新しい生活様式の実践例とは?これまでとは異なる家づくりの新しい視点
政府の専門家会議による、新型コロナウイルス感染拡大を予防するための行動や暮らし方を示した「新しい生活様式」の提言により、家のカタチが変化のきざしを見せている。
コロナ前後で人々の家選びに対する意識は変化し、それに伴い住宅関連メーカー各社も新しい生活様式に即した新提案を次々と打ち出し始めている。
新しい生活様式の3つの柱は、
□「3つの密」を徹底的に避ける
□手洗いや人と人との距離の確保など基本的な感染対策を続ける
□テレワーク、時差出勤、テレビ会議などにより接触機会を削減する
であり、これらは長丁場に備えて定着が求められるものとしている。厚生労働省から、それぞれの実践例が公表されているので、その中から特に家づくりに影響を与えるものをいくつかピックアップしてみる。
□家に帰ったらまず手や顔を洗う
□人ごみの多い場所に行った後は、できるだけすぐに着替える、シャワーを浴びる
□こまめに換気(エアコン併用で室温を28度以下に)
□1人ひとりの健康状態に応じた運動や食事、禁煙等、適切な生活習慣の理解・実行
□買い物は通販も利用
□食事は持ち帰りや出前、デリバリーも
□筋トレやヨガは十分に人との間隔を、もしくは自宅で動画を活用
□歌や応援は、十分な距離かオンライン
□働き方の新しいスタイルとして、テレワークやローテーション勤務
言われなくても、既にこのような暮らし方をしている人が多いと思うが、生活スタイルが変化すれば暮しやすい家のカタチも変わる。
例えば手洗いの習慣はこれまでもあった。しかし帰宅後にどこも触れずに速やかに正しい手洗いをするといった行動は、コロナ流行後から始めた人も少なくないことだろう。そうなると玄関へ入る前か、入ってすぐに手洗い場があれば便利だが、そこまで意識して家づくりをしている家はごく少数だ。仕方なく、手を洗った後に、改めてドアのぶや手すりを消毒して歩いているという声を聞く。
買い物の回数を減らすためには、これまで以上に大きなストック場所が必要になる。オンラインヨガを受講するなら身体を動かすスペースの確保が必要だ。家で食事をする機会が増えれば洗い物が増えるので、大型の食器洗い機があったほうが便利かもしれない。家でレジャーをするならベランピングやウッドデッキか。テレワーク然り、換気のしやすさ然り。快適に暮らすためにはこれまでとはちょっと違う、新しい家づくりの視点が必要になる。
コロナ禍で生まれた新しい生活習慣、家選びの意識にも変化が
新しい生活様式は、新しい生活習慣を生み出した。その代表的なものが、帰宅時の正しい手洗いと換気である。
大和ハウス工業株式会社のコロナ前後の生活に関する調査(※1)によると、コロナ禍により、手洗いや換気などの新しい生活習慣が生まれたと回答した人は全体の90%にも上り、87%が今後も継続したいと回答している。
もともと手洗いや換気は、衛生的な暮らしや健康的な住まい環境を整えるために重要な要素である。手洗いはインフルエンザやノロウイルスなどの感染症対策や食中毒の予防にも有効であるし、換気は室内で汚染された空気を排出し、新鮮な空気を取り入れることで、シックハウス対策やカビの抑制にも効果がある。
このようなことはこれまでも何となくは分かっていたが、コロナ禍によってより強く意識されるようになり、この先も長く続く生活習慣として根付こうとしている。
新しい生活様式は、消費者の家選びの意識にも変化をもたらしている。長谷工グループによる、コロナ禍による家への価値観の変化についての調査(※2)によると、コロナ影響前と後では、家選びで重視するポイントに変化が見られる。
場所に関しては、職場へのアクセスや駅近といった利便性を上げる人が減少し、病院の充実や災害の危険性が少ないこと、防災対応が整っていることを求める人が上昇した。また通信環境やプライベートの確保のしやすさやなどを重視する人が増加している。
つまりは、日常の暮らしだけでなく、災害時も、仕事も、そしてレジャーも、あらゆるシーンにおいて家をよりどころとし、快適に暮らし続けることができるかを検討するといった新しい価値観が生まれていると考えられる。
