

上:DIYで独特のキッチンになったまやさんの自宅/下:最近手掛けたシェアスペースでのまやさん上:DIYで独特のキッチンになったまやさんの自宅/下:最近手掛けたシェアスペースでのまやさん

まやさんは、もともとはグラフィックが専門だったが、最近では内装デザインのほうがメインになり、これまでになかった「内装作家」というジャンルを切り開いている。
彼女自身も、まさか、内装が仕事になるとは、まったく思ってもなかったそうだ。

子どものころ、実家で自分の部屋の壁に英字新聞を切り貼りして、オリジナリティな空間を作った経験があったまやさん。さらに電灯の傘を自分で作って、空間が自分好みにし、落ち着いたスペースをつくりあげたそうだ。人と同じものが好きではなかったので、自分で服やアクセサリーを作るなど、自分が良いと思うものは、無ければ次々と自分でつくりだしていった。

そんなまやさんが、内装作家になったきっかけは2016年にさかのぼる。
たまたま川口市で猫と一緒に暮らせる物件で、しかもDIYもOKという賃貸がありそこに住むことになったのだ。自分の好みのものを自分で作り出していたまやさんは、仕事の合間、1年がかりでDIYを行い、2017年に理想の内装を完成させた。

その部屋を大家さんや知り合いの大家さんなどが見学し、その面白さが共感をよんだ。さらに他の大家さんたちへ情報がひろがったことで内装の仕事が舞い込むようになったという。2018年からはじめたが、2019年9月には24件もの内装を手がけるといった人気ぶりだ。

普段のアイディアのストックと直感を掛け合わせる

仕事の進め方は、まずは部屋を見に行き発注者の要望やイメージをヒアリングする。例えば、キーワードとして、「白い世界」「可愛い」「古き良きアメリカ」「サビの入ったダウンタウンの場末感」など……そのヒアリングしたキーワードから具体的なイメージを固めていくという。
また、「すべてお任せ」という場合は、まやさんは現場に赴き、そこで壁をじっと見ていると、目指すべきコンセプトが閃くそうだ。

細かい設計はせず、イメージが固まった段階で材料集めを始めるが、ほとんどの材料をインターネットで購入する。また、普段から外出時に面白いと思った内装に出会うと、必ず写真を撮り手で触ってどんな素材が使われているのかをみているそう。そのような、まやさんの普段の幅広い興味と関心と情報のストックが、アイディアの幅を広げているようだ。

まやさんが、施す装飾に壁の大きな文字塗装がある。ステンシルという素材で、文字の型を抜き、ローラーペンキで壁に塗るのだが、この文字が空間全体のポイントになるそうだ。

実際にイメージ通りに進めていて、方針転換することもあるようだが、それは色合いのバランスが想定よりも悪い、またはインパクトに今一つ欠ける場合。そんなときは、新たにアイディアを考えて、そのアイディアを生かしていく場合もある。

例えば手がけた物件のひとつとして、2019年竣工の都内のペンシル型ビルがある。
1階を賃貸、2階を貸し会議室、3階をオーナーの事務所にしていたのだが、施主からは「外観から想像できないイメージにして、落ち着いた大人の雰囲気とアメリカ大陸をモチーフに」というリクエストを受けた。そこでまやさんは、古いポスターを購入して、それを切ったり貼ったり、汚したりした内装を手がけた。

2019年9月に手掛けた都内のビルは、オーナーの事務室をアメリカと遊び心で組み合わせた2019年9月に手掛けた都内のビルは、オーナーの事務室をアメリカと遊び心で組み合わせた

自分でも内装を楽しむ方法のアドバイス

まやさんに、自分の部屋を好みの空間に仕上げるための、アドバイスをいただいた。
まず、自分の好きな色を決めることだという。そこから入っていくとつくりやすいそうだ。
まやさん自身は、「私は、茶色が好きです。だからサビの色、レンガの色を多様します。またポスターも古びた茶っぽさに作り込みます」という。
つまり、その好きな色をテクスチャーに落とし込むことで、幅が広がり、結果として自分にとって心地良い空間になるというのだ。

次のアドバイスは、自分の暮らしのメインになるところから始めるのがよいということ。
「例えば、玄関、トイレなど、自分の好きな場所、または家の一番顔になる場所から始めるのが効果的です。結果が、すぐに出るので、その変化がすぐに感じられます。自宅ではもともと玄関ドアが真っ赤、壁がベージュで、自分の好みではない内装でした。そこで最初は、玄関に入ったあたりの内装から作りこんだんです」と語る。

そして決して、無理をしないことも大事で、大変になったらいったん中断する選択もして欲しいという。
「当時は他のデザインの仕事をしていたので、無理ない程度で、コツコツと進めました。それでも結構たいへんだったこともあり、メインの玄関が終わった段階で、いったん終了しました。
しかし、その後、ふつふつと欲がでてきて、もっと変えたくなり、キッチンや部屋、トイレなども手掛けるようになりました。それも急がず、のんびりとやったので、楽しい思い出しかありません。」と、まやさんは当時を振り返る。

最近は、DIY可能な賃貸も増えつつあり、自分らしいライフスタイルの家に改装も可能な物件が多くなってきている。たとえば、まやさんのように内装作家が手掛ける空間、DIYで自分なりに創意工夫した空間など、住空間の今後は選択の幅が広がりそうだ。

左:まやさんの自宅の玄関まわりは、好きな茶色をアレンジして、赤いドアもバランス良くなじませる/右:一旦DIYを中断していたが、その後、トイレも手を加えた左:まやさんの自宅の玄関まわりは、好きな茶色をアレンジして、赤いドアもバランス良くなじませる/右:一旦DIYを中断していたが、その後、トイレも手を加えた

2019年 12月27日 11時05分