海外の観光客が期待する、日本流「おもてなし」と「トイレ」

日本のトイレは清潔で快適だ。日本中どこへ行ってもトイレに困ることは無く、ホテルやデパートはもちろん、最近では新幹線や飛行機のトイレにも温水洗浄便座が設置されている。レストランやカフェなどの飲食店では女性客を捕まえようとトイレを徹底的に美化するなど、日本のトイレは清潔が当たり前で、より美しく快適であることが求められている。

このような日本のトイレは、海外の観光客からも注目されている。掃除が行き届き、温水洗浄便座や排せつ音を消す装置、トイレットペーパーも切らさず据え付けられている様子は、凄すぎてオーバークオリティではないかとの意見もあるが、概ね驚きをもって好意的に迎えられているようだ。

と言うのも、TOTOが実施した「訪日外国人の宿泊施設へのニーズ調査」の結果によると、日本の宿泊施設へ期待するもの1位は「接客」で、僅差で2位が「トイレ」だったのである。食事や客室、風景よりもトイレが注目されているとは、いかにも日本らしい。温水洗浄便座に至っては土産品としても人気があり、日本流のおもてなしとトイレに海外の関心が高まっている。

それにしても日本のトイレがここまで海外から羨望視されるほど高機能化したのは、いつ頃からなのだろうか。そんなトイレへの果てしない情熱と歴史、最新事情を知ることができるのが、TOTOミュージアムだ。国産初の腰掛式水洗便器メーカーであるTOTOは1917年に東洋陶器株式会社として創立された。その後、東陶機器株式会社、そしてTOTO株式会社となり、今年でちょうど創立100周年を迎えた。TOTOミュージアムは、その記念事業として2015年8月にオープンした。

TOTOミュージアムは、トイレを中心とした水まわりの歴史や商品の変遷、衛生陶器の作り方、水栓金具や梱包材の仕組みに至るまで、日本の水まわり文化に関する様々な展示がなされた博物館である。今回はTOTOミュージアムの館長である大出大氏と、広報部の山崎明子氏に、日本のトイレ文化について話を伺うことができた。

上:「訪日外国人の宿泊施設へのニーズ調査」30の国と地域に実施<br>
左下:TOTOミュージアムの館長である大出大氏と、広報部の山崎明子氏<br>
右下:TOTO最新のウォシュレット一体形便器ネオレストNX上:「訪日外国人の宿泊施設へのニーズ調査」30の国と地域に実施
左下:TOTOミュージアムの館長である大出大氏と、広報部の山崎明子氏
右下:TOTO最新のウォシュレット一体形便器ネオレストNX

TOTOミュージアムは予想以上の盛況、観光バスのトイレ休憩の鉄板にも

TOTOミュージアムは創立の地、小倉にある。約15万平米の敷地内には衛生陶器の工場やなどもあり、見回すとあちこちにTOTOの大きな看板が見える。中でも滑らかな三次曲線による「緑豊かな大地」と「水滴」をイメージしてデザインしたという真っ白なミュージアムはひときわ目立っていて、床面積2,000平米に約1,000点の展示があるというから、かなりの規模だ。

この建物は鉄骨基礎免震構造4階建てで、CASBEE®-キャスビー(建築環境総合性能評価システム)最高ランクの省エネ建築でもある。また建物内には、衛生陶器を製造する際に使った「アルミナ玉石」を中庭の玉砂利として再利用していたり、太陽熱を利用した換気・暖房システム「ソーラーチムニー」があったり、もちろん水まわりにはお得意の節水器具が取り付けられているなど、環境アイテム100と名付けられた環境に優しい工夫が随所に凝らされている。

壁面は衛生陶器をイメージさせる白色で統一。清潔感あふれる明るいミュージアムだ。ちなみに衛生陶器とは浴室やトイレ、洗面など水まわりで使用される陶器をそう呼ぶが、なぜ「衛生」なのかといった謎も、このミュージアムで知ることができる。

来館者は予想をはるかに上回り、現在19万人を突破。住宅リフォームに従事する筆者の周囲でも、このミュージアムができたというニュースが流れた際はかなり話題になり、行ってみたいという声がよく聞かれた。

