注目を集めつつある賃貸物件の「コンセプトルーム」

玄関は「海月姫」に登場する天水館をイメージ、キッチンカウンターの下には、クラゲが泳ぐ円形の水槽が施されている玄関は「海月姫」に登場する天水館をイメージ、キッチンカウンターの下には、クラゲが泳ぐ円形の水槽が施されている

数ある賃貸物件の中から、物件を選ぶとき何を基準にして選ぶだろうか。駅からの距離、築年数、買い物施設などの周辺環境、セキュリティ、家賃、間取りなど、希望条件は人によって様々だ。その条件にマッチしたとしても室内の内装などは、どの物件も似たり寄ったりで、自分好みの部屋に巡り会える確率は低いだろう。

ここ最近は、ブランドとコラボした賃貸物件のコンセプトルームが注目を集めているほか、ホテルでも機動戦士ガンダムやハローキティといった人気キャラクターとコラボした客室(コンセプトルーム)も話題を呼んでいる。

賃貸物件を経営するオーナーは、常に満室であってほしいと望みながらリフォームするも、物件によっては空室状況が大きく変化することは少ないと聞く。
賃貸契約を結ぶ借り手は、もっと快適で自分好みの部屋で暮らしたいと思いつつ、退去時の原状回復にしばられ室内を自分好みにすることができないことが多い。

東京と大阪に拠点をおく「株式会社朝日リビング」は、この両者の想いをつなぐコンセプトルームに取り組んでいるという。はたして、その内容とは。

物件の新たな価値を見出す「スウォット分析」

求められる賃貸物件の入居率求められる賃貸物件の入居率

取材に応じてくれたのは、株式会社朝日リビングの社長・齊藤 新氏だ。「賃貸で重要なのは、入居率を満室に近づけることが課題になります。オーナーさんからすれば、お金をかけてリフォームしたはいいが、入居者が決まらないのでは困るのです。一方、ファミリー世帯、単身者、学生さんなど、部屋を探している人にとっては、自分達のライフスタイルにあった物件かどうかをポイントに部屋を探しています。この両者の思いをつなぐ仕組みとして、当社では『SWOT分析(スウォット分析)』を行い、その物件の強味・弱味を洗い出し、入居者のニーズに応えるリノベーションをオーナーさんに提案しています」と、業界内の先駆けとなったその取り組み内容を話してくれた。

SWOT分析とは、同社の社員が男女一組となり、男性目線、女性目線でスーパーや公園、駅までの分数、学校の校区、道路状況といった物件の立地環境をはじめ、外壁・エントランス・共用部分・室内などを調査し、建物自体が持つ強味・弱味を分析することだという。その分析の結果、室内全ての内装リノベーションや、大がかりな内外装リノベーションをしなくても、エントランスや外構などのリノベーションだけで改善することもあるという。その物件がもともと持っている価値に、何がプラスできるのか現実を見据えた提案ができるよう取り組んでいるのだ。

一般的なリフォーム会社は、外観やエントランス、共用廊下、駐輪場といった各場所の修繕をはじめ、室内の改装までは手掛けるが、物件を分析しお客様のニーズにあったリノベーションをオーナーに提案し施工する、というところまで対応している会社は少ないのではないだろうか。

女性目線がキーポイント「女子力企画室」の存在

女子力企画室が考えた、ワクワクするクラゲのモチーフインテリア女子力企画室が考えた、ワクワクするクラゲのモチーフインテリア

同社では、「SWOT分析」以外にも、ある取り組みを行っているという。それは、東京・大阪本社が管轄する北海道から九州までの各支社・営業所から選任された女性プランナーだけで構成される「女子力企画室」だ。「この企画室は、総勢約30名、建築士やインテリアコーディネーターなど各専門分野の資格をもつ女性で組織されています。外観のイメージや使い勝手のよい間取りやデザインなど、新婚や子どものいるファミリー世帯、学生さんなど、住宅を探されている方が求めるニーズは様々です。そこで、プロの視点と入居者の目線、両方の立場に立ってマーケットリサーチをし、入居者の方に選んでもらえるような企画提案やプロモーション活動を行っています」と女子力企画室の室長・牧野祥枝氏は話す。

例えば、女性向けの賃貸マンションをリノベーションしようとした場合、そこに住むであろう年代や職業、ライフスタイルなどを想定し、どのようなプランを立てるかを検証する。例えば女性は、トイレのウォシュレットを必要としているのか?という疑問があれば、企画室内で議論がなされ、必要であれば同社の全社員約250名にアンケートをとって調査をする。その結果を踏まえ、リノベーション時に取り付けが必要かどうかを判断するのだ。需要がなければ、その分のコストを浮かすことができるし、または別の人気設備に変更することもできる。世間一般的に必要だと思われていた設備が実は不要だったり、この年代の人はこういった設備を希望しているという新たな情報が得られるという。このように入居者が求めるニーズを、その物件に反映していくことで入居率の向上に寄与しているという。