(※1:20代〜40代の配偶者がいる男女1,200人に聞く、「コロナの前と後、生活に関する実態調査」/大和ハウス工業)
(※2:コロナ禍における住み替え活動への影響調査/長谷工グループ デベロップジャパンUX デザインセンター デジタル戦略ラボ)
住宅メーカー各社も新提案を次々とリリース、光熱費、家事負担、抗ウイルス
住宅メーカー、設備メーカー各社も、このような消費者の価値観の変化を素早く捉え、新しい生活様式に対応した住まいづくりの提案を一斉に開始。光熱費、家事負担、抗ウイルスなど多方面からのアプローチを行っている。
家にいる時間が増えれば光熱費が増大するという問題に取り組み、太陽光発電の重要性を打ち出したのは旭化成ホームズ株式会社だ。
旭化成ホームズではヘーベルハウスに設置した独自のHEMS端末から、緊急事態宣言下で在宅が基本となったオーナー宅の電力消費量傾向を解析。コロナ後に消費量が増大していること、特に若い世代とフルタイム共働きの家庭の増加が顕著で、太陽光発電によって購入電力量が抑えられたとの調査結果(※3)を発表した。
ネット上でも光熱費が高くて驚いたという声は多く、わが家でもガスの使用量が急増、ガス会社よりその旨を通知する特別なお知らせが届いた。見えにくいところだが、家計への大きな負担となる部分だけに、しっかり対策を考えたいところである。
家事の負担の増加に着目したのは大和ハウス工業だ。これまでも、裏返しに脱いだ衣類をひっくり返す作業や、脱ぎっぱなしの靴を片付けるなどの名前のない家事を「名もなき家事」と名付け、その負担の軽減のための家づくりに取り組んできたが、今回、また新たな家事が生まれているという。
同社の調査(※4)によると、コロナ禍により女性の7割が、さらに新しい名もなき家事が発生したと回答し、その内容として、家族の3食分の食事の献立を考える、外から帰ったら必ず手洗い・うがいを家族に呼びかける、マスクや消毒液の残量の確認・購入などが挙げられている。
大和ハウス工業ではこれらの負担を軽減するために、自分のことは自分でできる仕組みをつくる、家事のプロセスと現状をみんなで共有できるようにする、住まいの環境を整えみんなが自然に家事に参加できるようにするなど、家事シェアがしやすい家づくりを提案し続けている。
災害に強いことに加えて、抗菌、抗ウイルスの提案をしているのは株式会社ヤマダホームズだ。災害に強いというと、これまでは地震や台風に強いことが主だったが、コロナ禍により、レジリエンスな家であることが注目されている。レジリエンスとは強靭さ、回復力を意味し、一定期間自宅避難が可能になるなど、災害後の生活も支えてくれる家を指す。
ヤマダホームズでは、太陽光発電システムや蓄電池、製水器、防災瓦などを搭載したレジリエンスな家に、菌やウイルスなどに対して安全な生活ができる間取りの工夫、空気質改善システム「ウェルネスエアー」の搭載、抗菌、抗ウイルス性能を持つ設備建材などをプラスした新シリーズ「NEXIS抗菌プラス」を打ち出している。
間取りの考え方は、病院内を汚染区域と清潔区域にゾーニングするように、家の中もレッドゾーンとグリーンゾーンに分け、外から戻ったらレッドゾーンでウイルスや菌を落とし、抗ウイルス、抗菌仕様で守られたグリーンゾーンで安心して暮らすというものだ。
積水化学工業株式会社では、新しい生活様式に対応した新住宅「レジリエンス100STAY&WORKモデル」を発表。全室空調システムを標準採用し、感染予防やテレワークへの対応も強化している。
このような新しい生活様式に即した家づくりの新提案は、数多くの住宅メーカーから次々とリリースされている。各社とも自社の強みを打ち出しているので、家づくりの際にはこれらを比較検討することで、今後の家づくりの参考になることだろう。
(※3:コロナ禍での巣篭り生活時における電力消費傾向と生活の変化を探る/旭化成ホームズ)
(※4:20代〜40代の配偶者がいる男女1,200人に聞く、「コロナの前と後、生活に関する実態調査」/大和ハウス工業)
テレワークスペースや後付け家具セットも登場、実施率には地域格差も