今や小倉の観光名所にもなっているが、観光バスのトイレ休憩の鉄板となっているというのが面白い。確かにここのトイレなら高機能で清潔であることは間違いない。最近は海外からの来場者も増えていて、多くはアジア、中国、台湾、タイ、ベトナムなどから観光地として立ち寄るという。では次に内部の様子をご紹介しよう。

左上:ひときわ目立つ外観。滑らかな三次曲線による「緑豊かな大地」と「水滴」をイメージ<br>
左下:壁面は衛生陶器をイメージさせる白色で統一。あちこちになめらかな曲線が見える<br>
右:衛生陶器を作る際に使った「アルミナ玉石」を中庭の玉砂利として再利用 左上:ひときわ目立つ外観。滑らかな三次曲線による「緑豊かな大地」と「水滴」をイメージ
左下:壁面は衛生陶器をイメージさせる白色で統一。あちこちになめらかな曲線が見える
右:衛生陶器を作る際に使った「アルミナ玉石」を中庭の玉砂利として再利用

便器はひとつひとつが手作りの工芸品、芸術的な梱包材

博物館内部は、10の展示コーナーに分かれていて、衛生陶器など水まわり製品の製造工程やTOTOのルーツ、水まわりの歴史、海外向け製品の展示などもある。

TOTOは森村グループの企業のひとつで、森村商事株式会社、株式会社ノリタケカンパニーリミテド、日本ガイシ株式会社、日本特殊陶業株式会社、株式会社大倉陶園とは、資本関係は無いが兄弟会社のようなものである。創立時は上下水道が完備されておらず、衛生陶器は売れなかった。そこで食器の製造技術を活かし、衛生陶器事業が軌道に乗るまでは食器製造で利益をあげていたそうだ。特にTOTOのコーポレートカラーの元となった瑠璃色の食器については、陶磁器で発色することが非常に難しく、洋食器製作でも高い技術力があったことがわかる。

便器などの衛生陶器が出来上がるまでの工程も見どころだ。原材料から成形、乾燥、施釉、焼成、検査、そして包装までの流れが紹介されている。

便器ボウル面は少ない水で効率的に洗浄できるよう、綿密に計算された形状になっているが、重さも硬さも大きさもまちまちな汚物を流すためには、複雑な流体解析が必要なため、スーパーコンピューターを活用して計算しており、シミュレーション、試作、実験の繰り返しで研究を進めていると言う。

成形後は乾燥させ、施釉をして焼成となるが、TOTOの場合はセフィオンテクトと呼ばれる特殊なガラス質の釉薬を焼き付け、表面のつるつるが長期間維持されるようになっている。

そしてそれを長いトンネル窯で1日かけて約1,200度でじっくり焼き上げるのだが、乾燥で約3%、焼くと約10%縮むため、それを計算に入れて成形する必要がある。また便器は一体成形ではなく、実はいくつかのパーツを人の手で組み合わせて磨き上げるという工程が存在する。そしてその仕上がりの具合は、目視はもちろん、内部にひび割れがないかハンマーで叩いて音を聞く等、全数検査を行っており、基本ひとつひとつ手作りのようなものなのである。

便器は普段お尻の下にあって、掃除の時以外はじっくり見ることがないが、ものづくりの現場に接してみると、便器は工業製品というより工芸品のようだと、そのすごさに感動させられる。

またリフォームの現場にいる者として興味深かったのは、自社開発で行っているというこだわりの梱包の展示だ。現場のことを考え、通常2人で設置する壁付け便器が梱包を台座にして1人でできるようになっていたり、エコや環境に配慮して発泡スチロールの緩衝材無しで段ボールだけで便器が覆えるよう、芸術的ともいえる複雑な切れ目が入っていたり、これらをすべて自社で開発しているとのこと。何でも自分たちでやってしまおうとするところがあるかもしれないと、大出氏は笑顔で語っていた。

左上:TOTOのコーポレートカラーの元となった瑠璃色の釉が施されたティーセット<br>
右上:腰掛式便器の座席付き「トイレバイクネオ」は家畜の排せつ物や生活排水を発酵させたバイオガスで走る<br>
下:便器の形を模したベンチでひとやすみ。やわらかく座り心地もいい左上:TOTOのコーポレートカラーの元となった瑠璃色の釉が施されたティーセット
右上:腰掛式便器の座席付き「トイレバイクネオ」は家畜の排せつ物や生活排水を発酵させたバイオガスで走る
下:便器の形を模したベンチでひとやすみ。やわらかく座り心地もいい