若者のハートをグッと引き寄せる「コンセプトルーム」への取り組み

映画「海月姫」の世界観を表現したコンセプトルーム映画「海月姫」の世界観を表現したコンセプトルーム

SWOT分析や女子力企画室での取り組みが、とても特長的だが実際に入居率が向上した物件はあるのだろうか。失礼な質問と知りつつも聞いてみた。
すると、海辺の物件を例にあげて説明してくれた。「その賃貸物件は駅から遠く、空室が目立っていたんです。そこで、SWOT分析で調査したところ駅からは遠いが、海岸からは近い!しかも、そこはサーファーがよく集まる海岸だということが判明しました。そこで、サーファーをターゲットにした仕様にすれば、ニーズがあるんじゃないかということになり早速、趣味でサーフィンをしている複数の社員にアンケートを取ったんです」と、社長自ら物件の弱味を強味に変えたコンセプトの創出と、ターゲットの絞り込みについて話してくれた。そのアンケートの結果「海からあがってすぐ、ウェットスーツやボードが洗える場所が欲しい、部屋にいるときはずっとボードを眺めていたい、といった様々な意見がでたんです。その内容をもとに、女子力企画室が室内をお洒落にデザインしていったという。驚いたのは、物件名まで変更した点だ。もともとは、よく見かけるような物件名だったが、サーファーが波のうねりの中をぬけるときに使う「GreenRoom」という呼び名を物件名にしたのだ。サーファー好きには、たまらないネーミングだろう。こういった企画提案から施工を行った結果、この物件の空室は改善され満室になったという。

同社では、入居率を上げるための施策として、さらに踏み込んだ調査を行ったという。それは、現代の若者がどういったものに興味を示し購入しているのかといった内容だ。一昔前なら、車、住宅、飲食といったジャンルが定番だったが、近年ではサブカルチャーといった自分の趣味にお金を費やす傾向が強いという。そういった背景をうけ、企画されたのが映画「海月姫」の世界観を表現したコンセプトルームだ。この企画は、映画「海月姫」と同社そしてヴィレッジヴァンガードが運営するヴィレッジ不動産とのコラボ企画で、東京と大阪で2物件誕生している。室内の至る所にクラゲをモチーフにしたデザインが施されている。ただ注目したいのは、この映画に興味がない人でも気持ちがグッと、わしづかみにされるような仕様に仕上がっていることだ。今も同様のコラボ企画が計画されているというから、今後どのようなコンセプトルームが生み出されるのか楽しみだ。

分析やマーケットリサーチに着手したキッカケは、仕事に対する疑念だった

株式会社朝日リビング 社長 齊藤 新 氏株式会社朝日リビング 社長 齊藤 新 氏

物件の弱味を強味に変え、立地条件などからターゲットを絞りニーズに合わせてリノベーションしていくこの方法は、オーナーと入居者の両者にとってお互いの利害が一致する画期的な手法といえる。その経緯ともいえるキッカケは何だったのか、その点について社長に聞いてみると「私も以前は、賃貸物件などを対象にしたリノベーションの営業をしていました。築年数が古くなってくると、どうしても新築物件に負けてしまい、競争力が低下している物件をたくさんみました。そうすると、この状況をどうにかして欲しいと相談されるようになって、お洒落で高級感のある建物にリノベーションしましょう!と言って万人うけするプランを提案していたんです。でも、実際は1年経っても入居者が現れず空室のままという物件もあって、僕がやっていることはただの自己満足なんじゃないだろうかと思ったんです。自社の利益を考えて、物件は違うのに一律同じような提案ばかりしている。それでいいのだろうか、と」そして、さらに話しが続く「オーナーさんは、お金をかけて防水や設備の修繕といった最低限の工事にプラスして、リノベーションをする。でも、リノベーションをしたはいいが、入居者が入らなければ資金の回収ができない。お客様のニーズに応えるリノベーションができれば入居率を上げられる、そうなれば双方が満足できるんじゃないか、そう思ったのがキッカケでした」と清々しく話してくれた。

物件の隠れた魅力を引き出すコンセプトとアイディアが、今後どのような展開を繰り広げてゆくのか楽しみでならない。

取材協力:株式会社朝日リビング
http://www.asahiliving.co.jp/

2015年 03月13日 11時08分