テレワークに関して言えば、住宅メーカーだけでなく、建材・家具メーカーからも快適なスペースづくりの提案が一斉に始まっている。住宅メーカーはもともと書斎付きのプランをスタンダードとしていることが多いため、遮音やアウトドアを活用したものなど、プラスアルファの提案が目立つ。
マンションでもテレワークへの対応として、三菱地所レジデンス株式会社が新築分譲マンション向けにテレワークスペースを設置するサービスを開始。部屋の中に置く木の小部屋「箱の間」を設置するオプションプランや、収納スペースをテレワークスペース に無償で変更可能なメニュープラン「“work” in closet」などのサービスを開始している。
賃貸物件のワークスペースに着目したのはパナソニックホームズ株式会社だ。テレワークのニーズを取り込んだIoT賃貸住宅を新展開、入居者には利便性を、賃貸オーナーには入居者満足の向上を図ろうという提案を行っている。
家具メーカーからは手軽に置くだけで半個室のワークスペースを生み出すことができる家具セットが各社から発売されている。よく見られるのは、1辺1mほどのサイズで、2~3方向を目線の高さ程度の壁で囲んでデスクをセットしたスタイルだ。
今後、テレワークがさらに普及すれば、家づくりにも影響を与えることは間違いないが、実施率には地域格差が大きく、またテレワークに向かない職種も多い。
緊急事態宣言が解除された後のテレワーク実施率の調査(※5)によると、2020年5月の東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)に限れば実施率は41.1%だが、近畿では23.5%、それ以外では10~20%程度である。
日本全国一律にこのような傾向になるとは言い難いが、今後もまた新たな社会情勢の変化が起きる可能性もある。家はフレキシブルに、いざというときには対応ができるよう柔軟な間取りで考えておくといいだろう。
(※5:第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査/パーソル総合研究所)
換気がしやすい窓がCMに登場。新しい生活様式は家づくりの進化のキッカケに
新しい生活習慣のひとつとなった換気に関して言えば、窓の形状も重要なポイントとなる。効率よく換気をするためには、2方向の窓を開け、風の入り口と出口をつくることが重要だが、窓の開き方によっても換気効率は異なる。
最近、テレビで換気がしやすい窓のCMを見かけることが増え、非常に時宜を得た内容だったため、そのあたりについて窓メーカーYKK AP株式会社に取材してみた。広報室報道グループの南雲 歩氏によると、今回のCMはコロナ禍により、換気への社会的な関心の高まりを受け、開口部メーカーとして伝えられる情報のひとつとして、2020年7月27日から放映したとのこと。
このCMで紹介している窓種は「ウインドキャッチ連窓」と言い、引き違い窓の場合は建物に沿って流れる風は大半が通り過ぎてしまうが、この窓ならたてすべり出し窓が垂直に突き出るように開くので、建物に沿って流れる風がガラス面に当たって室内に入ってくるそうだ。そして新鮮な空気が室内を循環し、もうひとつのたてすべり出し窓が汚れた空気の出口となって換気効果が高まる仕組みになっている。
これまでも社会情勢や生活スタイル、価値観の変化は、それぞれの時代においてより快適な家に進化するためのキッカケとなってきた。
今回の、新しい生活様式の大きな特徴のひとつは、家にいる時間が長いところにある。家は、いる時間が長くなればなるほど、多様なシーンに合わせた柔軟性と包容力、そして安全性が強く求められる。
これらを持ち合わせた家は、より健康的に生活できるのはもちろん、働き、遊び、そして災害時には命を守り、暮らしを維持する場になるなど、どんな状況にも対応しやすい懐の深い住まいとなる。
政府が提言するこの新しい生活様式が今後いつまで必要となるのかは今の段階では分からない。しかし今回もたらされた新しい生活習慣や価値観の変化、家づくりの新しい視点は、感染対策という枠を超えて、より安全で豊かな暮らしを実現する家づくりの新しいスタンダードとなっていくのではないだろうか。今後も引き続き注目していきたい。
2020年 09月02日 11時05分