便器の歴史、日本のトイレ文化の転換期となった「ウォシュレット」登場

水まわりの変遷や便器の歴史を展示したコーナーは、便器そのものだけでなく、その時代の暮らしや実際のトイレの様子が再現されていて見ごたえがある。

それまでの木製の便器に代わって陶磁器の便器が登場したのは明治時代である。この頃はまだ汲み取り式ではあったが、排泄物は貴重な肥料であり、定期的に汲み取りを行うために衛生面は保たれていて、またこの肥料は大家さんの大事な収入源でもあった。(写真①)

腰かけて用を足す腰掛式水洗便器が国産として初めて登場したのは1914年(大正3年)である。この頃はまだ下水道がほとんど普及していなかったため多くは汲み取り式で、大正末期から昭和にかけて建てられた近代的な同潤会アパートに取り付けられた水洗便器や清潔な水まわりは、当時羨望の的だったと言う。水洗便器が本格的に普及し始めるのは戦後のことである。(写真②)

衛生陶器と言う言葉が使われるようになったのもその頃だ。1918年に東洋陶器が制作した「衛生陶器とは何か?」と言う啓発用パンフレットに、「不潔!それがイケナイと申す事で御座ります」と、トイレは不潔でなく清潔で衛生的な場所なのだと書かれている。

その頃、国会議事堂に設置されていたという立派な腰掛式便器も展示されていたが、便器のフチに大きな傷がたくさんついている。これは上に乗ってしゃがんだ靴の跡で、当時の高級な靴の裏には金属の鋲が打ち付けられていてため、傷だらけになったそうだ。国会に出入りする人たちもまだ腰掛式便器の使い方がわからなかったというわけだ。

戦後、下水道の普及が進み、公団住宅などによって水洗便器が急速に普及。TOTOでは1977年に腰掛式便器の出荷台数が和式を上回った。展示されていた1970年代の隅付ロータンクに便座カバーがついた小さな腰掛便器は、まさに筆者の家にもあったものだ。この時代は、和洋半々と言った感じで、新興住宅地の一戸建てでは、1階のトイレは和式、2階は洋式といったような間取りも見られた。(写真③)

そして、昭和から平成にかけて節水便器が登場する。都市部の人口集中とライフスタイルの変化で水不足が起きたことをきっかけに開発が進み、1965年には1回流すごとに約20リットルの水が必要だったのに対し、現在は3.8リットルと、毎度1リットルのペットボトル16本分以上も節水できるようになったのだから、驚くべき進化だ。

さて、日本のトイレ文化の最大の転換期となったのが、1980年の「ウォシュレット」の登場だ。今では一般名称のように使われているのを見ることも多いが、「ウォシュレット」はTOTOの登録商標である。「おしりだって、洗ってほしい」というコピーでセンセーショナルにデビュー。テレビCM放送時には、食事時にこんなものをテレビで流すなという抗議の声を含めて反響がとても大きかったそうだが、現在では温水洗浄便座はあって当たり前、一般世帯での普及率は約80%となっている。(写真④)

日本にまだ下水道が整備されていない時代に、トイレを衛生的な場所にしようと腰掛式水洗便器を開発、製造。そして、これまでお尻を洗うという発想が無かった日本にウォッシュ+トイレット、そしてレッツウォッシュで 「ウォシュレット」という、お尻を洗うのは当たり前という新たな文化を生み出したTOTOは、まさに日本のトイレ文化をけん引した存在であると実感させられる。

①戦前のトイレ。衛生を保つために汲み取り式便器も陶器製に<br>
②大正末期から昭和。日本で最初に開発されたサイホンゼット式便器、当時憧れのトイレ<br>
③1970年代。タイル貼りの床と壁、隅付ロータンクに便座カバーがついた小さな腰掛便器<br>
④1980年に「ウォシュレット」登場。貯湯式から現在は瞬間式へ①戦前のトイレ。衛生を保つために汲み取り式便器も陶器製に
②大正末期から昭和。日本で最初に開発されたサイホンゼット式便器、当時憧れのトイレ
③1970年代。タイル貼りの床と壁、隅付ロータンクに便座カバーがついた小さな腰掛便器
④1980年に「ウォシュレット」登場。貯湯式から現在は瞬間式へ

人気は白色のローシルエット便器、トイレを見て自分が生きてきた時代を思う

現在、便器の座り心地は格段に向上し、デザインはよりスタイリッシュに、コンパクトになっている。人気はローシルエットと呼ばれる便器で、背中側に大きなタンクが無く、高さが65cm以下で温水洗浄便座が一体のもの、別のもの、小さなタンクが下方についているものなどがある。

ローシルエット便器は奥行きが小さいため、トイレの前方のスペースが大きく取れ、男性が身動きしやすい、掃除がしやすい、壁面に手洗いを独立させても邪魔になりにくいなどのメリットがある。

色は20年ほど前はパステルアイボリーと呼ばれる淡い黄色がかった色が人気があったが、現在は圧倒的にクリアな白色が人気だ。水まわりを見て古さを感じるのは、形状だけでなく、この色にもあり、例えばバブル時代には、エクセルブルー、エクセルワインレッドと言ったような濃い色があったが、今では全くと言っていいほど見なくなった。

さて今後、便器はどのような方向へ進むのか。省エネはもう当たり前で、節水はもちろんのこと、便座を暖める電気を節約するために、座る直前にセンサーで感知して使う時だけ温めるものや、公共用のトイレリモコンには電池も電源も不要のタイプがある。カチっと押すことでばねの力で電気を生み出すのだそうで、パチンと手ごたえがあるボタンがついたリモコンがあると思ったら、そんな仕組みになっていたわけだ。

掃除のしやすさに関しては、言うまでもないだろう。なんせ定期的に自動で除菌までしてくれるのだ。個人的には便器の外側も全部一気に洗える丸ごと掃除不要便器が出たらうれしいのだが、それはぜいたくというものだろうか。いつかやってくれそうな気もするが。

TOTOミュージアムの場所は小倉駅からバスやモノレールですぐ、タクシーでも10分ほど。小倉は博多から新幹線で約15分であっという間に到着する。入館料無料で、ガイド付き見学を希望する場合は予約が必要になる。

見どころが多く、筆者も予定の時間をかなりオーバーしてしまった。来場者層は、小さな子供からお年寄りまでまんべんなく分布しているそうで、それぞれが自分の生きてきた時代を思い、懐かしみながら見ていくという。

TOTOは日本の清潔な水まわり文化を海外へも伝えたいとの思いがあり、グローバルにも展開を行っていて、モットーは「その国のTOTOになる」である。現在、売り上げの22%が海外向けのもので、その中の半分近くが中国だと言う。(2016年度末時点)

海外では節水便器や「ウォシュレット」を中心に普及を進めているが、温水洗浄便座に関しては、インドネシアなど、もともとお尻を洗う文化がある国では受け入れられやすいが、欧米では水質や文化の違いの壁があり、まだ普及には至らず、今後の課題だと言う。

我が国は世界的にみて、数少ない良水に恵まれた国である。上水道として十分使える質の水を、洗濯に使ったり、風呂で使ったり、ましてやトイレの洗浄水として使える有り難さを再確認させられる。最近ではアジアを中心とした海外のホテルやレストランなどでも、温水洗浄便座が取り付けられているトイレを見かけるようになった。日本のトイレ文化がどこまで広がるか、楽しみである。
取材協力:TOTOミュージアム

左上:エクセルワインレッドの便器<br>
中上:昔よく見た腰掛便器の使い方ラベル<br>
右上:ミュージアムショップ。衛生陶器のミニチュアやペーパークラフトも<br>
下:新旧ずらりと便器が並んだ様子は圧巻左上:エクセルワインレッドの便器
中上:昔よく見た腰掛便器の使い方ラベル
右上:ミュージアムショップ。衛生陶器のミニチュアやペーパークラフトも
下:新旧ずらりと便器が並んだ様子は圧巻

2017年 11月24日 11時05分